昨日に引き続き、以下の論文のレビューです。

論文はこちら(被引用数:91件 (2023年12月30日時点))
Cocco, S. (2006). Student leadership development: The contribution of project-based learning. Unpublished Master’s thesis. Royal Roads University, Victoria, BC.

今回は、Chapter 3:アクション・リサーチ・プロジェクトの実施 です。

まず、研究アプローチとしてアクション・リサーチについて述べられています。
「アクション・リサーチは、教育現場での実践を改善するために実践者が行う応用研究の一種である」Glanz(1998) 
自分も単に研究するだけでなく、その研究を通して教育現場の実践を改善していきたいと考えているので、とても共感しました。

また、アクション・リサーチは省察的実践と関連している、という点も。
省察的実践とは、実践者が考え、内省し、行動するという循環的な方法であり、専門職の能力開発にとって強力なアプローチである、とのこと。
どのような仕事でもこのようなアプローチは重要だと思いますが、教員には特に重要だと思います。
自分達の授業内容を振り返り改善していくということが、なかなかできていない現状をずっと見ているので強くそう思います。(だからこそ、今、IRや教学マネジメント等色々言われているんですが)
やりっぱなしじゃなくて、学生の声を聞きながら、省察し、実践内容を改善していく。
自分自身そうありたいと思っているので、アクション・リサーチとの相性は良さそうだと荒まえて感じました。

次に、当研究の基本的な概要は以下の通りです。
(対象者)
・応用技術学士-統合先進製造技術(IAMT)プログラムの応用技術学士課程3年生7名
・1年生は、適応の問題を抱えていることが多く、PBLにはおそらく時期尚早
・PBL経験が最もある3年生が選定

(期間)
・2005年10月から2005年12月の間にデータを収集
・2006年1月から2006年2月にデータ分析

(研究方法)
インタビューによる質的研究なのですが、これがまた学びの多いやり方でした。
それは、3段階に分けて行うインタビューを行うやり方。
1回目では、フォーカス・グループ・インタビューを
2回目では、1対1の個別インタビューを
3回目では、1回目と2回目のインタビューの答えの意味を振り返り、より良いプログラムについて、アプリシエイティブ・インクワイアリ(AI)の概念を用いたインタビュー
このやり方は非常に参考になりました。自分の研究でもいつか取り入れてやってみたいです。
また、企業側にも1度インタビューを行い、学生目線だけでなく、企業側の目線も取り入れることで、立体的な三角測量を可能にしています。

(データ分析)
インタビュー内容を全て文字起こしし、各参加者の要約を作成した後、対象者の学生に要約のコピーと音声CDを送付し、フィードバックを求めています。
こう見ると、インタビューも複数回行い、さらにその内容についてフィードバックをもらうという、何重にもコミュニケーションをとっていることが分かります。
質的研究をする際にもこのような双方向的なやりとりは非常に重要になるんだろうなと感じました。
そして、データ分析は、グラウンデッド・セオリーの3つの基本要素(概念、カテゴリー、命題)を考慮しながら行われました。

次の章ではいよいよ結果なので、読むのが楽しみです。

以下、簡易なまとめです。

研究アプローチ

・当研究は、アクション・リサーチの形態をとっている
・アクション・リサーチは、教育現場での実践を改善するために実践者が行う応用研究の一種であるGlanz(1998)
・アクション・リサーチの原則と実践は、2つの重要な理由から、この調査の指針として用いられた
①アクション・リサーチの原則と実践は、省察的実践に関する筆者の哲学的見解と一致
 ・省察的プロセスは、専門職の能力開発にとって強力なアプローチである
 ・アクションリサーチに使用されるモデルは、実践者が考え、内省し、行動するという循環的な方法を可能にする(Stringer, 1999)
 ・アクション・リサーチは、そのデザインによって省察的実践に適している
 ・教職以外でも、省察的実践は、過去の経験から学ぼうとするあらゆる専門家にとって建設的なアプローチ
 ・教育者は、専門的な文脈の中で、省察的実践を学生に模範を示す機会がある
②アクション・リサーチの原則は、Conestoga Collegeの応用研究と学習へのアプローチによく適合
 ・応用研究(Applied Research)は、主に特定の問題を解決することによって実践を改善するために行われる(Glanz, 1998)
 ・アクション・リサーチは応用研究の一形態であるが、正式な応用研究に比べ、設計や方法論はそれほど厳密ではない(Glanz, 1998)
 ・応用学習は、学習者にとって有意義な方法で理論と実践を融合させることの価値に関するConestoga Collegeの哲学によく根ざしている

プロジェクト参加者
・応用技術学士-統合先進製造技術(IAMT)プログラムの応用技術学士課程3年生7名
・学生は、当時プログラムの6学期を修了していた
・本研究の目的のため、7人の学生参加者のいずれかを雇用したことのある雇用主にも、二次参加者として参加を依頼
※雇用主がこの研究にどのように協力してもらうかを説明するために、以下の基準が選ばれた。

基準①Co-opへの参加経験
・卒業時に学生を雇用する可能性のある雇用主の視点が、この研究にとって非常に貴重だから
・雇用主が、新入社員のリーダーシップ開発における自分たちの役割をどのように考えているかを理解することは有益
・学生のPBL体験の記録は、雇用主のものと比べて、本研究の提言により直接的な影響を与えるため
・どの学生を参加させるかを選択する手段として、以下の基準が特定されていた。

PBLの適切性と経験
・本研究の参加者は全員、本研究開始前に2学期のPBLカリキュラムを経験
・1年生は適応の問題を抱えていることが多く、PBLにはおそらく時期尚早
・2年生は2回目のプロジェクト活動を開始したところであり、より多くの経験を持つ学生を参加させることとした
・2つのプロジェクトを完了させた点で、PBLの経験が最も豊富だったのは3年生だった

タイミングと利用可能性
・2005年10月から2005年12月の間にデータを収集し、2006年1月から2006年2月にデータ分析

研究方法とツール
研究方法としては、3段階に分けたインタビューが採用された。
・Dobeare & Schumanの3段階のインタビュー・デザインによって、インタビュアーは、回答者に意味を与えるような形で回答を積み重ね、探求することができる(Seidman, 1998)
・「一度も会ったことのないインタビュイーと一度だけ会う機会を設けてトピックを探ろうとするインタビュアーは、文脈的に薄氷を踏むようなものである」(Seidman, 1998, p. 11)

①フォーカス・グループ・インタビュー
・質問(付録A参照)の枠組みに沿って、グループ・インタビュー
・学生たちは、リーダーシップの意味をどのように理解するようになったのか話し合うことができた
・様々な要素が、学生を一人の人間として構成しているため、学生生活だけでなく、彼らの人生全体との関連において、彼らがリーダーシップに与える意味を理解することが不可欠である
 (質問の枠組み)
Conestoga Collegeのプログラムに入学する前と入学した時期を含めて、あなたの人生について考えてみてください。これには、高校での経験、課外活動、仕事関連、ボランティア経験などが含まれます。
1. リーダーシップの例にはどのようなものがありますか?言い換えれば、次のような場合にどのようにリーダーシップを理解しますか:
A) あたながリーダーシップを経験する時
B) あなたがリーダーシップに参加した時
2. リーダーシップの例をいくつか挙げてください

②1対1のインタビュー
・質問(付録B参照)の枠組みに沿って、1対1の個別インタビュー
・プロジェクト活動の中で、学生が自分の体験にどのような意味があるのかを考えるよう促した
・Seidman(1998)は、「人々の行動は、彼らの生活や周囲の人々の生活の文脈の中に置かれたとき、意味を持ち、理解できるようになる」(p.11)と主張
・第1にPBLに取り組むグループのメンバーとして、第2に教育経験から最大限の成果を得ようとする個々の生徒として、のそれぞれ異なる2つの文脈がある
(質問)
・質問①:プロジェクト活動中、あなたのグループが積極的なリーダーシップを経験したとき、どのようなことが起こりましたか?この経験は、あなたがグループのメンバーとして経験した最高のリーダーシップの例を思い起こさせます。どんなことがありましたか?
・質問②:活動中、あなたがリーダーシップを発揮できた場面を教えてください。あなたがリーダーシップを発揮できたのは、その活動のどのような場面でしたか?
・質問③:あなたがリーダーシップを発揮する上で、妨げとなったものはありましたか?

③3回目のインタビュー
・目的:今後のPBLをどう改善すれば、リーダーシップ開発を最大限に高めることができるかを学ぶこと
・学生が1回目と2回目のインタビューの答えの意味を振り返る
・フォーカス・グループと1回目のインタビューでどのように回答したかを理解することで、生徒たちは、最も理想的な状態の他のPBL経験を思い描きながら、現在のプロジェクト型学習の経験方法に至った要因を理解することができた
(質問)
「リーダーシップについて、また、PBLがリーダーシップの育成にどのように貢献し、あるいは妨げているのかについて述べたことを踏まえて、リーダーシップの育成をさらに高める理想的なプロジェクト活動の一部として、どのようなものを望むか」
・未来志向で質問を組み立てるプロセスは、アプリシエイティブ・インクワイアリ(AI)の概念に合っている
・AIは、調査者がより多くを望むものは、すべての組織にすでに存在しているという前提で機能する(Hall & Hammond, 2000)
・何がうまくいっていないかに焦点を当てるのではなく、AIは、現実の社会的構築を肯定的な極みへとシフトさせることを目指す(Cooperrider & Srivastva, 1987)
・「人間のシステムは、問いかけを続けることで成長するものであり、この傾向は、探求の手段と目的が正の相関関係にあるときに最も強く、最も持続可能なものとなる」(Cooperrrider & Srivastva, 1987, p. 3)

この他、雇用主に対して、リーダーシップ、特に職場におけるリーダーシップの育成に関する彼らの視点を確認するために、一度インタビューを実施した(付録D参照)
(雇用主への質問)
質問①:あなたのキャリアの中で、新卒の若手がリーダーシップを発揮する機会を与えられたときのことを教えてください。
・それはどのようにして起こったのですか?
・何が彼らの成長を助けたのでしょうか?
・あなたの役割は何でしたか?
質問②:今から5~7年後の自分を想像してみてください。あなたは多くの新卒者を採用し、新卒者がリーダーシップを発揮できるように支援することに大成功しています。この例から、あなたは、他の人のリーダーシップ能力の育成を支援する最善の方法について考えることができます。

・複数の調査方法を使用し、異なる情報提供者(雇用者と学生)を含めることで、データを検証し、2つのデータセットの一致点と不一致点を探すことができた。
・三角測量という用語は、複数の方法や異なる情報提供者を通してデータを収集するプロセスを表すのに使われてきた(Stringer, 1999)

参加者によるデータの検証
・データが収集されると、すべての録音を聞き、手書きの文章に書き起こし、各参加者の要約を作成
・7人の参加者全員に、要約のコピーと個人面談をCDにコピーした音声記録を渡した
・学生には、フォーカス・グループの要約を確認し、議論された主要テーマの正確さについてフィードバックするよう求めた
・参加者検証のプロセスは、学生から収集したデータの信憑性を高め、プロセスの次の段階であるデータ分析に進む準備を十分に整えることができた。

データ分析
・当プロジェクトの範囲では、グラウンデッド・セオリーを発展させる必要はなかったが、データ分析の際には、グラウンデッド・セオリーの3つの基本要素(概念、カテゴリー、命題)を考慮した
(3段階の質的分析プロセス)
・第1段階:テーマの同定または発見
・第2段階:カテゴリーの特定または構築
・第3段階:テーマに関連するデータを適切な概念スキーマに当てはめる

・オープン・コーディング・アプローチ(Corbin and Strauss, 1990)を使い、最初から最後まで文章を読んだ
・概念を特定しながら、書き起こされたデータと一緒に解釈的なコメントも並べた
・最初のコーディングでは、適切なカテゴリーにこだわらず、限り多くの概念を生み出した
・オープン・コーディングを行う際、概念が必ずしも相互に排他的であるとは限らないため、研究者はデータを何度も読み返すことが重要である(Pandit, 1996)。※言い換えれば、1つの情報に複数のコードが割り当てられることがある
・コンセプトは4x6のカード数枚に記録
・概念を特定する一方で、参加者の反応を注意深くメモし、議論の特定の要素の意味を理解するのに役立つ直接的な発言を強調した
・初期分析では表面的な記述が可能で、それは「土地勘(lay of the land)」を提供する(Rothe, 1993)
・しかし、データをより深く掘り下げるためには、研究者は文脈、状況、隠れた前提、言語の使用といった他の要因も検討しなければならない
・概念と説明の例が文書化されると、より広いカテゴリーを構築し始めた
・このプロセスの間、私は明らかなパターンからの逸脱を探し、これらのパターンやその欠如が、私の中心的な研究課題である "PBLはどのように生徒のリーダーシップの発達を高めるのか?"をどのように照らし出し、あるいはどのように知らせているのかを自問し続けた。

(データを批判的に分析するための研究者自身への問いかけ)(Rothe, 1993)
・参加者が自分の経験を説明する際に、根底にある仮定やアプローチは何か?
・参加者は自分の経験を説明するためにどのようなメタファー を使っているか、そして、社会的構成要素の理解を深める上で、これらのメタファーにはどのような意味があるのか?
・私たちの認識は、どのような方法で新しいパラダイムに対する理解を深めることができるのだろうか?

倫理的問題と研究バイアス
・真に理解するためには、研究者が参加者の関心事に共感できるような親密感を生み出すことによって、質的研究者が参加者と親しくなる必要がある(Palys, 2003)
・コミュニティ・ベースのアクション・リサーチでは、リサーチャーの役割はリサーチを行う専門家ではなく、利害関係者が自分たちの問題を明確に定義し、自分たちに関係する問題の効果的な解決に向けて努力するのを支援する、触媒として機能するファシリテーターとなるリソース・パーソンの役割である(Stringer, 1999)

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