教育目標分類法(Taxonomy of Educational Objective)についてまとめられた論文をレビューします。
Benjamin S. Bloomのタキソノミーは非常に有名ですが、一度しっかり理解したいと思い、1万2千件以上引用(!)されている本論文を手に取りました。

論文はこちら(被引用数:12179件 (2023年7月27日時点))  
Krathwohl, D. R. (2002). A revision of Bloom's taxonomy: An overview. Theory into practice, 41(4), 212-218.

教育目標分類法(Taxonomy of Educational Objective)は、「学生が学ぶ内容を分類するための枠組」みとして、Benjamin S. Bloomによって考案されました。
1949年からBloomを筆頭にアメリカで専門家たちが集結し研究が始まり、1956年に以下の書籍でオリジナル版が発表されました。

Bloomは、タキソノミーを単なる測定ツールではなく、以下のような役割を果たすと考えていました。
・学習目標に関する共通言語として、人、教科、学年を超えたコミュニケーションを促進
・特定のコースやカリキュラムにおいて、現在普及している国、州、地域の基準に見られるような幅広い教育目標の具体的な意味を決定するための基礎となる
・単元、コース、カリキュラムにおける教育目標、活動、評価の一致を判断する手段
・特定の教育コースやカリキュラムの限られた広さと深さを対比できるような、教育の可能性の範囲のパノラマ

その後、この枠組みは、45年後にほぼ同じ方法でAndersonらによって改訂され、以下の書籍で発表されました。


オリジナル版及び改訂版の各カテゴリー・サブカテゴリ―をまとめた表が載っていましたので、翻訳、加筆しまとめてみました。
taxonomy
オリジナル版のタキソノミーは左にある表1に示されている内容です。
カテゴリーは、知識(Knowledge)、理解(Comprehension)、応用(Application)、分析(Analysis)、統合(Synthesis)、評価(Evaluation)の6つで、応用意外の全てがサブカテゴリーを含んでいます。
次のレベルのより複雑なスキルや能力の達成には、前のカテゴリーの達成が必要という考え方をベースに、各カテゴリーは単純なものから複雑なものへ、具体的なものから抽象的なものへと、累積的な階層的枠組みで配置されています。

オリジナル版は名詞で記載されており、「知識」と「認知」が区別されてはいませんでしたが、改訂版では、名詞と動詞という2つの側面が別々の次元を形成するとして分け、名詞が「知識(Knowledge)」次元、動詞が「認知プロセス(the Cognitive Process)」次元とすることで、スッキリ整理がされています。
※オリジナルの知識次元をオレンジ、認知プロセス次元を青で色付けし、見やすくしました

また、改訂版では、以下のような変更が加えられました。
・知識カテゴリーが記憶する(Remember)に
・各カテゴリーは名詞から動詞形に
・ComprehensionはUnderstandに
・統合(Synthesis)は創造(Create)に代わり、評価と順序が変更

斯くして、認知プロセスのタキソノミー改訂版が完成しました。
巷でよく見るピラミッド型も図に入れておきました(表とは上下が逆です)

加えて、上述の2次元(知識と認知プロセス)を現場で使用しやすく作られたタキソノミー表(Taxonomy Table)も紹介されていました。
知識の次元は縦軸、認知プロセスの次元を横軸として、実施する授業内容を当てはめることで、学習目標や内容を確認できるというものです。
taxonomy_table

事例として、4つの具体的な学習目標とそれをタキソノミー表に当てはめたものが紹介されていましたので、こちらも記載します。
【例:4つの学習目標】
1. 議会法(砂糖法、印紙法、タウンシェント法など)の具体的な部分を覚える
2. 議会法が植民地のさまざまなグループにもたらした影響を説明する
3. 植民地の人物またはグループを選び、議会法に対するその人物の立場を述べた説得力のある論説を書く
4. 論説を自己編集し、相互編集する

1. 議会法(砂糖法、印紙法、タウンシェント法など)の具体的な部分を覚える
・「1. 覚える(Remember)」は認知プロセスであり、「議会法の特定の部分」はAb(具体的な詳細や要素に関する)である。
・特定の詳細や要素に関する知識は、「A. 事実に関する知識(Factual Knowledge)」のサブカテゴリーである。したがって、この目標は、セルA1に置かれる。

2. 議会法が植民地のさまざまなグループにもたらした影響を説明する
・「説明する(Explain)」は、「2. 理解する(Understand)」の7番目の認知プロセスである「2.7 Explaining」にあたる。
・生徒は「議会法の結果」を説明するよう求められているので、「結果」は議会法に関する一般化された記述を指し、Bc(理論・モデル・構造に関する知識)に最も近いと推測できる。
・この場合、知識の種類はB.概念的知識となるため、セルB2に分類される。

3. 植民地の人物またはグループを選び、議会法に対するその人物の立場を述べた説得力のある論説を書く
・「書く(write)」は「6.3 Producing」であり、「6. 創造する(Create)」に該当する。
・「行為に関する彼/彼女の立場」を説明するには、「A.事実的知識」と「B.概念的知識」の組み合わせが必要なので、この目標はA6B6の2つに分類される。

4. 論説を自己編集し、相互編集する
・4つ目の目標には "self-edit "と "peer edit "という動詞が含まれている。
・編集は評価の一種であるため、そのプロセスは「5.評価する(Evaluate)」である。
・評価プロセスには基準が含まれ、それはB(概念的知識)に分類されため、目標はセルB5に入る。
figure2

このように、1〜4の学習目標をタキソノミー表に入れていくことで、その学習に何が含まれているかを把握すると同時に、含まれていないものについても確認することができます。
空白の部分に目を向けることで、指導の機会を逃したことに気づくことができるわけですね。


Bloomのタキソノミーの概念や変遷の歴史を知るのにとても良い論文でした。
そして、タキソノミーに当てはめてみると、やはり「記憶する」「理解する」レベルまでの授業が多いように思います。
応用、分析、評価、創造という高次な認知スキルを伸ばすためにも、授業自体がもっと変わっていかないといけないですね。
そのために、このタキソノミーは有効活用できそうです。

---以下、プライベートモード)にて翻訳版をメモしてます--- 

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