PBLの研究と実践の歴史についての記述です。
翻訳・引用するのは、前回と同様にこちらの論文です。
Thomas, J.W. 2000 A review of research on project-based learning. San Rafael, CA: Autodesk.
この中では、PBLの研究と実践については、少なくとも以下の3つの伝統があると述べられています。
①アウトワード・バウンドの遠征学習
②中等教育後の「Problem-based Learning」
③大学での認知と認知科学の応用の研究

では、それぞれ見てみましょう。

アウトワード・バウンドと遠征学習

・"遠征学習(Expeditionary Learning)"(EL)は、大自然への探検で知られる遠征と奉仕に基づく教育(service-based education)プログラムで、アウトワード・バウンド(OB)から発展したPBLデザインである。
・遠征学習は、「重要なプロジェクトやパフォーマンスの周りに構築された知的探求」と定義される。
・これらの遠征は、知的探究心、人格形成、地域社会づくりを兼ね備えている(Udall & Rugen, 1996)。
・構造的には、ELは学校全体を改善するためのフレームワークである。
・遠征学習のモデルは、カリキュラム、指導、評価、そして学校組織を変革することを目的とする
・構造的な特徴として、遠征学習に参加することで、教師は2年以上、同じグループの生徒を担当することになり、指導内容が変化する傾向があることが挙げられる(Rugen & Hartl, 1994)。

中等教育後の「Problem-based Learnig」

・Problem-based Learning(問題解決型学習)の原型は、カナダの医学生を対象に開発された (Barrows, 1992)。
・このモデルは、インターンが「非構造的な問題」に取り組むことで、診断能力を向上できるように設計されている。
・医学生は、診断上の問題、通常は愁訴や病気を持つ患者を紹介され、その患者に関する情報や検査データのデータベースを使用し、コーチやソクラテス問答法の役割を果たす進行役の指導のもと、学生は仮説を立て、自分の考えに関連する情報を集め(例:患者へのインタビュー、検査データの読み込み)、その仮説を評価することによって、診断を構築するように導かれる。
・このプロセスは、ビジネス、建築、法律、大学院教育などの学校で使用されており(Savey & Duffy, 1985)、問題文、データベース、個別指導プロセスを組み合わせて、学生の仮説演繹的思考力を磨くのに役立っている。
・同様に、ケースベースメソッド(case-based method)は、医学、ビジネス、法学教育において、学生が書類の準備やプレゼンテーションに習熟するために用いられてきた(Williams,1992)。
・最近では、「問題解決型学習」が、初等・中等教育レベルの数学、科学、社会科の授業に拡張されている(Stepien & Gallagher, 1993)。
・この研究の多くは、イリノイ州オーロラにあるIMSA(Illinois Mathematics and Science Academy)のCenter for Problem Based Learningから生まれたもので、教授陣は「科学、社会、未来」と題する1学期の問題解決型コースを開発し「科学に関する未解決の社会問題」に焦点を当てている。
・このレビューで紹介されている「問題解決型学習」に関する研究開発活動には、一般的なPBLデザインには見られないチュートリアルの要素があるが、問題解決型学習の研究には、PBLの定義する特徴(中心性、ドライビングクエスチョン、構成的研究、自律性、現実性)の全てが含まれている。

大学での認知と認知科学の応用の研究

プロジェクト型学習における授業研究・開発活動を支援するために引用されている認知に関する研究は数多くあり、それらの研究は、「動機づけ」「専門知識」「文脈的要因」「技術」に分けられる。

【動機づけ】
・動機づけに関する研究には、生徒の目標志向に関する研究や、教室でのさまざまな報酬システムの効果に関する研究が含まれる。
・全ての条件が同じであれば、学習や技能習得に焦点を当てたモチベーションのある生徒は、単に満足のいく成果をあげること、または与えられた課題を完了することを指向する生徒よりも、学校の勉強に持続的に取り組む傾向がある(Ames, 1992)。
・世間との比較を避け、エゴよりもタスクへの関与を、競争的目標構造よりも協力的な目標構造を好むクラスのシステムは、生徒側のエゴを減らし、学習と習得への集中を促す傾向がある (Ames, 1984)。
Project-based Learningのデザインは、学生の自律性、協調学習、および本物のパフォーマンスに基づく評価を重視しているため、学生の学習と習得への志向を最大限に高めると考えられている
・さらに、Project-based Learningの設計者は、学生の興味と知覚価値を促進するため、多様性、挑戦、学生の選択、および非学校的な問題などの機能を追加で組み込んでいる(Blumenfeldら、1991)。

【専門知識】
・Project-Based Learningのデザインに影響を与えた認知に関する研究のもう一つの流れは、専門家と初心者の研究であった。
・この研究は、専門家のメタ認知と自己調整能力の重要性を明らかにしただけでなく、経験の浅い若い問題解決者の側に計画とセルフモニタリングスキルがないことを明らかにした(Bereiter & Scardamalia, 1993; Glaser, 1988)。
・子どもに探求心や問題解能力を身につけさせるには、専門家が対象課題をマスターし、探求に熟達する条件をシミュレートすることが必要である(Blumenfeld et al, 1991)。
・このことは、学校での指導の大部分を、教師が指示し、教師が割り当てた、理解することに重点を置いた「学校の勉強」から、生徒が主導し、目標を持ち、自立した、知識構成に重点を置いた「意図的学習」モデルへの移行を推奨することにも繋がっている(Bereiter & Scardamalia, 1987; Scardamalia & Bereiter, 1991)。
・「師匠と弟子の関係は、教授と学習の状況のアナロジーとして使用される。師匠のように、教師はタスクを分解することによって指導の足場を作り、思考と問題解決のための戦略を教えるためにモデリング、補助、コーチを使用し、徐々に学習者に責任を与えるべきである」(Blumenfeld et al, 1991)。
・「認知的徒弟制度(cognitive apprenticeship)」(Collins, Brown, & Newman, 1991)は、生徒が次のような方法で指導と学習を行うモデルである。
 (a)数学、ライティング、リーディングなどの教科の「技術」を、その後の人生で使うことが予想される同一の文脈で学ぶ
 (b)大量の練習を行う
 (c)スキルのモデルとなる専門家から学び、学生が練習する際にフィードバックを与える
 (d)習得すべきスキルを応用するのに役立つメタ認知スキルを習得することに重点をおく

【文脈的要因】
・PBL研究の引用文献によれば、Project-Based Learningの真正性と自律性の要素に重要な影響を及ぼしている。
・「状況的認知」の研究によると、学習の文脈、使用される教材が実生活の文脈に似ている場合、学習は最大化され、逆に学習の文脈、使用教材が実生活の文脈に似ていない場合は、学習は最小化される(Brown, Collins & Duguid、1989)。
・生徒が学習したことを応用して問題を解決し、意思決定できることが重要なため、指導は問題解決の文脈で行われることが推奨される。
・問題解決という文脈で行われる学習は、より定着しやすく応用しやすい。
・そのような学習は、伝統的、教訓的な教授法の結果として獲得される不活性な知識よりも柔軟であると考えられている (Boaler, 1998b; Bransford, Sherwood, Hasselbring, Kinzer, & Williams, 1990)。

【テクノロジー】
・学習や指導へのテクノロジーの応用に関する研究は、一般に「認知ツール」としてのテクノロジーの利用に関心を持たせ、特に、生徒の能力の拡張やモデルとして、コンピュータハードウェアやプログラムをプロジェクト型学習に取り入れることにつながっている。
・テクノロジーには、知識構築のプロセスを明示することで、学習者がそのプロセスを意識できるようになるという利点がある(Brown & Campione, 1996)。
・「コンピュータはデータや情報へのアクセスを提供し、ネットワークを介して他者との交流や協力を拡大し、実験室での探求を促進し、専門家が成果物を作るために使用するツールを模倣するからである」(Krajcik et al., 1994)

ここまで。
PBLがアウトワード・バウンドと関係があったというのが1番の驚きでした。
そして、それが学校組織の変革にも使われていることも。
以前から興味はあったのですが、今回でよりアウトワード・バウンドについてもっと深く知りたくなりました。

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