Project-based Learning(PBL)コースにおいて、ライフスキルが育成されうるかどうかを検討した以下の論文についてレビューします。
【文献】
Wurdinger, S., & Qureshi, M. (2015). Enhancing college students’ life skills through project based learning. Innovative Higher Education, 40(3), 279-286.
【概要】
【調査方法】
・サーベイとインタビュー双方を用いた混合研究で実施された。
・コースの最初と最後に、同じ35問のアンケートを学生に実施した。
【概要】
・16週間のPBLコースが、問題解決や時間管理といった大学院生のライフスキルを高めることができるかを定量・定性両面から調査した研究である。
【対象者】
・体験教育(Experiential Education)または教育リーダーシップ(Educational Leadership)の修士課程に在籍する15人の大学院生(22歳〜55歳の男性7名、女性8名)
・カナダと台湾の学生がそれぞれ1名ずつ、そして耳の不自由な学生が1名含まれていた。
【授業概要】
・PBLコースは、週3時間の16週間のコースである。
・最初の3回の授業では、リーディングが課され、ディスカッションが行われた。
・4回目の授業で、学生は提案書について議論し、小グループで仲間からフィードバックを受けた後、提案書を提出した。
・その後11回の授業では、プロジェクトの発展に役立つ仲間や専門家とのネットワークを構築し、直面する障害を克服しながら完成に向けて進んでいくようにデザインされた。
・授業の最後の30分間は、学生が大グループに進捗状況を報告する時間として使われた。
・最終日には、完成したプロジェクトについて5分間のパワーポイントによるプレゼンテーションを行った。
・16週間という短期間で実施可能なプロジェクトを選ぶ学生もいれば、より大きなスケールのプロジェクトを選び、その実施計画について発表する学生もいるなど、学生には大きな裁量権が与えられていた。
・プロジェクト例として、台湾の中学生を対象とした夏期学習プログラムの開発、アラスカでの体験型ベストプラクティス・チャータースクールの開発、高校の保健体育授業でのPBL活用等があった。
・プロジェクトはチームではなく個人単位で行われた。
・プロジェクトはチームではなく個人単位で行われた。
【調査方法】
・サーベイとインタビュー双方を用いた混合研究で実施された。
・コースの最初と最後に、同じ35問のアンケートを学生に実施した。
・最初の34問は、「1:悪い、2:まあまあ、3:満足、4:良い、5:優れている」を表すリッカート尺度で、自分自身をランク付けするよう求めた。
・質問35は自由回答で、卒業前に身につけることが重要なライフスキルについて学生に尋ねた。
・35を除く各質問は、特定のライフスキルに関連するものであった(例:質問1、14、19、30は、時間管理というライフスキルに関連するもの)
・この調査では、時間管理、責任感、問題解決、主体性、協調性、コミュニケーション、創造性、労働意欲など、合計8つのライフスキルが特定された。
・各ライフスキルには、3つから5つの質問が付けられた。
・コースの最初と最後に同じアンケートを使用したのは、最初のアンケートの結果で基準値を決め、2回目のアンケートで16週間のコース中にライフスキルに成長があったかどうかを判断するためである。
・コース終了時に、学生にインタビューするよう呼びかけ、3人だけが志願した。
・これは学年末であり、学生が帰省や就職のために退学する時期であったためと思われる。
・インタビューは10〜20分で、主要なテーマやアイデアを特定した。
・インタビューの質問は次の3つである。
①問題解決、コミュニケーション、創造性、時間管理、責任感、自主性、チームワーク、忍耐力などのライフスキルは、高校教育、大学教育、課外活動、個人的な人生経験、またはその他を通して学びましたか?説明してください。
②高校や大学で履修した科目の中で、ライフスキルを実践できるものがありましたか?それはどのようなものでしたか、また、なぜですか?
③プロジェクトを通じて学んだ最も重要なスキルは何ですか?
【結果:サーベイ】
・時間管理、責任感、問題解決、主体性、協調性、コミュニケーション、創造性、労働意欲の8つのライフスキルの受講前と受講後の変化は以下のFig.1、Table.1のとおりであった。
・前後のスコアを比較するために、対応のあるt検定を実施した。(有意水準 0.05)
・時間管理、協調性、労働意欲は、有意な差は見られなかったが、責任感、問題解決、主体性、コミュニケーション、創造性の5つは有意な差が見られた。
【結果:インタビュー】
(質問①「ライフスキルは、高校教育、大学教育、課外活動、個人的な人生経験、またはその他を通して学びましたか?」への回答)
・ LBは、サッカー、キークラブ(Key Club)、キワニス奉仕クラブ(Kiwanis service club)などの課外活動を通じて、ライフスキルのほとんどを学んだという。
・サッカーは、チームメイトと効果的にコミュニケーションをとる方法や、より高いレベルの技術を身につける方法を学んだので、彼女にとって重要な活動であった。
・難しいサッカー技術を練習することで、忍耐力を身につけることも学んだ。
・より高い技術レベルに到達するために、コーチを目指すようになり、サッカーチームを組織し管理する方法を学んだ。
・キークラブやキワニスに参加し、高校の授業では学べないような深い内容のプロジェクトに参加し、スキルを身につけたことについても言及した。
・これらのプロジェクトは、問題を解決する方法、批判的に考える方法、完成まで責任をもってやり遂げる方法を教えてくれたため、彼女の成長にとって重要であった。
・より効果的なコミュニケーターになるためにも役立ったと述べている。
・JJは、高校の授業、大学の授業、課外活動、そして個人的な人生経験が、自分にライフスキルを教えてくれたと述べた。
・特に、これらのスキルを教えてくれたのは、良い関係性を築いた特定の教師たちであった。
・その講師は、自分のことを知り、彼の情熱や興味を理解するために多くの時間を割いてくれるため、自分にとってロールモデルとなり、彼らのためにもっと努力したいと思うようになった。
・SZは、アカデミックな授業、課外活動、そして個人的な人生経験がブレンドされたものであるとも述べた。
・特に、バンド、ドラマ、歌、イヤーブックの編集長を務めたことは、採点されないプロジェクトを追求することが許され、自分のアイデアを追求し、決断する自由を行使できたので、彼にとって特に有意義であった。
(質問②「高校や大学で履修した科目の中で、ライフスキルを実践できるものがありましたか?」への回答)
・LBは、この分野で最も多くを学んだのは、講師が教室で議論や討論を許可したコースであると述べた。
・最も勉強になったのは、保健の授業と宗教の授業の2つであった。
・宗教の授業では、学生が自分自身の世界観について考えさせられるようなディスカッションや質問が行われた。
・問題解決と批判的思考は、これらの教授が授業で重視した重要なスキルであった。
・JJは、コースの教え方というより、講師が学生にどう接するかが重要だと述べた。
・彼らは本物の教師であり、すべての学生に関連するコースを作ろうとしたからである。
・カリキュラムや教科書に沿った授業ではなく、学生にとって重要な問題に焦点を当てた授業を行っていた。
・SZは、最も勉強になったのはスピーチとコミュニケーションの授業だと述べた。
・なぜなら、様々なスピーチをすることにより、より良いコミュニケーションの方法を学び、スピーチをするときに準備し、より快適に感じることができるようにトピックについて研究することを強いられたからである。
(質問③「プロジェクトを通じて学んだ最も重要なスキルは何ですか?」への回答)
・LBは、整理整頓が主なスキルの1つであり、忙しいときは、何もないときより、時間をうまく管理できることを学んだ、と述べた。
・何かに熱中しているときは、そのことについて学び、その話題に集中することに多くの時間を費やせることも学んだ。
・問題に直面したとき、解決策を見つけようと決心するとき、粘り強いということに気づいたとも述べた。
・LBは教師でもある学生の一人で、自分のプロジェクトを自分の生徒たちに実践していた。
・彼女のプロジェクトは、保健体育の授業にPBLを取り入れるというものであった。
・彼女は「私は、生徒のためにプロジェクトをより個人的なものにすることに取り組んでいる。子供たちが自分のペースで、自分のアイデアや情熱を持って取り組めるようにすることが大切だ」と述べた。
・私は自分自身の興味や能力について学んでいる。このクラスのプロジェクトを考え、プロジェクト(本学では卒業後の集大成としてクリエイティブ・プロジェクトが一つの選択肢となっている)を見据える中で、自分が本当に人生でやりたいことは何かを棚卸ししているのである。
・授業のプロジェクトが、修士課程のキャップストーン・プロジェクトに発展するかもしれない。
・SZは、大きなアイデアやプロジェクトに取り組み、それを管理可能なサイズに縮小することがいかに難しいか、また、より小さく測定可能な目標を設定することで、大きな目標を見失うことなく前進できることを学んでいるところである。
・SZはスピーチコミュニケーション学部のティーチングアシスタントで、自分が教える授業にプロジェクトをどう組み込むかを考えている。
【結論】
・8つのライフスキルは全て授業後に向上しており、時間管理、協調性、労働意欲の3つを除く5つは統計的に有意が確認された。これは、PBLコースがライフスキルの発達に実際に影響を及ぼしたことを示唆している。
・時間管理、協調性、労働意欲は、有意な差が見られなかった可能性として、大学院生は既に時間管理スキルをある程度身につけている、個人でのプロジェクトであったため協調性はそこまで向上しなかった、等が考えられる。
・一方、この16週間の期間における家庭生活、課外活動、個人的な人生経験などの他の要因も、ライフスキルの発達に影響を与えた可能性があると認識している。
・PBLの学習プロセスは複雑で、完成に至るまでに複数の問題を解決する必要がある。
・PBLモデル(Fig.2)は、学習プロセスが現在から始まり、一つの問題から次の問題へと螺旋状に未来へ向かっていく様子を示している。それぞれの問題に対して、解決策が得られたかどうかを判断するために、計画を立て、テストし、振り返る必要があり、そのスパイラルごとに、学生はライフスキルを使用し、学んでいるのである。
・PBLは、関連するプロジェクトに取り組む限り、学生の学習意欲を高め、刺激する効果的な教授法である。
・特に大学レベルの学生は、自分自身の興味や情熱を探求する自由を高く評価しており、PBLで学生中心のアプローチを用いることで、プロジェクトのために関連するテーマを探求し、追求することができる。
【メモ】
PBLによりライフスキルが向上することを定量・定性両面で分析している点が良い論文だと感じた。
PBLによりライフスキルが向上することを定量・定性両面で分析している点が良い論文だと感じた。
有意差が出なかった項目もあるが、協調性を伸ばすにはやはりチームでの活動は不可欠なのだろう。
また、インタビューからは、課外活動からもライフスキルを学んだことが確認されている。
授業に限らず、部活やバイト等様々な場面でプロジェクトを遂行する経験が、ライフスキルを向上させるのであろう。そのような課外活動への参加も学生にとっては貴重な学びの機会であると感じた。
授業に限らず、部活やバイト等様々な場面でプロジェクトを遂行する経験が、ライフスキルを向上させるのであろう。そのような課外活動への参加も学生にとっては貴重な学びの機会であると感じた。
・Barak and Dori (2005)は、大学1年生の化学の受講生を対象に研究を行い、プロジェクトベースの実験グループが、従来の教科書に載っている化学の問題を扱う対照グループを上回ったことを発見した。分子モデルの構築を必要とするプロジェクトに参加した後、プロジェクトベースのグループは、最終試験で高いスコアを獲得し「化学概念、理論、分子構造についての理解が深まった」
・Zhou(2012)は、PBLコースを受講している工学部1年生20名を対象に質的調査を実施した。その結果、創造性は、プロジェクトを設計する上で、また、より効果的なチームメンバーになるため、更に、学習意欲を向上させるために、非常に重要であると学生が考えていることがわかった。
・Palmer and Hall(2011)は、工学部の学生を対象に、PBLコースの経験について質問する調査を実施した。彼らは237のアンケートを送り、72のアンケートを受け取った。彼らは、調査結果のいくつかを「best aspects」に分類し、学生がチームでの作業を楽しんでいること、実世界での応用が重要だと考えていること、試験を受けるよりもプロジェクトワークをしたいこと、プロのエンジニアの仕事に触れるのが楽しいこと、講師が親切で協力的だと考えていることを明らかにした(p.363)。
・Jollands, Jolly, and Molyneaux (2012)は、土木・化学・環境工学部の卒業生20人にインタビューを行った。これらの学生の中には、いくつかのPBLコースを受講したことがある者もいれば、そうでない者もいたが、どちらのグループも、PBLコースを受講することで、プロジェクト管理スキル、時間管理、自信、コミュニケーションスキル、システム思考などのメリットが得られることを認識していた(p.152)。
・Jollands, Jolly, and Molyneaux (2012)は、土木・化学・環境工学部の卒業生20人にインタビューを行った。これらの学生の中には、いくつかのPBLコースを受講したことがある者もいれば、そうでない者もいたが、どちらのグループも、PBLコースを受講することで、プロジェクト管理スキル、時間管理、自信、コミュニケーションスキル、システム思考などのメリットが得られることを認識していた(p.152)。
・高等教育では、PBLを利用している教員は個人であることが多いと思われる。しかし、オーリン大学のいくつかの学部課程や、マサチューセッツ工科大学のいくつかの学部・大学院課程では、PBLが広く活用されている(Wagner, 2012)
・ユタ州サウスジョーダンのニューモント大学とソルトレイクシティのウェストミンスター大学では、多くのコースでPBLを統合している。ウースター工科大学(n.d.)では、学生は専攻分野でMajor Qualifying Projectを修了し、綿密なプロジェクトにかなりの時間を費やすことができるようになる。
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