拡張的学習に続いて活動理論について見ていきます。
活動理論とは、「活動(外部世界に対する人間の能動性)を中核概念に据えた心理学理論の1つ」と言われています。
そしてこの活動理論の歴史は、大きく3つの世代(第1世代:ヴィゴツキー、第2世代:レオンチェフ、第3世代:エンゲストローム)に分けられます。
詳しく見ていくとキリがなにので、ざっと簡単に各世代の活動理論をまとめます。

第1世代:ヴィゴツキー
以前の行動主義心理学では、人間は刺激(Stimulus)に対して反応(Reaction)する受動的な存在として描かれてきました。
ヴィゴツキーは、この両者の間に人工物(Mediating artifact)が媒介することにより、
自身の行動をコントロールし、自然に能動的に働きかけることができると主張しました。
第1世代の活動理論は「主体」「対象」「道具」の3つの要素で表現され、それぞれが相互作用しながら変容していくモデルとしてまとめられました。

第2世代:レオンチェフ
レオンチェフは、ヴィゴツキーのモデルを個人から集団単位に発展させ、
人間の活動は個人だけでなく、他者との関係なくしては成立しないことを主張します。
そして「分業(division of labour)」という概念をモデルの中に取り入れました。

第3世代:エンゲストローム
そして第3世代。
エンゲストロームは、拡張的学習が生起する枠組みを、
活動システムモデル(Activity system model)としてまとめました。
このモデルでは、第1世代(個人)から第2世代(集団)へと発展した土台(主体、対象、道具、分業)の上に「共同体」「ルール」が加えられ、6つの要素が関与し合うモデルへと発展します。
「個人」ではなく集団的な活動のため「共同体」があり、
「共同体」として活動するために「ルール」や「分業」が存在します。
Activity_system_model
このモデルを、講義型の授業とアクティブラーニングで対比して考えるとイメージしやすいです。
ディープ・アクティブラーニング p6,7を参考に加筆しました)
講義では、主体は教師の側にあり、いかにして教えるかという視点で対象は学生です。

【講義】
主体:教師
対象:学生
道具:教科書、黒板
分業:教師が板書し、学生はノートをとる
ルール:遅刻、私語厳禁等教師から学生に伝達される
共同体:クラスは共同体としての機能はほぼない

このように、講義型の授業では、共同体、分業、ルール等の要素が活かされておらず
集団的な学びの活動になっていないことが分かります。
これがアクティブラーニング(特にPBLをイメージ)になると、
主体は学生に、対象は学生が解くべき問題・課題になり、
共同体、分業、ルール等の要素が強く影響し、集団的な学びになります。

【PBL】
主体:学生
対象:解くべき問題・課題
道具:スマホ、パソコン、書籍等
分業:学生がチーム内で役割分担、教師はサポート
ルール:授業としてのルールはあるが、チームルールは自分達で決める
共同体:チームという共同体

このように見てみると、確かに協働的な学習活動において重要な要素が網羅的に描かれているように感じます。
私が大学で担当しているPBL型の授業に当てはめて考えてみてみると、
「共同体」や「分業」については伝えていたつもりですが、
「ルール」についてはほぼ考慮できていませんでした。
チームルールを作るというアクティビティは、チームビルディングのコンテンツでもあるので
この点は授業に取り入れてみようと思います。
また、ツールの使い方ももっとレクチャーすることで、より幅広く様々なものを学生が活用できるようになりそうだと感じました。
やりたいことがどんどん出てくる。どこまで盛り込めるかしらorz

ただし、エンゲストロームは、「拡張的学習を授業やカリキュラムのデザインといったミクロレベルの教育改革・改善には適用しにくい」という点に言及していることにも留意する必要がありそうです。
どこまで応用が可能なのか、ミクロとマクロの違いは何か等について考えながら展開していきたいと思います。

最後に、エンゲストロームの活動システムモデルについての言葉をメモして終わりとします。
『「人々は自らの周りの状況を変えることによって、いかに自分たち自身を変えることができるのか」という問いにアプローチする、人間の協働的な創造活動、学習、そして、発達の理論である』(Engestrom, 1987)