ナラティブ・アプローチ(構築理論)は、誰かを支援する際、相手の語る「物語」を通して、その人らしい解決策を見出していく手法のこと。
※ナラティブ(Narrative)とは、日本語で「語り」や「物語」を意味しています。
1990年代に臨床倫理学の領域から生まれ、現在では医療だけでなくキャリアの世界でも用いられています。

この理論は、社会構成主義(Social Constructionism)をベースに考えられています。
これは、人は自分の周囲や現実をありのままに捉えるのではなく、自身の持つ認知を通して、自分なりの解釈をするということ。
ナラティブ・アプローチ的に言い換えると、人は現実世界をそれまでその人が体験・経験を通して物語を見ているということです。

ナラティブ・アプローチの方法は以下のようなプロセスになります。
例としてキャリアカウンセリングによく直面するケースを記載していますので、併せて見てみてください。

1. 語り手の語る物語(ドミナント・ストーリー)を聞く
まずは相手の話をじっくりと聞きます。
傾聴の姿勢で否定することなく受け止めます。
相手「自分にはこれといった経験や周りより秀でた強みがないので自己PRがうまく作れません」
自分「とてもそんな風には見えないけど、そう考えているんだね」

2. 反省的質問をする
内省を促すような質問をし、これまでの物語がどのようなものだったか引き出します。
自分「これまでどんな経験をしてきたの?例えば部活は?」
相手「小学校から高校まで9年間野球部に所属してきました。部活では、、」
自分「野球部で9年間! そこで何か他の人よりも率先して取り組んできたこととかはない?」
相手「掃除とか片付けは率先してやっていました」

3. ユニーク(例外的)な結果を見つける
ドミナント・ストーリーと異なる部分(ユニーク:例外)な部分を見つけ、そのストーリーを強化する。
自分「どうして掃除とか片付けを率先してやっていたの?」
相手「レギュラーになれなかったので何かしらで貢献しようと思いまして」
自分「その考え方はすごく素敵な強みだよ!」

4. オルタナティブ・ストーリーを構築する
オルタナティブ(Alternative)とは代替という意味。
元々、その人の中にあったドミナント・ストーリーに変わる新たなオルタナティブ・ストーリーを一緒につくっていきます。
相手「え、そうですか?でも結果的にレギュラーになれなかったので強みなんかではないと思ってました」
自分「そんなことないよ!どんな状況でも自分にできることを自ら見つけ全力でやる。素晴らしい強みだよ」
自分「責任感もあるし、主体的に行動できる人だとも思ったよ。とても良い強みになり得るから、自分から進んで行動したこともっと聞かせてよ」

相手「嬉しいです!ありがとうございます。掃除以外には・・・」
自分「そしたらそれで自己PR作ってみよう! 十分アピールできる内容だよ」


以上がナラティブ・アプローチというものです。
ナラティブ・アプローチの歴史を遡ってみると、
支援者と被支援者という形に対するアンチテーゼの意味もあったようです。
それまでは専門性のある人が上の立場からアドバイスをするという支援が一般的でした。
しかし上からアドバイスを押し付けるだけでは相手の気持ちがぺしゃんこになり、アドバイスを受け取れないというケースも出始め、これらの手法の限界に直面します。
そこで出てきたのがナラティブ・アプローチ。
できるだけ対等な立場で向き合い、相手が自らの言葉で自らの答えを自らの物語の中から見つけ出す、というこれまでにない新しい手法として注目され始めました。

もしあなたが対人関係に問題を抱え、新しいアプローチ方法を模索しているのであれば、
ナラティブ・アプローチがそれを解決する鍵を握っているかもしれません。
是非試してみてください。 
narrative