「Tグループ(Training Group)」は、グループ・ダイナミクスの創始者であるクルト・レヴィンらによって提唱されました。
※Tはトレーニング(Training)の略です。

Tグループの起源は、1946年にクルト・レヴィンらが米国コネチカット州でユダヤ人とアメリカ人の雇用差別撤廃のために開催したワークショップだと言われています。
そこでは、ソーシャルワーカーや教育関係者が集まり、人間関係に係る能力開発を目指したグループトレーニングを行いました。
このトレーニングの中で、レヴィンらは、話されている内容だけでなく、メンバー間で起こっていることにも焦点を当てて考察しました。
そして、
・「今ここ」で起きている現象に対する認知が個々人で異なっている。
・その認知の違いについて考え対話することによりグループを正しく理解できる。
・そのようなプロセスを経て個人・グループが成長していく。
ことなどを発見しました。

このことから、
「人はテーマや進め方が決まっていない非構造的グループでの他者との対話等を通して、自身の他者との関わり方の特徴を知り、他者とのより良い関わり方を探りながら成長していく」
ということを見出します。
ここからTグループの構想が生まれます。

Tグループとは、
「 知らない者同士で構成されたグループで、テーマもプログラムも決まっていない非構造的なセッションを行い、集団で起こった出来事を振り返りフィードバックし合うことで、相互の関係性やコミュニケーションスタイルの改善を行うこと」
です。

非構造的なセッションなので、学習教材として資料等があるわけではありません。
教材となり得るのは、「グループで起こる全てのこと」、すなわち、
「集団内での自分たちの行為そのもの」や「参加者同士の相互作用そのもの」等です。
資料もテーマもない非構造的なセッションの最初の頃は「何を話すか」というコンテントに注目しますが、フィードバックが始まると徐々に自分たちの気持ちや態度、関係性等のプロセスに意識が向くようになってきます。
そのような体験の中で、参加者は、他者と向き合う際の自身の感情や態度について学習し、
また、自分の行為が他者にどのように影響するのかを学んでいく、ということになります。

初めて会うメンバーとのワークショップや研修に参加したことがある方で、何となくこのセッションの意味するものがわかる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような混沌とした環境の中で、人は自己開示とフィードバックを受けながら、自己を理解し、他者を理解し、人間関係について学んでいくのですね。

ちなみに、このTグループは、NTL(National Training Laboratories for Group Development)という研究所を中心に研究が進められ、世の中に普及していくことになります。
NTLで作られた理論で有名なものとして、X理論、Y理論やラーニングピラミッドがあります。
learning_pyramid
更に、自己分析でよく用いられる「ジョハリの窓」もTグループから生まれたモデルです。
Tグループでの学びを可視化、説明するためのものとして作られました。

話をTグループに戻します。
NTLでは、Tグループを研究しながら、グループに働きかけ変革していくことのできる「Change Agent」の育成を目指していました。
「Tグループで学んだ人々が、現場に戻って官僚的な組織を民主的な組織に変えていく、そして、差別が蔓延る社会を1人ひとりが尊重される社会に変えていく。そのようなチェンジエージェントになっていってほしいという願いを、Tグループのパイオニアたちは抱きながらTグループを実践していました」
中原, 中村(2018) 組織開発の探究 pp.156 より引用

そして、このNTLのコミュニティから組織開発の礎となる理論や手法が開発、発信されていったと言われています。
Tグループはその源流の1つということです。

その後、NTLで学んだメンバーが西海岸でWestern Training Laboratory(WTL)を設立します。
そこで感受性訓練(ST: Sensitivity Training)が生まれます。
Tグループとやっていることは非常に似ていますが、目的が異なります。
Tグループは、グループダイナミクスに焦点を当て「対人関係改善」を目的としますが、
感受性訓練は、参加者ここの感情に焦点を当て「個人の治療、改善」を目的としています。

この焦点・目的の違いから、ファシリテーターの問いかけも以下のように異なります。
Tグループ 「今、グループでどんなことが起こっていますか?」
感受性訓練「今、あなたの中では何が起こっていますか?」

「人は、社会の中で様々な役割演技をせざるをえず、人格の真実性に向かうことから疎外されている」と言われています。
そこで、「参加者が自己理解を深め、個人的成長に向けた潜在力の開放を目指す」これが感受性訓練のねらいです。

Tグループも感受性訓練も、集団での体験学習を通して学ぶトレーニングであり、まとめてラボラトリー・トレーニングとも呼ばれています。

【参考文献】
中原淳, 中村和彦(2018) 組織開発の探究. ダイヤモンド社
Tgroup_ST