「プロジェクトマネジメント」のスキル育成に焦点を当てた産学連携PBL(Project Based Learning)活動の論文をレビューします。
プロジェクトに取り組む中で、学生と協力企業の従業員の双方がプロジェクトマネジメント手法を活用し、共に知識を高めていき、学生の学びだけでなく、従業員のスキル向上や組織体制のアップデート、業務上の成果まで生みだしている素晴らしい実践事例です。

論文はこちら(被引用数:8件 (2023年11月22日時点))
三宅由美子, 上村隆幸, & 内平直志. (2017). : 中小企業の人材育成を考慮したPBL活動とその効果: 訪問看護ステーション支援プログラムの強化. 国際 P2M 学会誌, 12(1), 36-54.

まず概要について、以下にまとめます。

【対象組織】
・産業技術大学院大学(Advanced Institute of Industrial Technology : AIIT)
・インキュベクス株式会社

【授業内容(産学連携PBL)】
・期間:平成27年4月~平成28年2月、週2回、20~30時間/週(学内、企業内、自宅含む)
・参加者:
 ・AIITでコンサルティングを学ぶ社会人学生2名
 ・インキュベクス社の社員(代表取締役、経営企画部、営業部門・事業部門の部課長など責任者が積極的に参加)
・プロジェクトの目的:
 ・学生:協力会社にコンサルティングを行い、企業の情報化戦略策定を行う(業務改革含む)
 ・企業:情報化戦略を策定する、プロジェクトマネジメント手法を学ぶ

【学習目標】
・学生がPBL 活動において獲得すべき業務遂行能力は、コンピテンシー(メタ/コア)と定義
①コミュニケーション能力:システム提案、ネゴシエーション、説得、ドキュメンテーション
②継続的学習と研究の能力:革新的概念・発想、ニーズ・社会的・マーケット的視点、問題解決
③チーム活動:リーダーシップ、マネジメント、ファシリテーション、調整

【学生が使用するツール】
ガントチャート、課題、バーンダウンチャート、ファイル共有、wiki

【分析方法】
・インタビューを企業、学生双方に実施し、SCATで分析
・SCATの分析から得た「理論記述」とプロジェクトマネジメントの管理項目の関係性を図式化(図4-1)
 ・マネジメント内側の太枠は、QCDを中心とした管理項目と管理項目間の関係を示している
 ・外側の枠は、SCATで分析した「理論記述」で、各管理項目を学生がどのように実践し、企業の従業員が何を習得したかについて示している

【中小企業の人材育成を考慮したPBL活動モデル】
・当研究を通して、「中小企業の人材育成を考慮したPBL活動モデルを作成
・「学生」「企業経営者」「従業員」の主体間相互支援とプロジェクトマネジメントを学生が実践し、中小企業が習得、活用するプロセスを中心に示している

【企業の成果】
・社員がプロジェクトマネジメントスキルを獲得
・その後、プロジェクトマネジメント及びプログラムマネジメントを組織体制に組み込み、迅速なサービスの創造・提供が可能となった
・訪問看護師の業務効率化という成果を得て、その後、特許も取得

【学生の成果】
・システム提案、ネゴシエーション、説得およびファシリテーション、調整のコンピテンシーが主に高まった


所感として、まず素晴らしいと思ったのは、企業側のメリットもしっかりと生み出すPBLの設計になっている点です。
協力企業に負担がかかりがちな地域コミュニティ連携のPBLですが、当論文では「主体間相互支援モデル(臼木, 2009)」が示すように、大学と企業間で相互に支援し合うモデルとなっており、実際に、社員がプロジェクトマネジメントスキルを獲得したり、組織体制がアップデートされたり、業務効率化や特許取得という大きな成果も出せています。
このレベルの成果を生み出した要因としては、以下のようなことがありそうだと感じました。
・学生は社会人経験のある大学院生であり、会社や業務について一定の理解があったであろうこと
・大学院1年時に2科目ずつプロジェクトマネジメント関連科目を履修し、プロジェクトマネジメントの基礎知識があったであろうこと
・学生が2名であり、教員側の支援が得られやすかったであろうこと
設計するプロジェクトのレベルは、学生の知識量や経験値に合わせて調整する必要がありますが、上記のような状況下だからこそ高いレベルのプロジェクトに挑戦でき、成果も出せたのだと思います。
自分が担当している産学官連携PBLの場合は、学生は社会人経験のない大学生で、上記の条件には全て外れているので、なかなか厳しいところがありますが、、それでも可能な範囲でレベルを上げていきたいです。

また、プロジェクトマネジメントを学んでいる学生と共に企業がプロジェクトに取り組むことで、社員がプロジェクトマネジメントスキルを獲得していくプロセスというのも面白いと思いました。
「教えることが最大の学びになる」ということもありますし、学生が社員に教える・伝えるという構成は、学生の学びにとっても大きな効果がありそうです。
欲を言えば、学生の学習効果を定量的にも見てみたかったです。

また、分析結果の記載についても参考になりました。
SCATで得た理論記述とプロジェクトのフローとをうまく関連付けて描かれていて、こういうやり方もあるのかと良い気づきになりました。

産学連携で、地域、市場、そして企業の課題解決を図るPBL活動は、プロジェクトマネジメント手法が必ずしも活用されていない。〜〜階層型の組織の従業員は、プロジェクトマネジメントを学習する機会が少ない。特に、中小企業では、OJT でプロジェクトマネジメントを教えられる人材が限られているため、従業員がプロジェクトマネジメントを学習する機会はさらに少なくなる。産学連携のPBL活動において、協力企業の従業員と学生が課題解決などに取り組む中で、プロジェクトマネジメント手法を活用して、共にその知識を高めていくことは望ましい。
これは論文の冒頭での記述です。
「プロジェクトマネジメント」のスキル育成は、学生にとってはもちろん、中小企業にとってもまだまだお届けする価値がありそうだと思いました。
これまで学生の学びに焦点を当てて考えてきましたが、「企業側の学び」にもなるPBLの設計を目指して、他の論文も色々と調べてみようと思います。
そして、プロジェクトマネジメントを学ぶ手法として、PBLは非常に効果的だと言えそうです。(そもそも名前がプロジェクト学習ですし。灯台下暗しみたいな感覚です。)

次年度のPBLにはプロマネの要素も少し取り入れてみようかなと思いました。

これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。