今回は『ダニングクルーガー効果』について考察します。
これは「能力の低い人ほど自身の能力を過大評価し、能力の高い人ほど自身の能力を過小評価する」という認知バイアスのことを指します。
この概念は、1999年に心理学者のDavid DunningとJustin Krugerの2人がまとめた論文(Kruger & Dunning, 1999)から、世の中に知られていくことになります。
※ちなみに2000年にイグノーベル賞を受賞しています。

調査は、コーネル大学の65人の学生に対して実施されました。
対象学生には「ユーモア」「論理的推論」「英文法」とうい3つの分野の能力とテスト成績を自己評価してもらいました。
この結果が以下のグラフになります。
dunning_kruger


これによると、テスト成績の下位1/4の学生は、自身の能力やテスト成績を過大評価しており、
逆に、テスト成績の上位1/4の学生は、自身の能力やテスト成績を過小評価していることが分かりました。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

まず、下位層が自己を過大評価してしまうことについてです。
これには3つの原因があると論文で述べられています。
1つ目は、自分のスキルや能力について他人から批判的なフィードバックを受けることがほとんどない。
2つ目は、自分の判断が最適ではないことを明らかにするフィードバック情報を受け取ることができない
3つ目は、たとえネガティブなフィードバックを受けたとしても、なぜその失敗が起こったのかを正確に理解できない。
つまり、自分の言動が正しいかどうか批判的な目で見たフィードバックが得られないこと。
そして、フィードバックを得てもその意味を理解できないこと、が原因だと考察されています。

次に、上位層についてです。
上位層の学生は、自分にとって簡単な問題は他の人にとっても簡単であると誤って推論したのです。
これは、「みんなが自分と同じように考え、行動するであろうと思い込む認知バイアス」であるフォールス・コンセンサス効果(false-consensas effect)(Ross et al, 1977)に陥っていたとも言えます。
また、周囲から高く評価されても、自分にはそのような能力はない、評価されるに値しないと自己を過小評価してしまう傾向を「インポスター症候群」と言います。
ダニング=クルーガー効果とセットで覚えておくと良いかもしれません。

ちなみに、ダニング=クルーガー効果について以下のように勘違いする人が割と多いようです。
「能力の低い人は、他者に比べて優れていると自己評価する」のではなく、
「能力の低い人は、自身の能力について実際よりも優れいていると自己評価する」
のが正しい理解です。
他者との比較においては自身の能力が相対的に低いことは概ね把握しているけども、自身が思う自己の能力と実際の能力値に乖離があるということです。

また、このような調査は文化的背景等を考慮する必要があります。
ダニング=クルーガー効果は北米人を対象としたものであり、日本人とは多少異なる結果になったとの論文もあります。
Heineら(2001)によると、日本人は自分の能力を過小評価する傾向があり、未達や失敗を、自分の能力を向上させ、社会集団における自分の価値を高める機会と捉える傾向があると示唆しています。
熱意ある社員は6%」というギャラップ社の調査が一時期話題になりましたが、
こちらの記事にも同様のことが言えると思います。
要は、日本人は諸外国に比べて、謙虚な国民性であるため、自己評価が低くなりがちであるため、そういった文化的な背景を加味して考察する必要があるということです。
ただ、その点を考慮したとしても、企業や学校において、ダニング=クルーガー効果が当てはまるケースが多いのではないかと思います。

【参考文献】
Kruger, Justin; Dunning, David (1999). “Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One's Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments”. Journal of Personality and Social Psychology 77 (6): 1121–34
Heine, S. J., Kitayama, S., Lehman, D. R., Takata, T., Ide, E., Leung, C., & Matsumoto, H. (2001). Divergent consequences of success and failure in Japan and North America: An investigation of self-improving motivations and malleable selves. Journal of Personality and Social Psychology, 81(4), 599–615.