過去50年間のPBL(Problem-based Learning)の研究について、メタ分析とシステマティックレビューによる分析を行った比較的新しい(2019年)論文をレビューします。

論文はこちら
Hung, W., Dolmans, D. H., & Van Merriënboer, J. J. (2019). A review to identify key perspectives in PBL meta-analyses and reviews: trends, gaps and future research directions. Advances in Health Sciences Education, 24, 943-957.

要約するとこんな感じです。
まず、教育研究を「記述」「正当化」「明確化」の3つに分類するCookら(2008)のフレームを使い、PBL研究を3つの大きな流れ(波)として整理した。
・記述研究:過去に何ができたか、何が行われてきたかを提案または記述
・正当化研究:介入の結果(機能するか)を調査
・明確化研究:介入がどのように、なぜ、そしていつ機能するかを精査
table1

第1波は、PBLは機能するのか?(Does it work?)というフェーズ。
ここでは、「機能する」「機能しない」両方の矛盾する結果が出たため、その目的や目標は達成されず、第2の議論を巻き起こした。
第2波では、「成果からプロセス」に焦点が当てられ、「PBLはどのように機能するのか?」という問いが立てられた。
PBLの結果が一貫していないことには、学習成果の測定が不正確であることに起因していると想定された。
例えば、評価の形式が学習成果とうまく整合しているか、実施形態は適切か、等を精査する必要がある。
第1・2波の研究の共通項から以下のようなことが明らかになってきた。
①PBLは、臨床推論、領域別問題解決スキル、知識の応用と伝達、長期的な保持、自己主導的学習スキル、協調的スキル、社会的・専門的スキルなど、学生の高次学習成果の向上に効果的である
②学生はPBLを従来の指導よりも肯定的に捉える
③PBLは、学生が十分な幅のある基本的な事実知識を習得する上で、従来の指導よりも若干効果が低かった
生徒の高次の思考を高めるというPBLの長所を生かしつつ、その限界を認め、生徒の基礎的な知識ベースを構築するための伝統的な指導の長所を生かすことが、より現実的なアプローチであると考えられた。
第3の波は、「専門化」として、すべてを網羅するアプローチから、専門分野に特化したアプローチに移行した。
学習領域など分野による違い、国など文化の違い、対面・オンライン等提供形態の違いなど、異なる文脈を横断してPBLの視野を水平に広げた。
専門分野に特化した様々な研究が出てきたが、なぜその条件下でPBLが機能したりしなかったりするのかについて明確な像を示してはいない。
これが、現在のPBL研究のミッシングピースである。
当論文では、定量的な研究を中心に分析を行ったが、定性的に概念化することが今後の研究の主要な目標になると考えられる。

非常に面白い気づきを沢山得ました。
特に、知識習得においては従来型教育の方がPBLよりも効果がある面もあるため、従来型とPBLを合わせたハイブリッド型PBLが効果的であるという点。
なんとなくそうかなと思っていた一面もあったのですが、やっぱりそうかと深く納得しました。
この点は自身の授業設計にも活かしていきたいです。
また、PBL研究の限界や今後の課題についてもある程度見えてきたことも収穫でした。
それは、「どのような条件下でPBLが機能するのか」という問い。
これを明らかにすることができれば、今後のPBL研究がまた一歩前進するのではないかと思います。

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