PBL(Project-based Learning)を導入した学校の生徒の2年間の変化をまとめた論文をレビューします。
5つの変数の事前事後の変化、さらに変数同士の相関関係についても分析されています。

論文はこちら(被引用数:29件 (2024年2月5日時点))
Wurdinger, S., Newell, R., & Kim, E. S. (2020). Measuring life skills, hope, and academic growth at project-based learning schools. Improving Schools, 23(3), 264-276.

【概要】
・本調査は、Project-based Learningを導入している11校のチャータースクールを対象とし、2017年秋の年度初めから2019年春の年度終わりまでの2年間実施された。
・これらの学校は、プロジェクト学習の学校作りを支援するNPO団体EdVisionsの支援対象校であり、8校は2年間、3校は1年間参加した。
・相関研究の変数は、HOPE(希望)、Self-direction rubric(自己統制ルーブリック)、collaboration rubric(協調ルーブリック)、math RIT scores(数学RITスコア)、reading Rasch UnIT(RIT) scores(読解RITスコア)の5つであった。
・各変数は、「希望と数学」、「協調と読解」のように、2つの相関関係を比較、分析した。

【目的】
・1つは、プロジェクト型の学校に火曜生徒の数学、読解、自己統制、協調性、希望のスコアなど5つの変数を測ること。
・もう1つは、これらの変数を相互に相関させ、関係の強さを明らかにすること。

【対象者】
・9校はミネソタ州のチャータースクール、2校はウィスコンシン州のチャータースクールで、半数が6年生から12年生、残りの半数は9年生から12年生を対象とした。
・8校は2年間、3校は1年間、この研究に参加した。
・全11校のほとんどは、設立から15年以上経過している。

【方法】
・企業インタビューを通じた「読者にキャリアに関する思考を促すホームページの作成」を課題として各チームに与え、学生はその課題に取り組んだ。

【結果】
・図1は、2年間の調査に参加した8校について、2017年秋から2019年春までの5つの変数すべての伸びを示したものである。
・5つのスコアは全てが上昇し、全てが統計的に有意であった。
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・次に2つの変数間の相関係数のデータを一度に抽出し、2018-2019年度の全11校のr値を求めた。
・図2によると、希望と読書を除くすべての相関関係のr値は、統計的に有意であった。
・数学テストと希望アンケートに回答した生徒は358名で、相関は0.14となり、有意な相関を示した。
・「希望」と「読解力」の相関は、N=340で、相関は0.07と有意ではなかったが、他の全ての組み合わせが<.01で有意であった。
・「希望」は、成功に向かう人の気質の社会的・情緒的側面で、他の全ての変数と有意な相関があった。
・他の全ての変数は、ライフスキルである「自己統制」と「協調性」と有意な相関があった。
・ライフスキルは、「数学」と「読解力」にも有意な相関があった。
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【結論】
・プロジェクトベースの学習は、生徒が創造的に考え、問題を解決し、自己統制や協力といった重要なライフスキルを学び、有意義なプロジェクトを作成するために手を動かすことを可能にする。
・この学習プロセスは、創造的な思考を促進し、生徒の学習意欲を高める。
・テストの点数だけでなく、希望やライフスキルの向上にも効果的であり、世界中の教育関係者が学校での活用を検討すべきである。

【メモ】
Pearlman (2009)は、生徒が将来競争に勝つためには、学習・思考スキル、技術リテラシー、ライフスキルなど、様々なスキルが必要であり、これらのスキルはプロジェクトベースの学習を通じて獲得するのが最適であると述べている。

複数の研究によると、生徒がプロジェクトの作成と実施に携わることで、問題解決、時間管理、責任感、協調性等の重要なライフスキルが身につくとされる(Blumenfeld et al., 1991; Grant & Branch, 2005; Larmer et al., 2015; Levine, 2002; Littky & Grabelle, 2004; Newell, 2003; Wurdinger, 2016)

Krauss and Boss(2013)は、柔軟性、組織化、セルフコントロール、タスク開始、時間管理、メタ認知など、プロジェクト型学習に取り組む中で生徒が学ぶスキルを数多く挙げている。

Barronら(1998)の研究では、PBLを用いると、学業成績とモチベーションが向上することを発見した。生徒が椅子とプレイハウスの設計図を作成し、クラスメートに図面を発表した。学力が低・中・高の3つ全てのグループで、難しい数学の概念を理解する能力が著しく向上していることがわかった。

1992年以降、問題解決、批判的思考、適応性、創造性、時間管理、コラボレーション等、雇用主が望みながらも若い新入社員に欠けている特定のスキルが報告や調査研究によって確認されている(National Association of Colleges and Employers, 2016; SCANS, 1992; Trilling & Fadel, 2009; Wagner, 2008)

プロジェクトベースの学習は、学生が学校を卒業した後もずっと持ち続ける(carry with them)ことができるライフスキルを学ぶことができる(Meyer & Wurdinger, 2016)