拡張的学習に関係する概念として、エンゲストロームは
「ノットワーキング(knot-working)」についても言及しています。
ノットワーキングとは、様々なコミュニティや領域を繋げて協働的なシステムにすること。
具体的な定義っぽい記述としては以下があります。
「多くの行為者が活動の対象を部分的に共有しながら影響を与え合っている分かち合われた場において、互いにその活動を協調させる必要のあるとき、生産的な活動を組織し遂行するためのやり方をいう」
(ノットワーキング 結び合う人間活動の創造へ より)
ちなみに「ノット(Knot)」とは「結び目」のことで、
「結び目を作っていくこと」を「ノットワーキング(knot-working)」。そして、
「結び目を作る人のこと」を「ノットワーカー(Knot-worker) 」と呼びます。

ノットワーキングのイメージはこのようになります。
knot-working

この図のように異なる活動システムが、活動対象を部分的に共有し、結びつき、
その中で様々な新しい活動が即興的に起こっていく、それがノットワーキングのイメージです。

ちなみに、類似概念としてネットワークが挙げられますが、
エンゲストロームは両者の違いを「固定化」という観点で述べています。
ネットワークは共有された情報システムの中に実質的に固定され、特定の個人や組織が常に中心としてコントロールしますが、ノットワーキングは変動的で即興的な現象であり、コントロールする主体も流動的に変化します。

組織の既存の活動システムではにっちもさっちも行かなくなった時、
活動システムそのものを変更する必要があるということは拡張的学習で記述した通りです。
その活動システムを変更する手段の1つとしてノットワーキングがあります。

概念的な説明が続いたので、「ノットワーキング」を、私が大学で担当してるPBLの授業に当てはめて具体的にイメージしてみます。
現在、大学で担当している「インターンシップ」と「ボランティア」という2つの授業は、地域の行政や企業・団体にご協力いただき産学官連携で実施しているPBL型の授業になります。
つまり、産(企業)、学(大学)、官(行政)がそれぞれ連携し、結び目を作って活動しています。
たまたま私が実習型の授業を担当したということもありますが、エンゲストロームの「学習のカプセル化」という言葉にもあるように、学びが大学の中だけに閉ざされていることに対して、ずっと前から問題意識を持っていました。
「何とかして社会と接続し、社会の中で学ぶ仕組みを作りたい」
「更に言うと、学びを得るだけでなく、実際に地域社会にも貢献したい」
そういった思いから、行政や企業に協力依頼をしたことが授業の始まりでした。
そして、産学官連携の形で実施できるようになり、次年度で3年目に入ります。

基本的に授業に関しては私が旗振りして進めている部分が大きいですが、行政や企業からの提案も色々といただき、協議しながら授業テーマを設定しています。
例えば、「A企業様と◯◯というプロジェクトを実施したいんですが、△△の部分でご協力いただけないでしょうか」
と行政担当者にご相談すると、別の部署や組織をご紹介してくれたりして、プロジェクトが進むことがよくあります。
このように、結びついたり解かれたりする部分がノットワーキング的だと感じています。

また、学習の面においても、これらの繋がりの中で相互に促進されているのを感じます。
例えば、学生は実社会の中で学ぶことで、学内では得られない学習経験を得ることができますし、
企業は学生のサポートを得ることで、経営課題が解決されます。
(特にSNSの分野は学生の方が得意であり、企業担当者が学生から学びを得ることはよくあります)
また、行政としても、やりたいけどなかなか実行できなかった事が、授業の中で大学と協業することで動き出すということを実際に目の当たりにしてきました。
単独では実現できないことが、産学官の様々な人や組織が結びつくことで、それぞれの思いが実現に向けて動き出し、そこで学びが生まれる。
自分がイメージしている3つの価値創造が、少しずつですが、できてきているように感じています。
・教育的価値:学校に閉ざされない社会と接続した学び
・経済的価値:経営に資する企業の課題解決
・社会的価値:地域の課題解決(行政の各部署が抱える様々な課題)

最初からノットワーキングを意識していた訳ではありませんが、実施してきた授業を後になって俯瞰してみるとこの形はノットワーキングと呼べるものではないかと感じています。

他の活動システムと結びつくことの意義については感じてきているので、今後は
「どうすればその結びついた中で学びを促進させられるか」
という点についても考察していきたいと思います。

最後に山住先生の論文(2014)の言葉を引用して締めることとします。
「ノットワーキングによる組織間協働と拡張的学習は、前節での事例分析において見出されたように、未来志向の「変革型の主体性(transformative agency)」(Virkkune, 2006)を育んでいく。それは、学習を学校が独占的に握るのではなく、むしろ学校がよきパートナーとなって、異なるさまざまな個人や組織、団体や機関とノット(結び目)を結び、未来を担う子どもたちとともに、学習を通して新たな地域文化の創造に挑んでいく、ノットワークする主体の形成なのである」