先日、出版されたばかりの『人材開発・組織開発コンサルティング』
本書は、立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースの「人材開発・組織開発論Ⅰ・Ⅱ」がもとになっています。
私自身、当大学院で学び、今年の3月に卒業したばかり。
今でも、学びに満ちた授業の様子が鮮明に記憶に残っています。

卒業生として本書を読まないという選択はあり得ないでしょう、ということで、しっかり精読しようと手に取りました。
約460ほどある分厚い本ですので、1章ずつ読み込み、まとめていきたいと思います。

第1章は、「人材開発・組織開発コンサルティング」の概要説明からスタートします。
企業活動の全体像を俯瞰し、経営資源(ヒト・モノ・カネ)と人事の役割について説明がされた先に、「人材開発・組織開発」が果たすべき役割について論が展開されていきます。
印象的だったのは、経営資源の1つである「ヒト」へのアプローチがより重要度を増してきているという点。
時代が大きく変化する中で、多くの企業が生き抜くために「大変革」を行う必要性に直面するようになってきています。
変革のためには、戦略を変え、組織を変え、そして社員にも変化が求められる。
そんな改革の鍵となるのが「モノ」でも「カネ」でもなく「ヒト」なのです。
「最も扱いにくい」けれども「最も期待に満ちた」ヒトという資源をいかにして活用していくかが、今後の企業経営の鍵だと言われています。
そのために人事は、かつてのような保守的なオペレーション部隊ではなく、より積極的かつ戦略的に「ヒト」への働きかけを行うことで経営戦略の実現に貢献していくことが求められるようになってきています。(「戦略人事」や「人的資本経営」という言葉の台頭が正にそれを表しています)
そんな人事の仕事は多岐に渡りますが、その中の選択肢として「人材開発」と「組織開発」があります。
人材開発と組織開発は、「知識やスキルを学んでもらう」「人と人の関係を変える」という違いはありますが、どちらも「科学知」と「臨床知」を駆使して「ヒト」を動かし、経営にインパクトを出すことを目指した取り組みです。
どちらも非常にパワフルで重要ですが、他の人事施策と連動、ブリコラージュしながら、総合的に課題解決を目指すという視点も忘れてはいけません。
また、よくあるダメな研修のように「学んで終わり」「仲良くなって終わり」ではダメで、経営・現場にインパクトをもたらさなければ意味がないということにも言及されていました。

以上のような流れで、人材開発・組織開発の重要性や役割について概要を掴むことができた第1章でした。論理的に書かれていて非常にわかりやすかったです。
また、「はじめに」で書かれていた、以下の内容も是非押さえた上で、第2章以降も読み進めたいと思います。
「本書は、自分自身のクライアント(顧客)に対して人材開発・組織開発を体系的、かつ、効率的に提供したいと願うすべての人々のために編まれた日本初の教科書である」
「人材開発・組織開発の知を民主化し、実践したいと願う一人ひとりに向けて書かれた」

第1章で掲載されていた内容を1枚にまとめたのがこちらです。
HRDOD1

以下、メモ

第1部:人材開発・組織開発コンサルティングとは

第1章:企業における人材開発・組織開発の役割

1.人材開発・組織開発コンサルティングの定義

人材開発・組織開発の科学知・臨床知を学び続ける人々が、その専門性を発揮しつつ、クライアント組織の戦略実現のために、クライアントに寄り添いながら、クライアントが自らの抱える人材課題・組織課題の課題解決を行えるように支援していくこと
 
【3つの重要ポイント】
①プロのコンサルタントの専売特許ではなく、「誰もが学び直し、実践できるもの」
②「組織の中の、人材課題・組織課題の課題解決」を指す
・「As is:現在の姿」と「To be:ありたい姿」が存在する
・現状と理想をクライアントと対話しながら探索し、そこに生じている距離(Gap)を、科学知と臨床知を用いながら徐々に埋めていき、経営や現場に成果を創出する
③この距離を埋めていく作業は、現場にいるクライアントや関係者(当事者)に「寄り添い」ながら、「サポート(支援)」しながら、行われる
・コンサルタントとクライアントとの間は、常に「対話」に開かれたものでなくてはならない
・コンサルタントとクライアントが「ともにある」活動であり、「ともに成し遂げる」活動である
 

2.企業の戦略における人事

(1)企業活動の5つのプロセス
①市場をさぐる
②「戦略」を立てる
・「戦略」とは、どのような商品・サービスを、どの程度、誰に、どのように届けるのか(売るのか)を考えること
③「戦略」を「現場」が実行する
・戦略に沿った(アライン:同期した)行動を確実に遂行する
・人材開発・組織開発が最も貢献するのは、この部分
④「現場」が「商品・サービス」を「市場」に届ける
⑤提供した「商品・サービス」に対して「対価」を受け取る

(2)戦略を支える「ヒト」という資源
・「ヒト・モノ・カネ」の経営資源の中で、「人的資本経営」という合い言葉のもと、「ヒト」「人材」に注目が集まっている
・人材をコストとしてではなく、目には見えにくい資産として捉え、企業戦略に合致したかたちで、人の能力向上への積極的な「投資」を行い、その情報を継続的に定量化しつつ、市場に開示していくこと
・人材開発・組織開発は、「ヒト」という資源に働きかけて、経営戦略の実現に向けて、企業にとって「望ましい方向」に、人や組織に「変わってもらう営み」
・人材開発・組織開発とは、ヒトという「最も扱いにくい資源」であり「最も期待に満ちた資源」に対して、「科学知」と「臨床知」を駆使して、「人の能力ややる気を伸ばし、組織を動かす」営み

(3)戦略実現に貢献する人事
・人材開発:組織内にいる人材の中から適切な人材を見極め、適材適所で処遇し、その人が活躍できるような環境を整えること
・人事の仕事:企業の戦略実現に必要な人材を確保して、彼・彼女らに行動してもらい、経営にインパクトを出すこと
・「戦略人事」人と組織の観点から、現場や経営に対してインパクトを与え、戦略の実現に貢献する
・採用や研修、労務管理などの保守的なオペレーション部隊ではない
・多くの日本企業が経営環境の大きな変化に晒され「大変革期」に入っている状況
・多くの企業が戦略を見直し、組織を変え、人々に学び直し(変化)を迫っている

(4)人と組織はビジネスのラストワンマイル
・最終的には、ビジネスには「人」が介在する部分が生じる
・企業の戦略は、この「ラストワンマイル」を埋める、非常に泥臭くて地道な活動があって達成される
・この最後のワンマイルを担う「人と組織」を支える仕事こそ「人事」であり、その一部が人材開発・組織開発

3.人材開発・組織開発が果たすべき役割

 (1)人材開発・組織開発は「学んで終わり」ではない
・人材開発は、個人に対して、知識やスキルを学んでもらう、マインドに変化をもたらすなど、「人が学ぶというメカニズム」を「手段」として利用して、経営・現場にインパクトを残すべく課題解決を行う
・組織開発は、「人と人との関係を変える」ことを「手段」として用いることで、組織がしっかりとワークするように働きかけ、企業の戦略実現に寄与する
・効果を最大限残すためには、人材開発・組織開発の力だけに頼らないことも重要
・実務の現場では、人材開発も、組織開発も、採用も、配属も、異動も、評価も、経営にインパクトを与えるための「手段」であり「道具」
・適宜、ブリコラージュ(組み合わせ)しながら課題解決を目指す。人事の現場での課題解決は「総合格闘技」
・多くの人と組織の課題は、人事施策を「セット」にして、はじめて課題解決ができるもの
 
 (2)人材開発・組織開発がもたらすプラスのインパクト
【3つのインパクト】
①人的資源におけるインパクト(Human Resource Impact):人と組織にまつわる数値・指標を向上させること
②職場へのインパクト(Workplace Impact):職場の状態や労働環境の健全性や効果性を表す数値
③経済的なインパクト(Financial Impact):売上・利益などの経営指標
・多くの研究者の考えでは、人材開発や組織開発の試みが、成果(利益)につながるメカニズムは「直接的」ではない、ということが支持されている
・人材開発・組織開発は、まず「現場の管理職と従業員の行動変容」を導き、それらが「戦略」と同期することを通して「間接的」に利益に貢献することができる
(3)人材開発を行うべきか?組織開発を行うべきか
・人材開発・組織開発と、その他の人事施策との関係において「人事施策の内的整合性」が大切
・会社の中にある、たくさんの人事施策がいかに整合的であるか、一貫したものになっているかということ
・経営戦略との「紐づけ」、人事施策同士の「紐づけ」があったときのみ、人事施策同士にシナジーが生まれ、確かな経営・現場へのインパクトを約束できる
・「よき組織開発は、人材開発とともにある」「よき人材開発は、組織開発とともにある」

コラム:人的資本と企業業績の関係とは?

クルックらは人的資本と企業業績に関連する研究66本をメタ分析にかけ、3つの点を明らかにした
①「人的資本」は「行動成果(オペレーショナル・パフォーマンス)」を介して「企業業績」に影響していた
・人的資本とは、従業員の知識・スキル、教育・研修、業界経験、勤続年数、組織学習、リーダーシップ能力などが含まれる
・行動成果とは、従業員の生産性、従業員の仕事による顧客からの満足度、新商品・サービスの開発数、現場営業の行動度合い
・企業業績(財務指標)には、ROA(総資産利益率)、ROS(売上高利益率)、ROE(自己資本利益率)などが含まれる
②人的投資を行った結果の影響度は、「人的資本から企業業績への直接効果」よりも「人的資本から行動指標を経由して、間接的に企業業績につながる」ほうが大きい
・人的資本は、企業業績に直接影響を与えるというよりも、行動成果を上げることを通して、間接的に、企業業績に影響を与える、というメカニズム
 ③企業業績につながる人的資本投資は、一般的な学習内容よりも、その企業に特化したような研修内容、スキル研修

第1章のまとめ

1.企業の戦略における人事の位置づけとは?
・企業は「市場(顧客)」のニーズを把握したうえで、「誰(顧客)に対して、何(商品・サービス)をどうつくって、どのように届け(売り)、どう利潤を生み出すのか」という「戦略」を立て、実行する
・「ヒト」という資源(人と組織)は、企業活動を支える「ヒト・モノ・カネ」のうち「最も扱いにくい資源」であり、かつ、企業の競争優位を産む可能性を秘めた「最も期待に満ちた資源」
・これからの人事は、「保守的なオペレーション部隊」ではなく、企業の経営戦略の実現のために、人と組織の観点から、経営・現場にインパクトをもたらす「戦略人事」としての役割・あり方が求められる

2.人材開発・組織開発が果たすべき役割とは?
・人材開発は「人が学ぶというメカニズム」を手段として用いて、一方、組織開発は「人と人との関係を変える」ことをきっかけとして、企業の戦略人事に貢献しようとする営み
・人材開発・組織開発は、企業の「業績(利益)」に直接的に影響しないが、現場の管理職や従業員の「行動変容」を導くことによって、戦略の実行を後押しし、「間接的」に業績(利益)に貢献する
・人材開発も組織開発も「手段」に過ぎない。課題解決では、それらを組み合わせること、他の人事施策を連動させることが重要である