今回は、「参画のはしご(The Ladder of Participation)」について考察します。
こちらは、社会学者のロジャー・ハートは、が1992年に書いた『Children's Participation』の中で紹介され、子どもの参画度合いを段階別に示したものになります。
ちなみに「子どもの参画のはしご(The Ladder of Children's Participation)」
や「若者の参画のはしご(The Ladder of Youth Participation)」とも呼ばれます。
最初は授業への参画度合いをイメージしていたのですが、社会参画の意味合いの方が強そうです。
五十嵐(2000)によると、以下の3つの枠組みがあると言われています。
①自らの人生への参画
②コミュニティへの参画
③社会への参画

では、参画の度合いについて一つひとつ見ていきます。
ロジャー・ハートは、参画の度合いを8段階に分け(8が最高)、
④〜⑧が参画、①〜③は非参画であると述べています。
ladder_of_participation

8) 子ども主導の活動に大人も巻き込む

参画度合いが最も高いのがこの段階。
プロジェクトやプログラムが子どもによって開始され、意思決定が子どもと大人の間で共有されます。
子どもが自ら主導で活動するだけでなく、最終段階は大人も巻き込むことがポイントとなっています。
このようなプロジェクトは、子どもをエンパワーすると同時に、子どもが大人の人生経験や専門知識に触れ、そこから学ぶことができます。

7) 子ども主導の活動

この段階から上が、完全に子ども主導の活動になります。
子どもがプロジェクトやプログラムを開始、指揮し、大人はサポート役としてのみ関与します。
子ども主導であるが故に、子ども達の積極的な関与やそれらを引き出す仕組みが必要です。

6) 大人主導で意思決定に子ども参画

プロジェクトやプログラムは大人によって開始されますが、意思決定は子どもと共有される段階です。
レベル5では子どもは意見を述べることができる段階まででしたが、ここでは意思決定にも関与します。
この段階の例として、参加型アクションリサーチなどがあげられます。

5) 大人主導で子どもの意見提供ある参画

大人が企画・運営するプロジェクトやプログラムに対して、子どもが助言を与える場合。
子どもたちは、自分たちの意見がどのように使われるのか、そして大人たちが決めたことの結果について知らされます。
具体例として、青少年諮問委員会(youth advisory councils)などがあげられます。

4) 与えられた役割の内容を認識した上での参画

役割や何をするかは大人が決めますが、与えられた役割の下で子どもが参画し活動します。
また、なぜ関わっているのかについても知らされます。
具体例として、地域の青少年委員会(community youth boards)などがあげられます。

3) 形式的参画

子どもに発言権を与えられているように見えても、実際には、何をするか、どのように参加するかについて、ほとんど、あるいはまったく選択肢がない場合。
この段階以下は、「子どもは大人の支配下にあるという」大人主義(adultism)を反映しています。

2) お飾り参画

大人がある目的を達成するために、子どもを参画させる場合。
つまり、子どもを「形だけ」参画しているように見せかけている状態を指します。

1) 操り参画

大人が子どもを操っている状態。
子ども達は、活動の目的を理解せず指示された通りに行動する。
子どもの主体性などは無視され、操り人形のように使われている状況を指します。


以上が「参画のはしご」の各段階です。
ちなみに、ロジャー・ハートは、参画することのメリットとして2点挙げています。
①個人が有能で自信に満ちた社会の構成員に成長することを助けること
②コミュニティーの組織や機能が改善されること

このメリットには非常に共感するものがありました。
①については、社会への参画こそが学びであるとする正統的周辺参加の考え方と重なるものがあります。
私自身、社会で活躍するための素地を学生時代に培うような教育をしたいと思っているので、
社会に参画する度合いや頻度をできるだけ高めるような取り組みが重要だと再認識しました。

また、②については組織づくりという観点で共感するものがありました。
学生が仲間と共にで何かを成し遂げる経験を積むことは、民主主義についての学びでもあり、結果としてよい組織づくりに繋がるとされています。
実際、協同学習が根幹にあるPBLはExpeditionary Learningは、学校改革の手法という側面もあります。

教育界では、学生の参画を促すアクティブラーニングが重要だと長年に渡り叫ばれ続けています。
旧来の教員中心の教授法から、学生中心の学習スタイルへの変換が重要だということですね。
その際、どれだけ学生中心となっているか、どれだけ学生自身が深く参画できているのかをチェックするための指標として、この「参画のはしご」は活用できそうです。


【参考文献】
Hart, R. A. (1992). Children's participation: From tokenism to citizenship (No. inness92/6).
五十嵐牧子 (2000). 生涯学習における 「子どもと大人の参画学習」の理念について 文教大学教育研究所 紀要, 9, 95-102