高等教育においてサービス・ラーニングを組織的に発展させるモデルについて提唱している論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:1828件 (2023年11月3日時点))
Bringle, R. G., & Hatcher, J. A. (1996). Implementing service learning in higher education. The Journal of Higher Education, 67(2), 221-239.

著者らは、全国のサービス・ラーニング・プログラムを調査し、サービス・ラーニングのための包括的行動計画(CAPSL:Comprehensive Action Plan for Service Learning)を策定しました。
これは、大学でサービス・ラーニングを組織レベルで発展させるためのモデルです。
その中で、焦点を当てるべき以下の4つの構成要素を特定し、
・機関(Institution)
・教員(Faculty)
・学生(Students)
・コミュニティ(Community)
また、上記4つの構成要素それぞれについて、追求すべき活動・タスク・成果の項目が整理されています。
・計画(Plannning)
・意識(Awareness)
・プロトタイプ(Prototype)
・資源(Resources)
・拡大(Expansion)
・認識(Recognition)
・モニタリング(Monitoring)
・評価(Evaluation)
・リサーチ(Research)
・制度化(Institutionalization)

この構成要素と活動項目を表にまとめたものがTable2-5で記載されていましたので、全てを統合して1つにまとめました。それがこちらです。
table2-5

構成要素別に1つずつ見てみます。
まず、機関としては、サービス・ラーニングの計画立案、プログラム作成、管理、評価、予算配分、広報などやるべきことがかなり幅広くあります。
これらを担当教員のみに任せるのではなく、機関レベルで推進していくためにサービス・ラーニング事務局を設置することが推奨されています。

表にある具体的な活動内容としては、サービス・ラーニング事務局の設置、会議・学会等での調査、管理職や教員グループへの情報提供、FDの開発、助成金申請、研究発表、地元メディア等での広報、年次報告書作成、大学のミッションや出版物への組み込み、予算獲得などが挙げられています。

次に、教員です。
事務局は、教員にサービス・ラーニングに興味を持ってもらい、コースにサービス・ラーニングの要素を加えるために必要なカリキュラムの変更を行うためのサポートを提供する必要があります。
まず、教員間で、サービス・ラーニングの共通理解を作ることが重要で、そのために、パンフレット、ニュースリリース、FD、講演、会議でのプレゼンテーションなどが活用することができます。
中でもFDについては、サービス・ラーニングの明確な理解、教員と学生に期待されるメリット、必要な時間の投資を提示することが推奨されています。
事務局はまた、サービス・ラーニングコースの拡大につながるリソース(シラバス、文献等)の収集、支援(助成金、教員の俸給等)の提供、教員の能力開発活動(ワークショップ、キャンパス・スピーカー等)、学内や地域社会での成功事例を公表など、教員への様々な支援が期待されます。
管理面では、人事(採用、昇進、昇給、人事考課)にサービス・ラーニングが組み込んだ制度設計を行うことが、教員のコミットメントに関して重要であると述べられていました。

表に書かれている内容としては、各教育ユニットにリエゾンを配置、プロトタイプコースの開発、指導教員の特定、分野別シラバスの整備、サービス・ラーニングに関する蔵書整備、奉仕活動を表彰する教員賞の創設、FD開催、個別相談会、教員指導プログラム開発、学際的サービス・ラーニング科目の開発促進、教員の参画に関するデータ収集(FD参加者、サービス・ラーニングのコースを受講している教員数等)、教員への評価方法・デザインの提供、コース成果の評価、サービス・ラーニングの研究促進、人事への組み込み(採用、昇進等)、教員の専門能力開発への組み込み、などがありました。

次に、学生についてです。
まず、高校から大学にかけて、ボランティア活動が激減しているという報告があります。
全寮制に比べ、都市部の通学型キャンパスの学生は、授業中心の学習環境であり、 教室外で行われるキャンパス活動は少なく、帰属意識が育まれにくいそうです。
そこでサービス・ラーニング。自発的な奉仕活動やサービス・ラーニングは、キャンパスでより大きな共同体意識を築くことができるとのことで、
しかしながら、多くの学生は、サービス・ラーニングについて知らないため、これを伝えるところから行う必要があります。
そのために、カウンセラーにコースの情報を提供する、コーススケジュールに記載する、学校新聞に記事を掲載する、過去の受講学生を支持者として利用する、等が挙げられています。

表に書かれた全体的な具体的としては、学生の奉仕活動への参加状況調査、意識調査、学生団体へのプレゼン手配、SLコースのアシスタントやサイト・コーディネーターのための資金確保、新入生の募集に過去のSLコース参加学生も参加、SLのコースや関連活動(ワークショップ、会議等)の開発に学生を参加させる、奉仕活動を表彰する学生奨学金汚受賞者を広報、奉仕活動に参加した学生の推薦状を書く、学生の参加に関するデータ収集、SLコースの評価(満足度、学習成果、定着率等)などがありました。

最後に、コミュニティ、つまり大学と地域社会とのコミュニティ作りについてです。
大学が地域とのパートナーシップを発展させることが重要であり、大学は強力なリーダーシップを発揮し、明確な目標を掲げ、組織としての方針を維持する必要があると述べられています。
ボランティア経験が豊富な地域の担当者でさえ、サービス・ラーニングの本質や、サービス・ラーニングとボランティアの違いについて理解していないこともあるため、その辺りを説明することも重要とのことです。

表での具体的には、ボランティア関連機関のリスト化、地域社会のニーズ調査、担当者とのミーティングや視察、担当者への説明(SLとボランティアの違い等)、地域社会のリソースのマニュアル化、SLに関するワークショップやディスカッション、プログラム・助成金・会議について地域と協力、エージェント関係者のための表彰イベント、地元メディアでのパートナーシップの広報、SLが地域や顧客ニーズにどのような影響を与えたかの調査、学生ボランティアを支援・育成するためのリソース割り当て、などが挙げられていました。

ここまでがCAPSLのまとめです。
私自身、大学でサービス・ラーニングの授業を1人で担当しているため、かなり限界を感じていたところでした。
組織からどのような支援があれば良いか、どのように地域や学生を巻き込めば良いか等々、CAPSLの表を見ながら、ひとつひとつ形にしながら前進していきたいです。


以下、メモ

私たちは、サービス・ラーニングを、学生が、特定された地域社会のニーズを満たす組織的な奉仕活動に参加し、授業内容のさらなる理解、学問分野に対するより広い理解、市民としての責任感の向上を得るような形で奉仕活動を振り返る、単位を取得できる教育的体験とみなしている。

高等教育におけるサービス・ラーニングの価値に対する主張は、研究によって裏付けられている。Markus, Howard, King [21]は、ランダム化対照群設計に近い手順を用いて、サービス・ラーニングのセクションに所属する学生は、コース評価や、サービスやコミュニティに対する信念や価値観がより肯定的で、中間試験や期末試験で測定される学業成績がより高いことを発見した。
他の研究でも、サービス・ラーニングが個人的、態度的、道徳的、社会的、認知的な成果にプラスの影響を与えるという内容が支持されている[4, 7, 8, 15]。

【大学とコミュニティの効果的な関係の3つの特徴】(RuchとTrani [27])
(a)交流が大学とコミュニティにとって相互に有益であること
(b)交流が組織の選択と戦略によって導かれていること
(c)交流が双方のパートナーにとって価値ある重要なものであること

【サービス・ラーニング事務局の役割】(Farmer, 1990)
(a)カタリスト(catalyst)
(b)解決策提供者(solution giver)
(c)プロセス・ヘルパー(process helper)
(d)リソース・リンカー(resource linker)
(e)自信構築者(confidence builder)

【サービス・ラーニングに参加する5つの段階】(Delve, Mintz & Stewart, 1990)
(a)探求(素朴な興奮)
(b)明確化(価値観の明確化)
(c)実現(奉仕の意味への洞察)
(d)活性化(参加と支持)
(e)内面化(奉仕体験がキャリアや人生の選択に影響を与える)

【サービス・ラーニングの尺度】(あとで読む)
Barber, B. R. "A Mandate for Liberty: Requiring Education-based Community Service." The Responsive Community (Spring 1991).

Giles, D. E., Jr., and J. Eyler. "The Impact of a College Community Service Laboratory on Students' Personal, Social, and Cognitive Outcomes." Journal of Adolescence, 17 (1994), 327-339.

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