プロティアンキャリアの提唱者である、ダグラス・ホール教授の2004年の論文をレビューします。
プロティアンキャリアについて考えるようになった背景や、プロティアンキャリアの研究事例について紹介されています。

【文献】
Hall, D. T. (2004). The protean career: A quarter-century journey. Journal of vocational behavior, 65(1), 1-13.

【概要】
・組織の再編成、分散化、グローバル化が進む中で、プロティアンの概念とその関連性を追及した。
・プロティアンキャリアの概念に関連する現在の研究状況を説明し、今後の研究の指針となる課題を提示している。
・天職と呼べるような強い気持ちで自身の道を突き進んでいる人たちの状況を検証するための提案と、研究者が自分のキャリアの方向性を見極めるためのいくつかの質問を、Yogi Berraの助けを借りて提示している。

【プロティアンキャリアの考え方の由来・背景】
(父)
・著者の父はエンジニア教育を受け、大企業で様々な技術職や管理職を経験した。
・40代になると、経営コンサルティング会社で経済的に非常にうまくいっていた。
・しかし、米国の大手自動車会社のプロジェクトのため、ほとんどの時間をオハイオ州トレドで過ごし、トレドクラブに住み、隔週、ニュージャージーの家族のもとに帰っていた。
・ある金曜、彼は残業で普段利用する飛行機に乗れず、夜行列車のレッドアロー号で帰ったのだが、その飛行機が事故に合い、全員亡くなった。
・その後、彼は仕事を辞め、家族中心の生活を始めた。
(母)
・母は、ニューヨークのコロンビア・プレス・バイト・ホスピタルで、高性能の神経学研究ユニットの看護師としてのキャリアをスタートさせた。
・仕事も同僚も大好きだった。
・著者が生まれ、ニュージャージーの小さな町に引っ越したとき、母は地元の医院でパートタイムの仕事をした。
・その後、彼女は完全に仕事をやめたが、常に看護師であることを自認していた。
(両親から受けたメッセージ)
- 仕事は個人のアイデンティティを形成する重要な要素である。
- 何をするかは自分で決めること、自由と責任を持って行動することを信じている。「自分自身の戦いに挑みなさい(Fight your own battles)」という言葉をよく耳にした。
- 自分自身を改革し、家族の価値観に合わせて仕事とキャリアを再構築することができる。
- 重要なのは主観的な成功であり、自分の人生と仕事にどれだけ満足しているかということであり、必ずしもお金や権力や名声がどれだけあるか、ではない。
・著者の講座では、キャリアの自己分析の一環として、早い時期に両親や家族から受けた仕事やキャリアに関するメッセージを振り返ってもらうようにしている。
 
【倫理的に厳しいビジネス環境におけるプロティアンキャリアの必要性】
・エンロンやワールドコムの時代には、より正直で効果的な企業監査が必要である。
・倫理的に難しいビジネス環境の中で、あらゆるレベルの個々の従業員が強い内的な''コンパス''を持つ必要がある。
・雇用主が助けてくれない際、個人が自身の価値観に基づき行動できるようにするためには、人々が自分のキャリアを管理するためのリソースと能力を持つことが必要である。
・そして最後に、社会として、満たすべきニーズやなすべきことがたくさんある中で、すべての人が成長、達成し、自分の可能性を最大限に発揮し、他の人のために貢献することが必要である。

【1976年からの眺めと背景】
・著者が初めてプロティアンキャリアについて書いたのは、1976年に出版した『Careers in Organizations』という本の末尾の部分であった。
・その最終章に、「キャリアについての新たな見解:プロティアンキャリア」を記した。
・そこでは、共働き夫婦、キャリアにおける機会均等、世代間ギャップ、成功の定義の変化(心理的成功)、個人と組織の柔軟性の必要性など、現在の問題や新たな問題に触れた。
・プロティアンキャリアとは、組織ではなく本人が主導権を持ち、自由と成長をコアバリューとし、主な成功基準は客観的(地位、給与)ではなく、主観的(心理的成功)であると説明した。
・このようなプロフィールをTable.1にまとめた。
Table.1
・1976年当時、キャリアに対する一般的な見方は、まだ『The Organization Man(組織人)』(Whyte, 2002)のようなもので、組織における上昇志向が強調されていたが、その反動、カウンタートレンドの始まりがあった。
・また、戦後のベビーブーム世代は、キャリアをスタートさせたばかりであり、仕事における自由、個人の選択、そして価値観の表現を望んでおり、変化というテーマは、間違いなく空気中に漂っていた。
・Robert J. Lifton は、''protean style of self-process'' を ''one of the functional patterns of our day'' (Lifton, 1968, p. 17, quoted in Hall, 1976, p. 291) として書いている。
・1970年には『What Colors Is Your Parachute?(あなたのパラシュートは何色か)』(Bolles, 2003)の初版が出版され、盛り上がりを見せていたところであった。
・Eugene Jenningsは''mobicentric manager''について書いており、Psychology Todayにはキャリアに関する記事が多く掲載されていた。
・実際、『Careers Today』という雑誌も出版された。
・著者自身は、A.T.&T.、NASA、Mobil、大手会計事務所などの大企業に対して、従業員が自分のキャリアをよりコントロールできるように、自己評価やキャリアプランのプロセスを構築するためのコンサルティング業務を行っていた。
・ローマ・カトリック教会の大司教区でも、ベン・シュナイダーと著者が行った研究を後援し、教区司祭の配属についてより大きな発言力と統制力を与えることに貢献した(Hall & Schneider, 1973)。
・このように、当時はキャリアの自己決定や心理的な成功への努力に関心が高まっていた時代であった。

【1976年以降に何が起こったか?】
・1980年代は、米国と世界の経済が大規模な再編成を始めた時期である。
・1979年の第二次中東石油禁輸措置に端を発した不況を皮切りに、コスト削減と効率化のために、ダウンサイジング、リストラ、ディレイリングが急速に進んだ。
・先進国の企業が人件費の安い国に仕事を移し、海外に新しい市場を求めて、グローバリゼーションのプロセスが始まった。
・1980年代前半に家庭用コンピューターが登場し、テクノロジーと技術革新が家庭の中に浸透していった。
・組織に留まるか離れるかという問題は、非常に中心的なものになった。
・実際、ChartrandとCampによる文献調査によると、1980年代のキャリアに関する研究で最も頻繁に取り上げられたテーマは、組織的コミットメントであった(Chartrand & Camp, 1991)。
・このようなビジネス環境において、プロティアン志向は、個人にとって賢明な適応であった。
・Handy (1989) は、『The Age of Unreason』の中で、この新しい柔軟な仕事の世界を、3つのクラスター(コア、パートタイム、派遣社員)を持つ「シャムロック型組織」モデルで表現している。
・著者自身の研究の旅は、こうした経済環境の変化と並行するものであった。
・1960年代から1970年代にかけて、組織キャリア(Organizational Career)という分野が生まれたばかりであったため、キャリアプロセスが組織の中でどのように機能しているかを説明することに焦点をあてていた。
・その後、1970年代後半には、キャリアと人生設計に関するShepard(1984)の素晴らしい研究成果や、女性のキャリア役割、共働き夫婦に関する研究に触発され、キャリアの自己評価に関する研究をより多く行っていた。
・1980年代は、リストラの流れもあり、キャリアプラニングが中心であった。
・しかし、1990年代には、プラトー化した人たちは、組織的に見れば幸運な生き残りであることが明らかになった。(しかし、より全体的な人生の満足度という意味では、退社してプロティアンにならざるを得なかった人たちのほうが、実は幸せだったとも言える)
・このように、1990年代には、キャリア契約の変化、ベビーブーマーなどのグループが満たされない期待にどのように対処しているか、雇用主が「新しい契約」をどのように管理し、伝えているかについて、多くの執筆活動を行ってきた。
・そして、2000年代に入り、著者はプロティアンキャリアのプロセスと、プロティアン志向を測定する方法について研究している。

【プロティアンキャリアに関する研究成果】
・Rousseau (1995) は、長期的な関係性の理解から短期的な行動的配置への移行に伴う雇用契約の変化を記録。
・Arthur, Inkson, and Pringle (1999)は、急速に変化する経済(ニュージーランド)の中で、労働者がどのように自分のキャリアを管理し、変化させたかを示す興味深い実証的データを示している。
・Cadin, Bender, De Saint Giniez, and Pringle (2001)によるフランスでの比較研究は、環境的文脈がキャリアプロセスの展開に影響を与える重要な方法を示している(例えば、フランスではより伝統的な組織的キャリアパターン、ニュージーランドではより自己主導的かつモバイルなキャリアなど)。 
・Cappelli (1999, 2002) は、労働市場の内と外に関するデータを用いて、企業が教育や訓練への投資を減らし、電子求人掲示板などのツールを通じて、従業員と雇用主双方にとって内部市場をより効率的にするために技術を利用する、フリーエージェントモデルの増加を説得力のある例証として示している。
・Higgins (2001)は、キャリア・ネットワーク (メンターの出現形態) などの関係性の影響が、変幻自在の従業員にとって重要な資源となっていることを明らかにしている。
・Gratton, Zaleska, and de Menezes (2002)は、伝統的な組織的キャリアモデルを採用している組織や個人がまだ存在することに注意を促し、特定のグループ(40歳未満の若い男性など)は、女性や他のグループよりも自由度と流動性が高い可能性があるとし、コーチングやメンタリングがこうしたグループの助けになっていることも明らかにしている。
・Mintz (2003)は、キャリア転換の本質を探る研究の一環として、中年期にキャリアの大転換を行った成功者25人を対象に調査を行った。
・彼らの目標は、「自己と成功に関するより確かな定義」を達成することであり、「成功」は外部のと参加者の主観的の両方で評価された。
・このような大きなキャリア転換をした人は、集団として高いプロティアン志向を持っていると考えることができる。
・そして実際、Mintzのサンプルは、プロティアン志向を測定する新しい尺度において、母集団の平均値を有意に上回った(p<.01 )。(また、この転職者集団は、個性化の尺度や、外向性、新しい経験への開放性、快楽性、良心性といった「ビッグファイブ」と呼ばれる性格尺度においても、かなり高い値を示している。
・このサンプルと母集団の平均を比較すると、最も大きな違いは、新しい経験に対する開放性の次元にあるようであった。
・これは、常に新しい可能性に開かれた学習者であり、キャリアを一連の学習サイクルとみなすという、プロティアンキャリアの概念と一致している(Hall & Mirvis, 1996)。
(適応性とアイデンティティ(自己認識))
・私たちの研究室では、個人がよりプロティアン的になるために必要なメタコンピテンシーとして、「適応性」と「アイデンティティ(自己認識)」の2つがあることを発見している。
・Briscoe and Hall (1997)は、多くの企業でコンピテンシーモデルが重視されているが、これは見当違いかもしれないと述べており、むしろ、「メタコンピテンシー」と呼ばれる、より高い適応能力と自己認識力を身につける方が良い。
・この2つのメタコンピテンシーは、どちらか一方が欠けても問題である。
・適応能力が高く、自己認識能力が低ければ、それは純粋な反応性、つまり「カメレオン」行動であり、その人は自分の道ではなく、他の人の道を歩んでいることになる。
・逆に、自己認識力が高く、適応力が低い組み合わせは、自己分析麻痺の例となり、行動を起こすことを避けている可能性がある。
・両方が低ければ、命令に合わせて実行する硬直した状態になる。(table.2参照)
(これらの考え方や、人がどのようにプロティアンになるかのモデルは、Briscoe and Hall (2003)を参照)
table2

【プロティアン志向の測定法】
・このような問題を解決するため、Jon Briscoeと著者は、プロティアン志向を測定する指標、Career Orientation Indexを開発した。
・この計測には主に2つの要因がある。
・1つは、お金や昇進の機会、外部からの仕事のオファーといった外発的な要因ではなく、個人の価値観(例えば、重要な価値観を表現できるような仕事を選んだり、自分らしくいられるような仕事を選んだり)によってキャリアを決める度合いを表す「価値観主導」(Values-Driven)である。
・2つ目は、その人が自分のキャリアを自分でコントロールしていると感じる程度を反映している。(あらかじめ軌道が決まっている列車ではなく、自身で各調整を行う航海に例えている)。

・その人のキャリア志向は性別とは無関係。
・プロティアン志向は、職や組織の移動などの関連する経験データと相関がある。
・最も優れた予測因子は、その人が滞在した国の数である。
・プロティアン志向とバウンダリーレス・キャリアとの関係に関心が集まったため、本人のバウンダリーレスに対する認識を測定する尺度も開発し、''Boundaryless Mindset''と呼んだ。
・バウンダリーレス・マインドセットとプロティアン志向の間には中程度の正の相関があり (r=.34, p< .01)、両者は関連しているが、別の概念構造であることが示唆された。

【プロティアンキャリアに対する疑問】
プロティアンキャリアに関するいくつかの疑問を以下に記す。今後数年のうちに何らかの経験的な答えが見つかるのではないかと期待している。
①プロティアンキャリアを研究する最善の方法は何か?
・プロティアンの概念をどのように運用するかという問題、また変化をどのように研究するべきか
・詳細な回顧的手法と断面的手法のどちらが望ましいのカ。それとも、複数の方法があり、その方法は質問によって決定されるのカ。

②「プロティアン」は特性なのか状態なのか?
・人は生まれながらにしてプロティアン(変幻自在)なのか?
・それとも、人生やキャリアの経験の結果、プロティアンになるのか?
・それとも、生まれながらにして特定の傾向を持ち、それが経験によって形成されるのか?
・著者の考えでは、その両方であり、人はキャリアや人生の出来事から学んだ結果、よりプロティアンになることができると考えている。

③キャリアを大きく変えながらも、自分のアイデンティティを保ち続けるには?
・アイデンティティと適応性の2つのマトリックスに戻ると、人はキャリアを大きく変えることを学ぶかもしれないが、自分に対する見方を変えることはできないかもしれない。
・このような場合、どのようにすれば、新しい行動を自己アイデンティティと一致させながら、完全なプロティアンとして変化させることができるのか。

④複数の学習サイクルによって特徴づけられるキャリアにおいて、どのようなきっかけが大きな変化をもたらすのか?
・私が数年前に提唱した生涯を通じたキャリアサイクル(Hall, 1976)とは対照的に、キャリアが一連の短い(3-5年)学習サイクル(Hall, 2002)で展開するとしたら、何がその人を快適な日常から遠ざけ、キャリア転換につながる探索を始めさせるのか。
・ある学習サイクルから次の学習サイクルへの移行を引き起こすトリガーとなる出来事とは何なのか?

⑤組織は、人々がこのようなプロティアンキャリア転換をするために何をすればよいのか?
・もし、私たちがフリーエージェントの社会になりつつあるのなら、雇用する側の組織ができることは、実はそれほど多くないかもしれない。
・そこで、組織のレバレッジポイントとして、次のことを提案したい。
-5.1. やりがいのある仕事の割り当て
-5.2. 上司、同僚、キャリアコーチとのキャリア対話など)
-5.3. 正式なトレーニングや教育
-5.4. 将来の機会に関する情報(例:電子求人情報サイト)

【プロティアンキャリアと心の道】
・最も好きなキャリアに関する論文で、プロティアンキャリアの精神を最もよく捉えているのは、Shepard(1984)の「On the realization of human potential: A path with a heart」である。
・''A path with a heart''に続く読み物が、Jonathan Mossと著者が新しいプロテアキャリア契約について書いた論文(Hall & Moss, 1998)だと知り、本当に光栄に思いました。
・Herbは最初の段落で要点を述べている。
「中心的な問題は、生きるに値する人生である。そのテストは、その日の体験に参加しながら毎日どう感じるかだ。同じテストが健康と長寿の最高の予測因子だ。単純なことだ。(Shepard, 1984, p. 175)」
・その秘密は、自分が好きで開発し、使用する自分自身の才能を見つけること。
・シェパードは才能をこう定義している。 「あなたが今あるいは潜在的に卓越してできることで、それをすることで充実感を得られるもの。もし、そのために報酬を得たとしても、それは報酬ではなく贈り物のように感じらるもの」
・私は同僚のMarjo Lips-Wiersmaとニュージーランドで研究しているプロティアンであるための一つの方法は、強く呼ばれている(intensity of a calling)ような心で自分の道を追求すること。
 
- 自分の仕事がCalling(自分が応えると選んだ招待状)だと思うとき。
- その仕事がコミュニティ(自分自身や家族だけでなく)に役立っているとき。
- キャリアを決める際、(傾聴、深い考察、祈り)といった識別を伴うときに、正しい道を知ることができる。
- その仕事が、自分の本質的な部分、「才能」に関わるものであるとき
- 自身のギフト(カリスマ)を聖霊の顕現として、公益のために用いているとき (Weiss, Skelley, Hall, & Haughey, 2003)。 

・あるいは、Buechner (1973, p. 95) が表現したように、天職とは「......あなたの深い喜びと使命がある場所。...あなたの深い喜びと世界の飢えが出会う場所」である。 
・Marjoと著者がニュージーランドで行っているのは、変化する社会的背景の中で、プロティアンキャリアプロセスがどのように機能しているかを検証すること。
・今日の世界では、キャリアにおける環境の役割を無視することはできない。
・ニュージーランドは、過去10年半の間に、イギリスが英連邦諸国から欧州連合へと関係を移行させたことにより、計画的、社会的経済から自由市場経済へと経済が根本的に変化した、ある意味で天然の実験室と言える。
・この研究では、従業員のキャリア開発を正しく行おうとしている組織において、キャリア形成やアイデンティティが変化する原因とその影響を見ている。
・特に、その人の中核となる自己(天職(calling)、価値観(value))と役割行動の間にどのような整合性があるのかを調べている。
・その結果として最初のインタビューから得られた暫定的なテーマです。
- 個人的なアライメントとプロティアン志向は、年配者よりも若手社員の方が高い。
- 自信は、個人的なアライメントとプロティアン志向に不可欠である。
- 確立されたキャリア・ルーチンはなかなか壊れない。
- キャリアを変えることは難しいが、適応することはアイデンティティの変更より簡単である。
- ニュージーランドの自給自足の文化や、''do it-yourself''の姿勢の中で育つと、すべての年齢層でプロティアン変化を促すようである。
- 成長の主な要因は、組織的なものではなく、関係的なものであるようだ。
- 同僚や顧客は、変化を支援し、変化を成功に導くための主な情報源であると考えられている。
- 開発に対する組織の主な影響は、新規の職務割り当て(重要なトリガーイベントとしての部門横断的な出向など)である。
- キャリア開発のための正式な組織的プログラムは、従業員には開発的なものとは見なされていないようである。(むしろ、「要求」または「報酬」と捉えている)。

・このようなテーマは、16年前にデータ入力のオペレーターとして入社したジェーンのキャリア体験にいくつか見受けられる。
・ジェーンは最初の仕事ですぐに退屈してしまい、チームリーダーにポジションを変えてほしいと頼み込んだ。
・こうして自信のサイクルが始まり、彼女は「やってやるぞ」という気持ちでいっぱいになった。
・数年おきに環境を変えることが必要だと言う彼女は、それ以来、5、6回の異動を経験し、さまざまな部署を渡り歩いた。
・そして、今日まで、チームリーダーとして、やる気と自信と熱意にあふれ、将来、どんな変化にも対応できる組織であることを確信している。(ジェーンの経験は、キャリアを一連の学習サイクルと見なす良い例)
・Ayse Karaevliとの別のプロジェクトでは、このようなキャリア経験の多様性が、個人のキャリアだけでなく、組織にもどのような影響を与えるかを調査している。
・特に、Ayseは学位論文(Karaevli, 2003)の中で、組織がバックグラウンドの違いに着目して経営幹部を選抜する戦略(ポテンシャルも)を追求すると、様々な経歴を持つ幹部が集まり、より多様なトップマネジメントチーム(TMT)が生まれると提唱している。
・その結果、トップマネジメントチームの情報処理能力(知識、スキル、視点の広さ)が高くなり、組織適応力が高くなる。
・これらの関係は、高度にダイナミックな環境下で最も強くなると予測している。(この研究は、キャリア研究においてレベルを横断的に見る試みである)。

【結論:Yogi and the flatlanders】 
・最後に、便宜主義的でコスト度外視の行動とは対極にあるプロセスの研究への貢献を訴えたい。
・私たちは、手錠をかけられてオフィスから連れ出される「悪人」の話はもう十分聞いた。
・メグ・ホイットマンやハーブ・ケレハーといった「いい人」「いい女」たちは、人々の能力を最大限に引き出すリーダーシップを発揮しているのである。
・人々が自分自身と、彼らが生活し、働くより大きなコミュニティに対する認識を深めるにはどうしたらよいかをもっと理解しよう。
・人々が前向きに変化し、自己決定をするきっかけを見出そう。
・そして、研究においても人生においても、「心ある道」を追求しようではありませんか。
・手始めに、私たちは、適応能力と自己認識の個人的なマトリックスの中で、自分がどの位置にいるのかを振り返ることができる(table2参照)。
・自己評価のため、私たちは、発達への影響について知っていることを応用し、次のような質問を自分自身に投げかけてみてはいかがでしょうか。
①ここ数年、自分はさまざまなプロジェクトや任務をこなしてきたか?
②自分に挑戦し、成長を支えてくれるような人間関係のネットワークがあるか?
③意識的に学ぶ機会を求めてきたか?
④「バルコニーに上がって」個人的な内省のプロセス(日記、学習記録、日誌など)を行ってきたか?
この最後の質問は、最も簡単で安価に自分の道を追求する方法です。
・この個人の成長と、より健全な組織環境の発展との関連性を、ハーブ・シェパードは何年も前に明確に述べている。
・この「幸せな小さな秘密」は、幼い頃から自分の道を心から追求する個人を支援することで、相乗効果が得られる
・幼児は生命を愛するエネルギーの塊で、驚くほど多くの可能性を秘め、多くの弱点もある。
・もし援助的な環境が与えられれば、幼児は成長し、自分自身の命と他の人の命を愛し続けることであろう。
・自分自身の才能と独自性を表現するために成長し、そうする機会に喜びを見出すであろう。
・そして、その才能を世に送り出し、他者から純粋に評価されることに喜びを感じるようになる。
・そして、他人の才能を認め、彼らにも自分の可能性を実現し、自分の独自性を表現するよう促す(シェパード 1984)

【メモ】
・著者が初めてキャリアに「プロティアン」という形容詞を用いたのは、1976年の『Careers in organization』のときである。
・「プロティアンキャリア」とは、組織ではなく個人が主導権を握り、個人のコアバリューがキャリアを決定し、成功の基準が主観的(心理的成功)であるキャリア志向を説明したものである。
・個人がプロティアンキャリアを築くために必要なメタコンピテンシーは、Self-awareness(自己認識)とAdaptability(適応性)である。 
・プロティアン志向かどうかを測定する2つの軸は、「外発的要因ではなく価値観主導(Values-Driven)かどうか」と「自身のキャリアを自分でコントロールしていると感じる度合い」である。