1987年に米国のCase Western Reserve UniversityのDavid L.Cooperrider教授、Taos InstituteのDiana Whitneyらにより提唱された、『アプリシエイティブ・インクワイアリ(Appreciative Inquiry、略称AI)』という人材開発・組織開発手法があります。
アプリシエイティブ(Appreciative)は、「価値の認識と付加」を
インクワイアリ(Inquiry)は、「質問」をそれぞれ意味し、
「肯定的な質問によって組織の価値を発見し、可能性を拡張させるプロセス」を意味します。

AIは、社会構成主義とポジティブ心理学を背景に、
OST(Open Space Technology)、Whole Scale Change、学習する組織、Future Searchといった組織開発手法の以下のような長所を取り入れて作成されました。
・OST:自己組織化のプロセスのパワー
・Whole Scale Change:大規模なミーティングをデザインし、ファシリする実践法
・学習する組織:組織の学習をより高め、集合的な意識の流れを目覚めさせるダイアログの実践
・Future Search:ステークホルダー全員を集め、ともに未来に焦点を当てて構築していくことの重要性

AIのプロセスは4Dサイクルで表現されます。
・Discovery:発見(今あるものをアプリシエイトする)
・Dream:夢(どうなれるかを想像する)
・Design:設計(どうあるべきかを決定する)
・Destiny:運命(どうなるかをつくりだす)

図式しましたので以下を見ながら解説します。
AI

まずは、検討するテーマの選定です。
これをAffirmative topic(活性化させるトピック)と呼びます。

トピックが決まったら、「Discovery」
ここでは、個人や組織が持つ真の価値や強みを発見します。
そのために役立つのが「ハイ・ポイント・インタビュー」です。
High Point、つまりこれまでの最高の●●について問う質問です。
「最も成果を上げた」「最も良かったチーム」等々
これらの質問から、真の強みや価値観である「ポジティブ・コア」が見えてきます。
そして、組織の意識をポジティブ・コアに焦点を当て、そこから放たれるエネルギーで変革を進めます。

インタビューで強みや価値が見出せたら、次は「Dream」です。
ダイアログによって個人・組織の理想の未来を語り合い、集合的なビジョンを創造します。
描いたイメージは未来へと導く光となり、組織を牽引します。

ビジョンが見えたら次は「Design」
協働でビジョンを実現するための組織の姿をデザインします。
デザイン・エレメントに対しての嗜好を書き出し、その後、
組織の思考として挙げられているものを肯定的な声明文である
プロボカティブ・プロポジション(理想的な組織の記述)を作成します。

最後が「Destiny」
理想の未来を実現するための方法を考え実行する最終フェーズです。
実行するプロセスの中で祝いながら進めること、熱意が続くようなコミュニケーション等のサポートインフラを作り、変革を進めていきます。

以上のような4Dサイクルを回しながら、個人・組織のポジティブなエネルギーを結合し、対話によって組織変革を行なっていくのがAIのプロセスです。

一般的に組織開発のアプローチは大きく分けて2つあります。
1つは弱みに焦点を当てた問題解決型のDeficit based approach
もう一方は、強みに焦点を当て、ビジョン創造・組織変革・リーダーシップ開発等を行うStrength based approach
AIは後者をベースとしたアプローチです。
このテーマの研究者でもあるGervase Busheによると、
「AIは組織開発の分野に革命を起こし、アメリカのマネジメントにおけるポジティブ・オーガニゼーション研究や強みベースの運動の勃興の先駆けとなった」とも言われています。

今回のまとめは主に「ポジティブ・チェンジ〜主体性と組織力を高めるAI〜」の書籍を参考に記載しました。
興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。 
AIは停滞した組織に、ポジティブな光で変革の波をもたらせてくれるかもしれません。

【参考文献】
ダイアナ・ホイットニー, アマンダ・トロステン・ブルーム(2006) 『ポジティブ・チェンジ~主体性と組織力を高めるAI~』 (株式会社ヒューマンバリュー訳)株式会社ヒューマンバリュー