Projec-based Learningに関する文献で、おそらく最も引用されているであろう報告書をレビューします。
報告書はこちら(被引用数:5,865件 (2025年4月6日時点))
Thomas, J. W. (2000). A review of research on project-based learning. http://www.bie.org/files/resea rchreviewPBL.pdf.
当報告書は、Buck Institute(現在:PBL Works)が、Autodesk財団の委託を受けて作成された、Project-based learningについてメタ分析した報告書です。著者のJohn Thomas博士は、1999年にJohn Mergendoller博士ともにProject-Based Learning Handbookの初版を出版しています。
当報告書は2000年に書かれたものですが、過去10年間のPBLに関する論文をレビューしたものとなっています。ただ、PBLに関する研究はそれほど多くないことから、このレビューは選択的というよりは包括的なものとなっています。
内容は、以下の8つのパートで構成されています。
1章と2章は過去にまとめていますので、そこはリンクを貼って割愛します。
1. PBLの定義
2. PBL研究と実践の基礎
3. 評価研究:PBLの効果に関する研究
4. PBLにおける生徒の特性の役割
5. 実施研究:PBLの実施に伴う課題
6. 介入研究:PBLの効果を高めるための研究
7. 結論
8. PBL研究の今後の方向性
ということで、今回はPBLにおける4つの研究のまとめです。
(a)PBLの有効性について判断する(総括的評価)
(b)PBLの実施または制定に関連する成功の程度を評価または記述する(形成的評価)
(c)PBLの有効性または適切性における学生の特性要因の役割を評価する(適性・処遇の相互作用)
(d)PBLの提案機能または修正機能をテストする(介入研究)
3. 評価研究:PBLの学習効果の評価(総括的評価)
PBLの効果について判断する方法はたくさんありますが、以下の5つのセクションに分けてまとめられています。
(1)標準化された学力テストのスコアを最も人気のある評価指標としているエクスペディショナリー・ラーニング・スクールで行われた研究を紹介
(2)問題解決型学習モデルを用いて行われた研究を紹介し、研究者は、一般的な問題解決戦略を身につけるためのモデルの有効性を評価するために、様々な独立した尺度を用いている
(3)標準テストと数学的推論の独立した尺度の両方を用いた問題解決型数学カリキュラムの評価
(4)プロジェクトという文脈の中で、しばしば独立したパフォーマンスタスクの使用を通じて教えられる特定のスキルの向上に焦点を当てた研究を紹介
(5)PBLの効果を評価するために、調査方法と参加者の自己申告に依存した多くの研究を紹介
(1)生徒の学力向上:Expeditionary Learning SchoolとCo-nect Schoolで行われた研究
◆Expeditionary Learning Schoolの成果
・New American Schools Design研究の一環として、1990年代に評価研究が実施された
・学力の大幅な向上が複数の州(アイオワ、ボストン、メイン、コロラドなど)のEL校で報告された
・アイオワ州では、「平均以下」から「平均以上」へと成績が改善
・メイン州では、全教科で州平均の3〜10倍のスコア向上が見られた
・生徒構成に困難(例:英語が十分話せない生徒の増加)があるにもかかわらず成果を出した
・出席率の向上(例:75% → 95%以上)や懲戒処分の減少も報告
・教師の指導力・評価力・保護者連携力などへの好影響も認められた
・コロラド大学の調査では、「プロジェクトベースの学際的カリキュラム」「地域との連携」「本物の評価」「ブロック制時間割」などの構造的改革が行われていた
◆Co-nect Schoolの成果
・Co-nectもELと同様、全校的改革モデルとしてPBLを中心に据えた取り組み
・特徴はテクノロジー活用、学際的な学習、地域貢献など
・メンフィス大学の調査では、対照群よりも全教科で高い達成度を示し学力の伸びが約26%高いと報告
・シンシナティの独立評価でも、地区平均と同等の学力向上が確認された
◆成果に対する留意点と解釈
・これらの成果は、該当プログラムの出版物から引用されたものであり、肯定的事例に偏っている可能性がある
・成績が芳しくなかった学校の存在が排除されているわけではない
・効果の一部は、PBL以外の要因(ポートフォリオ評価、ブロック制時間割、テクノロジー活用など)に起因している可能性もある
◆それでもこれらの成果が印象的な理由
・一般に、教育介入によって標準学力テストの成績を向上させるのは困難であるため、今回の成果は例外的に注目される
・ELやCo-nectの学習内容は、必ずしもテストの出題範囲(読み書き計算などの基礎技能)を直接扱っていないにもかかわらず、成績が向上している点が特筆に値する
・動機づけの向上により、プロジェクト以外の時間帯での学習意欲や集中力が高まっている可能性も示唆されている
(3)生徒の教科理解における利益:英国の2つの中等学校の縦断的研究
◆Boaler(1997)によるPBLの効果に関する縦断的研究
・対象と研究デザイン:英国の2つの中等学校(生徒数:約300人)を対象に、3年間(Year9〜Year11)にわたり追跡調査
・一方は伝統的指導(教科書・講義・テスト中心)、もう一方はプロジェクト型指導(PBL)を実施
・事前・事後テストと対照群(マッチング済)を用いた、質の高い縦断的比較研究
◆PBL実施校の特徴
・異なる背景を持つ生徒が混在する異種グループでの協働学習
・教科書やテストの使用を最小限に抑え、生徒が自律的に学習内容を選択
・学年末の国家試験に向けては3年目に伝統的手法を一部導入
◆データ収集・評価手法
・数学授業の観察90回以上、生徒・教師インタビュー、アンケート調査、GCSE(全国試験)成績など、多様なデータを収集
・問題は手続き的問題(計算・公式の適用)と概念的問題(応用・創造的思考)に分類して評価
◆主な研究結果
・学力(国家試験):PBL校の生徒は、伝統校の生徒よりも合格率が高く、最高点取得者も3倍に達した
・手続き的問題:PBL校の生徒は伝統校と同等かそれ以上の成績を示した
・概念的問題・応用課題:PBL校の生徒の方が明確に優れていた
・知識の質と応用性:PBL校の生徒は、柔軟で実社会に役立つ知識を身につけたのに対し、伝統校の生徒は「不活性な知識」(形式的で応用しにくい)にとどまった
・生徒の態度:伝統校は、退屈で形式的と感じ、ルール暗記に依存していたのに対し、PBL校は、数学を「探索と創造的思考のある教科」と捉えていた
◆総括
・この研究は、PBLが伝統的な指導と比べて、より深い理解、柔軟な知識、実社会での応用力を育てる可能性があることを示している
・特に、単なる知識の定着ではなく、その「使える形」での習得においてPBLが効果的である点は、教育実践・政策にとって重要な示唆を提供している
・研究者は、生徒の個人差(学習スタイル、性格、動機づけなど)がPBLの効果にどう影響するか、または、PBLの設計がそれらにどう適応すべきかを検討している
・学習スタイル、年齢、性別、能力、モチベーションなどの特性が対象
◆主な研究と発見
1. Rosenfeld & Rosenfeld(1998)
・「嬉しい驚き」(従来の教室では不調→PBLで好成績)と「残念な驚き」(従来では好成績→PBLで不調)という生徒を対象に分析
・「嬉しい驚き」の生徒は、応用的・発見的・技術的な処理スタイルが高得点
・PBLは、事実記憶型の学習スタイルとのミスマッチに悩む生徒に適している可能性を示唆
2. Meyer, Turner & Spencer(1997)
・小学生を「チャレンジ志向」と「チャレンジ回避型」に分類
・チャレンジ志向の生徒は、自己効力感が高く、PBLへの関心と集中が高い
・サンプル数が少なく、探索的研究にとどまる
3. Horan, Lavaroni & Beldon(1996)
・PBL教室での高・低能力生徒の行動比較
・初期は高能力生徒が優位だが、時間経過とともに低能力生徒の成長率が顕著(+446%)
・社会参加行動・批判的思考行動の伸びに注目
4. Boaler(1997)
・男子より女子の方が伝統的な指導に不満を抱き、PBLでの学習様式により適応的
・PBLは女子の数学的理解を高める可能性があると示唆
5. (Jones et al., 1997)
・PBLは、これまで消極的でやる気のない生徒(例:低学力の生徒)をやる気のある学習者にするための効果的な方法であるという主張がよくなされている
・しかし、残念ながら、この主張について調査した研究は見当たらない
◆総括
・調査された生徒特性:学習スタイル、性別、能力、動機づけ、学習態度など
・PBLの効果に関する傾向:柔軟な学習スタイルを持つ生徒、または従来教育に不適応だった生徒に効果的
・示唆される可能性:PBLは、多様な学習者に対応し得る教育手法として設計可能
・特に女子や低学力層にとって有効性が示唆される
・課題:サンプルが小規模、探索的研究が中心であり、体系的な検証が不足
・PBLの計画・実行プロセスを調査し、現場で生じる困難を明らかにする研究
・主に観察、アンケート、インタビューを通して、教師・生徒・保護者・管理者などの経験を把握
・教室内外の要因、支援体制、時間管理、評価など多角的な視点で分析される
2. 生徒が直面する主な課題
Krajcikら(1998)
・中学生を対象にしたケーススタディで、以下の困難を特定
・科学的に意味のある問いを立てられない
・時間・タスク管理の難しさ
・データの変換や分析、論理的説明の不足
・生徒が探究を進めるには、教師・仲間・技術の支援(足場)が必要
Edelsonら(1999)
・高校生における主な課題
・探究への動機維持が困難
・技術的リソースの不足
・背景知識の欠如
・調査活動の管理が困難
Achilles & Hoover(1996)
・小・中・高校でのPBLで、小グループの共同作業が機能せず、生徒の社会的スキル不足が原因
3. 教師が直面する課題
Krajcikら(1994)・Ladewskiら(1991)
・教師の実施におけるジレンマ
・時間 vs カリキュラムカバー
・自由な探究 vs 教師主導の指導
・生徒主導の学び vs 教師による指導責任
・新しい実践と旧来の信念・行動の間で揺れや葛藤が生じる
Marxら(1991, 1997)
・教師がPBLを進める上での6つの課題
・時間管理:PBLは時間がかかる
・教室運営:秩序と自律の両立
・コントロールの葛藤:情報の管理 vs 学習の自由
・学習支援の難しさ:過度の自律に傾くと支援不足に
・テクノロジー活用の困難
・評価の難しさ:深い理解をどう測るか
・教師の実践変化は徐々に進み、試行錯誤を繰り返しながら進化する傾向がある
Rosenfeldら(1998)・Sage(1996)
・イスラエルや米国の教師も、スキル育成とカリキュラムの統合に困難を抱える
・問題シナリオの設計、グループ運営、本物の課題の扱いなど設計面の課題が多い
4. 熟練教師の実践知(Thomas & Mergendoller, 2000)
・経験豊富な中高のPBL教師への調査で抽出された実施を成功させる10の原則
5. 学校レベルの要因
Edelsonら(1999)、Blumenfeldら(1994)、Hertzog(1994)
・資源不足、非柔軟な時間割、技術環境の不整合、学級規模・構成、教育政策などがPBLの障壁
・小学校では、教科横断的な統合が困難であることが報告
◆総括
・生徒側:疑問生成の困難、探究の継続、技術・知識の不足、時間管理
・教師側:教育信念との葛藤、教室運営、評価方法、支援の難しさ 設計面 問題シナリオの質と適合、時間確保、グループ支援
・学校要因:制度・時間・資源・カリキュラムの制約
・実施成功の鍵:段階的な変化支援、自己管理文化の育成、支援的な学校環境
・PBLの弱点を改善するために設計された介入(intervention)を通じて、PBLの実施や学習効果の向上を目指す研究
・対象は主に
・PBLにおける生徒の困難(例:動機の欠如、質問生成、概念理解)
・PBL設計上の課題(例:学習目標との乖離、学習内容の不明確さ)
◆主な介入手法の分類と例 【主な介入の類型(Table1に整理)】
・生徒の学習を支援する工夫(足場作り / scaffolding、手続き的ファシリテーション / procedural facilitation)
・介入の具体例
・動機づけ支援:興味を引きつける問い(Driving Question)の設計
・設計要件の明示:成果物に求められる条件を明確にする(例:NASA仕様のロケット設計)
・ツール導入:技術ツールやデータベース、コーチング、評価法(自己・相互・外部評価)など
◆代表的な介入研究
Polman & Pea(1997):「変容的コミュニケーション」
・問題:PBLが方向性を失いやすい(“unguided discovery”)
・解決策:生徒が主導権を持ちながら、教師が対話的に再解釈・提案し、学習を深める
・例:UFOに関する非科学的調査が、自然現象の検証へと方向づけられた
Petrosino(1998)
・比較研究:従来のロケット製作 vs 設計仕様を含む強化プロジェクト
・結果:仕様条件が追加されたことで、概念理解と科学的探究力が向上
Moore et al.(1996)
・ビジネスプラン作成を題材に、事前に3時間の問題解決型トレーニングを実施
・結果:訓練を受けたグループの方が、計画の質や数学的表現の使用で優れていた
・教訓:PBL前に関連スキルの事前トレーニングを行うことの有効性が示された
◆介入の意義と留意点
・有効なPBLを実現するには、プロジェクトの設計段階から適切な介入を意図的に組み込む必要
・介入は「教師がコントロールする」のではなく、生徒の主体性を支援する手段として位置づけるべき
・ただし、表1に掲載された介入法はあくまで一部であり、PBL研究全体の介入戦略を網羅しているわけではない
◆総括
・介入研究の目的:生徒の弱点やPBL設計の課題に対する改善策の導入
・主なアプローチ:足場作り(scaffolding)、設計要件の明示、前段階の訓練など
・期待される効果:学習目標への集中、科学的概念理解、問題解決スキルの向上
・今後の課題:介入の汎用性と持続可能性、学習者主体の原則との両立

・Boaler(1997):PBLが教科知識の質に与える好影響を報告
・Marxら(1997, ミシガン大学):PBL実施における教師と生徒の困難
・Barronら(1998) / CTGV:手続き的支援によるスキル習得の促進
◆現時点での暫定的な結論(7点)
① PBLの導入・実施の難しさ
・初心者教師によるPBL導入研究が中心
・多くの教師にとって、計画・管理・評価が困難であり、支援環境の整備が不可欠
② 生徒の自己主導的学習の限界
・複雑なプロジェクトでは、生徒が探究や時間管理、技術活用で困難に直面
・PBLの効果は、適切なサポート体制の有無に左右される
③ PBLは生徒・教師の双方に支持されている
・高い満足度と肯定的な評価が報告されており、人気のある指導法といえる
④ PBLに伴う副次的な好影響
・生徒:出席率の改善、自立心や学習態度の向上
・教師:プロ意識や協調性の向上
⑤ 学力への影響は概ね良好
・学業成績や基本的な認知能力において、PBLは他の方法と同等かやや優れる
⑥ より高次の認知スキルへの効果
・教科学習の質が高まり、新しい文脈での応用力向上に寄与する可能性がある
⑦ 実社会的スキルの育成
・計画・コミュニケーション・問題解決・意思決定など、複雑なスキルの習得に効果的
・ただし、比較群との研究は少ない点に留意
◆学校全体での導入効果
・間接的ではあるが、学校単位でPBLを取り入れることで、学習効果が高まる可能性があると示唆
◆総合的見解
・PBLは、効果的な実施が難しい一方で、適切な設計と支援を伴えば、学力向上・学習の質の向上・高次スキルの育成・学習意欲の促進など多面的なメリットを持つ教育アプローチである
・今後は、比較研究の充実と支援手法の体系化が重要となる
・PBL研究はまだ新しい領域であり、多くの教師が研究に触れる機会がない
・研究は専門的すぎて現場の教師に届きにくく、また広く共有された理論枠組みやモデルが存在しない
・多くのPBL研究は「パッケージ化された教材」を対象としており、現場の教師による「草の根型(grassroots)」PBL実践とは乖離している
◆PBL実践者が直面する課題
・従来の教育には指導理論や教材があるが、PBLにはそうした支援が乏しく、実践者は独力で設計・運営・評価を行っている
・その結果、実践の継続や正当化が困難で、経験の蓄積や普及が妨げられている
◆今後の研究で必要とされる5つの柱
①PBLの有効性に関する比較研究
・従来法とPBLの学習効果・学習の質の比較
・成果の持続性・条件依存性や、ライフスキル・メタ認知・非認知スキルへの影響
・異年齢層・教科・学力層に応じたPBLの効果検証
② PBLの効果測定指標の拡張
・単一指標(例:学力)に依存せず、多次元の評価基準を採用:
・応用力・問題解決力・コラボレーション・自己調整・態度変化など
・複数の評価手法(観察、成果物、テスト、パフォーマンス課題等)の併用が求められる
③PBLのベストプラクティス研究
・教材・活動設計・技術・評価の効果的な組み合わせの明確化
・「草の根型」介入の事例収集(例:Bergerの“質の高い文化”の導入)
④教師主導PBLの実施課題の探究
・教師が自作でPBLを導入する際の困難と成功要因を明らかに
・これまでの研究は教材付属型に偏っており、現場の実践に一般化しづらい
⑤PBLの制度化と学校改革との関連性の研究
・PBLを学校文化・制度・地域社会と連動させていくための条件整備
・学校全体・地区全体でPBLを普及・定着させる仕組みの解明
◆総括と提言
・PBL実践者は今、支援も枠組みもない中で孤立している
・標準化やテスト重視の流れに対抗し、現場主導で継続可能な知識基盤の構築が急務
・今後の研究は、実践と理論、教師と研究者、個別の教室と制度全体をつなぐ橋渡し役を担うべき
ここまで。
改めてまとめてみると、PBL研究の全体像が非常によく整理されていて参考になる部分が盛りだくさんでした。当報告書は、以前に読んだこともあったのですが、当時よりもPBLの知識量が上がったためか、より広く、そして深く内容を捉えることができたような気がします。
例えば、PBLの理論的系譜に出てきたProblem-based learningとの共通点と相違点について。当レビューにおける問題解決型学習に関する研究は、一般的なProject-based learningのデザインには見られないチュートリアルの要素があるものの、PBLの定義する特徴(中心性、ドライビングクエスチョン、構成的探究、自律性、現実性)の全てが含まれている、とされていました。
また、引用されている論文で過去に読んだものにつていてはリンクを貼りましたが、まだまだ読めていない重要な論文があることにも気づかされました。こちらの報告書をインデックスとして、読めていない論文については引き続き読んでいきたいと思います。※基本的に古い論文が多いので、アップデートされた新しい内容があるかを確認しながら読み進めたいです。
今後の研究の方向性の章で、「PBL実践者は今、支援も枠組みもない中で孤立している」という問題について言及されていました。これは日本の教育現場(大学のPBLや、小中高の探究学習)でも同じ状況にあると感じています。この分野で実践されている先生方のお力になれるように、自分ももっと研究を進めていきたいです。
以下、やりたいことメモ
・PBL実践の拠り所となる理論・モデルを調査し、枠組みを提示したい
→「広く共有された理論枠組みやモデルが存在しない」ことが普及を妨げている!
・実践者が直面する課題と解決策を整理したい
・参考となる「PBL事例集」を作りたい
報告書はこちら(被引用数:5,865件 (2025年4月6日時点))
Thomas, J. W. (2000). A review of research on project-based learning. http://www.bie.org/files/resea rchreviewPBL.pdf.
当報告書は、Buck Institute(現在:PBL Works)が、Autodesk財団の委託を受けて作成された、Project-based learningについてメタ分析した報告書です。著者のJohn Thomas博士は、1999年にJohn Mergendoller博士ともにProject-Based Learning Handbookの初版を出版しています。
当報告書は2000年に書かれたものですが、過去10年間のPBLに関する論文をレビューしたものとなっています。ただ、PBLに関する研究はそれほど多くないことから、このレビューは選択的というよりは包括的なものとなっています。
内容は、以下の8つのパートで構成されています。
1章と2章は過去にまとめていますので、そこはリンクを貼って割愛します。
1. PBLの定義
2. PBL研究と実践の基礎
3. 評価研究:PBLの効果に関する研究
4. PBLにおける生徒の特性の役割
5. 実施研究:PBLの実施に伴う課題
6. 介入研究:PBLの効果を高めるための研究
7. 結論
8. PBL研究の今後の方向性
ということで、今回はPBLにおける4つの研究のまとめです。
(a)PBLの有効性について判断する(総括的評価)
(b)PBLの実施または制定に関連する成功の程度を評価または記述する(形成的評価)
(c)PBLの有効性または適切性における学生の特性要因の役割を評価する(適性・処遇の相互作用)
(d)PBLの提案機能または修正機能をテストする(介入研究)
3. 評価研究:PBLの学習効果の評価(総括的評価)
PBLの効果について判断する方法はたくさんありますが、以下の5つのセクションに分けてまとめられています。 (1)標準化された学力テストのスコアを最も人気のある評価指標としているエクスペディショナリー・ラーニング・スクールで行われた研究を紹介
(2)問題解決型学習モデルを用いて行われた研究を紹介し、研究者は、一般的な問題解決戦略を身につけるためのモデルの有効性を評価するために、様々な独立した尺度を用いている
(3)標準テストと数学的推論の独立した尺度の両方を用いた問題解決型数学カリキュラムの評価
(4)プロジェクトという文脈の中で、しばしば独立したパフォーマンスタスクの使用を通じて教えられる特定のスキルの向上に焦点を当てた研究を紹介
(5)PBLの効果を評価するために、調査方法と参加者の自己申告に依存した多くの研究を紹介
(1)生徒の学力向上:Expeditionary Learning SchoolとCo-nect Schoolで行われた研究
◆Expeditionary Learning Schoolの成果
・New American Schools Design研究の一環として、1990年代に評価研究が実施された
・学力の大幅な向上が複数の州(アイオワ、ボストン、メイン、コロラドなど)のEL校で報告された
・アイオワ州では、「平均以下」から「平均以上」へと成績が改善
・メイン州では、全教科で州平均の3〜10倍のスコア向上が見られた
・生徒構成に困難(例:英語が十分話せない生徒の増加)があるにもかかわらず成果を出した
・出席率の向上(例:75% → 95%以上)や懲戒処分の減少も報告
・教師の指導力・評価力・保護者連携力などへの好影響も認められた
・コロラド大学の調査では、「プロジェクトベースの学際的カリキュラム」「地域との連携」「本物の評価」「ブロック制時間割」などの構造的改革が行われていた
◆Co-nect Schoolの成果
・Co-nectもELと同様、全校的改革モデルとしてPBLを中心に据えた取り組み
・特徴はテクノロジー活用、学際的な学習、地域貢献など
・メンフィス大学の調査では、対照群よりも全教科で高い達成度を示し学力の伸びが約26%高いと報告
・シンシナティの独立評価でも、地区平均と同等の学力向上が確認された
◆成果に対する留意点と解釈
・これらの成果は、該当プログラムの出版物から引用されたものであり、肯定的事例に偏っている可能性がある
・成績が芳しくなかった学校の存在が排除されているわけではない
・効果の一部は、PBL以外の要因(ポートフォリオ評価、ブロック制時間割、テクノロジー活用など)に起因している可能性もある
◆それでもこれらの成果が印象的な理由
・一般に、教育介入によって標準学力テストの成績を向上させるのは困難であるため、今回の成果は例外的に注目される
・ELやCo-nectの学習内容は、必ずしもテストの出題範囲(読み書き計算などの基礎技能)を直接扱っていないにもかかわらず、成績が向上している点が特筆に値する
・動機づけの向上により、プロジェクト以外の時間帯での学習意欲や集中力が高まっている可能性も示唆されている
(2)生徒の問題解決能力における利益:PBLの問題解決型学習モデルを用いた研究
◆高校におけるPBLの効果(Gallagherら, 1992)
・イリノイ数学科学アカデミーの高校3年生を対象に、非構造化問題を含む問題解決型コースを実施
・生徒は自律的に問題の定義・情報収集・仮説検討・政策立案までを行った
・プレポスト比較で、「問題発見」能力が有意に向上した
◆中等教育における倫理的・社会的問題への応用(Stepienら, 1993)
・理科と社会の授業において、倫理的・歴史的問題を統合した問題解決型課題を導入
・理科コースでは、生徒の倫理的な訴えの幅と論拠の質が対照群よりも高かった
・社会科では、事実の知識量も問題解決をしないクラスと同等以上だった
◆マルチメディア教材を使ったPBL(Williamsら, 1998)
・CD-ROMベースのPBL教材を使用した7年生(中学1年)117名の研究
・伝統的指導を受けた生徒よりも、科学概念の理解に優れていた
◆小学生への応用
・複数の研究(Gallagherら, 1995;Sage, 1996;Savoie & Hughes, 1994など)で、小・中学生に対してもPBLの効果を報告
・内容例:生態系、言語・科学の統合、家族関係をテーマとしたPBLユニット
◆高能力児向けのPBL(Boyceら, 1997)
・幼稚園~中学2年までの高能力児を対象に、考古学や生態系などを題材に問題解決型学習を実施
◆PBLによる批判的思考の向上(Shepherd, 1998)
・住宅問題を扱った9週間のPBLプロジェクトで、批判的思考テストの成績が統制群よりも向上
・学習意欲や自信も高まったとの自己報告あり
◆危機にある青少年対象のPBL(Ljung & Blackwell, 1996)
・Project OMEGAでは、PBLと従来型指導を組み合わせた支援プログラムを実施
・卒業生は全員、主要科目のコースに合格
・ただし、成果の明確な評価にはさらなるデータが必要
◆総括
・問題解決型学習(PBL)は、高校から小学校、特別支援教育や高能力児教育に至るまで、多様な教育現場で導入されており、問題解決能力、批判的思考、学習意欲の向上に有効であることが複数の研究で示唆されている
・特に、非構造化問題や現実的・倫理的課題を用いることで、知識の定着とともに思考力の育成が期待される
◆高校におけるPBLの効果(Gallagherら, 1992)
・イリノイ数学科学アカデミーの高校3年生を対象に、非構造化問題を含む問題解決型コースを実施
・生徒は自律的に問題の定義・情報収集・仮説検討・政策立案までを行った
・プレポスト比較で、「問題発見」能力が有意に向上した
◆中等教育における倫理的・社会的問題への応用(Stepienら, 1993)
・理科と社会の授業において、倫理的・歴史的問題を統合した問題解決型課題を導入
・理科コースでは、生徒の倫理的な訴えの幅と論拠の質が対照群よりも高かった
・社会科では、事実の知識量も問題解決をしないクラスと同等以上だった
◆マルチメディア教材を使ったPBL(Williamsら, 1998)
・CD-ROMベースのPBL教材を使用した7年生(中学1年)117名の研究
・伝統的指導を受けた生徒よりも、科学概念の理解に優れていた
◆小学生への応用
・複数の研究(Gallagherら, 1995;Sage, 1996;Savoie & Hughes, 1994など)で、小・中学生に対してもPBLの効果を報告
・内容例:生態系、言語・科学の統合、家族関係をテーマとしたPBLユニット
◆高能力児向けのPBL(Boyceら, 1997)
・幼稚園~中学2年までの高能力児を対象に、考古学や生態系などを題材に問題解決型学習を実施
◆PBLによる批判的思考の向上(Shepherd, 1998)
・住宅問題を扱った9週間のPBLプロジェクトで、批判的思考テストの成績が統制群よりも向上
・学習意欲や自信も高まったとの自己報告あり
◆危機にある青少年対象のPBL(Ljung & Blackwell, 1996)
・Project OMEGAでは、PBLと従来型指導を組み合わせた支援プログラムを実施
・卒業生は全員、主要科目のコースに合格
・ただし、成果の明確な評価にはさらなるデータが必要
◆総括
・問題解決型学習(PBL)は、高校から小学校、特別支援教育や高能力児教育に至るまで、多様な教育現場で導入されており、問題解決能力、批判的思考、学習意欲の向上に有効であることが複数の研究で示唆されている
・特に、非構造化問題や現実的・倫理的課題を用いることで、知識の定着とともに思考力の育成が期待される
(3)生徒の教科理解における利益:英国の2つの中等学校の縦断的研究
◆Boaler(1997)によるPBLの効果に関する縦断的研究
・対象と研究デザイン:英国の2つの中等学校(生徒数:約300人)を対象に、3年間(Year9〜Year11)にわたり追跡調査
・一方は伝統的指導(教科書・講義・テスト中心)、もう一方はプロジェクト型指導(PBL)を実施
・事前・事後テストと対照群(マッチング済)を用いた、質の高い縦断的比較研究
◆PBL実施校の特徴
・異なる背景を持つ生徒が混在する異種グループでの協働学習
・教科書やテストの使用を最小限に抑え、生徒が自律的に学習内容を選択
・学年末の国家試験に向けては3年目に伝統的手法を一部導入
◆データ収集・評価手法
・数学授業の観察90回以上、生徒・教師インタビュー、アンケート調査、GCSE(全国試験)成績など、多様なデータを収集
・問題は手続き的問題(計算・公式の適用)と概念的問題(応用・創造的思考)に分類して評価
◆主な研究結果
・学力(国家試験):PBL校の生徒は、伝統校の生徒よりも合格率が高く、最高点取得者も3倍に達した
・手続き的問題:PBL校の生徒は伝統校と同等かそれ以上の成績を示した
・概念的問題・応用課題:PBL校の生徒の方が明確に優れていた
・知識の質と応用性:PBL校の生徒は、柔軟で実社会に役立つ知識を身につけたのに対し、伝統校の生徒は「不活性な知識」(形式的で応用しにくい)にとどまった
・生徒の態度:伝統校は、退屈で形式的と感じ、ルール暗記に依存していたのに対し、PBL校は、数学を「探索と創造的思考のある教科」と捉えていた
◆総括
・この研究は、PBLが伝統的な指導と比べて、より深い理解、柔軟な知識、実社会での応用力を育てる可能性があることを示している
・特に、単なる知識の定着ではなく、その「使える形」での習得においてPBLが効果的である点は、教育実践・政策にとって重要な示唆を提供している
(4)プロジェクトで導入された特定のスキルやストラテジーに関連する理解の獲得:PBLの効果に関する研究室での研究
◆特徴的な研究視点
・紹介された研究群は、プロジェクト活動を通じて特定のスキル(例:幾何学、設計、マルチメディア表現)をどれだけ学んだかを、実際の成果物やパフォーマンスタスクによって評価
・単なる知識テストではなく、本物の課題や制作物を通じて習得度を測定している点が特徴
◆CTGV(Vanderbilt大学 Cognition and Technology Group)の研究
・Barronら(1998)による研究(SMARTプログラム):幾何学の原理が建築・デザインにどう応用されるかを学ばせることを目的
・活動内容:模擬課題:遊び場の設計、プロジェクト課題:コミュニティセンターのプレイハウスの設計
・結果(試験前後比較):
・設計能力(尺度・測定の理解)が全レベルで向上 幾何学の標準テスト項目の成績が大幅に改善
・提出設計の84%が「建設可能」と評価される高品質
◆Jasperシリーズ研究(1992)
・対象:11学区700人以上(うち5学区に対照群)
・内容:旅行計画・ビジネスプラン作成などのビデオ教材を起点とするプロジェクト
・評価分野:計画力、数学的問題解決、学習態度
・成果:
・対照群よりも全領域で好成績
・特に問題解決力、前向きな学習態度、数学への不安軽減に効果
・日常との関連づけが強まり、学習意欲が向上
◆CTGV研究に対する限界指摘
・「パッケージ化された」教材の影響が強く、PBLの本来の自律性・本物性とは異なる面がある
・PBLに時間を割くことによる他教科への影響を評価していない(代償的効果の検証が不十分)
◆SRI Internationalの研究(Penuel & Means, 2000)
・チャレンジ2000マルチメディアプロジェクト(5年間)
・対象:シリコンバレーの生徒。実世界の課題に取り組み、地域フェアで発表
・評価タスク:ホームレス問題を啓発するパンフレット作成
・評価指標:①内容の習得、②読者への配慮、③一貫したデザイン
・成果: 3つすべての評価指標でプロジェクト参加者が優位
・基礎学力の標準テスト成績にも差はなく、他分野の学習を妨げていない
◆総括
・これらの研究は、PBLが特定のスキルや概念の理解を深めるうえで有効であることを示している
・特に以下の点が重要: パフォーマンスタスクに基づいた評価で実践的なスキル獲得が測定可能
・PBLは数学や設計の概念理解に明確な効果
・学習態度や学習への動機づけの向上にも好影響 他教科の学習とのバランスを保ちつつスキル習得が可能
・ただし、プロジェクトの「本物性」や「学習者の主体性」をどこまで保証しているかには注意が必要
(5)グループでの問題解決、作業習慣、およびその他のPBLプロセス行動における認識された変化:自己報告による効果測定
◆自己報告の特徴と限界
・アンケートやインタビューは手軽で実施しやすく、気質や態度、社会的スキルの測定に有効
・ただし、「実際に何が起こったか」ではなく「何が起こったと信じているか」を測るため、過大評価やバイアスの可能性がある
◆主な研究と結果
・Tretten & Zachariou(1995, 1997)
・対象:初期は4校、後に14校へ拡大
・教師・保護者へのアンケートとインタビューを実施
・教師は、PBLが学習態度、作業習慣、問題解決力、自尊心に好影響を与えたと報告
・生徒は「協働・問題解決スキル」で最も成長を示したとされ、教科学習は比較的低く評価(「重要な知識/内容」は最も低評価)
・Bartscher, Gould & Nutter(1995)
・対象:モチベーションの低い3年生、5年生、10年生
・82%の生徒が「モチベーションが向上」、93%が「関連トピックへの関心が増した」と回答
・宿題の提出率も7%増加したが、対照群がなく効果の因果関係は不明確
・Peckら(1998)
・対象:人文学PBLコースの高校生
・生徒は「複数資料の活用、情報の評価、再確認」などリテラシー能力が向上したと認識
◆自己報告の限界と偏りのリスク
・新しい教育方法(PBL)に触れたこと自体が肯定的反応を引き起こす可能性
・学習効果がなくても、楽しい・刺激的だったことにより効果があると誤認するリスク
・教師や観察者も、生徒が熱心に見えることにより効果を高く見積もる可能性がある
◆Beckerら(1999) — Co-nectの教師調査
・Co-nect参加校の教師は、他の改革校や全国サンプルと比べて、以下をより頻繁に実施:
・コンピュータ・ソフトウェア・インターネットの活用
・少人数グループ、長期プロジェクト、トピックの深掘り
・振り返り文、複数表現法、生徒主導の討論など構成主義的活動
・一方で、伝統的な活動(シートワーク、教科書問題など)は減少
・結果はプログラムの特徴を示すものであり、効果や成果を直接証明するものではない
◆総括
・自己報告の利点:実施が簡便で、動機づけや態度変化の把握に有効
・主な認識された効果:問題解決能力、協働性、モチベーション、リテラシーの向上
・主な限界:学習効果の過大評価、対照群の不在、バイアスの影響
・示唆:自己報告データはあくまで補助的な指標であり、他の客観的評価と組み合わせて活用すべき
◆概要◆特徴的な研究視点
・紹介された研究群は、プロジェクト活動を通じて特定のスキル(例:幾何学、設計、マルチメディア表現)をどれだけ学んだかを、実際の成果物やパフォーマンスタスクによって評価
・単なる知識テストではなく、本物の課題や制作物を通じて習得度を測定している点が特徴
◆CTGV(Vanderbilt大学 Cognition and Technology Group)の研究
・Barronら(1998)による研究(SMARTプログラム):幾何学の原理が建築・デザインにどう応用されるかを学ばせることを目的
・活動内容:模擬課題:遊び場の設計、プロジェクト課題:コミュニティセンターのプレイハウスの設計
・結果(試験前後比較):
・設計能力(尺度・測定の理解)が全レベルで向上 幾何学の標準テスト項目の成績が大幅に改善
・提出設計の84%が「建設可能」と評価される高品質
◆Jasperシリーズ研究(1992)
・対象:11学区700人以上(うち5学区に対照群)
・内容:旅行計画・ビジネスプラン作成などのビデオ教材を起点とするプロジェクト
・評価分野:計画力、数学的問題解決、学習態度
・成果:
・対照群よりも全領域で好成績
・特に問題解決力、前向きな学習態度、数学への不安軽減に効果
・日常との関連づけが強まり、学習意欲が向上
◆CTGV研究に対する限界指摘
・「パッケージ化された」教材の影響が強く、PBLの本来の自律性・本物性とは異なる面がある
・PBLに時間を割くことによる他教科への影響を評価していない(代償的効果の検証が不十分)
◆SRI Internationalの研究(Penuel & Means, 2000)
・チャレンジ2000マルチメディアプロジェクト(5年間)
・対象:シリコンバレーの生徒。実世界の課題に取り組み、地域フェアで発表
・評価タスク:ホームレス問題を啓発するパンフレット作成
・評価指標:①内容の習得、②読者への配慮、③一貫したデザイン
・成果: 3つすべての評価指標でプロジェクト参加者が優位
・基礎学力の標準テスト成績にも差はなく、他分野の学習を妨げていない
◆総括
・これらの研究は、PBLが特定のスキルや概念の理解を深めるうえで有効であることを示している
・特に以下の点が重要: パフォーマンスタスクに基づいた評価で実践的なスキル獲得が測定可能
・PBLは数学や設計の概念理解に明確な効果
・学習態度や学習への動機づけの向上にも好影響 他教科の学習とのバランスを保ちつつスキル習得が可能
・ただし、プロジェクトの「本物性」や「学習者の主体性」をどこまで保証しているかには注意が必要
(5)グループでの問題解決、作業習慣、およびその他のPBLプロセス行動における認識された変化:自己報告による効果測定
◆自己報告の特徴と限界
・アンケートやインタビューは手軽で実施しやすく、気質や態度、社会的スキルの測定に有効
・ただし、「実際に何が起こったか」ではなく「何が起こったと信じているか」を測るため、過大評価やバイアスの可能性がある
◆主な研究と結果
・Tretten & Zachariou(1995, 1997)
・対象:初期は4校、後に14校へ拡大
・教師・保護者へのアンケートとインタビューを実施
・教師は、PBLが学習態度、作業習慣、問題解決力、自尊心に好影響を与えたと報告
・生徒は「協働・問題解決スキル」で最も成長を示したとされ、教科学習は比較的低く評価(「重要な知識/内容」は最も低評価)
・Bartscher, Gould & Nutter(1995)
・対象:モチベーションの低い3年生、5年生、10年生
・82%の生徒が「モチベーションが向上」、93%が「関連トピックへの関心が増した」と回答
・宿題の提出率も7%増加したが、対照群がなく効果の因果関係は不明確
・Peckら(1998)
・対象:人文学PBLコースの高校生
・生徒は「複数資料の活用、情報の評価、再確認」などリテラシー能力が向上したと認識
◆自己報告の限界と偏りのリスク
・新しい教育方法(PBL)に触れたこと自体が肯定的反応を引き起こす可能性
・学習効果がなくても、楽しい・刺激的だったことにより効果があると誤認するリスク
・教師や観察者も、生徒が熱心に見えることにより効果を高く見積もる可能性がある
◆Beckerら(1999) — Co-nectの教師調査
・Co-nect参加校の教師は、他の改革校や全国サンプルと比べて、以下をより頻繁に実施:
・コンピュータ・ソフトウェア・インターネットの活用
・少人数グループ、長期プロジェクト、トピックの深掘り
・振り返り文、複数表現法、生徒主導の討論など構成主義的活動
・一方で、伝統的な活動(シートワーク、教科書問題など)は減少
・結果はプログラムの特徴を示すものであり、効果や成果を直接証明するものではない
◆総括
・自己報告の利点:実施が簡便で、動機づけや態度変化の把握に有効
・主な認識された効果:問題解決能力、協働性、モチベーション、リテラシーの向上
・主な限界:学習効果の過大評価、対照群の不在、バイアスの影響
・示唆:自己報告データはあくまで補助的な指標であり、他の客観的評価と組み合わせて活用すべき
4. PBLにおける生徒の特性の役割に関する研究
・研究者は、生徒の個人差(学習スタイル、性格、動機づけなど)がPBLの効果にどう影響するか、または、PBLの設計がそれらにどう適応すべきかを検討している
・学習スタイル、年齢、性別、能力、モチベーションなどの特性が対象
◆主な研究と発見
1. Rosenfeld & Rosenfeld(1998)
・「嬉しい驚き」(従来の教室では不調→PBLで好成績)と「残念な驚き」(従来では好成績→PBLで不調)という生徒を対象に分析
・「嬉しい驚き」の生徒は、応用的・発見的・技術的な処理スタイルが高得点
・PBLは、事実記憶型の学習スタイルとのミスマッチに悩む生徒に適している可能性を示唆
2. Meyer, Turner & Spencer(1997)
・小学生を「チャレンジ志向」と「チャレンジ回避型」に分類
・チャレンジ志向の生徒は、自己効力感が高く、PBLへの関心と集中が高い
・サンプル数が少なく、探索的研究にとどまる
3. Horan, Lavaroni & Beldon(1996)
・PBL教室での高・低能力生徒の行動比較
・初期は高能力生徒が優位だが、時間経過とともに低能力生徒の成長率が顕著(+446%)
・社会参加行動・批判的思考行動の伸びに注目
4. Boaler(1997)
・男子より女子の方が伝統的な指導に不満を抱き、PBLでの学習様式により適応的
・PBLは女子の数学的理解を高める可能性があると示唆
5. (Jones et al., 1997)
・PBLは、これまで消極的でやる気のない生徒(例:低学力の生徒)をやる気のある学習者にするための効果的な方法であるという主張がよくなされている
・しかし、残念ながら、この主張について調査した研究は見当たらない
◆総括
・調査された生徒特性:学習スタイル、性別、能力、動機づけ、学習態度など
・PBLの効果に関する傾向:柔軟な学習スタイルを持つ生徒、または従来教育に不適応だった生徒に効果的
・示唆される可能性:PBLは、多様な学習者に対応し得る教育手法として設計可能
・特に女子や低学力層にとって有効性が示唆される
・課題:サンプルが小規模、探索的研究が中心であり、体系的な検証が不足
5. 実施研究:PBL実施に伴う課題
1. 実施研究の目的と方法・PBLの計画・実行プロセスを調査し、現場で生じる困難を明らかにする研究
・主に観察、アンケート、インタビューを通して、教師・生徒・保護者・管理者などの経験を把握
・教室内外の要因、支援体制、時間管理、評価など多角的な視点で分析される
2. 生徒が直面する主な課題
Krajcikら(1998)
・中学生を対象にしたケーススタディで、以下の困難を特定
・科学的に意味のある問いを立てられない
・時間・タスク管理の難しさ
・データの変換や分析、論理的説明の不足
・生徒が探究を進めるには、教師・仲間・技術の支援(足場)が必要
Edelsonら(1999)
・高校生における主な課題
・探究への動機維持が困難
・技術的リソースの不足
・背景知識の欠如
・調査活動の管理が困難
Achilles & Hoover(1996)
・小・中・高校でのPBLで、小グループの共同作業が機能せず、生徒の社会的スキル不足が原因
3. 教師が直面する課題
Krajcikら(1994)・Ladewskiら(1991)
・教師の実施におけるジレンマ
・時間 vs カリキュラムカバー
・自由な探究 vs 教師主導の指導
・生徒主導の学び vs 教師による指導責任
・新しい実践と旧来の信念・行動の間で揺れや葛藤が生じる
Marxら(1991, 1997)
・教師がPBLを進める上での6つの課題
・時間管理:PBLは時間がかかる
・教室運営:秩序と自律の両立
・コントロールの葛藤:情報の管理 vs 学習の自由
・学習支援の難しさ:過度の自律に傾くと支援不足に
・テクノロジー活用の困難
・評価の難しさ:深い理解をどう測るか
・教師の実践変化は徐々に進み、試行錯誤を繰り返しながら進化する傾向がある
Rosenfeldら(1998)・Sage(1996)
・イスラエルや米国の教師も、スキル育成とカリキュラムの統合に困難を抱える
・問題シナリオの設計、グループ運営、本物の課題の扱いなど設計面の課題が多い
4. 熟練教師の実践知(Thomas & Mergendoller, 2000)
・経験豊富な中高のPBL教師への調査で抽出された実施を成功させる10の原則
5. 学校レベルの要因
Edelsonら(1999)、Blumenfeldら(1994)、Hertzog(1994)
・資源不足、非柔軟な時間割、技術環境の不整合、学級規模・構成、教育政策などがPBLの障壁
・小学校では、教科横断的な統合が困難であることが報告
◆総括
・生徒側:疑問生成の困難、探究の継続、技術・知識の不足、時間管理
・教師側:教育信念との葛藤、教室運営、評価方法、支援の難しさ 設計面 問題シナリオの質と適合、時間確保、グループ支援
・学校要因:制度・時間・資源・カリキュラムの制約
・実施成功の鍵:段階的な変化支援、自己管理文化の育成、支援的な学校環境
6. 介入研究:PBLの有効性の改善
◆介入研究の目的と特徴・PBLの弱点を改善するために設計された介入(intervention)を通じて、PBLの実施や学習効果の向上を目指す研究
・対象は主に
・PBLにおける生徒の困難(例:動機の欠如、質問生成、概念理解)
・PBL設計上の課題(例:学習目標との乖離、学習内容の不明確さ)
◆主な介入手法の分類と例 【主な介入の類型(Table1に整理)】
・生徒の学習を支援する工夫(足場作り / scaffolding、手続き的ファシリテーション / procedural facilitation)
・介入の具体例
・動機づけ支援:興味を引きつける問い(Driving Question)の設計
・設計要件の明示:成果物に求められる条件を明確にする(例:NASA仕様のロケット設計)
・ツール導入:技術ツールやデータベース、コーチング、評価法(自己・相互・外部評価)など
◆代表的な介入研究
Polman & Pea(1997):「変容的コミュニケーション」
・問題:PBLが方向性を失いやすい(“unguided discovery”)
・解決策:生徒が主導権を持ちながら、教師が対話的に再解釈・提案し、学習を深める
・例:UFOに関する非科学的調査が、自然現象の検証へと方向づけられた
Petrosino(1998)
・比較研究:従来のロケット製作 vs 設計仕様を含む強化プロジェクト
・結果:仕様条件が追加されたことで、概念理解と科学的探究力が向上
Moore et al.(1996)
・ビジネスプラン作成を題材に、事前に3時間の問題解決型トレーニングを実施
・結果:訓練を受けたグループの方が、計画の質や数学的表現の使用で優れていた
・教訓:PBL前に関連スキルの事前トレーニングを行うことの有効性が示された
◆介入の意義と留意点
・有効なPBLを実現するには、プロジェクトの設計段階から適切な介入を意図的に組み込む必要
・介入は「教師がコントロールする」のではなく、生徒の主体性を支援する手段として位置づけるべき
・ただし、表1に掲載された介入法はあくまで一部であり、PBL研究全体の介入戦略を網羅しているわけではない
◆総括
・介入研究の目的:生徒の弱点やPBL設計の課題に対する改善策の導入
・主なアプローチ:足場作り(scaffolding)、設計要件の明示、前段階の訓練など
・期待される効果:学習目標への集中、科学的概念理解、問題解決スキルの向上
・今後の課題:介入の汎用性と持続可能性、学習者主体の原則との両立

7. 結論
◆特に注目される研究・Boaler(1997):PBLが教科知識の質に与える好影響を報告
・Marxら(1997, ミシガン大学):PBL実施における教師と生徒の困難
・Barronら(1998) / CTGV:手続き的支援によるスキル習得の促進
◆現時点での暫定的な結論(7点)
① PBLの導入・実施の難しさ
・初心者教師によるPBL導入研究が中心
・多くの教師にとって、計画・管理・評価が困難であり、支援環境の整備が不可欠
② 生徒の自己主導的学習の限界
・複雑なプロジェクトでは、生徒が探究や時間管理、技術活用で困難に直面
・PBLの効果は、適切なサポート体制の有無に左右される
③ PBLは生徒・教師の双方に支持されている
・高い満足度と肯定的な評価が報告されており、人気のある指導法といえる
④ PBLに伴う副次的な好影響
・生徒:出席率の改善、自立心や学習態度の向上
・教師:プロ意識や協調性の向上
⑤ 学力への影響は概ね良好
・学業成績や基本的な認知能力において、PBLは他の方法と同等かやや優れる
⑥ より高次の認知スキルへの効果
・教科学習の質が高まり、新しい文脈での応用力向上に寄与する可能性がある
⑦ 実社会的スキルの育成
・計画・コミュニケーション・問題解決・意思決定など、複雑なスキルの習得に効果的
・ただし、比較群との研究は少ない点に留意
◆学校全体での導入効果
・間接的ではあるが、学校単位でPBLを取り入れることで、学習効果が高まる可能性があると示唆
◆総合的見解
・PBLは、効果的な実施が難しい一方で、適切な設計と支援を伴えば、学力向上・学習の質の向上・高次スキルの育成・学習意欲の促進など多面的なメリットを持つ教育アプローチである
・今後は、比較研究の充実と支援手法の体系化が重要となる
8. 今後の研究の方向性
◆PBL研究と現場実践の乖離・PBL研究はまだ新しい領域であり、多くの教師が研究に触れる機会がない
・研究は専門的すぎて現場の教師に届きにくく、また広く共有された理論枠組みやモデルが存在しない
・多くのPBL研究は「パッケージ化された教材」を対象としており、現場の教師による「草の根型(grassroots)」PBL実践とは乖離している
◆PBL実践者が直面する課題
・従来の教育には指導理論や教材があるが、PBLにはそうした支援が乏しく、実践者は独力で設計・運営・評価を行っている
・その結果、実践の継続や正当化が困難で、経験の蓄積や普及が妨げられている
◆今後の研究で必要とされる5つの柱
①PBLの有効性に関する比較研究
・従来法とPBLの学習効果・学習の質の比較
・成果の持続性・条件依存性や、ライフスキル・メタ認知・非認知スキルへの影響
・異年齢層・教科・学力層に応じたPBLの効果検証
② PBLの効果測定指標の拡張
・単一指標(例:学力)に依存せず、多次元の評価基準を採用:
・応用力・問題解決力・コラボレーション・自己調整・態度変化など
・複数の評価手法(観察、成果物、テスト、パフォーマンス課題等)の併用が求められる
③PBLのベストプラクティス研究
・教材・活動設計・技術・評価の効果的な組み合わせの明確化
・「草の根型」介入の事例収集(例:Bergerの“質の高い文化”の導入)
④教師主導PBLの実施課題の探究
・教師が自作でPBLを導入する際の困難と成功要因を明らかに
・これまでの研究は教材付属型に偏っており、現場の実践に一般化しづらい
⑤PBLの制度化と学校改革との関連性の研究
・PBLを学校文化・制度・地域社会と連動させていくための条件整備
・学校全体・地区全体でPBLを普及・定着させる仕組みの解明
◆総括と提言
・PBL実践者は今、支援も枠組みもない中で孤立している
・標準化やテスト重視の流れに対抗し、現場主導で継続可能な知識基盤の構築が急務
・今後の研究は、実践と理論、教師と研究者、個別の教室と制度全体をつなぐ橋渡し役を担うべき
ここまで。
改めてまとめてみると、PBL研究の全体像が非常によく整理されていて参考になる部分が盛りだくさんでした。当報告書は、以前に読んだこともあったのですが、当時よりもPBLの知識量が上がったためか、より広く、そして深く内容を捉えることができたような気がします。
例えば、PBLの理論的系譜に出てきたProblem-based learningとの共通点と相違点について。当レビューにおける問題解決型学習に関する研究は、一般的なProject-based learningのデザインには見られないチュートリアルの要素があるものの、PBLの定義する特徴(中心性、ドライビングクエスチョン、構成的探究、自律性、現実性)の全てが含まれている、とされていました。
また、引用されている論文で過去に読んだものにつていてはリンクを貼りましたが、まだまだ読めていない重要な論文があることにも気づかされました。こちらの報告書をインデックスとして、読めていない論文については引き続き読んでいきたいと思います。※基本的に古い論文が多いので、アップデートされた新しい内容があるかを確認しながら読み進めたいです。
今後の研究の方向性の章で、「PBL実践者は今、支援も枠組みもない中で孤立している」という問題について言及されていました。これは日本の教育現場(大学のPBLや、小中高の探究学習)でも同じ状況にあると感じています。この分野で実践されている先生方のお力になれるように、自分ももっと研究を進めていきたいです。
以下、やりたいことメモ
・PBL実践の拠り所となる理論・モデルを調査し、枠組みを提示したい
→「広く共有された理論枠組みやモデルが存在しない」ことが普及を妨げている!
・実践者が直面する課題と解決策を整理したい
・参考となる「PBL事例集」を作りたい
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