PBL(Project-based Learning)を通した大学生のリーダーシップ開発についての論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:39件 (2024年2月15日時点))
Cain, K., & Cocco, S. (2013). Leadership development through project based learning. Proceedings of the Canadian Engineering Education Association (CEEA).
リーダーシップについての2つのモデル、伝統的なヒエラルキー型マネジメントモデルとフラットマネジメントモデル。
現代の産業界は、よりフラットでヒエラルキーの少ない構造に移行しつつあり(企業だけでなく軍隊なども!)、そこで求められるリーダーシップは、コラボラティブで流動的なシェアド・リーダーシップのようなモデルへと変化してきています。
そのようなリーダーシップモデルでは、リーダーだけでなく、フォロワーやチームメンバーの訓練も必要で、そのようなリーダーシップを育む学習手法として注目されているのがPBLです。
そう、「PBLは、このような非階層的なリーダーシップを導入するのに理想的な形式である」と筆者は述べています。
では、筆者の大学で実施されているリーダーシップ開発のPBLのモデルを見ていきましょう。
【授業モデル】
(ハイブリッドPBLモデル)
・コースベースのカリキュラムに年間プロジェクトを組み込んだ「ハイブリッドPBLモデル」
・プロジェクトに必要なリーダーシップスキルとして、グループ・ダイナミクス、プロジェクト・マネジメント、トピックス・イン・マネジメントなどの科目を、ジャスト・イン・タイムで提供
・学生はプロジェクトの中でリーダーシップを自由に探求し、実践する
(グループ・ダナミクス基礎コース)
・1年次の工学プロジェクトに取り組む前に、グループワークとグループワークの背後にある理論を探求できるよう、毎年8月末に対人関係のスキルと、グループがどのように協力し合うかを学ぶコース(3単位、3週間のコース)を戦略的に配置
・学生は4人組の各チームで、様々なポジション(リーダー、レコーダー、レポーター、アナリスト)をローテーションし、そのパフォーマンスを指導・評価することで、チーム・ワークの理論について学ぶ
(プロジェクト・マネジメント)
・プロマネの主要概念を含むコースは、プロジェクト学習カリキュラムを成功させるための重要な要素
・この科目の位置付けは、プロジェクトの時期や必要なプロジェクト計画の量に左右される
・例:1年次のプロジェクトでは、学生は明確な設計要件と非常に詳細なタスクリストに従うことになるため、多くのプロジェクトマネジメントスキルを適用する必要はないかもしれないが、プロジェクトの要件が一般的なガイドラインと主要なマイルストーンに過ぎない場合、学生は、目的とタスクを積極的に決定し、プロジェクトの期限を守るために適切な時間とリソースを正しく使用する方法を学ぶ必要がある
(年次プロジェクト)
・学部課程の4年間にそれぞれ1つずつプロジェクトが実施される
・各プロジェクトは、現在進行中のコースから可能な限り多くの教材を統合
・fig1は、プロジェクトを中心とし、コースとプロジェクトがどのように統合されるかを示す
・PBLのハイブリッド・モデルは、全ての成果をプロジェクトそのものを通じて提供するのではなく、PBLプロジェクトの周辺に存在するコースに依存
(1年次プロジェクト)
・学生が工学の基礎理論を応用し、リーダーシップやチームワークに関わる役割を試すための導入
・プロジェクトでは、5人のグループで「ロボットクレーン」の再設計、製造、制御を完成させる
・プロジェクトの課題とタスクは、プロジェクト・コーディネーターとコース担当教員の両方から割り当てられる
・プロジェクトに参加した学生の評価も共有される
・ここでは、各タスクのチームリーダーがグループメンバー間で交代する
・プロジェクトの授業では、週1回の状況報告と反省会が定期的に行われる。
(2年次プロジェクト)
・1年次の教材や同時進行の授業科目を使用
・3人のグループが、小型成形プレス機と連動する「ピック&プレイス」ロボットを設計・製作
・プロジェクトの成果物とマイルストーンは、プロジェクトとコースの教員によって指定されるが、学生はプロジェクトの設計においてより創造性を発揮することができ、管理/指導体制においてより大きな自由裁量を持つ
(3年次プロジェクト)
・大規模なグループ・プロジェクト(12~20人)に参加
・学生は、実際の産業界のパートナーに、「実世界」の機械のプロトタイプを設計し、製作
・サブコンポーネントの設計を容易にするため、クラスは小グループに分かれる
・プロジェクト・コーディネーターは、コーチおよび指導者の役割を果たす
・学生たちは、顧客やサプライヤーとのやり取りを頻繁に求められる
・指導的な仕事は正式に割り当てられたり、持ち回りになったりすることはないが、学生は通常、目の前の仕事に関する自分の強みによって、非公式に指導的な役割を分担したり、交代したりする
(4年次プロジェクト)
・キャップストーンPBLプロジェクト
・12〜20人のグループに分かれ、製品を設計し、その経済的実現可能性を検証し、その製品を製造する工場のシミュレーションを開発
・学生はサブグループに分かれ、大型アセンブリのサブコンポーネントや設計の構造に焦点を当てる
次に、研究です。
【PBLにおけるリーダーシップの質的検証】
研究は上記のようなまとめとなっており、量的な調査は実施されていませんでした。
筆者は、「リーダーシップのあらゆる側面を評価することは困難であり、リーダーシップの明確な定義の欠如や、例えば、状況の変化に迅速に適応する能力や、曖昧さが存在する中で意思決定を行う能力などのスキルを測定することの難しさに起因している」と述べられていました。
リーダーシップの量的調査の困難さはリーダーシップ研究の課題なのかもしれません。
最後に、既存の教育フレームワークの中におけるPBLの実施というテーマで、実践する上での課題などについて書かれていました。
この他、100人など規模を拡大するのは困難な場合が多いことについても言及されていました。
ここまでがざっくりしたまとめです。大学のPBLを中心とした授業モデル(ハイブリッドPBLモデル)の全体像を見ると、その全学的な取り組みのすごさをヒシヒシと感じました。
1〜4年までの各年次でPBLの授業があり、そこでのプロジェクトに必要な知識やスキルをタイムリーに連動する別授業で学んでいき、プロジェクトでの活動に活かしていく。
そりゃこのモデルで4年間学ぶことができれば学生は育つだろうなと、そう思える構造でした。
自分の場合は、単独で1つの授業でPBLを行っているので(別授業とも連携はしていますが、多少です)、自身の限界を理解できたと共に、今後の発展のためのヒントをいただけたと感じています。
特に、以下の2点が大きな収穫でした
・現代に求められる非階層的なリーダーシップを学ぶ手法としてPBLは理想的な形体であること
・PBLを中心に据え、他の授業と連携しながら行うハイブリッドPBLモデルという全学的な取り組み
【メモ】
「コース間の統合とプロジェクト全体を見渡す能力により、学生は全体像を学ぶことができ、チームワークや効果的なリーダーシップなど、多くのソフトスキルに触れることができる」
「アクティブラーニングやPBLで向上する資質」
「学部課程の初めの段階では、学生は、対人関係のスキルと、より大きな目標を達成するためにグループがどのように協力し合うかを学ぶことが重要である」(Raelin, 2006)
論文はこちら(被引用数:39件 (2024年2月15日時点))
Cain, K., & Cocco, S. (2013). Leadership development through project based learning. Proceedings of the Canadian Engineering Education Association (CEEA).
リーダーシップについての2つのモデル、伝統的なヒエラルキー型マネジメントモデルとフラットマネジメントモデル。
現代の産業界は、よりフラットでヒエラルキーの少ない構造に移行しつつあり(企業だけでなく軍隊なども!)、そこで求められるリーダーシップは、コラボラティブで流動的なシェアド・リーダーシップのようなモデルへと変化してきています。
そのようなリーダーシップモデルでは、リーダーだけでなく、フォロワーやチームメンバーの訓練も必要で、そのようなリーダーシップを育む学習手法として注目されているのがPBLです。
そう、「PBLは、このような非階層的なリーダーシップを導入するのに理想的な形式である」と筆者は述べています。
では、筆者の大学で実施されているリーダーシップ開発のPBLのモデルを見ていきましょう。
【授業モデル】
(ハイブリッドPBLモデル)
・コースベースのカリキュラムに年間プロジェクトを組み込んだ「ハイブリッドPBLモデル」
・プロジェクトに必要なリーダーシップスキルとして、グループ・ダイナミクス、プロジェクト・マネジメント、トピックス・イン・マネジメントなどの科目を、ジャスト・イン・タイムで提供
・学生はプロジェクトの中でリーダーシップを自由に探求し、実践する
(グループ・ダナミクス基礎コース)
・1年次の工学プロジェクトに取り組む前に、グループワークとグループワークの背後にある理論を探求できるよう、毎年8月末に対人関係のスキルと、グループがどのように協力し合うかを学ぶコース(3単位、3週間のコース)を戦略的に配置
・学生は4人組の各チームで、様々なポジション(リーダー、レコーダー、レポーター、アナリスト)をローテーションし、そのパフォーマンスを指導・評価することで、チーム・ワークの理論について学ぶ
・4人の生徒で構成される各チームが、エグゼクティブ、レビュー、ティーチング、評価、エナジャイザーなどの状況やレッスンをローテーションで行う
・例:チームリーダーの役割と責任
・例:チームリーダーの役割と責任
1. チームミーティングを招集し、議長を務め、チームメンバーと相談しながら議題を作成する
2. 個々のチームメンバーがそれぞれの責任を果たし、チーム全体がその責任を果たすようにする
3. 必要に応じて他のチームリーダーと連絡を取る
4. チームミーティングの最後に、チームの進捗状況をコンサルタント(教授)にメモとして提出する
5. チームフォルダーが最新の状態で整頓され、すべての授業終了時に提出されていることを確認する
6. すべてのチーム報告書を確認し、適切に記入されていることを確認する
7. 評価セッション中、チームが受けたフィードバックを記録する
8. 期末には、すべての報告書を回収し、「リーダー報告書」とともに提出する
(プロジェクト・マネジメント)
・プロマネの主要概念を含むコースは、プロジェクト学習カリキュラムを成功させるための重要な要素
・この科目の位置付けは、プロジェクトの時期や必要なプロジェクト計画の量に左右される
・例:1年次のプロジェクトでは、学生は明確な設計要件と非常に詳細なタスクリストに従うことになるため、多くのプロジェクトマネジメントスキルを適用する必要はないかもしれないが、プロジェクトの要件が一般的なガイドラインと主要なマイルストーンに過ぎない場合、学生は、目的とタスクを積極的に決定し、プロジェクトの期限を守るために適切な時間とリソースを正しく使用する方法を学ぶ必要がある
(年次プロジェクト)
・学部課程の4年間にそれぞれ1つずつプロジェクトが実施される
・各プロジェクトは、現在進行中のコースから可能な限り多くの教材を統合
・fig1は、プロジェクトを中心とし、コースとプロジェクトがどのように統合されるかを示す
・PBLのハイブリッド・モデルは、全ての成果をプロジェクトそのものを通じて提供するのではなく、PBLプロジェクトの周辺に存在するコースに依存
(1年次プロジェクト)
・学生が工学の基礎理論を応用し、リーダーシップやチームワークに関わる役割を試すための導入
・プロジェクトでは、5人のグループで「ロボットクレーン」の再設計、製造、制御を完成させる
・プロジェクトの課題とタスクは、プロジェクト・コーディネーターとコース担当教員の両方から割り当てられる
・プロジェクトに参加した学生の評価も共有される
・ここでは、各タスクのチームリーダーがグループメンバー間で交代する
・プロジェクトの授業では、週1回の状況報告と反省会が定期的に行われる。
(2年次プロジェクト)
・1年次の教材や同時進行の授業科目を使用
・3人のグループが、小型成形プレス機と連動する「ピック&プレイス」ロボットを設計・製作
・プロジェクトの成果物とマイルストーンは、プロジェクトとコースの教員によって指定されるが、学生はプロジェクトの設計においてより創造性を発揮することができ、管理/指導体制においてより大きな自由裁量を持つ
(3年次プロジェクト)
・大規模なグループ・プロジェクト(12~20人)に参加
・学生は、実際の産業界のパートナーに、「実世界」の機械のプロトタイプを設計し、製作
・サブコンポーネントの設計を容易にするため、クラスは小グループに分かれる
・プロジェクト・コーディネーターは、コーチおよび指導者の役割を果たす
・学生たちは、顧客やサプライヤーとのやり取りを頻繁に求められる
・指導的な仕事は正式に割り当てられたり、持ち回りになったりすることはないが、学生は通常、目の前の仕事に関する自分の強みによって、非公式に指導的な役割を分担したり、交代したりする
(4年次プロジェクト)
・キャップストーンPBLプロジェクト
・12〜20人のグループに分かれ、製品を設計し、その経済的実現可能性を検証し、その製品を製造する工場のシミュレーションを開発
・学生はサブグループに分かれ、大型アセンブリのサブコンポーネントや設計の構造に焦点を当てる
次に、研究です。
【PBLにおけるリーダーシップの質的検証】
・リーダーシップに関する学生の見解と、PBLプログラムがチーム内でリード&フォローする能力にどのような影響を与えたかを明らかにするために、1対1の学生インタビューを実施
・学生は3年生の少人数グループで、合計7人
・学生は3年生の少人数グループで、合計7人
・学生たちにプロジェクトの文脈におけるリーダーシップについて質問したところ、リーダーシップの役割と活動について洞察に満ちた理解を示す4つのテーマが得られた
①個人の強みに基づく参加
①個人の強みに基づく参加
②ノンポジション・リーダー/権威なきリーダーシップ
③役割の転換と包括的参加
④コラボレーション
・セクション1に挙げられたリーダーシップ活動については、すべての学生が少なくとも一人は言及しており、多様性への認識、コミュニケーションス・スキル、意思決定、権力の共有など、いくつかの活動については、ほとんどの生徒が言及していた。予想通り、チームワーク・スキルはすべての生徒が言及していた(table1)。
研究は上記のようなまとめとなっており、量的な調査は実施されていませんでした。
筆者は、「リーダーシップのあらゆる側面を評価することは困難であり、リーダーシップの明確な定義の欠如や、例えば、状況の変化に迅速に適応する能力や、曖昧さが存在する中で意思決定を行う能力などのスキルを測定することの難しさに起因している」と述べられていました。
リーダーシップの量的調査の困難さはリーダーシップ研究の課題なのかもしれません。
最後に、既存の教育フレームワークの中におけるPBLの実施というテーマで、実践する上での課題などについて書かれていました。
何よりももまず、時間と費用がかかることです。
・毎週の定期的なコミュニケーションは必須
・PBLの学習コストは、必要な教員の時間が増えるため、従来の講義よりも高くなる(プロジェクト時間内のメンタリングやコーチング、教員のグループミーティングも含まれる)
次に、「教員のコミットメント」問題です。
このPBLモデルでは、多くの授業がプロジェクトを中心に連結した設計となっているので、他の教員との連携は必須。そのため、他教員の授業へのコミットメントが成功の鍵を握っています。
しかしながら、以下のような状況が述べられています。
・教員の自律性の低下、産業界での実務経験の不足、必要な時間的制約のため、教員による確固とした継続的なコミットメントを得ることはしばしば困難である
・教員チームとのコミュニケーション不全は、学生チーム内のコミュニケーション不足と同様、いやそれ以上に有害である
・教員は産業界でほとんど、あるいは全く経験を積んでいないことが多くなっており、このことが、非常に専門的な研究領域から一歩踏み出すことの難しさにつながっている(Graham, 2010)
・PBLの学習コストは、必要な教員の時間が増えるため、従来の講義よりも高くなる(プロジェクト時間内のメンタリングやコーチング、教員のグループミーティングも含まれる)
次に、「教員のコミットメント」問題です。
このPBLモデルでは、多くの授業がプロジェクトを中心に連結した設計となっているので、他の教員との連携は必須。そのため、他教員の授業へのコミットメントが成功の鍵を握っています。
しかしながら、以下のような状況が述べられています。
・教員の自律性の低下、産業界での実務経験の不足、必要な時間的制約のため、教員による確固とした継続的なコミットメントを得ることはしばしば困難である
・教員チームとのコミュニケーション不全は、学生チーム内のコミュニケーション不足と同様、いやそれ以上に有害である
・教員は産業界でほとんど、あるいは全く経験を積んでいないことが多くなっており、このことが、非常に専門的な研究領域から一歩踏み出すことの難しさにつながっている(Graham, 2010)
この他、100人など規模を拡大するのは困難な場合が多いことについても言及されていました。
ここまでがざっくりしたまとめです。
1〜4年までの各年次でPBLの授業があり、そこでのプロジェクトに必要な知識やスキルをタイムリーに連動する別授業で学んでいき、プロジェクトでの活動に活かしていく。
そりゃこのモデルで4年間学ぶことができれば学生は育つだろうなと、そう思える構造でした。
自分の場合は、単独で1つの授業でPBLを行っているので(別授業とも連携はしていますが、多少です)、自身の限界を理解できたと共に、今後の発展のためのヒントをいただけたと感じています。
特に、以下の2点が大きな収穫でした
・現代に求められる非階層的なリーダーシップを学ぶ手法としてPBLは理想的な形体であること
・PBLを中心に据え、他の授業と連携しながら行うハイブリッドPBLモデルという全学的な取り組み
【メモ】
「コース間の統合とプロジェクト全体を見渡す能力により、学生は全体像を学ぶことができ、チームワークや効果的なリーダーシップなど、多くのソフトスキルに触れることができる」
「アクティブラーニングやPBLで向上する資質」
1. 社会的、市民的、政治的、倫理的、多様性に対する意識
2. リスクを取る意欲
3. コミュニケーション能力
4. チームワーク能力
5. 目標設定と意思決定能力
6. 自尊心と自己理解
7. 問題解決能力と批判的思考能力
8. 紛争解決
9. 権力を共有する可能性
「すべての学生が学校教育のある時点でリーダーになるよう奨励されるべきであり、指導することは学習プロセスの重要な部分である」(Lambert, 2003)
「すべての学生が学校教育のある時点でリーダーになるよう奨励されるべきであり、指導することは学習プロセスの重要な部分である」(Lambert, 2003)
「学部課程の初めの段階では、学生は、対人関係のスキルと、より大きな目標を達成するためにグループがどのように協力し合うかを学ぶことが重要である」(Raelin, 2006)
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