1984年、David Kolb(デイビッド・コルブ)は 
"Experiential Learning: experience as the source of learning and development
(経験学習:学習と開発の源としての経験)"という本を出版しました。
その中で紹介されているのが経験学習モデル(Experiential Learning Theory: ELT)です。
これは、どのように学び、成長し、発達するのかという学習プロセスの全体を示したモデルです。
そのプロセスの中で"経験"が非常に重要な役割を果たしていることから、この名前がついたとされています。
ELTは6つの特徴があります。

【ELT6つの特徴】
①学習は、結果ではなくプロセスである。
②学習は、経験に基づいた連続的なプロセスである。
③学習は、相反するものを弁証法的に統合する事が必要である。
④学習は、世界に適応するための全体論的なプロセスである。
⑤学習は、人と環境との間のやりとりを含んでいる。
⑥学習は、社会的な知識と個人的な知識の統合する知識を創造するプロセスである。

それでは、図を見ながらELTについて考察していきます。

体験学習サイクルの構造

ELTは、①経験、②省察、③概念化、④試行、という4段階の学習サイクルで構成されています。
ELT
経験(Concrete Experience)

経験学習サイクルは、具体的な経験から始まります。
個人やチーム、組織が何かしらのタスクをこなすことからスタート。
ポイントは能動的な関与です。

省察(Reflective Observation)
サイクルの2つ目は、省察です。
タスクから一旦離れ、何を経験したかを多様な観点から振り返ります。
多くの質問が投げかけられ、メンバーとコミュニケーションをとりながら省察します。
経験を"言語化”するという点が非常に重要となります。

概念化(Abstract Conceptualization)
概念化とは、自分の経験と省察から、既存の抽象概念を新たに更新します。
出来事を解釈し、自分がしたこと、省察したこと、既に知っていること等を整理し比較します。

試行(Active Experimentation)
学習サイクルの最終段階は、学習者が新しい場面で実際に試すことを考えます。
計画を立てることで、新たな理解を得、次に何をすべきかを予測することで、行動を改善できます。
学んだことが生活にどのように役立つか理解できなければすぐに忘れてしまうので、学習と実社会をリンクさせることが重要です。

この4つのフェーズ別の効果的なサポートをまとめたのが以下の表です。

フェーズ別効果的サポート

ELT-support

4つのサイクルの中に上記のサポートを上手く組み込むことで、
各フェーズで効果的な授業を展開できると思います。

また、コルブは、学習とは、能動-熟考、具体-抽象を行き来する過程(※6つの特徴の③)
であり、そこには4つの学習スタイルがあるとも提唱しています。(※上記の図の白四角)
これは好みがあり、時と状況に応じて変化するものだそうです。

4つの学習スタイル

発散型 (Diverging style) 
具体的経験と熟考的観察から学ぶ。(Feel and Watch)
想像力が強く、アイデアを出したり、違った視点から物事を見たりするのが得意。
行動よりも観察を好む。
人に興味があり、感情を重視する。

同化型 (Assimilating style)
抽象的概念と熟考的観察を好む。(Think and Watch)
帰納的に考え、理論的モデルを構築する能力に長けている。
人より抽象概念や理論に興味がある。
実践よりも理論的な考えを重視する。

収束型 (Converging style) 
抽象的概念と能動的経験から学ぶ。(Think and Do)
問題解決、意思決定、アイデアの実践に強い。
特定の問題についての仮説演繹的推論に焦点を当てることができる。
感情表現は少なく、対人的問題よりも技術的問題に取り組むことを好む。

適応型 (Accommodating style)
具体的経験と能動的実験により学ぶ傾向にある。(Feel and Do)
計画を実行したり、新しいことに着手することを好む。
環境適応力が高く、直感的な試行錯誤により問題解決をする場合が多い。
気楽に人と付き合うが、忍耐に欠け、でしゃばりと思わることも。


以上が、コルブの経験学習サイクルです。
大きく分けて、以下の3つについて記載しました。
①学習サイクルの4つのサイクル
②フェーズ別効果的なサポート
③4つの学習スタイル

①の4つのサイクルの中に、②のサポートを組み込むことで、
ELTの理論に沿った授業展開ができるかと思います。
ポイントはやはり”経験”です。これ抜きにはなかなか本質的な成長に繋がりません。
例えばプレゼンスキルを伸ばそうと思った際、本を読むだけでも、他者を観察するだけでもダメで、
やはり実際にプレゼンを経験し、そこから学び得ていくことが効果的であるということは想像しやすいと思います。

また、それぞれの学習スタイルについても解説しながら授業を進める事で、
学習者のメタ認知が促され、学習についての学習も進むことが期待できると思います。
つまり、”学ぶことが上手くなる”ことにもなり得るということですね。
経験をうまく取り入れることで、学習を促進させる経験学習モデル。
参考にしていただけたら幸いです。

【参考】
Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development Kolb D. (1983)
Kolb Learning Style Inventory Version 3.2 Single Copy Kolb D. (2013)
Smith, M. K. (2001). David A. Kolb on Experiential Learning. Retrieved February 2, 2011, from https://infed.org/david-a-kolb-on-experiential-learning/