2つのPBL(問題解決学習(Problem-based Learning)とプロジェクト学習(Project-based Learning))は、その学習戦略の特徴、目標とするところにおいて共通点が多く、類似したものだと言われることが多く(Donnelly & Fitzmaurice, 2005; Savery, 2006)、実践家のなかにも両者の境界線があいまいなものが少なからず見られる(Hung, 2011)。

このように混合されやすい2つのPBLについて、整理しようと思っていたところ、
溝上慎一, & 成田秀夫. (2016). アクティブラーニングとしての PBL と探究的な学習.
にバッチリまとめてくれていたので、参考にさせていただきながら表にまとめてみました。
ちなみに、これらのまとめは、問題解決学習やプロジェクト学習の特徴について検討している以下の先行研究を参考にまとめられています。

Barrows, H. S. (1996). Problem‐based learning in medicine and beyond: A brief overview. New directions for teaching and learning, 1996(68), 3-12.

Bell, S. (2010). Project-based learning for the 21st century: Skills for the future. The clearing house, 83(2), 39-43.

Donnelly, R. Fitzmaurice, M. (2005) Collaborative Project-based Learning and Problem-based Learning in Higher Education: a Consideration of tutor and student role in learner-focused strategies. https://arrow.tudublin.ie/cgi/viewcontent.cgi?article=1006&context=ltcbk 

Hmelo-Silver, C. E. (2004). Problem-based learning: What and how do students learn?. Educational psychology review, 16(3), 235-266.

Hung, W. (2011). Theory to reality: A few issues in implementing problem-based learning. Educational Technology Research and Development, 59(4), 529-552.

Mills, J. E., & Treagust, D. F. (2003). Engineering education—Is problem-based or project-based learning the answer. Australasian journal of engineering education, 3(2), 2-16.

Savery, J. R. (2015). Overview of problem-based learning: Definitions and distinctions. Essential readings in problem-based learning: Exploring and extending the legacy of Howard S. Barrows, 9(2), 5-15.

Smith, P. L., & Ragan, T. J. (2005). Instructional design. 3rd edition. Hoboken, N.J.: John Wiley & Sons.

Thomas, J. W.(2000). A review of research on project-based learning.
http://www.bobpearlman.org/BestPractices/PBL_Research.pdf


2つのPBLについてのまとめの表はこちらです。
PBL_compare
なかなか概念的に整理することができていなかった2つのPBLですが、表にしたことでかなりスッキリしました。

ちなみに、余談ですが「工学系教育改革制度設計等に関する懇談会取りまとめ」(文部科学省, 2018)では2つのPBLについて以下のように書かれています。
既に日本企業がパラダイムシフトに晒され,危機感を持つ今こそ、PBL(Project-Based Learning)や産学連携教育とその促進策を実行すべきである。ここで言う「PBL」とは,単に問題解決学習(Problem-Based Learning)とするのではなく,産業界や行政等との連携プ ロジェクトや教育プログラムを通じて、実社会と関係した生きた課題や挑戦課題を対象とする実践的教育(Project-Based Learning)と定義し、学生が達成感(充実感)を得られる教育を重点的に導入すべきである。
予想以上に、問題解決学習がディスられています(笑)
おそらく、産学連携により実社会と連動したリアルな課題に取り組むことを推進したいという意図なのかと推測しましたが、上記の表のまとめにもあるように、問題解決学習にもそのような要素は含んでいますし、真意はどういったものなんだろうかと思いました。

個人的な結論として、以下のような感想を持ちました。
問題解決学習もプロジェクト学習もそれぞれメリット・デメリットがある。
そのため、教育目標を実現するために必要な要素をそれぞれ組み込みながら授業設計すれば良い。
その際、どちらの要素も混ぜてOK。
実際、De Graaff & Kolmos (2007)が提案しているように、2つのPBLを統合してPBLと呼ぶパターンも出てきていまし、私が授業で行っている産学官連携によるPBLの授業も、両方の要素をそれぞれ統合しています。

学校で答えの決まった問いばかりに取り組んでいた生徒・学生が、社会に出てから直面するのは全く性質の異なる問題です。社会で、仕事で対峙する問題のほんとんどは決まった答えはありません。
そこに、社会と学校の間に溝、トランジション課題があると強く感じています。
その溝を埋める有効な手段の1つがPBL。
アクティブラーニングの中でもPBLは一際手間がかかりますが、その分効果も大きいため、多くの学校現場に広がっていけば良いなと思います。