2つのPBL(Problem-based learningとProject-based learning)の学習デザインについて、それぞれの歴史的背景や教育原理を明らかにしつつ、どのような学習原則に沿って活動がデザインされているかを調査した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:56件 (2024年2月12日時点))
湯浅且敏, 大島純, & 大島律子. (2011). PBL デザインの特徴とその効果の検討. 静岡大学情報学研究, 16, 15-22.

PBL関連の日本語の論文の中では、特に多く引用されている論文です。
教育学史の歴史的背景に始まり、両PBLの概要、特徴の比較、学習デザインの評価という項目でまとめられています。
印象に残った部分をメモしておきます。

【両PBLの学習デザインの特徴】
・プロジェクト型:知識の適用(プロジェクトの成果物に比重)
・問題基盤型:新しい知識の獲得(学習サイクルプロセスに比重)
学習者が自らの学びをマネージしながら、真正性の高い課題に協調的に取り組み、教師はそのプロセスをサポートするファシリテータを担うという、活動デザインの根本の部分を共有していることが示された。その一方で、プロジェクト型学習では、プロジェクトの成果物が学習目標の大きな役割を占めるため、知識の適用により主眼が置かれるのに対し、問題基盤型学習では、学習サイクルのプロセスに大きな比重が置かれるため、新しい知識の獲得により主眼がおかれることが明らかとなった。

【学習科学の「学び」の知見から見たPBL】
80年代以降のアメリカ:情報の蓄積が学びという学習観から、知識を自力で構成するプロセスを学びとする構成主義への
◆L.S. Vygotsky
・他者とのインタラクションの中で構築される社会的な活動としての学習観として拡張
最近接発達領域を学習をサポートする要素として捉え直した
◆J. S. Bruner
・最近接発達領域を学習をサポートする要素として捉えなおし、足場かけ(Scaffolding)と名付けた
◆Jean Lave & Etienne Wenger
正統的周辺参加:リベリアの仕立て屋の徒弟制度など、実社会における生産活動を上記のフレームを用いて観察し、個人が実践共同体に参加する活動として学びを捉える分析を行なった

【2つのPBLの学習デザインの評価】
学習環境をデザインする4つの指針(Branford et al., 2000)の枠組みに基づき、両PBLの比較がまとめられていたので、表にまとめました。
2PBL_learning_design
このまとめによると、「学習者中心」「知識中心」という点ではどちらも同様の特徴を有していますが、「評価中心」と「コミュニティ中心」では若干の違いがあるようでした。
「コミュニティ」においては、プロジェクト型の方は、学校の枠を超えた活動が重要視され、この点が問題基盤型との違いと記載されていました。学外との調整が入る分、プロジェクト型の方が教師の負担は大きいかと推察します。(自身の体験からも分かります)
一方、「評価」については、問題基盤型の方は、学習サイクルを外化する道具の活用や、フィードバックが活動サイクルとして明示されており、形成的な評価が学習デザインに機能的に組み込まれていますが、プロジェクト型においては、それらの具体的なサポートや学習における認知プロセス自体が考えられていないと指摘されていました。
これは、問題基盤型の方がより「評価の型」のようなものが確立されているのかなと推察しました。この点はプロジェクト型の課題の一つなのかもしれません。ただ、これらの要素はプロジェクト型の方にも十分応用可能であると思いますので、問題基盤型の良い部分はプロジェクト型にも適用していけば良いと思いました。

最後にまとめではこのような課題の記述がありました。
医療教育は問題基盤型学習を中心に,工学系教育はプロジェクト型学習を中心に行われるという分断が起きており,それらの間で実践や研究の成果,具体的なデザイン要素が共有されていない場面も見受けられる.これはそれぞれの学習デザインが持つ歴史的背景の違いや,学習内容の領域固有性,産学連携など新しい教育の流れに起因しており,双方にとってより質の高い学習,教育を探究する機会の損失となっている. 更なる学習デザインの発展のため,コミュニティ間の交流や教育研究者による比較研究を通して双方の特性を明らかにし,さまざまな実践に柔軟に適応可能なデザイン原則を同定することが課題である.
この点はなるほどと思いました。
自分はプロジェクト学習を中心に研究しているので、問題解決型の方はざっくりと調べる程度でここまできていましたが、両PBLを調べることがより良いPBLの学習デザインにおいて重要なのだと理解できました。