PBLには「Project-based Learning」と「Problem-based Learning」の2種類があります。
この2つは、学習戦略の特徴、目標とするところにおいて共通点が多く、類似したものだと言われることが多くあります。(Donnelly & Fitzmaurice, 2005; Savery, 2006)。
そのため、研究者や教育者、実践家の中にこの2つの境界線があいまいなものも少なからず見られます(Hung, 2011)。
そんなややこしい2つのPBLについて理解を深めるため整理してまとめようと思います。
今回は、Problem-based Learning(問題解決学習)についてのまとめです。
随時アップデートしていこうと思いますが、今回は、以下の2つの論文・書籍を参考にまとめたいと思います。

【参考文献】
De Graaff, E., & Kolmos, A. N. E. T. T. E. (2007). History of problem-based and project-based learning. In Management of change (pp. 1-8). Brill.
溝上慎一, & 成田秀夫. (2016). アクティブラーニングとしての PBL と探究的な学習.

【Problem-based Learningの歴史】
Problem-based Learningの歴史は、1960年代に医学の分野からスタートした。
1960年代末、カナダのMcMaster Universityに新たに医学部が設立された。
McMasterの医学部カリキュラムは、主に一般開業医の養成を目的としており、PBLは全人的なビジョンを補完する教育アプローチとして導入された。(Neufeld and Barrows, 1974; Fraenkel, 1978)。
【McMasterの医学部の3つのビジョン】
①人類と社会についてのビジョン
②医療従事者とその社会的役割に関するビジョン
③教育についてのビジョン
McMasterでは、暗記学習による事実の蓄積よりも、実践での応用が重要だと考えられていた。
これは、医学教育の文脈では、学習は患者とその訴えに焦点を当てるべきであることを意味する。
学生は、患者の問題を体系的に分析し、問題解決のために必要な情報に関して問いを立て、自らの学習目標を選択する。
学生は、最初から、同じ医療問題に関連する異なる分野の知識を統合することを学ぶと同時に、医師の問題解決プロセスも学ぶのである。
このようにして、学習した内容の妥当性が保証されるだけでなく、学習体験がより刺激的で有意義なものになる(Barrows and Tamblyn, 1980)。 
McMaster大学の医学部カリキュラムの成功は、他の医学部にも同様の教育プログラムを導入するきっかけとなる。
PBLを最初に取り入れたのは、オランダのマーストリヒトとオーストラリアのニューキャッスルの医学部である(Graaff and Bouhuijs, 1993)。
その他、ニューメキシコ州では、健康科学分野のプログラムも開始されている(Kaufman, 1985)。
これらはすべて新しく設立された機関で、まず専門的な目標を確認し、パッケージの一部としてPBLの教育モデルを適応させた。

【定義】
問題解決学習とは、実世界で直面する問題やシナリオの解決を通して、基礎と実世界とを繋ぐ知識の習得、問題解決に関する能力や態度等を身につける学習のこと(溝上, 2016)

【特徴】
①「問題(problem)」が与えられて学習が始まる
伝統的な学習と問題解決学習(PBL)とでは、問題が与えられるタイミングが真逆である。
伝統的な学習:「知識が与えられる→知識を学習する→知識を活用するために問題が与えられる」
問題解決学習(PBL):「問題が与えられる→必要な知識を見定める→知識を学習する→知識を活用する」

このように、問題が与えられた後、グループ学習と個人学習を交互に繰り返しながら、また授業内活動と授業外活動を往還しながら、問題を見定め、必要な情報や考えを収集する。
それをもとに問題を解決することに時間が充てられる。
その後、学習内容や解決法について振り返りが行われる。

②グループ学習 
一般的に、PBLカリキュラムでは、学習プロセスは小グループで行われる。
これにより、学生は小さな医療チームのメンバーのように協力することを学ぶ機会を得る。

③テューターの存在
各グループにはテューターがつき、助言をしながら学習が進められる。
テューターの役割は、問題解決のための議論や検討からの学習の構成を保障するための存在であり、教員以下、ガイド役以上のものだと特徴づけられる(Chan, 2008)
これhが、問題解決学習が「PBLテュートリアル(PBL tutorial)」と呼ばれるゆえんでもある。(溝上, 2016)。

【プロセス】
溝上(2016)の
p.7の図1-1:医療系における問題解決学習のプロセスと
p.9の図1-2:問題解決学習のステップとサイクル
を以下に記載する。 
problem-based.process
pbl-step&cycle

【効果】
マーストリヒトでの実験では、PBLカリキュラムでの学習は、「事前知識」の活性化により、従来の教室での学習よりも効果的であることが示された(Schmidt, 1983)。
PBLカリキュラムの卒業生が医療行為に容易に適応できるのは、学習が現場と関連する文脈の中で行われるという事実により説明される(Post et al., 1988)。
一般的に「問題」とは、困難や謎を意味し、できるだけ早く解決したいものを指すが、
PBLにおける問題とは、学生にとってインセンティブであり、学習プロセスをスタートさせるためのチャレンジなのである(Norman, 1986)

【PBLカリキュラムの変化と広がり】 
PBLカリキュラムの実施には、現地の状況に徐々に適応していくプロセスが必要であり、
それぞれのカリキュラムは、PBLの特徴に特定の要素を加えながら、独自の進化を遂げてきた。
その好例が、マーストリヒトで考案された「seven jumps」である(Schmidt, 1993)。
PBLカリキュラムが最初に導入されてから15年も経たないうちに、その形式は大きく変化していった。
それ以来、PBLは世界中の医学や健康科学において重要な位置を占めるとともに、法律、心理学、教育、経済学、建築学など高等教育の他の専門分野にも広がっている(Albanese and Mitchell, 1992; Ryan, 1993; Ostwald and Kingsland, 1994; Little, Ostwald and Ryan, 1995)。