学生の多くが、大学卒業後、入社した瞬間に「働く上での問題」に直面します。
ウォートンスクールのMichael Useem教授は、これをHumbling Effectと呼んでいます。
※調べても出てこなかったのであまり有名にはなっていないのかもですが、私の解釈では、企業ニーズに自身の能力が足りていないことを認識し、心をくじかれる現象のことだと思います
この問題を解決すべく、学生が持つ能力(供給)と企業側のニーズ(需要)を見極め、教育的示唆を提供しているのがこちらの一冊。

書籍はこちら(被引用数:91件 (2024年1月20日時点))
theBasesofCompetence
Evers, F. T., Rush, J. C., & Berdrow, I. (1998). The bases of competence: Skills for lifelong learning and employability. San Francisco.

内容を端的にまとめると、まず、大学生のスキルと企業ニーズのマッチングについて調べるため、Making the Matchプロジェクトという調査が実施されました。
これは、オンタリオ州の5つの大学の学生816名と、カナダの20の企業で働く794名を3年間に渡って追跡調査するというかなり大掛かりな調査です。
大学生、卒業生、大学教員、企業管理職と様々な層へのインタビュー及び質問紙調査から、社会で必要となる18のスキルが特定され、それらを4つのコンピテンシーに分類しています。それがこちら。
Competencies_skills
更に、これらのスキル・コンピテンシーについて、分析対象者を5つに分類し、その差などについても分析されています。
※グループ:①大学入学後すぐの学生、②卒業前の学生、③就職1年目、④転職後2~6年目、⑤就職後7年以上経過

これらの分析の結果、以下のような示唆が得られました。
【分析からの示唆】
・職場で必要とされるベース・コンピテンシーは、「自己管理」、「コミュニケーション」、「人と仕事の管理」、「イノベーションと変化の促進」である
・これらのコンピテンシーは、現代の職場で使用される非技術的スキルの集合体である(専門知識よりもジェネラルスキルが重視されていた)
・4つのコンピテンシーには階層があり、「コミュニケーション」と「自己管理」は、「人と仕事の管理」と「イノベーションと変化の促進」の前提条件である
・教育と雇用の間にはスキル格差が存在し、最も需要のあるスキルは、最も供給されていない
・特に、「人と仕事の管理」と「イノベーションと変化の促進」に含まれるいくつかのスキルは、コンピテンシー評価では一貫して低得点であったが、職場での需要は高い(ギャップ大)
・「コミュニケーション」については、女性の方が男性よりも自己評価が高く、マネジャーからの評価も高い
・「イノベーションと変化の促進」については、男性の方が女性よりも優れており、マネジャーからの評価も高い
・最も困難な転換期が入社1年目に訪れる

【教育に対する示唆】
・全ての人が創造的な教育の機会を利用できるようにすることで、学習意欲を育まなければならない
・学生の自己認識と自尊心のレベルを上げることを優先すべきである
・学習の基本的な動機は、興味と所属である
・教育は、学生のプログラム選択やキャリアの方向性へと発展する興味を養わなければならない
・学生は、自分の教育が地域社会に満足のいく貢献をするのに役立つと感じる必要がある
・コーチやファシリテーターとしての教師、組織化されたグループ・プロジェクト、情報技術、さまざまな形の体験学習など、学習者のニーズに基づいた現代的なシステムを構築するのに役立つ教育は進歩している
・カナダのCo-opプログラムのような体験学習によって、入社時に直面するスキルの問題を和らげることができる


高等教育の卒業生が必要とするジェネラルスキルの共通言語化し、高等教育や職場研修の実務者にお届けするのは非常に価値のあることだと思いました。
卒業生は、入社後、職場の需要に対応するために、OJTや正式な訓練を通じて再教育されることが多いとされていますが、それをもっと前倒しして、学校教育でも教えられるようになるべきでしょう。
筆者らは、コンピテンシー・ベースの教育とトレーニングがそれに当たると述べ、事例としてカナダのCo-op教育が紹介されていました。
※Co-op教育とは、企業と大学が協力して学習プログラムを運営すること。インターンシップは企業側主体であるが、Co-op教育は大学側主催のプログラムのこと

自分が大学で担当している産学官連携のPBLの授業は、「インターンシップ」という名称ではあるものの、やっていることはCo-op教育そのものだと思いました。
大学から企業へのトランジション課題を解決するべく、本書で示されたコンピテンシーの育成に資する授業をもっと磨いてやっていきたいです。
Co-op教育についてももうちょっと調べてみよう。

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