21世紀の産業界からのニーズに対応すべく、学生のソフトスキルを育むことを目的として、大学の職場コミュニケーションコースにプロジェクト型学習(PjBL)を導入したマレーシアの研究。
「大学と企業の間の溝を埋めるべくPjBLを通してスキル育成を図る」という試みは私自身の興味のど真ん中だったので、大変興味深く読みました。

論文はこちら(被引用数:237件 (2023年9月25日時点))
Musa, F., Mufti, N., Latiff, R. A., & Amin, M. M. (2012). Project-based learning (PjBL): Inculcating soft skills in 21st century workplace. Procedia-Social and Behavioral Sciences, 59, 565-573.
 
21世紀において、雇用側は大学を卒業した学生に対して、責任感、自信、社会性、コミュニケーション能力、柔軟性、チームスピリット、優れた勤務態度、自発性、自己管理などのソフトスキルを求めるようになっています。
Universiti Kebangsaan Malaysia(UKM)では、そのソフトスキルの獲得を目的とし、職場コミュニケーションコースでプロジェクト型学習(PjB)が取り入れられました。
本研究の目的は以下の2つです。
i. プロジェクト・ワークを受ける際に身につく、関連する21世紀型ソフト・スキルを明らかにすること
ii.プロジェクトワークにおけるPjBLが、21世紀の職場環境における関連するソフトスキルをどの程度まで学生に身につけさせたかを明らかにすること

【研究方法】
研究は、理工学部および情報工学部の職場コミュニケーションコースを履修している無作為に選ばれた2年生29名に対して、プロジェクト終了時にアンケートを実施し、分析されました。
(職場コミュニケーションコース:Workplace Communicationの概要)
・職場コミュニケーションコースは、UKMでの全学年で2番目、そして最後の語学コース
・学生は2~3人のグループに分かれた
・各グループは、マレー系、中国系、その他の民族から構成される、多様な社会的・文化的背景を持つ異質なグループであった
・各グループは、UKMから社内の問題解決を依頼された企業の代表者になりきった
・プロジェクトの課題として、職場の問題領域を特定する必要があった
・各グループは、観察、アンケート、インタビューなどによりプロジェクトのための情報収集を行った
・各グループは、学期末に報告書をプレゼンテーションし、最終成果物として問題解決報告書を作成した
・グループのメンバーは、プロジェクトに取り組みながら、情報・データを収集し、雇用主(クラスのインストラクター)にも最新情報を提供した。

アンケートは、以下の5つの要素から構成され、プロジェクト型学習と関連するソフトスキルに対する学生の反応が調査されました。(1〜5点のリッカード尺度)
a. チームワーク
b. プロジェクト・マネジメント
c. コミュニケーション・スキル
d. 対人関係スキル
e. 問題解決能力

【分析結果】
a. チームワーク
(A1)86.2%が、「グループメンバーの話を積極的に聞くようになった」と回答
(A2)79.3%が、「グループメンバーからの質問に対して、適切な質問と回答ができた」と回答
(A3)72.1%が、「PjBLを通じて自分の考えを表現し、交換することを学び、練習したとき、自己主張ができるようになった」と認めた
(A4)89.3%が、「良いチームワークがプロジェクトの成功に貢献した」と認めた
この結果は、生徒がプロジェクトで与えられた課題を管理する際に、グループでうまく作業できたことを示している。

b.プロジェクト・マネジメント
(B1)69.0%が、「不安を感じることなく提案をする自信がある」と回答
(B2)58.6%が、「PjBLを受けた後、グループメンバーとの適切なブレーンストーミングやアイデアの出し方を学んだ」と回答
(B3)72.4%が、「プロジェクトのために情報を収集することを理解し、実行できる」と回答
(B4)79.4%が、「プロジェクトに関して、収集したリーディング資料から関連するアイデアを特定する方法を学んだ」と回答
上記の回答から、個人のソフトスキル、特にプロジェクト管理能力の育成にも役立っていると言える。

c.コミュニケーション・スキル
(C1)86.2%が、「職場に関連するEメールの書き方を学んだ」と回答
(C2)75.9%が、「与えられたプロジェクトに関連する電子メールにきちんと返信した」と回答
(C3)65.5%が、「職場でのEメールの書式やスタイルに慣れた」と回答
(C4)75.8%が、「エグゼクティブ・サマリーの作成と執筆においてアイデアを整理することを学んだ」と回答
(C5)72.4%が、「調査結果に基づくレポートの書き方を学んだ」と回答
この結果から、生徒たちは、特に電子メール、エグゼクティブ・サマリー、レポートの書き方において、コミュニケーション・スキルの向上に大いに役立つことが示された。

d.対人関係スキル
(D1)72.4%が、「他人のニーズを察知し、敏感に反応するようになった」と回答
(D2)65.0%が、「異なる社会的・文化的集団の生徒たちとうまく仕事をすることを学んだ」と回答
(D3)68.9%が、「フォーマルな言葉もインフォーマルな言葉も、適切な文脈で使うことを学んだ」と回答
(D4)65.5%が、「組織の雇用主や従業員と会って話すことで、社会的スキルを向上させた」と回答 
(D5)55.1%が、交流の中で適切な割り込み方の方法を学んだ」と回答 
表4の結果から、回答者の30%以上が、D2とD5の記述に対して不確かな回答をした。
このことは、プロジェクトに取り組む中で、対人関係スキルを身につけることができなかったことを意味しているのかもしれない。
また、言語能力が乏しいために、対話中に適切な言葉を挟むことができなかったのかもしれない。

e.問題解決能力
(E1)79.3%が、「問題や解決策を見出す際に、意欲的に発言し、意見を述べることができた」と回答
(E2)75.9%が、「良い解決策を判断し、グループメンバーの中から良い意見を見つけることができた」と回答
(E3)51.7%が、「職場の問題についてはよく読まなければならない」と回答
(E4)55.1%が、「プロジェクトに必要な主旨を容易に理解することができた」と回答
(E5)82.7%が、「私は調査結果から結論を導き出す方法を学んだ」と回答
このプロジェクト・ワークによって、学生たちは、それぞれの職場で直面する問題に関連する解決策を探すために、アイデアを共有し、交換することができるようになった。
しかし、44.8%の学生は、職場の状況に触れていないため、職場に関連する問題を読み取ることができない(E3)という問題に直面した。
 
結論として、PjBLは、前述のスキルを習得する上で学習者の成長を促進することが明らかになったと述べ、PjBLは、新しい人々や経験に触れ、学ぶ文化に身を置くことで、21世紀の雇用市場のニーズを満たす、職場で応用可能な多くのソフトスキルの育成に貢献すると結論づけています。
雇用可能性スキルは伝達可能なスキルである(employability skills are transferable skills)という点も強調されています。
また、今後の課題として、以下の2点が挙げられています。
(1)学生がより直接的に目的の職業に結びつくような仕事に就けるよう、どのように支援するか
(2)学生が、雇用可能性スキルを特定し、職業上の目標に結びつけるよう、どのように支援するか

ここまでが論文のまとめです。
ターゲットとしている領域(大学と社会の接続)と手法(PjBL)は興味のど真ん中だったので、参考になる部分がとても多くありました。
欲を言えば、授業内容をもう少し詳しく知りたかったということと、事後調査しか行われていなかったので、事前・事後の変化についても見てみたいと思いました。

最後に、余談にはなりますが、UKMのこの思想には深く共感しました。
「UKMは、国家の発展に必要な人的資本の可能性を高めるため、全面的にコミットすることで、より開かれた高等教育システムを実現できると信じている。これらの使命を実現するため、UKMは雇用主が強く求め、国の繁栄に貢献できるスキルを持った卒業生を輩出することを約束する。」
マレーシアは本論文のようなPjBLの積極的な事例が多い気がします。
大学教育においても積極的な改革の姿勢があるのかもしれません。
自分もUKMのような信念を持ち、教育に携わっていきたいです。

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