プロジェクトマネジメントのプロセスや手順の導入が、オンラインのプロジェクト学習(PBL: Project-based Learning)の足場がけとなり得るかを調査した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:196件 (2023年12月1日時点))
van Rooij, S. W. (2009). Scaffolding project-based learning with the project management body of knowledge (PMBOK®). Computers & Education, 52(1), 210-219.

研究は、テクノロジーを教育に活用することを学ぶ社会人大学院生のPBLの授業で行われました。
14名を2グループずつの実験群(プロジェクトマネジメントのツールを使用)と統制群(プロジェクトマネジメントのツールを使用しない)に分け、その両者の差異を「チームの相互作用」「成果物の質」「チームの経験」という3つの視点から分析しています。
結論としては、「成果物の質」にも「「チームの経験(達成したと感じる学習効果)」にも統計的有意差は見られませんでした。
一方、大きな差異が出たのは、「チームの相互作用」です。チーム内のやりとり(発言数)は、実験群の方が統制群よりも遥かに少ない結果(約3分の1)となっています。統制群は、プロジェクト製品の設計や開発よりも、組織化、スケジュール管理、ワークフロー、明確化の要求に重点を置いており、チームのプロセスを管理する上でいくつかの課題があることが示されたのとは対照的に、実験群はプロジェクトマネジメントツールを活用することで、スムーズにプロジェクトを進められたことが現れています。
N数が14と少ないことは考慮すべきとの記載があった通り、統計的有意差が出なかった「成果物の質」や「チームの経験」についても、大規模調査になるとPMのツールを活用することで影響が出てくるのではないかと推測しました。大学でPBLをやっていると時間に追われてギリギリのタイミングでアウトプットするチームが多い傾向にあるので、効率的にプロジェクトを進めることで本来集中すべきポイントにリソースを集め、その結果として成果物の質が上がり、学習も深くなるように思いました。

特に収穫だったのは、プロジェクトマネジメントのツールとして実際に導入したものの記載があったこと。「プロジェクト憲章テンプレート」「WBS」「アクティビティリストテンプレート」「プロジェクトステータスレポートテンプレート」の実物を見ることはできませんでしたが、検索してだいたいこういうものだろうなというものを図に追記して以下でまとめています。
これらは次回以降の自分の授業でも取り入れていこうと思います。
プロジェクトマネジメント関連のツールはきっとPBLの良い足場がけとなるはずですので。

--以下、論文の要約--

研究目的
プロジェクトマネジメントのプロセスと手順が、チーム内のコミュニケーションを促進し、プロジェクトの成果を向上させ、プロジェクトチームの良好な経験を促進することによって、オンラインPBLの足場(Scaffolding)となり得る範囲を評価すること

リサーチクエスチョン
・8週間のプロジェクトライフサイクルにおいて、プロジェクトマネジメントの方法論を使用しているチームと使用していないチームとでは、プロジェクト成果物の分析、設計、開発、実施、評価に関するチームの相互作用にどのような違いがあるか?
・プロジェクトマネジメント手法を使用しているチームは、使用していないチームよりも高品質の成果物を生み出しているか?
・プロジェクトマネジメントを使用しているチームは、使用していないチームよりも、より肯定的なチーム経験をしているか?

対象者と所属コース
新たなテクノロジーを学校や企業の教育やトレーニングに活用するキャリアを目指す学生を養成する社会人大学院の学生14人。
当コースは、遠隔ラーニングの技術や環境における最新の技術革新や、遠隔ラーニングの中心となる理論的問題を探求するコースが中核。15週間のコア・コースは、WebCT/Blackboard Campus Editionによる非同期形式と、Adobe Connectウェブ会議システムによる同期セッションを併用し、全てオンラインで提供される。
このコースでは、読書、講義、実地体験、研究活動、スレッド形式のディスカッション、振り返り、プロジェクトなどを組み合わせて活用し、受講生が現在の技術の長所と短所、技術の傾向や方向性を理解できるようにする。
第2週目に3~4人ずつのチームが結成され、コース期間中そのまま維持される。
各チームには、チームメンバーと講師のみがアクセスできるLMSディスカッションボード上のプライベートエリアが割り当てられ、チームプロジェクトの計画と活動を文書化するための主な交流の場となる。
コースの最も重要な成果物は、コース中に調査された1つまたは複数の技術を使用し、分析、設計、開発、実装、および評価(ADDIE)を包含する基本的なインストラクショナルデザインの方法論に従って、完全に機能する学習/トレーニングモジュールを「ライブ」で作成すること。
チームは第7週にモジュールのトピックを選択し残りの8週間をかけて第15週に最終プレゼンテーションとデモンストレーションに向けての準備を行う。

研究方法
上記のコース受講生14人を無作為に2つのグループ、計4グループに分類した準実験的デザインを採用
・実験群:3人1チームと4人1チーム
・統制群:3人1チームと4人1チーム
統制群には、コース・プロジェクトで通常使用される、インストラクターが提供するヒントとベスト・プラクティスのみを使用したが、実験群では、それらに加えプロジェクトマネジメントの手法を足場として使用した。具体的には、PMBOKガイド(Project Management Institute, 2004)に記載されているプロジェクトマネジメント手法の基本(開始、計画、実行、モニタリングとコントロール、終結)を紹介し、以下のような足場を提供した(図参照):※図の右側の画像は森が加筆してます
figure2

・プロジェクト憲章テンプレート(開始):
この文書には、(a)学習の必要性、(b)利害関係者のニーズ、要望、期待、(c)プロジェクトの目的と正当化、(d)状況や組織の状況に基づく前提条件と制約条件が記述されている。また、プロジェクトの成果物、要求事項、特性などのプロジェクトのスコープも明示され、プロジェクトのスコープに含まれるもの、含まれないものなどのプロジェクトの境界も明示される。

・Work Breakdown Structure(WBS)のテンプレート(計画):
プロジェクトスコープを具体的な項目に変換するために、チーム内の成果物を含むすべての成果物を図式化したもの。これにより、チームはプロジェクトスコープやメンバーの時間をよりよく管理できるようになり、作業が漏れることがなくなる。

・アクティビティリストテンプレート(計画、実行):
WBSの各要素について、アクティビティをリストアップし、責任者を特定し、目標期日を記載し、アクティビティが完了したら、実際の完了日を文書化する。これは、チームがスコープと時間を管理するための追加ツール。

・プロジェクトステータスレポートテンプレート(実行、モニタリングとコントロール、クロージング):
このテンプレートでは、通常使用される、プロジェクトで何がうまくいっているか(いっていないか)をチームがコメントする自由形式のテキスト文書とは異なり、タスクの完了、進行中、未着手の数と割合、作業範囲の変更、マイルストーンの日付、プロジェクトリスクとその発生可能性を3段階(高、中、低)で測定したもの、プロジェクト全体の状況、計画されたマイルストーンと達成されたマイルストーンなど、具体的なデータ項目が求められる。

分析
分析は「チームの相互作用」「成果物の質」「プロジェクトチームの経験」の3つの視点で行われた。
・チームの相互作用
8週間のプロジェクトライフサイクルにおけるチームの相互作用の性質を調査するために、各チームが使用したWebCT/Blackboardディスカッションボードの内容分析を実施した。
質的分析ソフトウェアアプリケーションであるNVivoを使用してデータをコード化し、定量化。
投稿された各メッセージは、全体を読んだ後、コード化スキーマを使用して段落レベルでコード化した。

・成果物の質
最終プロジェクトの成果物の評価には、コース開始時に配布されたルーブリックの採点基準を使用。プこのルーブリックは、国際教育技術学会(International Society for Technology in Education)が制定した全国教育技術基準(NETS, 2007)に基づくもので、
(a) モジュールの設計
(b) モジュールの中で提供されるインタラクションとコラボレーションの仕組み
(c) モジュールの指導目標/成果をサポートする適切な技術
(d) 明記された目標/成果に沿った評価
(d) 技術サポート情報
の各分野におけるチームプロジェクトの質を評価するものであった。
両チームの差を検証するために、独立標本のt検定を使用した。

・プロジェクトチームの経験
全体的なプロジェクト経験に対する認識は、学生が特定の領域で達成したと感じる学習効果の度合いに関する一連の記述で構成される「学生の学習効果評価(SALG)」を用いて測定された。(5段階評価)
コース終了時に匿名で回答した20個のアンケートは、6つの視点で測定された
(a)プロジェクト・アプローチ
(b)プロジェクト活動
(c)プロジェクト・リソース
(d)プロジェクト・コミュニケーション・ツール
(e)個々の学習者サポート
(f)総合的なプロジェクト経験
SALGスコアの信頼性テストを実施した結果、クロンバックのアルファは0.955となり、社会科学のベンチマークであるアルファ80%を大きく上回った。独立標本のt検定も実施した。

5. 結果
・チームの相互作用
(メッセージ投稿数)
・統制群が437であるのに対し、実験群は130であった。
・統制群の投稿数は第2週から第5週にかけて急激に増加する傾向にあるのに対し、実験群の投稿数はほぼ横ばいで、第4週でわずかにピークを迎えた。
(プロセスの違い)
ADDIE教育デザインモデルの分析、設計、開発、実施の各フェーズにおいて、分析フェーズに関する実験群のやりとりの割合は、統制群の2倍以上(8.3%対3.0%)であり、実験群は、プロジェクトライフサイクルの第1週目に提供されたプロジェクト憲章テンプレートの要素であるプロジェクトのトピック、根拠、利害関係者、およびプロジェクトのスコープに、統制群よりも議論の重点を置いていた。
さらに、分析と設計に関する実験群のコメントは、プロジェクトライフサイクルの比較的初期に集中し、開発と実装に関するコメントは、プロジェクトライフサイクルの最後の数週間に集中した。
一方、統制群のやりとりは、ADDIEのフェーズに関係なく分散していた。
例えば、「設計」フェーズの構成要素であるプロジェクトのアプローチに関するコメントは、グループが「実施」フェーズを完了しているはずの第6週まで投稿され、同様に、成果物が目標と要件を満たしているかどうかに関するコメントは、グループが開発フェーズを完了しているはずの4週目にも投稿されていた。
社会的情緒的相互作用に関するコメントは、実験群の方が統制群よりもタスクに特化していないコメント(ロジスティクス、技術的なことなど)を投稿する割合が高かった。

5.2. 成果物の質
テスト・グループのプロジェクト・スコアの平均は224点、コントロール・グループの平均は222点であった。
独立標本の単純なt検定が用いた結果、t値は0.626(df=12、a=0.50)となり、有意差に必要なt値0.695を下回った。
このことから、プロジェクト管理手法のツールは、プロジェクトの足場として使われた従来のツールよりも、製品の品質に対して有意に大きな貢献はしていないと言える。

5.3. プロジェクトチームの経験
プロジェクトマネジメント手法を使用した実験群の平均SALG スコアは、20のSALG属性のうち13の属性、特にプロジェクトアプローチとプロジェクトリソースの領域において、その手法を使用していない統制群よりも高かった。
しかし、独立標本のt検定の結果、どのSALG属性においても実験群と統制群の間に統計的有意差は見られなかった。
従って、プロジェクト管理手法の使用は、プロジェクト完了のために使用される標準的な足場固めツールと比較して、学習者のメリット認知にわずかな影響しか及ぼさなかった。

結論
実験群は統制群よりも投稿数が少なかったが、実験群はプロジェクト憲章、作業分解構造、アクティビティリストのテンプレートを使って、プロジェクトのライフサイクルの早い段階でモジュールの分析と設計を固めていた。この効率性はまた、社会感情的相互作用に関する投稿に反映されているように、実験群メンバーのフラストレーションや混乱の減少にもつながった。
これは、プロジェクトマネジメント手法が、仮想環境における明確で簡潔なコミュニケーションに必要な投稿の量を減らすことで、チームプロジェクトに付加価値を与えていることを示している。
これは、主に非同期メッセージでコミュニケーションをとる多国籍銀行のプロジェクト(Lee-Kelley and Sankey, 2008)の事例でも同様の結果となっている。
・イギリスとギリシャの2つのバーチャルチームのプロジェクトマネージャーを対象に、11回の詳細なインタビューを含むケーススタディーを実施
・一方のチームはプロジェクトマネジメントの方法論を厳格に遵守し、もう一方はあまり構造化されていない方法で活動
・構造化されていないチームはコミュニケーションの計画と実行が不十分であり、結果として、チームの相互作用は、過剰なコミュニケーションや多すぎるメッセージ投稿、チームメンバーのフラストレーションや混乱といった不協和音が生じた

一方、プロジェクトマネジメントの方法論と従来のプロジェクトの足場との比較は、高品質な成果物や全体的に良好なプロジェクト経験を生み出すための重要な要因とはなっていない。これは、受講者数が比較的少なかった(N=14)こと、実験群・統制群ともに、必要な努力のレベルに関係なく、質の高い製品を作ろうとする社会人プロフェッショナルで構成されていたことが考えられる

まとめとして、当研究は、プロジェクトマネジメント手法のプロセスや手順を使用することで、すでに職場で活躍している大学院レベルの社会人学習者のバーチャルチームのメンバー間のコミュニケーションを促進できることを実証している。
この研究で使用されたプロジェクトマネジメントツールとテンプレートは、プロジェクトの規模や業種に関係なく、職場で最も広範囲に使用され、組織から最も高いレベルの支持を受けているツールのひとつである(Bessner and Hobbs, 2008)。
プロジェクトマネジメントは、現代の組織において、組織変革を管理するための重要な戦略になりつつあり、企業、行政、教育、その他の組織が、共通のプロジェクトアプローチと、プロジェクト実行のための教育を受けた従業員の価値を認識している (Kioppenborg and Opfer, 2002)。
その結果、プロジェクトマネジメントスキルの習得は、特にバーチャル環境におけるPBLの一部となるべきである。

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