昨日に引き続き、以下の論文のレビューです。

論文はこちら(被引用数:91件 (2023年12月30日時点)) Cocco, S. (2006). Student leadership development: The contribution of project-based learning. Unpublished Master’s thesis. Royal Roads University, Victoria, BC.

今回は、Chapter 4:「アクション・リサーチ・プロジェクトの結果と結論」で、いよいよ研究結果のフェーズです。最終章は、パート1(学生視点)とパート2(企業視点)の2つで構成されています。
パート1は、学生の視点で、
「A. リーダーシップとは何か?」
「B. リーダーシップ開発を促進した側面」
「C. リーダーシップ開発を妨げる障害」
「D. リーダーシップ強化のための追加的な方法の推奨」
の4点について考察されています。
では、順番にまとめていきます。

A. リーダーシップとは何か?:では学生たちが、プロジェクト以外の生活やプロジェクトの経験の中で、リーダーシップをどのように定義しているのか、についての考察です。
インタビューから、学生達は、リーダーシップは特定の個人的特徴を持つ個人から生まれると考えている傾向があり、第2章で論じた個人優位の視点と一致しているとの考察がなされていました。
具体的には、リーダーシップとは、次のようなことができるリーダーであることを示していました。
1. リスクをとる
2. 集団にやる気を起こさせ、自分のやり方に従わせる
3. 同じ目標に向かうよう他人を説得する
4. イニシアチブを取る
5. 何が正しいか間違っているかを区別する
6. 他人の長所を見極める
7. フィードバックを提供する

ところが、面白いのが、プロジェクト・ワークの文脈でリーダーシップについて説明するよう求められたとき、学生の視点は、個人的優位のスキーマから関係性のスキーマへと変化していきます。

学生達は、リーダーシップとは、「相互に保持する目的を達成するための協力のプロセスである」と説明しています。
また、プロジェクトに基づく活動での最高のリーダーシップ経験については、以下の4つが挙げられていました。
(i)個人の強みに基づく参加
(ii)役職にとらわれないリーダー
(iii)役割の転換と包括的な参加
(iv)協力

i. 個人の強みに基づく参加
自分の長所と短所を洞察することの重要性は、何度も回答に現れました。
自分や他メンバーの得意分野を知ることで、それに基づき業務を割り当てたり、様々な仕事に全員が貢献できるようになったとのこと。
「自分の強みに最も適した方法で貢献できたからこそ、積極的なリーダーシップを経験できた」と7人の学生全員が明言していたそうです。
一方、得意分野だけでなく、不得意分野にも挑戦したことによる学びも起こったという意見もあり、領域を固定せずバランスをとることも重要なのだと思いました。
タスクの割り当てについては上記の通りですが、いずれにしても、自己や他者について強み・弱みを共有することは有利に働きそうです。

ii. 役職にとらわれないリーダー
これは、リーダーを選出したり、役職名をつけたりしないことで、学生がリーダーシップを経験する機会が得られたことを意味しています。
リーダーシップはリーダーだけが発揮するのではなく、役職のない人も含め全員が発揮すべきものですが、リーダーという役職が与えられると、その人に権限とリーダーシップが移行し、フォロワーがリーダーシップを発揮する機会が減ってしまいます。
ある学生は、「リーダーを決めないことで、みんなにリスクを背負わせることができる。常に肩書きがあると、人々は肩書きがあるからついてくるだけで、本当にあなたの考えを支持しているわけではないことがある。」と、また別の学生は、「正式な肩書きがないほうが、学生達はお互いに働きやすい」とも述べています。
私自身の経験でも、PBLの授業でグループを作る際、リーダーを決めさせたのは最初の年だけでした。2年目以降はリーダーを決めさせることなく(グループ内で勝手に決めたところはありますが)、進めたところ、全員発揮のリーダーシップに繋がりやすい感じがあったので、これは腑に落ちました。

iii. 役割の転換と包括的な参加
これは、学生たちが仲間だけでなく教員とも交流する中で、自分たちの役割、リーダーシップのあり方が変化していくことを示しています。例えば、学生のコメントでは以下のようなものがありました。
「自分の専門分野や強みに応じて、リーダーシップを変えることが何度もありました」
「ある面ではリーダー的でも、別の面ではそうでない人もいた。彼らが取り組む分野によって変わるものだった。ダイナミックだった。......結局のところ、それぞれの強みとコミットメントに基づいて協力し合うということでした」
「グループの一員として、リードすることもフォローすることも経験できる。グループのメンバーとして、リードすることとフォローすることの両方を経験することができます。」
強みとコミットメントに基づきリーダーシップを発揮し、状況に応じてリーダーシップとフォロワーシップの両方を経験する。良いグループワークの状況がありありとイメージできます。
そして、このような活動のためには、プロジェクトの複雑さが必要であると述べられています。
複雑だからこそ、全員が力を合わせる必要があり、その状況が、全員が何らかの形でリーダーシップを経験するような場になる、ということです。

iv. コラボレーション
学生同士が協力し合うことで、共同体意識が生まれ、それが積極的なリーダーシップの育成に欠かせないテーマとして繰り返し表れた、これをコラボレーションと表現しています。
一緒に過ごす時間が長くなるにつれてメンバーへの信頼感が生まれ、信頼関係の構築により、共同体感覚がチームの中でできていった。このプロセスは学生の以下のようなコメントで表現されています。
「信頼がグループを助けた。私は、リーダーシップの社会的側面は、技術的な知識よりも重要だと思う。言うべきことを言うためには、お互いを信頼しなければならない。フィードバックもできるようになる」
「好きな人や信頼できない人とは一緒に働けない。仕事の邪魔になる。例えば、嫌いな人や信頼できない人が良いアイデアを持っていても、そのアイデアではなくその人に不信感を抱いてしまうので、それを見ようとしないのです。」
仲間とコラボレーションし、協同する体験が最高のリーダーシップ経験であった。

続いて、B. リーダーシップ開発を促進した側面の考察です。
リーダーシップ開発を支援するPBLの特徴を分析すると、以下の5つの中心的テーマが抽出されました。
(i)経験学習の機会
(ii)リーダーシップ教育とリーダー研修
(iii)支援
(iv)グループのサイズ
(v)適応的状況への対処

i. 経験学習の機会
これは、リーダーシップは座学だけで学べるものではなく、リーダーシップを発揮する経験の場が必要だということです。体験活動は、学生が個人として、またグループとして、どのようにリーダーシップが生まれるのかを学ぶ機会を与えてくれます。
以下のような非常に納得感のある学生コメントが記されていました。
「本を読んだり、他の人がリーダーシップを発揮するのを見たりするだけでは、リーダーシップについて多くを学ぶことはできないと思います。リーダーシップは一方的なものではないと思います。実際、リーダーシップとは複雑で、社会的で、個人的なもので、自分が関与できるスキルを持つことだと思います。本や人から学ぶことは役に立つと思いますが、それはパズルの1ピースにすぎません。リーダーシップを経験することで、学び全体がまとまるのです。」

ii. リーダーシップ教育とリーダー研修
このテーマは、様々なリーダーシップ理論や技法について学ぶ機会が、リーダーシップ開発を促進することを指します。基本的な知識や情報があってこそ、学生のコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、チームワーク能力、組織能力、リスク・テイキング能力を高める土台となるわけです。武器を持たすことなく、いきなりプロジェクトに放り込むのは効率的ではない(むしろ危険)ということです。
当プロジェクトにおいては、「プログラムを開始する前に、2週間キャンパスでグループワークを行い、グループダイナミクスを理解し、プレゼンテーション、コミュニケーション、チームワークのスキルを磨いた。」という事例が紹介されていました。

iii. サポート
教授陣やピアサポートなどのサポート体制は、リーダーシップの成功には内外の励ましが必要であることを示唆しています。教員や学生からのサポートは、自信を育む。それにより挑戦しやすくなり、リーダーシップを発揮する機会が作られるということです。以下は学生のコメントです。
「教員は、私の質問に対してすぐに返事をくれるのが本当に良かった。良い指導をしてくれました」
「進捗報告ミーティングはとても役に立ちました。ミーティングをすることで、自分がどれだけ課題に取り組んでいるかを正直に評価することができ、リーダーシップの育成に間違いなく役立ちました」
「先生たちはとても優秀で、私たちを信頼してくれていたので、リーダーシップを発揮しやすい雰囲気でした。それは、先生たちが私たちにどのように話しかけ、私たちのプログラムについてどのように感じているかということです。自分たちがカレッジで最も厳しいプログラムのひとつにいることを理解し、それが私たちに自信を与えてくれるからでしょう。みんなに信頼されていると言われれば、それを信じるようになるし、リスクを冒して自分のスキルを伸ばす助けにもなる。」
こちら側は全力で学生を信頼する。また学生同士で信頼関係が醸成されるように促す。これが大事だなと思いました。

iv. グループの人数
グループの人数もリーダーシップ開発の観点です。当研究の場合、1人を除くすべての学生が、1グループ5人で行った活動を、リーダーシップの最良の例として挙げていました。
Aの役割の転換と包括的な参加で複雑性について言及がありましたが、チーム人数がある程度増えることで複雑性が増し、リーダーシップを発揮せざるを得ない状況が作られます。ただし、人数が多くなりすぎると社会的手抜きをする者が現れれるので、当論文の指摘通り5人くらいが適切なのかもしれません。
「2人組のグループでは、リーダーシップの例はあまり思い浮かびませんでしたが、大人数のグループでは、リーダーシップを発揮する機会がたくさんありました。リーダーシップを発揮する機会が増え、全員がリーダーシップを経験できるようになりました。」

v. 適応的な状況への対処
適応的な状況に対処する能力は、生徒のリーダーシップをさらに高める原因となります。
当研究では、学生たちは、プロジェクトの意図しない方向転換を、利点とも障害とも捉えていました。
実際、特に外部の協力を得て行うPBLでは、このような状況はよく起こります。
予期せぬ適応的課題に直面した際には「これこそ学びの機会である」ことを学生に伝えることが非常に大事だなと感じました。
実社会では適応的状況の繰り返しなので、その対処能力を育む絶好の機会だと感じてほしいですね。
「土壇場での変更は、どのように受け止めるかにもよりますが、利点にも障害にもなりました。私にとっては、PBL活動はリーダーシップを開発する上で有益でした。プロジェクトの方向性を転換する方法を学ばなければなりません。現実の世界で、当初の計画通りに終わるプロジェクトを見たことがない。そこで一直線になることはなく、途中で外れるか、目的全体が変わってしまう。計画を立てるのはいいことだが、変化への備えは必要だ。例えば、何かを作っている途中でうまくいかないことに気づいたとき、どうするか。いや、違う方向に進まなければならない。」


C. リーダーシップ開発を妨げる障害では、(i)研究室へのアクセス不足と、(ii)コミュニケーションに関するリーダー研修の不足が挙げられました。

i. 研究室へのアクセス不足
リーダーシップ開発を妨げる可能性として、まず挙げられたのは、研究室へのアクセスが十分でないことでした。ただし、これは理系の学部だからこそなのかなとも感じました。

ii. コミュニケーションに関するリーダー研修の不足
2点目は、コミュニケーションに関するリーダー研修の不足です。
「コミュニケーション不足は、プロセスが崩壊するため、リーダーシップの妨げになる」
とのコメントがあるように、グループでプロジェクトを進める上で、コミュニケーションは非常に重要な位置を占めます。そして、そのコミュニケーション能力を伸ばす機会がもっと欲しいという意見として、学生コメントの中から表出してきています。
「グループ内のコミュニケーション不足により、他の人たちと一緒に働きたくなくなることもある。問題を話さずに決めつけると、コミュニケーションが弱くなる」
「グループ内では、人ではなく、いかにアイデアをぶつけるかに集中する必要がある。アイデアをぶつけ合うことで、より良いアイデアが生まれるからです。コースによっては、人ではなくアイデアを攻撃する方法を学ぶことができましたが、これは難しいことです。」
これは正に心理的安全性ですね。コミュニケーションと合わせて、この要素も事前に学習する機会を設けることが良さそうです。

パート1の最後は、D. リーダーシップ強化のための追加的な方法の推奨です。
PBL活動の中に、リーダーシップ開発を強化するために改善した方が良い要素について以下の3点が挙げられました。
(i)外部関与の増加
(ii)グループや個人的な振り返りを行う
(iii)教員によるグループ分けを行う

i. 外部関与の増加
学外の人々と接する機会を増やすこと。このテーマには以下の3つのサブテーマが含まれます。
(a)学際的なプロジェクト活動、(b)産業界との関わり、(c)後輩の指導

a. 学際的なプロジェクト活動
他学部の学生や、他大学の学生と学際的なプロジェクトワークを実施することで、さまざまな世界観を持つ学生とのコミュニケーション能力を高めることができるということです。
学部の多い大学では同大学内で実現できそうですね。単科大学では他学とののコラボになり、ハードルは一気に上がる気がしています。
「ビジネス系の学生とのコラボレーションは少し居心地が悪いが、多くのことを学べると思う」
とのコメントにもあるように、同じキャンパスで様々な学生が様々な分野のことを学んでいる大学という場は、工夫次第でもっと学祭的な学びの場が作れるのかもしれません。

b. 産業界の関与
産業界の関与は、むしろPBLの必須条件でもある気はしますが、もっとこの機会が欲しいということなのだと思います。学生だけではわからない専門的なアドバイスなどもくれたり、社会の実情などを教えてくれたりするので、この接点は増やした方が良さそうです。

c. 後輩の指導
「学んだことを共有するために、1年生や2年生と話ができることは、自分自身のリーダーシップ開発に役立つだろう」とのコメントにもあるように、メンターとして後輩を指導することもまた、リーダーシップ開発を促進する可能性があります。
これは、立教大学のBLPなどがうまく実現していますね。自分もやりたいと思いながらできていない点。いつか取り入れてやってみたいです。

ii. グループおよび個人的な振り返り
グループとして、また個人として、報告する時間を取ることも、リーダーシップ開発の重要な要素です。
これも経験学習サイクルを考えると、必須ですね。そして内省は個人とグループの両方で行う。
ただ、以下のようなコメントにもある通り、フィードバックの仕方や受け止め方についてきちんと教えていないと関係性が悪化するなどの問題が生じる可能性がありそうなので、注意した方が良さそうです。
「フィードバックは素晴らしいが、友人と一緒に仕事をしている場合はそうではない。良いフィードバックの仕方を教わり、それを真剣に受け止めることを学ばなければなりません。私たちのグループでは、小さな問題が大きな問題に発展することがあります。週1回の報告会は多すぎるかもしれませんが、2、3週間に1回くらいはいいでしょう。」

iii. 教員割り当てグループ
最後は、グループ編成について。どの学生がどのグループに属するかは、教員が決める必要があるということです。いつもの友達とのグループ編成だと、馴れ合いになってしまい真剣さに繋がらないこともあるという意見が出ていました。


続いて、パート2では、雇用者の視点として、企業側へのインタビュー結果からの考察が書かれています。
「新入社員がリーダーシップを身につけるためには何が必要か」という問いへの返答から、以下の次の5つのテーマが浮かび上がったとのことです。
(i)フィードバック
(ii)機会
(iii)協力
(iv)リソース
(v)コーチングとメンタリング

i. フィードバック
学生の回答でも雇用者の回答でも際立っていたのがフィードバック。
これは、学生のリーダーシップ能力の開発のためには、企業からのフィードバックの提供が必要なことを裏付けています。
ある雇用主は、「彼らが貢献し続けられると自信を持つためには、キャリアの早い段階で成功を収める必要がある」と述べているように、企業側からいただくポジティブフィードバックは、学生に自信を与え、それが社会に出てからもリーダーシップを発揮することにも繋がるのでしょう。

ii. 機会
これは、リーダーシップ開発において、リーダーシップを発揮する機会が必要ということです。
論文の中で、ある企業担当者は、上司の反対がありつつも学生に仕事を任せ、結果的にそれが良い成果をもたらした。その経験が学生にリーダーシップを身につけるチャンスとなった、と回答しています。
大手企業でルーチンだけに従事するのではなく、裁量権多く色々と任せてくれる企業の方が、若手は育つという話を思い出しました。

iii. コラボレーション
こちらも学生と企業双方の回答者が繰り返し述べている項目で、全てのリーダーシップ開発プログラムにコラボレーションを組み込む必要性が示唆されています。
要は、学生がプロジェクトに取り組む際に、組織内の他の人々と協力する必要があるということ。
ある雇用主は、「彼らの上司として、最終的にプロジェクトに関与することになる組織内の他の人々を取り込むように促すことが重要でした。そうすることで、思考がタスク指向のアプローチからプロセス・アプローチに移行するのです」と述べています。
コラボレーションの範囲については、自分を中心に徐々に広げていくアプローチが有効な気がしました。

iv. リソース
続いてがリソース。これには、研究室、ソフトウェア、マニュアル、過去の図面などのプロジェクト・ツールなどが含まれます。
個人的には、ゲームをクリアするための武器やアイテムというイメージを持っています。
より現実的には、マーケティング戦略を考えるプロジェクトであれば、マーケティングのフレームワークや事例などもそれに当たるでしょうし、リーダーシップの様々な知識を与えることも、当然リーダーシップ開発のリソースとなり得るでしょう。

v. コーチングとメンタリング
最後に、コーチングとメンタリング。企業も、タスクを与えるだけでなく、メンタリングやコーチングの役割を果たす方が、リーダーシップの育成につながるということです。これも容易にイメージできると思います。
また、企業と学生の関係性だけでなく、企業内の上司・部下でも同様だと思います。

---ここまで---
非常に学びの多い論文でした。
どのようなPBLプログラムが、学生のリーダーシップ開発を促すのか、それを学生と企業双方の目線から得ることができました。
ここで得た示唆は、自分の授業でもどんどん取り入れていきたいと思います。

リーダーシップは、理論や手法を教えるだけでは、複雑性に満ちた実社会ですぐに活かせないことが多い。このような適応的課題だらけの社会でリーダーシップを発揮できるようになるためには、そのような課題に直面し、学んだ理論や手法を活かして課題を解決する「経験」が必要。
そういう学びの場として、PBLはうまく活用できるということです。

【メモ】
「アクションラーニングが組織のあらゆるレベルにわたってリーダーシップを開発するために、世界中の企業が採用している最も強力なツールの1つである」(Marquardt, 2000)
「多くの育成プログラムが優れたテクニカルトレーニ ングを提供しているが、企業文化のダイナミクスを形成する組織の社会的・対人的側面は、伝統的なリーダーシップ育成アプローチでは放置されている」(Dilworth, 1996)

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