自己調整学習(SRL: Self-Regulated Learning)とは、
1990年代頃から出てきた比較的新しい教育心理学の理論です。
定義は学者により諸説ありますが、ざっくりとまとめると
”学習者が自ら目標を設定し、その達成に向けて自らの行動を能動的に変化させていくプロセスのこと”
と言われています。
つまり、勉強や仕事ができるようになるのは、学習者自身の主体的な取り組みが鍵であり、
そのプロセスを心理面、行動面の変化のプロセスを体系的に明らかにしようとする理論のことです。

それぞれの学者がまとめたSRLの一覧はこちら。
※Instructional-Design Theories and Models vol.4を参考に作成
SRL

学者によって若干の違いはあるものの、基本的な構成要素及びプロセスはかなり似通っています。
1つ例を取り上げて考察してみましょう。
Zimmermanは、自己調整学習は以下の3つの要素・段階で構成されているとしました。
さらに3つの段階には下位プロセスがそれぞれ存在しています。
個人的解釈も付与して以下でまとめます。

①事前考慮(Forethought)
 ◆課題分析(Task analysis):
 ・ゴール設定(Goal setting):ゴール(目標)を決める
 ・計画(戦略)立案(Strategic planning):目標達成のための計画を立てる
 ◆モチベーション/信念(Self-motivation beliefs):モチベーションの管理も大事
 ・自己効力感(Self-efficacy):「自分はやったらできる」という自信を持つ
 ・成果予測(Outcome expectations):「目標達成時のイメージ」も抱いて
 ・タスクの価値や興味(Task value/interest):やることに価値や興味を持ち
 ・目標志向(Goal orientation):目標達成したいと心に抱く
②実行(Peoformance)
 ◆自己コントロール(Self-control)
 ・タスク戦略(Task strategies):計画(タスク)を戦略的に実施
 ・イメージ(Imagery):イメージ力を使いながら
 ・自学自習(Self-instructions):自分で主体的に学び
 ・タイムマネジメント(Time management):時間を管理し
 ・環境構造(environmental structuring):環境を整え
 ・要請(Help seeking):必要なら他にサポートを求める
 ◆自己観察(Self-observation)
 ・メタ認知による自己のモニタリング(Metacognitive self-monitoring):自己を客観的に観察
 ・自己の記録(Self-recording):起きている事象を記録
③内省(Self-reflection)
 ◆自己判断(Self-judgment)
 ・自己評価(Self-evaluation):目標達成に向けて現状がどうかを評価
 ・因果関係(Casual attribution):うまくいっている/いっていない原因は何か
 ◆自己反応(Self-reaction)
 ・満足/情動(Self-satisfaction/affect):満足を感じてモチベーションを強化
 ・適応/受身(Adaptive/defensive):防衛反応等ネガティブな感情への対応を考える

かなり体系的ですね。
目標達成に向けて個々人が自分で行動を修正しながら進んで行くそのプロセスを明らかにしたこの理論。
このプロセスを学習者が歩めるようにサポートするのがまさに”コーチング”ですね。
それを一人でできるようになるのがSRLであり、セルフコーチングとも言えると思います。

このSRLは言い換えると、”正しく努力するための型”とも言えるのではないかと思います。
僕の心の師匠、武井壮さんが”正しい努力”についてコメントして、かなりバズってますが、
氏の行動なんてまさにSRLの実践そのもの。↓

自分で目標・戦略を立て、環境を整備し、きちんと成長のための時間を日々確保し、
イメージの力を使い、モチベーションを管理し、行動を修正しながら目標達成に向けて歩んでる。
本当に賢い人というのは経験から本質的な原則を学び実践しているのでしょう。
ただこういう人は一握りです。多くの人が努力の過程でつまずきます。
そこで教育の出番がくるわけです。
このような理論を教育者が学び、教育の場面で活用することで
学習者がより正しい努力をできるようになり、より目標達成しやすくなる。
だからこそ教育者側の学びというのはとても大事だと理解しています。(自戒の意味を込めて)

SRLは学校の教育現場でも企業の育成の現場でも役にたつ理論です。
続けて、この理論をどのように使って学習者をサポート・支援すればよいのか、
ということも考察していきたいと思います。