高校におけるPBL型の環境学習の一連の流れが記載された論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:116件 (2024年2月10日時点))
Derevenskaia, O. (2014). Active learning methods in environmental education of students. Procedia-Social and Behavioral Sciences, 131, 101-104.

当PBLの授業概要についてざっくりまとめます。

【授業概要】
・実施時期:2010年~2012年
・参加者:高校生30人(2グループ)
・プロジェクトテーマ:カザン市のカザンカ川の生態学的状態を一連の指標に基づいて評価
PBLの一連の流れ(準備、計画、調査、結果の取得、結論の導出、結果とプロセス)が表で整理され紹介されています。それがこちら(table.1)
table1
1.準備
・問題とそれに続く目的・目標の特定
・仮説の設定
・調査方法の議論
・教師の指示に従い、この問題に関する情報を探索
 ・河川汚染の主な原因は、雨水と河川敷の汚水機械化作業であるという仮説が立てられた
 ・新聞や雑誌の記事、インターネットなど、利用可能な情報源はすべて利用した

2. 計画(仮説を検証するために調査計画立案)
・情報源の特定   ・情報の収集と分析方法の決定
・結果の発表方法の決定 
・結果とプロセスを評価するための手順と基準の確立 チームメンバー間のタスク(任務)の分担
 ・サンプリング地点は、汚染水の発生源の上流、影響地点、下流を選定
 ・サンプル採取の頻度や調査する設定など

3. 調査
・データの収集
・中間目標の解決
 ・生徒はサンプルの採取方法、物理的・化学的パラメーターの簡単な測定を行う装置での作業を実践的に学び、サンプルの保存方法、サンプルの調製、水生生物の種構成、その存在量とバイオマスにも慣れた
 ・生徒は実習のテクニックを学び、生物学、生態学に関する新しい知識を得た

4. 資料の分析と結論
・データ分析
・結論の記述
 ・ここでは、ほとんどの生徒が創造的な努力を必要とする
 ・資料の分析には、(カリキュラムで要求されているよりも)より深い学習が必要とされることが多い
 ・教育や研究で使われる新しい方法を開発したり、新しいコンピューター・プログラムを開発したりする必要がある
 ・原稿を作成し、プレゼンテーションを行い、プロジェクトは終了する

5. 結果とプロセスの評価
・最終的な結論を出す
・総括、調整、最終結論
 ・さまざまな学会やコンペティションで得られた成果を公に発表
 ・これは、研究の過程で得られたデータを明確に提示することを教えるだけでなく、自分の見解を守るためにも非常に重要な段階
 ・学会やコンペティションへの参加は、学生間の競争という要素も含んでおり、リーダーシップの形成や目標達成への努力に貢献し、研究活動を継続する動機付けとなる

上記の授業の一連の流れが示されていたことが一番の収穫でした。
また、PBLにはいくつもの利点がありますが、以下の3点が特に印象的でした。

①科目の統合
従来型の教育だと、学習が科目毎に、そして実社会とも分断されてしまっているがために、科目同士の繋がりや実社会でどのように活用するかということがイメージすることが難しくなってしまっていますが、PBLでは課題解決のために様々な科目を統合して思考する機会を与えます。

②創造性
「プロジェクトとは、具体的な行動、文書、プレテキスト、さまざまな種類の理論的成果物や実物を作成するためのアイデアの集合である。それは常に創造的な活動である」(Polat, Moiseeva, 1998)
従来型の教育では創造性を育む機会が少ないですが、PBLの活動はそのほとんどが創造的な活動であり、学習者の創造性を育む機会を提供します。

③実践的スキル
PBLは、実社会での探求・研究プロセスや、課題解決プロセスを自ら考え実践する機会を与えるため、それらの実践的スキルを培うことができます。
「研究の過程で、学生は環境に関連する学問分野(化学、物理)を学ばなければならないが、これによって学際的なつながりが強化され、研究のための体系的なアプローチが形成され、実践的なスキルが身につく」
「プロジェクト・テクニックは、科学書や学術書を扱う能力を形成し、研究問題の主要で本質的な側面に焦点を当て、仮説を提案し、検証し、自分の見解を擁護し、調査中の問題について自分の見解を述べることを教える」

欲を言えば学習効果の分析まで見てみたかったですが、改めてPBLの利点を理解できた論文でした。


【メモ】
「プロジェクト方式を使用するための基本的要件」(Mingazova 2008)
・創造性の観点から重要な問題が存在し、その解決には研究成果の総合的な知識が必要であること
・期待される成果の実用的、理論的、認知的意義
・学生の自主的な活動
・共同プロジェクトまたは個人プロジェクトの最終目標の特定、プロジェクトに取り組むために必要な様々な分野の基礎知識の特定
・プロジェクト内容の概説
・研究手法の応用 - 問題の特定と研究目的、その解決策の仮説、研究方法の議論、成果物、データ分析、要約、修正、結論

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