人材開発・組織開発コンサルティング、第1〜4章に続き、第5章をまとめます。
第5章は、「人と組織の課題解決プロセス」についてです。
具体的には7つのステップに分けて書かれていますが、全て書くと長くなりすぎてしまうので、複数回に分けることにします。

ビジネスの現場は、様々な課題が渾然一体と混じり合い、複雑に絡み合っているカオスな場です。
そこに立ち向かっていくためには、「勘・経験・度胸(KKD)」だけでは難しく、体系的かつシステマチックな課題解決プロセスが必要になります。
そこで、まとめられたのが、以下の「人材開発・組織開発の7ステップ」です。
・ステップ1:出会う
・ステップ2:合意をつくる
・ステップ3:データを集める
・ステップ4:フィードバックする
・ステップ5:実践する
・ステップ6:評価する
・ステップ7:別れる

今回は、このうちのステップ1と2についてのまとめです。
ステップ1は、「出会う」。すなわちクライアントとの出会いのフェーズです。
コンサルタントは、自組織の内部コンサルタント、組織外の外部コンサルタントの2種類があり、それぞれに強み・弱みがあります。
どちらのケースにおいても、強みを活かして効果的な働きかけができるようにここは押さえておきたいです。
「出会い」においては、クライアントとの信頼関係(ラポール)を形成することが非常に重要です。
信頼には、「認知的信頼」と「感情的信頼」の2種類があり、うまくステータスマネジメントを行いながら、それらの両方を獲得していく必要があります。
つまり、実績や権威性などを伝えることで「信頼できるちゃんとした人だ」と思ってもらう一方で、人としての魅力も伝え「この人なら私たちの気持ちもわかってくれそう」と思ってもらう必要があるということです。
また、コンサルティングの3つのモードについても、「人材開発・組織開発コンサルタント」を目指すうえでは絶対に覚えておかなければいけない概念です。
クライアントによっては、専門家モードを求めてくるケースもあるようですが、クライアント組織が自分達の手で自組織の課題解決を行なっていく、そのプロセスを支援する「プロセス・コンサルテーション」を目指したいところです。

ステップ2は、「合意を作る」です。
クライアントと出会ったら、同じ船に乗り、次のステップに向かうことに了承を得る必要があります。
そのためには、クライアントは「1人ではなく、様々な存在(6種のクライアント)」することを理解したうえで、誰1人として取り残さないよう同じテーブルに着いてもらうことが必要となります。
ここでテーブルに着けなかったクライアントは、後になって「ワシ、そんなん聞いとらん。やらんからな」ということになりかねません。注意ですね。
同じテーブルに座ったら、「課題とニーズ」を聞き出します。
「経緯」「現在の経営状況」「人材課題・組織課題」などをポイントにしながら組織の「過去-現在-未来」についてヒアリングしていきます。
この時、問いのレパートリーを多く持っているとヒアリングがうまく進むので、たくさん引き出しにいれておきたいところです。
本書でも「スタイナー・クヴァールの5つの問い」や「シャインの4つの問い」など様々紹介されているので、実際に試してみながら自分のものにしていきたいです。
合意形成に至ったら、法律関係の書類などを交わしてステップ2は終了です。
現場ですぐに使えるよう、合意に向けてパワポやメールに書く内容まで記載してくれており、とても親切だなと感じました。
HRDOD5.12
以下、メモ

ステップ1:出会う

1.コンサルタントとクライアントの出会い

(1)内部コンサルタントと外部コンサルタント

内部コンサルタント
「人材開発・組織開発の科学知・臨床知を活かして、時組織のメンバーに寄り添いながら、彼らが抱える人材課題・組織課題を解決できるように支援していく人」のこと
(強み)
  ・企業の内部に「自らが存在している」企業の現場にへばりついているような生々しい情報、「現場粘着情報」を自らの五感や従業員へのヒアリング、組織内の噂などから収集可能
 ・自組織のメンバーの継続的なフォローを行える
(弱み)
 ・自組織を相対的に理解したり、客観的に把握したりすることが難しい
 ・社内の「政治」や「しがらみ」に縛られ、率直な信頼関係を築けないことも起こる

外部コンサルタント
・組織の外部に、自らの身体を置き、外部の専門家・プロフェッショナルの立場で、クライアントの組織内の課題解決を行う人のこと
・国家レベルの「免許」や「資格」はないが、海外では主に大学院で修士号・博士号を持った人が就く専門職
・内部コンサルタントにはない、さらなる付加価値や専門性を発揮することが求められる
(強み)
 ・組織内で駆動する「権力関係」や「しがらみ」から、ある程度は自由になれる
(弱み)
 ・組織内でしか得られないような情報にアクセスすることができない
 ・研修・ワークショップ参加者の継続的な支援を行うことも難しい

(2)受動的な出会いと能動的な出会い

・能動的な出会い:相談を持ちかけられる
・受動的な出会い:自ら動いてクライアントに出会う

2.信頼関係(ラポール)を形成する

(1)人材開発・組織開発は「形がなく、効果が見えにくい」

 遅効性効果(効果が出るまでに時間がかかる)

(2)2種類の信頼とステータスマネジメント

学術の世界の信頼(Trust):不確実な状況下において、相手に対してポジティブな期待を持てることと、そこにリスクが生じないだろうと期待できること
・認知的信頼(Cognitive Trust):有能さ・知識を基盤にした信頼
 (1)中長期の視野でビジネスを見つめ、(2)個別最適に陥らない俯瞰的視点で、(3)数字だけに還元されない組織のメリットなどを指摘
・感情的信頼(Emotional Trust):「人間関係による信頼」という感情的な部分での信頼
 相手に対する共感、ともに何かを成し遂げたいという意欲を持てるかどうか
・ステータス:人々の間に存在する、社会的かつ相対的な、上下関係
・ステータスマネジメント:状況に応じてステータスを上げ下げし、認知的信頼・感情的信頼の両方を得る
 

(3)コンサルティングの3つのモード

①専門家モード:コンサルタントがクライアントに対して、役立ちそうな専門的な知識や情報・サービスを一方的に提供する
・ステータス:非対称性大(コンサルタント>クライアント)
②医師-患者モード:コンサルタントが、専門知識や診断機器を備えた医師のように、あたかも患者であるクライアントを診察して診断名をつけ、処方箋を出すような支援
・ステータス:非対称性大(コンサルタント>クライアント)
③プロセス・コンサルテーション・モード:コンサルタントがクライアントの話に共感を示し、それらを傾聴していきながら、クライアントが自ら現状抱えている課題に気づき、それを定義し、改革に向けた行動を決めていくプロセスを支援
・ステータス:非対称性小(コンサルタント≒クライアント)
※実際のコンサルティング場面では、②と③の折衷案が多い

(4)ステータスのジレンマをマネージ(やりくり)する

「専門家らしく指導せよ」と「わたしに寄り添え」という2つのメッセージのジレンマを生きる=ジレンマ・マネージング

ステップ1「出会う」のまとめ

1.クラインと「出会う」とは?
・内部コンサルタントとは、主に人事や経営企画などのスタッフ部門、あるいは、事業部人事(HRBP)といった立場で、その組織に深く根を下ろして、人と組織の課題解決に当たる人々のこと
・外部コンサルタントとは、組織の外部にいて、いわゆる専門家・プロフェッショナルとして、その専門性や客観的な立場を活かしながら、クライアント組織の課題解決に当たる人々のこと
・自ら顧客をさがさなければならない外部コンサルタントはもちろん、組織に所属する内部コンサルタントも、できる限り現場に足を運び、課題を抱える人や組織と「能動的」に出会うことが望ましい
2.クライアントの「信頼」を得るには?
・内部コンサルタントか外部コンサルタントか、どのように出会うかを問わず、クラインとと「いかに信頼を形成するか」が重要
・信頼には、専門性や経験に起因する「認知的信頼」と、人の気持ちや考えを理解する、共感するといった「感情的信頼」の2つがある
・コンサルタントは、高い専門性や豊富な経験を示して「認知的信頼」を獲得しつつ、現場の人々に寄り添う姿勢や謙虚さや示して「感情的信頼」を獲得するという、ステータスの上げ下げ(マネジメント)によって、クライアントとの「信頼関係(ラポール)」を形成する

1.事業部人事(HRBP)とは何か?
Human Resource Business Partnerの略で、より事業に近い場所に配置し、事業戦略を実現していく際に必要な「人や組織に関わる問題解決」を実行していく存在(David Ulrich)

ステップ2:合意をつくる

1.クライアントとは誰か

(1)クライアントは「一人ではない」

・クライアントコンサルタント:最初にコンサルタントに接触してきたクライアント
・エポケー(現象学的還元):意図を持って、自らを空にし、判断を保留し、いったん、すべてを受容しなければならない

(2)6つのクライアント(エドガー・シャイン)

①クライアントコンサルタント:問題を抱え、ともに解決しようと一番最初にコンサルタントに接触してくる人
②中間クライアント:プロジェクトの展開とともに、ミーティングなどに「参加・関与」してくる人
③プライマリークライアント:取り組んでいる課題に、最終的に責任を持つ人。決裁権者。プロジェクトオーナーになってもらえる最有力候補者
④自覚のないクライアント:プライマリークライアントと横並びの関係にあり、今回の取り組みによって自分に影響が及ぶが、そのことにまだ気づいていない人
⑤究極のクライアント:より大きなコミュニティ、組織集団、職業集団の全体、外側の世界にいかに影響を与えるのか、公序良俗に反しないのか、などを考えなければならない
⑥ノンクライアント:上記のどのクライアントの定義にも当てはまらないが、課題解決の足を引っ張ること、止めることが、自分の利益につながると思っている人
④や⑥といった人を見極め、全体に向けた説明会を行うなどして、最初から巻き込んでいけるよう気を配る必要がある

(3)同じテーブルに着かせる

「重要な人を、誰一人として取り残さないこと」が重要 

(4)「他者の網膜に映る像」を想像する

優秀なコンサルタントは「他者の網膜に、自分がどのように映っているのか」を想像する力量に長けている

2.クライアントからのヒアリング

(1)組織の「過去-現在-未来」を聞き出す

ヒアリングの重要ポイント
①経緯の確認(過去から未来)
・決して「口に出してはいけない過去」「触れてはいけない出来事」などの地雷がある
②現在の経営状況の詳細な確認
・経営、事業、職場(管理職)、従業員の状況
③人材課題・組織課題の確認
・「組織の真実」をさぐる、というよりも、「クライアントが何を真実だと考えているか」を把握すること
外部から見ると「非合理」にしか見えない「他者の行動や考え」も、「他者の立場」から考えると「合理的」である

(2)問いのレパートリー

・ビジネスパーソンは「主観」を語ることが苦手
・「光景」を問う
・Why(なぜ、今、実現できていないのか)は極力避け、What(どんなもの・出来事を見たいのか? 実現したいのか?)
・仮定法
・スタイナー・クヴァールの5つの問い
①導入質問:明らかにしたい現象の、当人の経験を問う質問
②掘り下げ質問:さらにディティールを聴く質問
③特定化質問:正確な情報を確定するための質問
④解釈を提示する質問:自分の解釈を提示して、それに対する確認を問う質問
⑤沈黙:内省を促す

・シャインの4つの問い
①謙虚な問いかけ:自分が知らないことを認め、できるだけ偏見を持たず、知的好奇心を持って問う
②診断的問いかけ:会話の主導権を握り、あえて、相手の思考プロセスに影響を与える問いかけ
③対決的問いかけ:思考を促すために、自分の考えをあえて前面に出す問いかけ
④プロセスの問いかけ:会話そのものの進め方、問いの進め方に焦点を当てた問いかけ

円環的質問法:円を描くように質問を順繰りにしていくことで「関係・影響力」を明らかにする

介入的インタビューの技法
(1)線形的質問:5Wを聴くようなダイレクトな質問
(2)循環的質問:物事の関連性・関わり・つながりを問う質問
(3)戦略的質問:あえて「〜すべき」を多用し、退位率的、かつ挑戦的なスタンドポイントに立って語りを引き出す
(4)省察的質問:慣れ親しんだコンテキストからあえて距離を置かせる「仮定法」

(3)いったん判断を保留する

性急に事を進めてしまうと、裏づけや裏取りがない課題解決に堕してしまうこともある
コンサルタントは金槌を持つと、すべてが釘に見える

3.クライアントとの合意形成

(1)ともに課題解決を行なっていくことを合意する

パワポやメールに、合意事項や確認事項を書き出し、共有
①目的
②スケジュール
③タスク内容と進め方の提案
・ヒアリング(定積的手法による把握)
・質問紙調査(定量的手法による把握)
・フィードバックミーティング
・人材開発・組織開発の介入時期
・クロージングの時期
④プロジェクトメンバー
⑤メンバー間の役割
⑥費用分担
⑦法的側面の配慮
・NDA(秘密保持契約)
・契約書の締結

 (2)法律関係の書類

①著作物の扱いの確認
②秘密情報の保持にまつわる覚書
③個人情報保護

ステップ2「合意をつくる」のまとめ

1.「クライアント」とは?
・クライアントにはさまざまなタイプがあり、課題解決やそのためのプロジェクトに対して、後ろ向きな人や抵抗しようとする人も存在する
・コンサルタントは、課題解決をスムーズに進めるために、組織内の人間関係や、自分がどのように映っているかを把握しながら、なるべく早い段階で関係者・当事者を集めて、納得や合意をつくっていく
2.「課題とニーズを聞き出す」とは?
・クライアントが抱える課題やニーズを把握するべく、これまでの「経緯」「現在の経営状況」「人材課題・組織課題」を聞き出す
・重要なのは、クライアントが、何をどのように課題として「意味づけて」いるのかを理解することであり、この段階では、コンサルタントの解釈や判断は保留し、相手の意味づけ(他者の合理性)に耳を傾ける
3.「合意をつくる」とは?
・課題やニーズを聞き出しながら、徐々に、ともに「課題解決を行なっていくこと」への合意をつくる。契約書をつくらないまでも、目的やスケジュール、役割分担などは書き出しておくことが望ましい
・法律関連では、特に、コンサルタントの企画案やワークなどの「著作物」の取り扱いに関して、明確にしておくとトラブルを防げる