『アクションリサーチ(Action Research)』は、1944年にクルト・レヴィン(Kurt Lewin)によって提唱されました。
アクションリサーチにも様々な定義があり、中村(2008)の論文で整理されていますが、個人的には以下の草郷(2007)の定義がポイントを全て押さえているように思いました。
『組織あるいはコミュニティの当事者(実践者)自身によって提起された問題を扱い、その問題に対して、研究者が当事者とともに協働で問題解決の方法を具体的に検討し、解決策を実施し、その検証をおこない、実践活動内容の終始絵をおこなうという一連のプロセスを継続的におこなうような調査研究活動を意味する」

もう少しアクションリサーチの意義を説明するために、研究というものをざっくりと2種類に分けて考えます。
・現場に直接影響を与える研究 = アクションリサーチ
・現場に直接影響を与えない研究 = not アクションリサーチ

一般的なアカデミックリサーチは、現場に直接影響を与えない研究が多いように思います。
例えば、研究者は、現場に対してアンケート等調査を依頼し、そこから理論や見解を導き出し論文にまとめる。研究はこれで終了となり、研究の恩恵を現場が直接受けることは少ないのです。
このような「調査のやり逃げ」的なアカデミック研究に対しては『表象の暴力』として批判されることもあるようです。

レヴィンはこれらに対するアンチテーゼとして、アクションリサーチを提唱します。
「リサーチしたものは必ず現場に返し、それより現場を変えていかなくてはならない」と考えたのです。
ちなみに、Action Researchを直訳すると実践研究となりますが、結構誤解もされているようです。
「実践のための研究」ではなく、
実践を通して現場を変える研究」がアクションリサーチです。

レヴィンは、「よい理論ほど、実践的なものはない(Nothing is so practical as a good theory.)」
という名言を残していますが、これは正にアクションリサーチの意義を表していますね。
その昔、哲学者フッサールも、学問において科学が現実(生活世界)とかけ離れていくことに警鐘を鳴らし、「生活世界の課題を解決することこそが学問である」と述べています。
この点においてはレヴィンもフッサールも同じことを述べていると感じます。

アクションリサーチを図式化したものとして、CoghlanとBrannick(2005)のモデルを紹介します。
action_research

このモデルでは、
①診断(調査)⇨②アクション計画⇨③アクション実施⇨④アクション評価
の4つのプロセスが循環するような形になっています。
サイクル自体は複雑ではないので分かりやすいと思いますが、このサイクルの中で、実際に
直接組織の問題解決に当たるという点がポイントになります。

ちなみに、CoghlanとBrannick(2005)によると、レヴィンのアクションリサーチのポイントを以下のように整理しています。
1. 社会科学を実生活の問題の研究としてとらえ、すべての問題を理論に結びつけ、理論と実践を統合した。
2. 全体の枠を作り部分を区別できる形で研究をデザイン。
3. 特に組織に介入する研究者として、何か(人や組織)を変えようとした時にしか理解できないという考え方を通して、個々のケースを一般化し理解できる構造を作った。
4. 社会科学を民主主義のために役立てようとし、研究対象者の役割を被験者から顧客へと変えた。

「理論と実践の統合」「組織に介入する研究者」 「被験者から顧客へ」
というあたりがアクションリサーチの特徴をよく表しているように思います。
そして、最後の「社会科学を民主主義のために役立てようとし」 という部分は、レヴィンの思いを強く感じます。

様々な研究があって良いとは思いますが、自分自身の研究についてはできるだけ社会や組織に直接良い影響を与えていきたいと思っているので、アクションリサーチの形で実施していきたいと思いました。
 

【参考文献】
Coghlan, D., Brannick, T. (2005). Doing action research in your own organization. 2nd edition. London: Sage Publications.
草郷孝好(2007) アクションリサーチ 小泉潤二・志水宏吉(編) 実践的研究のすすめ-人間科学のリアリティー 第14章 有斐閣
中村和彦(2008) アクションリサーチとは何か?人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要), 7, 1-25.