先日、Tグループと感受性訓練(ST)についてまとめましたが、ちょうどTグループが出てきた頃と同時期(1940年代)にカール・ロジャースによってエンカウンターグループ(Encounter Group)が誕生します。
エンカウンター(Encounter)とは「出会い」という意味。
「集まったもの同士が相互に影響を及ぼし合い、過去や日常の社会的役割を離れ、(今、ここ)に焦点を当て、内的世界の再構成等が起こす」という集団心理療法の1つです。
手法はTグループや感受性訓練に非常に似ていますが、ねらいはTグループとは異なっています。
Tグループは対人関係の改善がねらいですが、
エンカウンターグループは、個人の成長・治療をねらいとしています。
その点では、感受性訓練と非常に似ていますね。ややこしいので整理してみました。
T_ST_EG

また、エンカウンターグループには、大きく分けて2つの種類があります。
ベーシック・エンカウンターグループと構成的エンカウンターグループです。

まず、ベーシック・エンカウンターグループですが、これはプログラムがほぼ構造化されていません。
参加者は自由に好きなことを話し、対話がどの方向に進むかも全く予測できません。
そのため、参加者同士で言い争いや否定し合う等、危機的な状況に陥る可能性もあり、それらの状況に適切に対処するファシリテーターの力量が求められます。
詳細なプロセスについて、(中原・中村 2018)から引用し、以下に記載します。

1. 探索
 ・自分たちがこの場を作ることを自覚させる
2. 個人的表現に対する抵抗
 ・表向きな自己(Public self)や私的な自己(Private self)を見せ始める人も出てくる
3. 過去感情の述懐
 ・自己紹介等を終えると、過去の感情の表明が話し合いの大きな部分になる
4. 否定的感情の表明
 ・「(今、ここ)で起こっている感情」の表明
 ・リーダーやメンバーに対して否定的感情が増える
5. 個人的に意味のある事柄の探究
 ・自身の心の内面をグループメンバーに知らせる「賭け」をやり始める人が出てくる
6. 対人感情の表明
 ・グループ内で感じた感情を表明するようになる
7. グループ内治癒力の発展
 ・多くのメンバーが苦痛と悩みを持っている人に対して、援助的、促進的、治療的態度で接しやすくなる
このようなプロセスを経て、悩みを持っている人がグループからサポートを得て、治療・回復していくことを目指す。これがベーシック・エンカウンターグループです。

次に、構成的エンカウンターグループは、決まったプログラムの下、ファシリテーターが進行していきます。
用意された課題をグループでこなす「エクササイズ」、その後感じたことを共有する「シェアリング」で構成されます。
こちらは枠組みがあるため、比較的経験の浅いファシリテーターでもこなしやすいと言われています。
ちなみに、國分(1992)によると、大学生に対する3泊4日のグループ調査では、ベーシックも構成的もどちらでも効果はほぼ変わらないという研究結果が報告されています。

どちらも、知らない人との対話を重ねていく中で、
社会の中で生きるためにいつのまにか着けていた仮面(ペルソナ)を外し、
「ありのままの自己(真の自己)」に気づき、自己肯定が促されています。
これにはとても

「真の自己」を見つめようとする点では、昨今話題になっているオーセンティック・リーダーシップにも繋がる点があると思います。

また、個人の治療目的で始まったエンカウンターグループですが、創始者のロジャースは後にこの手法を応用し、学校や企業の改善、引いては社会の政治的な課題解決にも着手し始めます。
この対話の力を借りて、差別撤廃や紛争の解決を試みたわけですね。
これらの活動が評価され、ロジャース氏が亡くなる直前にノーベル平和賞にもノミネートされています。

自己を癒し、開放し、ありのままの自分に気づいていく力を持ったエンカウンターグループ。
大学の新入生向けのワークショップにも取り入れたりしていますが効果は抜群です。
皆さんが所属する組織にも活用してみてはいかがでしょうか。


【参考文献】
中原淳, 中村和彦(2018) 組織開発の探究. ダイヤモンド社
國分康孝(1992) 構成的グループエンカウンター. 誠信書房