William Kilpatrickが提唱したプロジェクト・メソッド(The project method)についての論文をレビューします。
プロジェクト・メソッドとは、18世紀にヨーロッパの建築や工学の学校で実施されていた教育手法で、授業で学んだ知識やスキルを、現実世界の課題解決に応用するものを指します。
そして、20世紀初頭にJohn Deweyの弟子の1人であるKilpatrickが教育哲学へと発展させました。
現在の2つのPBL(Project-based Learning、Problem-based Learning)の歴史を遡っていくと、ここは必ず通過する教育概念の1つでもあります。
当論文は、そんなプロジェクト・メソッドについてKilpatrickが初めてまとめたものなります。
論文はこちら(被引用数:2794件 (2023年7月14日時点))
プロジェクト・メソッドとは、18世紀にヨーロッパの建築や工学の学校で実施されていた教育手法で、授業で学んだ知識やスキルを、現実世界の課題解決に応用するものを指します。
そして、20世紀初頭にJohn Deweyの弟子の1人であるKilpatrickが教育哲学へと発展させました。
現在の2つのPBL(Project-based Learning、Problem-based Learning)の歴史を遡っていくと、ここは必ず通過する教育概念の1つでもあります。
当論文は、そんなプロジェクト・メソッドについてKilpatrickが初めてまとめたものなります。
論文はこちら(被引用数:2794件 (2023年7月14日時点))
Kilpatrick, W. H. (1918). The project method. Teachers college record, 19(4), 1-5.
教育の理想像について語られる様々な部分に共感しながら読みました。
以下、簡単に内容についてまとめます。
まず、筆者は「心からの目的をもった行為(hearty purposeful act)」を教育の基礎に置くことを提案しています。
端的に言うと、子ども達に目的を持つ機会を与えられなければならない、ということになります。
残念ながら、多くの教育現場では、心からの興味や衝動のないところから教育を押し付けてしまっていることが多く、あらゆるものを受動的に受け入れる人間を生み出してしまっている側面があります。
「悲惨な強制のもとで行われるもの」〜「全身全霊(wholeheartedness)を傾けて行うもの」までの尺度で考えた場合、左側(強制)の方に多くが当てはまってしまいます。
右側ほど心理的価値が高いとされているので、その状況を作り出すことが重要であり、そのためには、「心からの目的をもった行為(hearty purposeful act)」から始めましょう、ということです。
この目的ある行為は、価値ある人生の単位でもあるので、教育においてもそれを単位として捉えることは、教育過程を価値ある人生そのものと同一視できる、つまり、「教育とは人生である」と考えることができる、とも述べています。
ちなみに「心からの目的」は、デューイの「学習には衝動が必要である」という言葉の「衝動」と重なるものがあると思います。
教育の理想像について語られる様々な部分に共感しながら読みました。
以下、簡単に内容についてまとめます。
まず、筆者は「心からの目的をもった行為(hearty purposeful act)」を教育の基礎に置くことを提案しています。
端的に言うと、子ども達に目的を持つ機会を与えられなければならない、ということになります。
残念ながら、多くの教育現場では、心からの興味や衝動のないところから教育を押し付けてしまっていることが多く、あらゆるものを受動的に受け入れる人間を生み出してしまっている側面があります。
「悲惨な強制のもとで行われるもの」〜「全身全霊(wholeheartedness)を傾けて行うもの」までの尺度で考えた場合、左側(強制)の方に多くが当てはまってしまいます。
右側ほど心理的価値が高いとされているので、その状況を作り出すことが重要であり、そのためには、「心からの目的をもった行為(hearty purposeful act)」から始めましょう、ということです。
この目的ある行為は、価値ある人生の単位でもあるので、教育においてもそれを単位として捉えることは、教育過程を価値ある人生そのものと同一視できる、つまり、「教育とは人生である」と考えることができる、とも述べています。
ちなみに「心からの目的」は、デューイの「学習には衝動が必要である」という言葉の「衝動」と重なるものがあると思います。
次に、状況の刺激と反応を結びつける結びつき(bond)の視点からの学習と学習法則について、です。
筆者らは、結びつき(bond)を獲得したり変化させたりする過程を学習と呼び、
筆者らは、結びつき(bond)を獲得したり変化させたりする過程を学習と呼び、
結びつきが構築・変化する条件を記述したものを、学習の法則と述べています。
目的のセット、準備、決定された行動、成功、満足、学習は本質的に繋がっています。
目的は、原動力を供給し、内なる資源を利用可能にし、プロセスを考え出された目的へと導き、満足のいく成功によって、子どもの心と性格の中に、成功した段階を全体の一部分として固定していきます。
これが、筆者の言う「プロジェクト」というものです。
※余談ですが、原動力を提供する問いは「Driving Question」としてPBLに必要な要素と言われています。
心からの目的から自身のプロジェクトに取り組み、満足のいく結果を得られた生徒は、学校での活動を喜びと自信をもって見つめ、さらに他のプロジェクトを計画する、と筆者は述べます。
成功体験を積み、学びに満足した生徒は、もっともっとと前進していくということですね。
一方、勉強を強制させられた生徒は、学校を退屈なものとみなし、そこで否定された表現を他の場所に求め始めます。
前者の生徒にとって教師は友人であり同志であるが、後者の生徒にとっては先生は敵となります。
更に、前者の生徒は、学校やその他の社会的機関の側にいることを容易に感じ、後者の生徒は、それらをすべて抑圧の道具とみなしてしまいます。
こう考えると、教育のあり方によって、正反対の人間が育成されてしまいます。
この記述は、個人的に長年感じていた教育に対するモヤモヤをうまく描写してくれているように感じました。
続いて、プロジェクトのタイプについて。
筆者は、プロジェクトを4つのタイプに分類しています。
・タイプ1:何らかのアイデアや計画を外形的な形で具現化することを目的(ボートを建造する、手紙を書く、芝居を上演する等)
・タイプ2:何らかの(美的)体験を楽しむことを目的(物語を聴く、交響曲を聴く、絵を鑑賞する等)
・タイプ3:何らかの知的困難を解決すること、何らかの問題を解決することを目的(露が降るか降らないかを調べたり、ニューヨークがどのようにしてフィラデルフィアを追い抜いたかを確認したり等)
・タイプ4:ある項目や程度の技能や知識を得ることを目的(ソーンダイク・スケールで14級が書けるようになる、フランス語の不規則動詞を習得する等)
※タイプ1と4は、「目的」「計画」「実行」「判断」というステップを踏むことが良い
※タイプ3は、通常の学校での学習に最も適している
筆者は、タイプ1で可能な社会的活動を大幅に増やす必要があると考えているようです。
目的のセット、準備、決定された行動、成功、満足、学習は本質的に繋がっています。
目的は、原動力を供給し、内なる資源を利用可能にし、プロセスを考え出された目的へと導き、満足のいく成功によって、子どもの心と性格の中に、成功した段階を全体の一部分として固定していきます。
これが、筆者の言う「プロジェクト」というものです。
※余談ですが、原動力を提供する問いは「Driving Question」としてPBLに必要な要素と言われています。
心からの目的から自身のプロジェクトに取り組み、満足のいく結果を得られた生徒は、学校での活動を喜びと自信をもって見つめ、さらに他のプロジェクトを計画する、と筆者は述べます。
成功体験を積み、学びに満足した生徒は、もっともっとと前進していくということですね。
一方、勉強を強制させられた生徒は、学校を退屈なものとみなし、そこで否定された表現を他の場所に求め始めます。
前者の生徒にとって教師は友人であり同志であるが、後者の生徒にとっては先生は敵となります。
更に、前者の生徒は、学校やその他の社会的機関の側にいることを容易に感じ、後者の生徒は、それらをすべて抑圧の道具とみなしてしまいます。
こう考えると、教育のあり方によって、正反対の人間が育成されてしまいます。
この記述は、個人的に長年感じていた教育に対するモヤモヤをうまく描写してくれているように感じました。
続いて、プロジェクトのタイプについて。
筆者は、プロジェクトを4つのタイプに分類しています。
・タイプ1:何らかのアイデアや計画を外形的な形で具現化することを目的(ボートを建造する、手紙を書く、芝居を上演する等)
・タイプ2:何らかの(美的)体験を楽しむことを目的(物語を聴く、交響曲を聴く、絵を鑑賞する等)
・タイプ3:何らかの知的困難を解決すること、何らかの問題を解決することを目的(露が降るか降らないかを調べたり、ニューヨークがどのようにしてフィラデルフィアを追い抜いたかを確認したり等)
・タイプ4:ある項目や程度の技能や知識を得ることを目的(ソーンダイク・スケールで14級が書けるようになる、フランス語の不規則動詞を習得する等)
※タイプ1と4は、「目的」「計画」「実行」「判断」というステップを踏むことが良い
※タイプ3は、通常の学校での学習に最も適している
筆者は、タイプ1で可能な社会的活動を大幅に増やす必要があると考えているようです。
最後に、筆者の思想の根底には「民主主義の実現」が流れていると本論文を読んで感じました。
立派な社会的目標に照らして、習慣的に自分の人生を律している人は、民主的な市民の理想像です。
しかし、上述の強制の下にある学習環境では、支配的な制度の利益のために、自分自身の目的を最小限に抑え、他人の目的を最大限に隷属的に受け入れて行動する、利己的な個人主義者が育ってしまいます。
立派な社会的目標に照らして、習慣的に自分の人生を律している人は、民主的な市民の理想像です。
しかし、上述の強制の下にある学習環境では、支配的な制度の利益のために、自分自身の目的を最小限に抑え、他人の目的を最大限に隷属的に受け入れて行動する、利己的な個人主義者が育ってしまいます。
そうではなく、私たちは、自分の人生のマスターということを認識し、総合的に状況を捉え、明確で遠大な目的を形成し、計画を立て、実行する人間を育てていくことが教育において重要なのは言うまでもありません。
注意深く、考え、行動できる市民、簡単に騙されないほど知的で批判的に考えられ、新しい社会状況に適応できる市民を育成する必要があります。
プロジェクト・メソッドを通した人材育成は、ひいては健全な民主主義に繋がっていく。
筆者はそのビジョンを目指しているのだろうなと感じました。
「プロジェクト」 の持つ力と、その背景にある教育の考え方に感銘を受けた論文でした。
注意深く、考え、行動できる市民、簡単に騙されないほど知的で批判的に考えられ、新しい社会状況に適応できる市民を育成する必要があります。
プロジェクト・メソッドを通した人材育成は、ひいては健全な民主主義に繋がっていく。
筆者はそのビジョンを目指しているのだろうなと感じました。
「プロジェクト」 の持つ力と、その背景にある教育の考え方に感銘を受けた論文でした。
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