サービス・ラーニングについての複数の研究をメタ分析し、学習効果について考察した論文をレビューします。
自分が大学でサービス・ラーニングの授業を担当し、今、書こうとしている論文もこれをテーマにしようかと考えていたところなので読んでみました。
論文はこちら(被引用数:496件 (2023年10月9日時点))
Warren, J. L. (2012). Does service-learning increase student learning?: A meta-analysis. Michigan journal of community service learning, 18(2), 56-61.
こちらは、Novak, Markey, and Allen (2007)が行った、高等教育におけるサービス・ラーニングの認知的成果を評価するメタ分析を更に拡張して分析し、サービス・ラーニングの学習成果について考察するものです。
ベースとなるNovakら(2007)のメタ分析では、9つの研究を調査し、サービス・ラーニングと学習成果の間に全体的に肯定的な関係があることを報告しています(d = .424)。
しかし、このメタアナリシスには2つの問題があると本論文の著者Warrenは指摘しています。
ちなみに、このメタ分析では、サービス・ラーニングとそうでない学生の学習成果を比較した研究のみを検証しています。
研究方法は以下の通りです。
(b)従属変数として学生の学習を測定したもの
(c)実験群と対照群または比較群を含むもの
そして、3つの基準を満たす11の研究(新たに発表された3つの研究、2つの未発表の研究、Novakら(2007)の研究に含まれる6つの研究を含む)が、今回のメタ分析の対象として選定。
選定された論文は多くの次元でコード化(人口統計学的特徴および標本特徴、ならびに学生に要求された奉仕の時間数、研究デザインのタイプ、使用された学習の尺度などの介入および方法論的特徴を含む)され、また、自己報告式および具体的な学生の学習結果指標も各研究についてコード化されました。
両方の結果指標が報告されている場合は、両方の指標について効果量を算出。
効果量は、Cohenのd、つまり実験群と統制群の平均値の差をプールされた標準偏差で割ったものを指標として使用(Lipsey & Wilson, 2001)。
11の研究は、1993年から2008年の間に出版または執筆(未発表の場合)されたもので、対象学生のサンプル数は2129人でした。
すべての研究は準実験的デザインで実施され、学部生を対象とし、分野は教育学、英語学、マス・コミュニケーション学、薬学、政治学、心理学、リハビリテーション・サービス学、社会学など、様々。
11の研究のうち、2つは学生の自己申告による学習成果のみを報告し、2つは試験の得点と学生の自己申告による学習の両方を報告し、3つは試験の得点のみを報告し、2つはその他の課題の得点を報告し、2つは試験後の認知指標を報告していました(研究の特徴についてはTable 1を参照)。
結論として、サービス・ラーニングが学生の学習成果にプラスの効果があること示唆されました。
サービス・ラーニングには、多文化に対する意識の向上や社会的責任の強化といったプラスの効果があるだけでなく、教育効果を測定する際の黄金律である学生の学習成果も向上させると。
また、学生の自己報告による学習成果の測定は、具体的な学習成果測定よりも大きい結果をもたらすことを示唆しているが、2つの測定法の間に統計的に有意な差は見られなかった。(学生の自己評価の方が、客観的なテストと比較すると高い傾向にあるが、その差は大きくはないということです)
サービス・ラーニングは、どのような学習尺度を用いても、学生の学習にプラスの効果をもたらす可能性が高いということでしょう。
また、今後の課題として、更なる理論化について提言されていました。
サービス・ラーニングには学習効果が高いことが示唆されていますが、サービス・ラーニングの「何が」、従来から教えられている授業概念を超えて、学生の学習に影響を与えているのか、という視点での研究が不足しているとのこと。
---
と、ここまでが論文のざっくりしたまとめです。
学習効果が高いということは、サービス・ラーニングを推進していこうとしている身からすると、背中を押してくれるような良い発見でした。
ですが、分析の対象となった11の研究が、どのような学習成果にフォーカスしていたのかまでは記載がなかったので、個別に見てみたいと思いました。原著論文当たるしかないかな。
また、サービス・ラーニングが高い学習効果を生むメカニズムを解き明かしていくことが今後の課題として述べられていましたが、ここは自分も気になっているところでした。
PBLもそうですが、科目学習だけでなく、非認知スキルやソーシャルスキルにも広く効果が謳われています。
効果が広範囲に渡るからこそ、それら全てを解き明かしていくのは結構大変だろうなと思います。
でも、同時にそこには大きな価値があるとも思っている自分もいます。
一歩一歩研究を進めていきたいです。
以下、メモです。
【サービス・ラーニングの定義】
サービス・ラーニングとは、学生がコースの概念の理解を深め、地域社会に貢献できるような社会奉仕活動を行う教育戦略である(Rhodes & Davis, 2001)
【サービス・ラーニングが成功したとみなされるための4つの基準】(Eyler and Giles, 1999)
(1)個人的・対人的な成長、
(2)授業で学んだ知識の理解と応用、
(3)視点の変容、
(4)市民としての意識の発達、
【サービス・ラーニングがプラスの効果をもたらす学習分野(例)】
・高次の思考(Eyler & Giles, 1999)
・共感(Lundy, 2007)
・文化的認識(Bloom, 2008; Borden, 2007; Gutheil, Chernesky, & Sherratt, 2006)
・個人的・対人的発達(Gullicks, 2006)
・社会問題に取り組む意欲(Lee, Olszewski-Kubilius, Donahue, & Weimholt, 2008)
・学習意欲(Flournoy, 2007)
・ライフスキル(Astin & Sax, 1998)
・自己効力感(Simons & Cleary, 2006; Stewart, 2008)
・市民参加・責任(Astin & Sax, 1998; Einfeld & Collins, 2008; Gullicks; Lee et. Prentice, 2007; Simons & Cleary)
サービス・ラーニングは生徒の学習意欲を高める(Rockquemore & Schaffer, 2000)
生徒の学習意欲が高まると、勉強への意欲も高まる(Flournoy, 2007; Shulman, 1995)
--以下、プライベートモード)にて翻訳版をメモしてます---
自分が大学でサービス・ラーニングの授業を担当し、今、書こうとしている論文もこれをテーマにしようかと考えていたところなので読んでみました。
論文はこちら(被引用数:496件 (2023年10月9日時点))
Warren, J. L. (2012). Does service-learning increase student learning?: A meta-analysis. Michigan journal of community service learning, 18(2), 56-61.
こちらは、Novak, Markey, and Allen (2007)が行った、高等教育におけるサービス・ラーニングの認知的成果を評価するメタ分析を更に拡張して分析し、サービス・ラーニングの学習成果について考察するものです。
ベースとなるNovakら(2007)のメタ分析では、9つの研究を調査し、サービス・ラーニングと学習成果の間に全体的に肯定的な関係があることを報告しています(d = .424)。
しかし、このメタアナリシスには2つの問題があると本論文の著者Warrenは指摘しています。
第1に、Novakらは未発表の文献を分析に含めていないこと。
第2に、Novakらはサンプルに異質性を見出したが、なぜサンプルが異質なのかを探るための十分なモデレーター分析を行っていないこと。例えば、学生の自己報告は、教師の即時性、コースやインストラクターに対する好感度など、他の多くの変数に影響される可能性があるため、これら2つの測定技術を区別することが重要であるが、Novakら(2007)はそれを行っていないと指摘。
したがって、今回のメタ分析では、Novakら(2007)のメタ分析を基に、未発表の文献を考慮し、自己申告と試験やその他の課題のような具体的な学習指標を区別することで、サービスラーニングと学生の学習成果の関係をさらに明確にすることを目指しています。第2に、Novakらはサンプルに異質性を見出したが、なぜサンプルが異質なのかを探るための十分なモデレーター分析を行っていないこと。例えば、学生の自己報告は、教師の即時性、コースやインストラクターに対する好感度など、他の多くの変数に影響される可能性があるため、これら2つの測定技術を区別することが重要であるが、Novakら(2007)はそれを行っていないと指摘。
ちなみに、このメタ分析では、サービス・ラーニングとそうでない学生の学習成果を比較した研究のみを検証しています。
研究方法は以下の通りです。
第1に、Novakら(2007年)のメタ分析に含まれる9件の研究を収集。
第2に、EbscohostやERICなどの電子データベースを包括的に検索。
第3に、サービス・ラーニングによる学生の学習に関する未発表の研究を含めるため、この分野の著名な研究者7名に未発表の研究を募集する電子メールを送り、3名の回答を取得。
その後、以下の基準を満たすもので絞込を行いました。
(a)サービス・ラーニングと学生の学習成果の関係を調べたもの第2に、EbscohostやERICなどの電子データベースを包括的に検索。
第3に、サービス・ラーニングによる学生の学習に関する未発表の研究を含めるため、この分野の著名な研究者7名に未発表の研究を募集する電子メールを送り、3名の回答を取得。
その後、以下の基準を満たすもので絞込を行いました。
(b)従属変数として学生の学習を測定したもの
(c)実験群と対照群または比較群を含むもの
そして、3つの基準を満たす11の研究(新たに発表された3つの研究、2つの未発表の研究、Novakら(2007)の研究に含まれる6つの研究を含む)が、今回のメタ分析の対象として選定。
選定された論文は多くの次元でコード化(人口統計学的特徴および標本特徴、ならびに学生に要求された奉仕の時間数、研究デザインのタイプ、使用された学習の尺度などの介入および方法論的特徴を含む)され、また、自己報告式および具体的な学生の学習結果指標も各研究についてコード化されました。
両方の結果指標が報告されている場合は、両方の指標について効果量を算出。
効果量は、Cohenのd、つまり実験群と統制群の平均値の差をプールされた標準偏差で割ったものを指標として使用(Lipsey & Wilson, 2001)。
11の研究は、1993年から2008年の間に出版または執筆(未発表の場合)されたもので、対象学生のサンプル数は2129人でした。
すべての研究は準実験的デザインで実施され、学部生を対象とし、分野は教育学、英語学、マス・コミュニケーション学、薬学、政治学、心理学、リハビリテーション・サービス学、社会学など、様々。
11の研究のうち、2つは学生の自己申告による学習成果のみを報告し、2つは試験の得点と学生の自己申告による学習の両方を報告し、3つは試験の得点のみを報告し、2つはその他の課題の得点を報告し、2つは試験後の認知指標を報告していました(研究の特徴についてはTable 1を参照)。
分析結果は、11の研究のサンプルサイズ加重平均効果量はd = 0.332 (95% CI = 0.246, 0.419; Z = 7.562; p = 0.000; N = 2129)であり、サービス・ラーニングが学生の学習成果に統計的に有意かつプラスの効果をもたらしたことが示唆されました。
結論として、サービス・ラーニングが学生の学習成果にプラスの効果があること示唆されました。
サービス・ラーニングには、多文化に対する意識の向上や社会的責任の強化といったプラスの効果があるだけでなく、教育効果を測定する際の黄金律である学生の学習成果も向上させると。
また、学生の自己報告による学習成果の測定は、具体的な学習成果測定よりも大きい結果をもたらすことを示唆しているが、2つの測定法の間に統計的に有意な差は見られなかった。(学生の自己評価の方が、客観的なテストと比較すると高い傾向にあるが、その差は大きくはないということです)
サービス・ラーニングは、どのような学習尺度を用いても、学生の学習にプラスの効果をもたらす可能性が高いということでしょう。
また、今後の課題として、更なる理論化について提言されていました。
サービス・ラーニングには学習効果が高いことが示唆されていますが、サービス・ラーニングの「何が」、従来から教えられている授業概念を超えて、学生の学習に影響を与えているのか、という視点での研究が不足しているとのこと。
---
と、ここまでが論文のざっくりしたまとめです。
学習効果が高いということは、サービス・ラーニングを推進していこうとしている身からすると、背中を押してくれるような良い発見でした。
ですが、分析の対象となった11の研究が、どのような学習成果にフォーカスしていたのかまでは記載がなかったので、個別に見てみたいと思いました。原著論文当たるしかないかな。
また、サービス・ラーニングが高い学習効果を生むメカニズムを解き明かしていくことが今後の課題として述べられていましたが、ここは自分も気になっているところでした。
PBLもそうですが、科目学習だけでなく、非認知スキルやソーシャルスキルにも広く効果が謳われています。
効果が広範囲に渡るからこそ、それら全てを解き明かしていくのは結構大変だろうなと思います。
でも、同時にそこには大きな価値があるとも思っている自分もいます。
一歩一歩研究を進めていきたいです。
以下、メモです。
【サービス・ラーニングの定義】
サービス・ラーニングとは、学生がコースの概念の理解を深め、地域社会に貢献できるような社会奉仕活動を行う教育戦略である(Rhodes & Davis, 2001)
【サービス・ラーニングが成功したとみなされるための4つの基準】(Eyler and Giles, 1999)
(1)個人的・対人的な成長、
(2)授業で学んだ知識の理解と応用、
(3)視点の変容、
(4)市民としての意識の発達、
【サービス・ラーニングがプラスの効果をもたらす学習分野(例)】
・高次の思考(Eyler & Giles, 1999)
・共感(Lundy, 2007)
・文化的認識(Bloom, 2008; Borden, 2007; Gutheil, Chernesky, & Sherratt, 2006)
・個人的・対人的発達(Gullicks, 2006)
・社会問題に取り組む意欲(Lee, Olszewski-Kubilius, Donahue, & Weimholt, 2008)
・学習意欲(Flournoy, 2007)
・ライフスキル(Astin & Sax, 1998)
・自己効力感(Simons & Cleary, 2006; Stewart, 2008)
・市民参加・責任(Astin & Sax, 1998; Einfeld & Collins, 2008; Gullicks; Lee et. Prentice, 2007; Simons & Cleary)
サービス・ラーニングは生徒の学習意欲を高める(Rockquemore & Schaffer, 2000)
生徒の学習意欲が高まると、勉強への意欲も高まる(Flournoy, 2007; Shulman, 1995)
--以下、プライベートモード)にて翻訳版をメモしてます---
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