職場学習に関する最近の研究をテーマ別にレビューした論文のレビューです。
長いので3回に分けてまとめます。今回は第2章セクションIの1.2です。
論文はこちら(被引用数:1,855件 (2024年3月15日時点))
Tynjälä, P. (2008). Perspectives into learning at the workplace. Educational research review, 3(2), 130-154.
セクションIでは、「職場学習について何が分かっているのか?」という問いの下、職場組織における仕事活動に関連した学習の特徴に焦点を当てながら、職場学習全般について調査したレビューで、以下の4つの内容がまとめられています。
①職場学習の性質は、学校での学習とは異なる部分もあり、似ている部分もある
②職場学習は、個人からネットワークや地域まで、さまざまなレベルで説明できる
③職場学習は、インフォーマルとフォーマルの両方がある
④職場は、どのように学習をサポートするかで大きく異なる
今回は①と②のまとめです。
では、個別に見ていきます。
2.1. 職場での学習の性質は、学校での学習と異なる部分もあり、似ている部分もある
2.1.では、学校でのフォーマル教育と職場でのインフォーマル教育の違いについてまとめられています。学校と学外での学習の違いは、それらをシームレスに繋げるヒントが書かれているようにも感じました。(学校でも様々な道具を使い、出来事などの文脈を用いてその状況に応じた能力や推論を養う等)
また、学校と職場を繋ぐ手法としてWork-Based learningの概念が示され、そこにPBLも含まれていることも嬉しい発見でした。
【学校での学習と学校外での学習の4つの違い】(Resnick, 1987)
①学校での学習は個人的な活動が中心であるのに対し、学校外での学習は社会的な共有が中心
・仕事では多くの活動が他者との協働を必要とし、各人がうまく機能するかどうかは、複数の個人のパフォーマンスに左右される
②学校では精神的な活動が重視されるのに対し、実生活ではさまざまな道具を使う
・伝統的な学習評価は記憶だけに基づいており、本やノート、電卓、その他の道具の使用は通常認められていない
③学校での学習は記号の操作によって特徴づけられるが、それ以外の学習は文脈に基づく推論によって特徴づけられる
・学校以外の場では、必ずしも記号で表現しなくても、物や出来事を直接使って推論することが多い(日常的な数学では、計算過程の一部として実際の物理的な物体を使うことがあるが、学校での数学は純粋に数字を使っている)
④学校での学習は一般化された技能や原則の習得を目指すのに対し、学校外での学習は状況に応じた能力を育成する
【フォーマルな学習とインフォーマルな職場学習の違いのまとめ(Table1)】
・職場のインフォーマルな学習は、無計画で暗黙的で、しばしば共同的で高度に文脈化されており、学習結果は予測不可能
・学校でのフォーマルな学習や組織化されたOJTは、形式的で、計画的で、大部分が明示的で、個人の学習に重点が置かれ、学習結果は予測可能であることが多い
・フォーマル教育は、様々な状況に応用・移行できる一般的なスキルを身につけることを目的とする
・社会生活で真の専門家になるためには、状況に応じた能力を身につける必要があり、それは本物の状況においてのみ可能である
・状況特有の学習は、それ自体では非常に限界があり、ある状況下で学んだことは、別のタイプの状況下には容易に移行できない
・職場は、正式な社員研修の場としても機能する。近年、企業の研修プログラムでは、大学の役割が重要視されることが多い。
・Robertson(1998)は、インタラクティブなビジネス・ラーニングについて述べており、そこでは、大学はキャンパスを越えて、学習を奨励する組織や職場にまでその範囲を広げている(Kautto-Koivula, 1999; Slotte & Tynja¨la¨, 2003)
・このような職場では、フォーマル研修が組織開発において重要な役割を果たしている
【Work-based learning】
・教育と職場との協力関係が深まり、新しい形態のwork-based learning(WBL)が登場すれば、両方の文脈における学習の性質が変化し、まったく新しい種類の学習機会が生まれる可能性がある(Candy & Crebert, 1991)
・WBLは、小規模な社会人生活プロジェクトを含む単一コースから、大学での学習という学問的枠組みから大きく逸脱したより包括的なプログラムまで、様々な形態で、様々なプログラムを通じて実現される可能性がある(Boud & Solomon, 2001)
・高等教育における学習と職場における学習との間のギャップを縮める可能性のある要因は、少なくとも2つある(象徴分析的サービスの増加、PBLや共同学習などの新しい教育モデルの増加)
①「象徴分析的サービス(symbolic-analytic services)」の増加
・グローバル化と情報社会の出現により、Reich(1991; Castells, 2000)が「象徴分析的サービス(symbolic-analytic services)」と呼ぶ仕事(専門家が記号を操作することによって問題を特定し、解決する)が増えている
・数学的アルゴリズム、科学的原理、心理学的洞察、法的議論などの分析ツールを使って情報を利用し、変換する象徴操作の性質は、学校の仕事の性質によく似ており、文脈に応じた推論だけでは不十分で、抽象的思考と情報を分析・総合する能力が求められる
・教育現場や学校での学習で強調される概念的な推論や抽象化は、実のところ、今日の社会人生活における主要な仕事に不可欠な要素である
②問題解決学習(Problem-based learning)、プロジェクト学習(Project-based leraning)、共同学習(collaborative learning)などの新しい教育モデルの増加
・それらは、社会生活における実際の状況をシミュレートする、あるいはそれらに基づく可能性がある
2.2. 職場での学習は、個人からネットワークや地域まで、さまざまなレベルで説明できる
2.2.では、更に細かく1〜3項で構成され、分量も多かったのですが、学びの宝庫でした。
・職場学習に関する研究の歴史は非常に浅いが、ここ数年の間に研究量は非常に増加している
・仕事と学習の関係は、教育学や心理学研究から組織研究やマネジメント研究に至るまで、さまざまな分野の研究者を惹きつけてきた現象であり、多様な概念、モデル、理論が生まれた
・概念としての学習は、個人やグループのレベルから、実践の共同体や組織のレベルまで、さまざまなレベルで起こるプロセスを指す
・学習という概念の最も最近の拡張は、ネットワーク学習と地域学習という概念である
・職場学習研究の中心には、個人の成長、知識の獲得、文化的変容、イノベーションなど、基本的に異なる現象が存在してきた(Fenwick, 2005)
2.2.1. 職場における個人の学習:人々は職場で何をどのように学ぶのか?
こちらの項では、職場で人は何をどのように学ぶのか(職場における学習成果の類型論、職場で人々はどのように学習するのか)のまとめも大変参考になりましたし、古参者から新参者という方向だけでなく、新参者が専門家を指導することもあるという正統的周辺参加の新たな見方も面白い発見でした。
「従業員が仕事に関連した問題解決により新しいことを学ぶ学習プロジェクトモデル」についても言及があり、こちらで引用されている論文は前に読んだことがあるのですが、再度読み直したくなりました。
・職場学習はインフォーマルな性質を持っているため、労働者は自分が働いている間に学習が行われていることを認識しにくいことが多い
・職場学習は、最近、研究や一般的な議論において注目されているが、人々は依然として、学習をフォーマル教育やトレーニングと同一視する傾向がある(Eraut, 2004)
【職場で人々はどのように学習するのか】(Tynjälä, 2008)
①仕事そのものを通じて
②同僚との協力や交流を通じて
③顧客との仕事を通じて
④やりがいのある新しい仕事に取り組むことで
⑤自分の仕事の経験を振り返り評価することで
⑥フォーマル教育を通じて
⑦仕事外の文脈を通じて
・人は何を学ぶのだろうか。Erautら(2004b)に基づけば、人々が職場で学べないことはほとんどない
【職場における学習成果の類型論】
①タスク・パフォーマンス:スピードや流暢さ、必要とされるスキルの範囲、共同作業などのサブカテゴリーを含む
②気づきと理解:同僚、状況、自分自身の組織、問題のリスクなどを理解すること
③自己開発:自己評価と管理、感情への対処、人間関係の構築と維持、経験から学ぶ能力等を含む
④チームワーク:共同作業、共同での計画立案や問題解決などのサブカテゴリーがある
⑤役割遂行能力:優先順位付け、リーダーシップ、監督的役割、権限委譲、危機管理等
⑥学術的な知識と技能:フォーマルな知識の評価、研究に基づく実践、理論的思考、知識源の活用等
⑦意思決定と問題解決:複雑性への対処、グループでの意思決定、プレッシャーのかかる状況下での意思決定等
⑧判断力:パフォーマンスの質、アウトプットと成果、優先順位、価値観の問題、リスクのレベル等
・学習が常に望ましい結果をもたらすとは限らない「悪いことも学ぶ」
・Tynja¨la¨とVirtanen(2005)の研究によると、職業訓練生は実地学習期間中に「悪い習慣、現場の不利な点、職務を放棄する方法など、否定的なこと」も学んだと報告した
・組織では個人だけでなく集団も学習することができると論じられてきた
・Marsick and Watkins(1990)は、グループのダブルループ学習について述べており、グループが自分たちの行動だけでなく、自分たちの行動の基礎となる前提や目標についても振り返る学習を指している
・組織の内外を問わず、他の人々と協力して学ぶ能力は、しばしば成功と失敗を分ける。知識を共有し構築するために他者とネットワークを築くことができない社員は、そのような能力を持つ同僚から目に見えて遅れをとることになる(Slotte & Tynja¨la¨, 2003)
・初心者と専門家の相互作用は、職場学習において極めて重要
・経験豊かで知識豊富なパートナーの援助なしには学習が困難な知識に対しては直接指導が有効
・隠されている学習プロセスや概念は、経験豊富な同僚との密接な相互作用が必要であり、その同僚はこれらの実践や概念にアクセスできるようにすることができる。
・正統的周辺参加(Lave & Wenger, 1991)は、初心者がどのように社会共同体の実践に社会化されていくかを説明している
・学習プロセスで重要なのは、より有能な労働者と交流し、その指導の下で働き、彼らの仕事のやり方を観察し、実践共同体に参加すること
・このモデルでは、職場での学習プロセスを、主に初心者の活動として描いており、そこでは専門家が教師、ファシリテーター、コーチの役割を担っている
・しかし、学ぶのは職場の初心者だけではない。Fuller and Unwin (2002)は、日々の仕事の中で、年齢、経験、地位といった伝統的な職場の境界を越えて、人々が互いに教え合っていることを示した
・古参者が初心者を指導することもあれば、新参者が古参者を指導することもある
・したがって、FllerとUnwinは、教育学と教育的実践の概念は、あらゆるタイプの従業員と職場に関連し、組織は、人々が専門知識を共有することを奨励する方法を見つける必要があると主張
・近年では、職場において意図的に学習を促進する方法にも注目が集まっている
【従業員が仕事に関連した問題解決により新しいことを学ぶ学習プロジェクトモデル】(Poell, 2006; Poell, Van der Krogt, & Warmerdam, 1998)
・学習プロジェクトは、従業員のグループによって組織され、彼らは、学習すると同時に自分の仕事を改善するという特定の意図をもって、仕事に関連する問題を中心とした一連の活動に参加する
・活動には、職場内と職場外、自己組織化とファシリテーター主導、行動ベースと内省ベース、グループ志向と個人志向、外部触発と内部触発、事前構造化とオープンエンドなど、さまざまな種類の学習状況が含まれる
・Poell(2006)の研究によると、組織化された学習プロジェクトでは、参加者は自分の能力開発と仕事の改善を両立させることができる
【職場における個人学習やグループ学習は、次のような社会的活動】(Tynjälä, 2008)
(1)相互作用と対話を必要とし
(2)学習を必要とする種類の課題を必要とし
(3)過去の経験を振り返り、将来の活動を計画する
2.2.2. 個人の学習から実践共同体、学習する組織へ
この項では、学習を個人から組織へと発展させるモデルとして「実践共同体」や「学習する組織」「ノット・ワーキング」等について書かれています。
個人的に特にヒットだったのはWengerの「実践共同体」。Wengerは正統的周辺参加の提唱者として有名ですが、実践共同体という概念については知りませんでした。「研修と実務を統合的アプローチ」として紹介されていたのですが、これは注目している領域のど真ん中だったので、amazonで即ポチしました。
コミュニティ・オブ・プラクティス: ナレッジ社会の新たな知識形態の実践
学校と社会の分断と同じように、研修と実務の分断の解消に貢献したいんですよね。
・学習は、知能や動機づけといった個人の特性だけでなく、社会的・文化的文脈にも左右される
・社会文化的アプローチによる学習研究では、個人ではなく社会共同体が焦点となる
・この分野での古典的な研究は、LaveとWenger(1991)による『状況に埋め込まれた学習-正統的的周辺参加』(Situated Learning-Legitimate Peripheral Participation)とWenger(1998)による『実践共同体』(Communities of Practice)である
・人類学的なアプローチをとっている『Situated Learning』の著者たちは、社会的コミュニティがどのように初心者を自分たちの文化に社会化させるかを説明している
【実践共同体(Community of Practice)】
・「参加としての学習」という概念は、Wengerが後の著作で精緻化し、「実践共同体(Community of Practice)」という概念を学習研究の日常語に持ち込んだ
・実践共同体とは、人々が職場や余暇において共同事業を追求する際に形成されるインフォーマルな共同体のこと
・こうしたコミュニティへの参加を通じて、人々は知識を共有し、意味を交渉し、アイデンティティを形成し、仕事の実践を発展させていく
・学習を実践コミュニティへの参加として概念化することは、組織の発展にとって重要な意味を持つ
・多くの伝統的な組織では、学習は研修部門の管轄であり、実際の実務から切り離された単位である
・研修部門は、学習者のためにコースを提供し、手順を文書化し、マニュアルを作成するが、組織の最も貴重な学習資源、すなわち実践そのものに学習者を参加させることはない
・対照的に、Wengerが提示するモデルは、研修に対する統合的アプローチである
・新参者は実践共同体の不可欠な一部とされ、そこから古参者と新参者が共に働き、共に学ぶことになる
・こうした世代間の出会いは、新人とコミュニティの双方に役立つ内省のプロセスをもたらす
・Wengerは、学習者が新人であれ古参者であれ、組織がその学習プロセスを参加型プロセスとしてアレンジすること、そして、実践によって提供される学習機会を活用することによって、教えることよりもむしろ学ぶことに重点を置くことを推奨している
・学習を参加型プロセスとして考えることは、個人的現象ではなく集団的現象としての専門知識の性質に関する最近の説明と一致している
・Bereiter and Scardamalia (1993)は、専門知識は個人に限定されるものではなく、単位として機能する集団にも適用される可能性があることを強調している(科学研究チーム、スポーツチーム、外科手術チーム、航空管制官チームなど)
【拡張する学習/ノット・ワーキング】
・Engestro¨m(2004)はさらに踏み込んで、専門知識は実践共同体だけでなく、複数の相互作用共同体の中に位置し、分散している可能性があることを示唆している
・組織内及び組織間で根本的な変革をもたらす拡張による学習が専門知識の重要なプロセスであり、協働的で変革的な専門知識の特徴として「negotiated knotworking」と呼ぶものが関与していると論じている
・ノットワーキングは、結び、解き、結び直すという脈動的な動きによって特徴づけられる
・別々の部署や組織で働く人々が、ある目的のために集まり、意味の交渉や問題の解決に取り組み、その後、別の目的のために他のパートナーと協力し合い、後で再び協力し合う
・Fenwick(2005)は、仕事における学習に関する研究のレビューの中で、仕事と学習のプロセスにおける個人と集団の関係は、文献の中で特に顕著なトピックであると結論づけている
・研究の一群は、個人、チーム、組織といった異なるレベルでの職場学習と、それらの相互関係の分析に焦点を当てている
・組織レベルでの学習は、自らの未来を創造する能力を継続的に拡大している組織の活動を包含している(Senge, 1990)
・この能力は、従業員や組織(個人の集合体として)が変化し、より効果的になる能力、そして、変化には、オープンなコミュニケーションや、職場コミュニティの全メンバーのエンパワーメントだけでなく、協働の文化も必要であるという事実に基づいている
・学習する組織とは、「すべてのメンバーの学習を促進し、継続的に自らを変革する組織」(Pedler, Boydell, & Burgoyne, 1991)と定義できる
2.2.3. ネットワークや地域も学ぶ?
2節の最後の3項は、職場学習の概念がネットワークや地域にまで拡大して書かれています。
こちらで印象的だったのは、フィンランドの「Skilful Central Finland」と呼ばれる開発プロジェクト。
学習する組織を超えて、学習する地域という形で、学校と職場を繋ぎ地域の発展に貢献する素晴らしい試みです。
・職場学習に関する最近の研究では、個人の学習と組織の発展の両方にとって、ネットワーキングやその他の社会的交流の形態が重要であることが強調されている
・「革新的知識コミュニティ(Innovative knowledge communities)」(Hakkarainen, Palonen, Paavola, & Lehtinen, 2004)や「場」(学習のための空間)(Nonaka & Konno, 1998)といった概念が、学習の共同的性質を説明するために開発されてきた
・学習は、組織に埋め込まれた明示的な知識と暗黙的な知識が互いに出会う社会的相互作用の中で行われる知識創造プロセスとみなされている
・革新的な知識コミュニティにおける重要な特徴のひとつは、人々や組織がソーシャル・ネットワークを形成し、それを活用していることである
・多くの研究が、イノベーションは相互作用的なネットワークの中で生まれることを示唆している(Camagni, 1991; Miles, Miles, & Snow, 2005; Nelson, 1993)
・ネットワークの一般的な目的は、知識の交換、変換、創造のためのフォーラムを提供すること
・ネットワークに参加することで、人々は異なる組織や専門分野の垣根を越えることができる
・Engestro¨mとその同僚たち(Engestro¨m, 2004; Engestro¨m, Engestro¨m, & Ka¨rkka¨inen, 1995)は、このような活動をポリコンテクスト・ワーク(polycontextual work)またはノットワーキング(knotworking)と呼んでいる
・組織と人々の間のネットワーキングは、革新的な学習のためにネットワーキングが提供する可能性から、組織の成功戦略の重要な要素となっている (Engestro¨m, 2004; Hakkarainen et al., 2004; Miles et al., 2005).
・ネットワークの学習者は、個人、個人のグループ、組織、組織間ネットワークという4つのレベルで説明できる(Knight, 2002)
・集団学習の最も広範な文脈は、組織研究や経済地理学の研究から生まれ、都市や地方といった地理的地域のレベルでの知識創造や革新性を説明するために「learning region」という用語が導入された
・Learning regionは、組織や個人、そのネットワークが互いに学び合うことを促す環境を提供する(Gustavsen, Ennals, & Nyhan, 2006; Morgan, 1999など)
・Brownら(2004)は、企業間学習ネットワークを通じて中小企業の革新的活動を促進することを目的としたプロジェクトについて述べている。このネットワークでは、参加者がワークショップに招待され、そこで学んだことを自社で実践し、参加者は、コンピューター会議システムを通じて他の参加者と連絡を取り合い、次第に、個々の企業での学習から、ネットワーク全体での共同学習へと焦点が移っていく
・Hyto¨nen and Tynja¨la¨ (2005)やHolmqvist (2005)は、異なる組織の人々が定期的に集まって知識や経験を共有し、新しい実践を開発する学習ネットワークの同様の事例を紹介している
・ネットワーク会議を通じて、人々は日々の活動から少し解放され、自分たちの仕事の重要な側面について考える時間と空間を得ることができる
・ネットワークが持つイノベーション創出の可能性は、異なる種類の専門知識を持つ人々が、対話的な関係の中で新しいアイデアを得て、それぞれの出発点、枠組み、文脈からさらに発展させていくという事実によって説明することができる
・ネットワーク学習とは、個々の参加者だけでなく、ネットワーク自体がその考え方や行動様式を変革していくプロセスを指す
【学習ネットワークの特徴】
①相互作用
・ネットワークの学習プロセスで最も重要なのは、ネットワーク参加者間の相互作用
②学習ネットワークにおける相互作用は、共有された目標を中心に、またそれを通じて起こるべきである(Billett, Ovens, Clemans, & Seddon, 2007; Billett & Seddon, 2004; Paavola et al., 2004)
・これらは具体的な成果物であることもあれば、あまり具体的でない概念的なツールや行動モデルであることもある
・重要なのは、参加者がネットワーク活動の目的について共通の見解やビジョンを持ち、個人のビジョンとグループや企業、ネットワークのビジョンが一致し、整合していること(Vesalainen & Stro¨mmer, 1999)
③ネットワークのメンバーが、ネットワークに分散している知識や専門性を認識していることが重要(Hakkarainen et al., 2004)
・メタ知識(誰が何を知っていて、どこでその情報を見つけることができるかを知っていること)で、ネットワークのメンバーのさまざまな補完的専門知識を十分に活用することが可能になる
④各メンバーの専門知識を活用するためには、ネットワークの社会的相互作用への参加者の全面的な参加が必要
・したがって、参加者の知識をネットワークで共有しようという動機は、学習プロセスを開始するための重要な決定要因
⑤信頼、協力的な風土が必要(Sveiby & Simons, 2002)
・知識の共有は自動的に起こるわけではなく、信頼、協力的な風土の上で起こる
・学習ネットワークの構築には、Bereiter and Scardamalia (1993)が進歩的問題解決(progressive problem solving)と呼んでいるような個人的・組織的スタンス(ルーティンに落ち着くのではなく、絶えず複雑な問題を設定し、解決していく)が必要なようである
・ネットワークに学習をもたらすためには、学習を計画し、学習プロセスを開始し、進捗状況を評価するためには、十分に開発されたシステムと運用モデルが必要である
【Skilful Central Finland】
・職業教育機関と社会人のネットワーキングに関する研究では、そのようなインフラの1つとして、中央フィンランド地域の3つの大規模職業教育機関とその社会人パートナーが実施した「Skilful Central Finland」と呼ばれる開発プロジェクトが提供された(Tynja¨la¨ & Nikkanen, 2006)
・この事業は、職業教育機関と社会人生活組織との協力をさまざまな方法で促進することを目的とした、いくつかの開発プロジェクト(主にESFの資金提供)から構成されていた
・生徒の実地学習の組織化と支援に関する大量の実地研修が、教員と職場トレーナーの両方に対して実施され、職業教育の質の向上と学校と職場の協力関係を強化するために、さまざまな専門的開発プロジェクトが立ち上げられた
・Skilful Central Finlandプロジェクトの組み合わせの全体的な目的は、中央フィンランドにおける学習する地域の発展に貢献することであった
・調査の中で、職業訓練機関と職場のネットワークにおけるイノベーションのモデルが作成された(図1)
・このモデルは、イノベーションがどのように生まれ、アイデアがどのように実用的なイノベーションへと発展していったかを、ネットワークの中で説明するもの
・学校と職場のネットワークで生み出されたイノベーションは、具体的な製品ではなく、社会的・機能的イノベーションとして描くことができ、新しい行動様式、新しい実践、新しい協力関係を表している
・そのようなイノベーションの例としては、学校と職場の機械への共同投資、起業家教育の新しい組織方法、職場における成人教育の新しい形態、職場における生徒指導の新しい方法などが挙げられる
・金属産業と職業訓練校の共同投資というアイデアは、一方では金属産業が熟練労働者の不足に苦しんでおり、他方では職業訓練校が財政的な制約から生徒に最新の設備を提供できないという状況の中で生まれた
・教育機関と職場が手を組むことで、従業員、学生、教師(教師は知識と技能を更新する機会を得た)の双方に、近代的な機械を備えた学習の場を提供できるようになった
・個人、職場コミュニティ、より大きなプロジェクト組織という3つのレベルのアクターによるイノベーションのプロセスを示している
・プロジェクト組織は、まさに革新的な活動を支援する目的で設立された
・新しいアイデアを生み出すには、先見性と進歩的な問題解決能力を持つ個人が必要
・そのような専門家は、他の人々と距離を置くのではなく、自分の知識やアイデアを同僚と共有し、広範な人的ネットワークを構築するのが典型的である(Hakkarainen et al., 2004; Palonen, 2003)。
・そもそもアイデアを得たり、小さな実験を始めたり、それを個人的な知り合いと共有したりするのは個人であるが、アイデアをさらに発展させ、それを普及させるための好都合な状況を作り出すのは、より大きな職場コミュニティである
・アイデアを共有するためには、職場にオープンなコミュニケーションの雰囲気があり、人々が平等であると感じ、革新的な活動が奨励されていること、更に、職場が組織外から発信されるアイデアに対してオープンであり、仕事を発展させるために外部の力を積極的に活用することが重要
・これらはすべて、効果的なリーダーシップとマネジメントによって促進される(Billett et al., 2007)
・このモデルの職場は、先に述べた革新的な知識コミュニティの前提条件を生み出す(Hakkarainen et al., 2004)
・革新的な個人とワークコミュニティに加え、アイデアを開発し、優れた実践を普及させるためにさらに必要な条件は、職業訓練校で行われる開発作業を体系的に管理し、個々のプロジェクトやベンチャー事業に必要な資金を獲得することに配慮する開発プロジェクト組織であることがわかった
・ワーク・コミュニティは、そのネットワークやプロジェクト組織とともに、ディスカッションやコラボレーションのための多くのフォーラムを企画し、そのような場を通じて、個々の小さな実験が発表され、共有され、それによって新しい実践が、同じ分野の学校や職場の間だけでなく、分野を超えて広まっていった
ここまで。
まだ1/3ですが、ものすごい有益な発見をいくつもいただきました。
PBL×職場学習の方向性が少し見えて来たが気がします。
以下、メモ
【職業・専門教育プログラムが提供する知識の種類】(Eraut, 2004)
①理論的知識
②方法論的知識
③実践的技能と技術
④一般的技能
⑤職業に関する一般的知識
これらの知識のほとんどは移転可能だがが、②④⑤が学生によってどの程度習得されるのか、また①③がその後職場に移転される可能性については、ほとんどエビデンスがない。
【知識創造という学習の新たなメタファー】(Paavola, Lipponen, and Hakkarainen, 2004)
・学習は新しい知識の創造とみなされる
・学習は、社会的プロセスとみなされるが、その目的は、人々を既存の実践に社会化することではなく、新しい実践を開発すること
・学習の認知的側面と社会的側面を統合している
・参加メタファーは、職場における学習の本質を明らかにするために、最近の研究で頻繁に使用される
・学習が再生産的な活動ではなく、むしろ革新的な活動として見なされるようになってきたことを意味する(Jarvis, 1992)
・職場学習は、新しい行動様式、実践、手順、製品を生み出すものとして特徴づけられることが多い
長いので3回に分けてまとめます。今回は第2章セクションIの1.2です。
論文はこちら(被引用数:1,855件 (2024年3月15日時点))
Tynjälä, P. (2008). Perspectives into learning at the workplace. Educational research review, 3(2), 130-154.
セクションIでは、「職場学習について何が分かっているのか?」という問いの下、職場組織における仕事活動に関連した学習の特徴に焦点を当てながら、職場学習全般について調査したレビューで、以下の4つの内容がまとめられています。
①職場学習の性質は、学校での学習とは異なる部分もあり、似ている部分もある
②職場学習は、個人からネットワークや地域まで、さまざまなレベルで説明できる
③職場学習は、インフォーマルとフォーマルの両方がある
④職場は、どのように学習をサポートするかで大きく異なる
今回は①と②のまとめです。
では、個別に見ていきます。
2.1. 職場での学習の性質は、学校での学習と異なる部分もあり、似ている部分もある
2.1.では、学校でのフォーマル教育と職場でのインフォーマル教育の違いについてまとめられています。学校と学外での学習の違いは、それらをシームレスに繋げるヒントが書かれているようにも感じました。(学校でも様々な道具を使い、出来事などの文脈を用いてその状況に応じた能力や推論を養う等)
また、学校と職場を繋ぐ手法としてWork-Based learningの概念が示され、そこにPBLも含まれていることも嬉しい発見でした。
【学校での学習と学校外での学習の4つの違い】(Resnick, 1987)
①学校での学習は個人的な活動が中心であるのに対し、学校外での学習は社会的な共有が中心
・仕事では多くの活動が他者との協働を必要とし、各人がうまく機能するかどうかは、複数の個人のパフォーマンスに左右される
②学校では精神的な活動が重視されるのに対し、実生活ではさまざまな道具を使う
・伝統的な学習評価は記憶だけに基づいており、本やノート、電卓、その他の道具の使用は通常認められていない
③学校での学習は記号の操作によって特徴づけられるが、それ以外の学習は文脈に基づく推論によって特徴づけられる
・学校以外の場では、必ずしも記号で表現しなくても、物や出来事を直接使って推論することが多い(日常的な数学では、計算過程の一部として実際の物理的な物体を使うことがあるが、学校での数学は純粋に数字を使っている)
④学校での学習は一般化された技能や原則の習得を目指すのに対し、学校外での学習は状況に応じた能力を育成する
【フォーマルな学習とインフォーマルな職場学習の違いのまとめ(Table1)】
・職場のインフォーマルな学習は、無計画で暗黙的で、しばしば共同的で高度に文脈化されており、学習結果は予測不可能
・学校でのフォーマルな学習や組織化されたOJTは、形式的で、計画的で、大部分が明示的で、個人の学習に重点が置かれ、学習結果は予測可能であることが多い
・フォーマル教育は、様々な状況に応用・移行できる一般的なスキルを身につけることを目的とする
・社会生活で真の専門家になるためには、状況に応じた能力を身につける必要があり、それは本物の状況においてのみ可能である
・状況特有の学習は、それ自体では非常に限界があり、ある状況下で学んだことは、別のタイプの状況下には容易に移行できない
・職場は、正式な社員研修の場としても機能する。近年、企業の研修プログラムでは、大学の役割が重要視されることが多い。
・Robertson(1998)は、インタラクティブなビジネス・ラーニングについて述べており、そこでは、大学はキャンパスを越えて、学習を奨励する組織や職場にまでその範囲を広げている(Kautto-Koivula, 1999; Slotte & Tynja¨la¨, 2003)
・このような職場では、フォーマル研修が組織開発において重要な役割を果たしている
【Work-based learning】
・教育と職場との協力関係が深まり、新しい形態のwork-based learning(WBL)が登場すれば、両方の文脈における学習の性質が変化し、まったく新しい種類の学習機会が生まれる可能性がある(Candy & Crebert, 1991)
・WBLは、小規模な社会人生活プロジェクトを含む単一コースから、大学での学習という学問的枠組みから大きく逸脱したより包括的なプログラムまで、様々な形態で、様々なプログラムを通じて実現される可能性がある(Boud & Solomon, 2001)
・高等教育における学習と職場における学習との間のギャップを縮める可能性のある要因は、少なくとも2つある(象徴分析的サービスの増加、PBLや共同学習などの新しい教育モデルの増加)
①「象徴分析的サービス(symbolic-analytic services)」の増加
・グローバル化と情報社会の出現により、Reich(1991; Castells, 2000)が「象徴分析的サービス(symbolic-analytic services)」と呼ぶ仕事(専門家が記号を操作することによって問題を特定し、解決する)が増えている
・数学的アルゴリズム、科学的原理、心理学的洞察、法的議論などの分析ツールを使って情報を利用し、変換する象徴操作の性質は、学校の仕事の性質によく似ており、文脈に応じた推論だけでは不十分で、抽象的思考と情報を分析・総合する能力が求められる
・教育現場や学校での学習で強調される概念的な推論や抽象化は、実のところ、今日の社会人生活における主要な仕事に不可欠な要素である
②問題解決学習(Problem-based learning)、プロジェクト学習(Project-based leraning)、共同学習(collaborative learning)などの新しい教育モデルの増加
・それらは、社会生活における実際の状況をシミュレートする、あるいはそれらに基づく可能性がある
2.2. 職場での学習は、個人からネットワークや地域まで、さまざまなレベルで説明できる
2.2.では、更に細かく1〜3項で構成され、分量も多かったのですが、学びの宝庫でした。
・職場学習に関する研究の歴史は非常に浅いが、ここ数年の間に研究量は非常に増加している
・仕事と学習の関係は、教育学や心理学研究から組織研究やマネジメント研究に至るまで、さまざまな分野の研究者を惹きつけてきた現象であり、多様な概念、モデル、理論が生まれた
・概念としての学習は、個人やグループのレベルから、実践の共同体や組織のレベルまで、さまざまなレベルで起こるプロセスを指す
・学習という概念の最も最近の拡張は、ネットワーク学習と地域学習という概念である
・職場学習研究の中心には、個人の成長、知識の獲得、文化的変容、イノベーションなど、基本的に異なる現象が存在してきた(Fenwick, 2005)
2.2.1. 職場における個人の学習:人々は職場で何をどのように学ぶのか?
こちらの項では、職場で人は何をどのように学ぶのか(職場における学習成果の類型論、職場で人々はどのように学習するのか)のまとめも大変参考になりましたし、古参者から新参者という方向だけでなく、新参者が専門家を指導することもあるという正統的周辺参加の新たな見方も面白い発見でした。
「従業員が仕事に関連した問題解決により新しいことを学ぶ学習プロジェクトモデル」についても言及があり、こちらで引用されている論文は前に読んだことがあるのですが、再度読み直したくなりました。
・職場学習はインフォーマルな性質を持っているため、労働者は自分が働いている間に学習が行われていることを認識しにくいことが多い
・職場学習は、最近、研究や一般的な議論において注目されているが、人々は依然として、学習をフォーマル教育やトレーニングと同一視する傾向がある(Eraut, 2004)
【職場で人々はどのように学習するのか】(Tynjälä, 2008)
①仕事そのものを通じて
②同僚との協力や交流を通じて
③顧客との仕事を通じて
④やりがいのある新しい仕事に取り組むことで
⑤自分の仕事の経験を振り返り評価することで
⑥フォーマル教育を通じて
⑦仕事外の文脈を通じて
・人は何を学ぶのだろうか。Erautら(2004b)に基づけば、人々が職場で学べないことはほとんどない
【職場における学習成果の類型論】
①タスク・パフォーマンス:スピードや流暢さ、必要とされるスキルの範囲、共同作業などのサブカテゴリーを含む
②気づきと理解:同僚、状況、自分自身の組織、問題のリスクなどを理解すること
③自己開発:自己評価と管理、感情への対処、人間関係の構築と維持、経験から学ぶ能力等を含む
④チームワーク:共同作業、共同での計画立案や問題解決などのサブカテゴリーがある
⑤役割遂行能力:優先順位付け、リーダーシップ、監督的役割、権限委譲、危機管理等
⑥学術的な知識と技能:フォーマルな知識の評価、研究に基づく実践、理論的思考、知識源の活用等
⑦意思決定と問題解決:複雑性への対処、グループでの意思決定、プレッシャーのかかる状況下での意思決定等
⑧判断力:パフォーマンスの質、アウトプットと成果、優先順位、価値観の問題、リスクのレベル等
・学習が常に望ましい結果をもたらすとは限らない「悪いことも学ぶ」
・Tynja¨la¨とVirtanen(2005)の研究によると、職業訓練生は実地学習期間中に「悪い習慣、現場の不利な点、職務を放棄する方法など、否定的なこと」も学んだと報告した
・組織では個人だけでなく集団も学習することができると論じられてきた
・Marsick and Watkins(1990)は、グループのダブルループ学習について述べており、グループが自分たちの行動だけでなく、自分たちの行動の基礎となる前提や目標についても振り返る学習を指している
・組織の内外を問わず、他の人々と協力して学ぶ能力は、しばしば成功と失敗を分ける。知識を共有し構築するために他者とネットワークを築くことができない社員は、そのような能力を持つ同僚から目に見えて遅れをとることになる(Slotte & Tynja¨la¨, 2003)
・初心者と専門家の相互作用は、職場学習において極めて重要
・経験豊かで知識豊富なパートナーの援助なしには学習が困難な知識に対しては直接指導が有効
・隠されている学習プロセスや概念は、経験豊富な同僚との密接な相互作用が必要であり、その同僚はこれらの実践や概念にアクセスできるようにすることができる。
・正統的周辺参加(Lave & Wenger, 1991)は、初心者がどのように社会共同体の実践に社会化されていくかを説明している
・学習プロセスで重要なのは、より有能な労働者と交流し、その指導の下で働き、彼らの仕事のやり方を観察し、実践共同体に参加すること
・このモデルでは、職場での学習プロセスを、主に初心者の活動として描いており、そこでは専門家が教師、ファシリテーター、コーチの役割を担っている
・しかし、学ぶのは職場の初心者だけではない。Fuller and Unwin (2002)は、日々の仕事の中で、年齢、経験、地位といった伝統的な職場の境界を越えて、人々が互いに教え合っていることを示した
・古参者が初心者を指導することもあれば、新参者が古参者を指導することもある
・したがって、FllerとUnwinは、教育学と教育的実践の概念は、あらゆるタイプの従業員と職場に関連し、組織は、人々が専門知識を共有することを奨励する方法を見つける必要があると主張
・近年では、職場において意図的に学習を促進する方法にも注目が集まっている
【従業員が仕事に関連した問題解決により新しいことを学ぶ学習プロジェクトモデル】(Poell, 2006; Poell, Van der Krogt, & Warmerdam, 1998)
・学習プロジェクトは、従業員のグループによって組織され、彼らは、学習すると同時に自分の仕事を改善するという特定の意図をもって、仕事に関連する問題を中心とした一連の活動に参加する
・活動には、職場内と職場外、自己組織化とファシリテーター主導、行動ベースと内省ベース、グループ志向と個人志向、外部触発と内部触発、事前構造化とオープンエンドなど、さまざまな種類の学習状況が含まれる
・Poell(2006)の研究によると、組織化された学習プロジェクトでは、参加者は自分の能力開発と仕事の改善を両立させることができる
【職場における個人学習やグループ学習は、次のような社会的活動】(Tynjälä, 2008)
(1)相互作用と対話を必要とし
(2)学習を必要とする種類の課題を必要とし
(3)過去の経験を振り返り、将来の活動を計画する
2.2.2. 個人の学習から実践共同体、学習する組織へ
この項では、学習を個人から組織へと発展させるモデルとして「実践共同体」や「学習する組織」「ノット・ワーキング」等について書かれています。
個人的に特にヒットだったのはWengerの「実践共同体」。Wengerは正統的周辺参加の提唱者として有名ですが、実践共同体という概念については知りませんでした。「研修と実務を統合的アプローチ」として紹介されていたのですが、これは注目している領域のど真ん中だったので、amazonで即ポチしました。
コミュニティ・オブ・プラクティス: ナレッジ社会の新たな知識形態の実践
学校と社会の分断と同じように、研修と実務の分断の解消に貢献したいんですよね。
・学習は、知能や動機づけといった個人の特性だけでなく、社会的・文化的文脈にも左右される
・社会文化的アプローチによる学習研究では、個人ではなく社会共同体が焦点となる
・この分野での古典的な研究は、LaveとWenger(1991)による『状況に埋め込まれた学習-正統的的周辺参加』(Situated Learning-Legitimate Peripheral Participation)とWenger(1998)による『実践共同体』(Communities of Practice)である
・人類学的なアプローチをとっている『Situated Learning』の著者たちは、社会的コミュニティがどのように初心者を自分たちの文化に社会化させるかを説明している
【実践共同体(Community of Practice)】
・「参加としての学習」という概念は、Wengerが後の著作で精緻化し、「実践共同体(Community of Practice)」という概念を学習研究の日常語に持ち込んだ
・実践共同体とは、人々が職場や余暇において共同事業を追求する際に形成されるインフォーマルな共同体のこと
・こうしたコミュニティへの参加を通じて、人々は知識を共有し、意味を交渉し、アイデンティティを形成し、仕事の実践を発展させていく
・学習を実践コミュニティへの参加として概念化することは、組織の発展にとって重要な意味を持つ
・多くの伝統的な組織では、学習は研修部門の管轄であり、実際の実務から切り離された単位である
・研修部門は、学習者のためにコースを提供し、手順を文書化し、マニュアルを作成するが、組織の最も貴重な学習資源、すなわち実践そのものに学習者を参加させることはない
・対照的に、Wengerが提示するモデルは、研修に対する統合的アプローチである
・新参者は実践共同体の不可欠な一部とされ、そこから古参者と新参者が共に働き、共に学ぶことになる
・こうした世代間の出会いは、新人とコミュニティの双方に役立つ内省のプロセスをもたらす
・Wengerは、学習者が新人であれ古参者であれ、組織がその学習プロセスを参加型プロセスとしてアレンジすること、そして、実践によって提供される学習機会を活用することによって、教えることよりもむしろ学ぶことに重点を置くことを推奨している
・学習を参加型プロセスとして考えることは、個人的現象ではなく集団的現象としての専門知識の性質に関する最近の説明と一致している
・Bereiter and Scardamalia (1993)は、専門知識は個人に限定されるものではなく、単位として機能する集団にも適用される可能性があることを強調している(科学研究チーム、スポーツチーム、外科手術チーム、航空管制官チームなど)
【拡張する学習/ノット・ワーキング】
・Engestro¨m(2004)はさらに踏み込んで、専門知識は実践共同体だけでなく、複数の相互作用共同体の中に位置し、分散している可能性があることを示唆している
・組織内及び組織間で根本的な変革をもたらす拡張による学習が専門知識の重要なプロセスであり、協働的で変革的な専門知識の特徴として「negotiated knotworking」と呼ぶものが関与していると論じている
・ノットワーキングは、結び、解き、結び直すという脈動的な動きによって特徴づけられる
・別々の部署や組織で働く人々が、ある目的のために集まり、意味の交渉や問題の解決に取り組み、その後、別の目的のために他のパートナーと協力し合い、後で再び協力し合う
・Fenwick(2005)は、仕事における学習に関する研究のレビューの中で、仕事と学習のプロセスにおける個人と集団の関係は、文献の中で特に顕著なトピックであると結論づけている
・研究の一群は、個人、チーム、組織といった異なるレベルでの職場学習と、それらの相互関係の分析に焦点を当てている
・組織レベルでの学習は、自らの未来を創造する能力を継続的に拡大している組織の活動を包含している(Senge, 1990)
・この能力は、従業員や組織(個人の集合体として)が変化し、より効果的になる能力、そして、変化には、オープンなコミュニケーションや、職場コミュニティの全メンバーのエンパワーメントだけでなく、協働の文化も必要であるという事実に基づいている
・学習する組織とは、「すべてのメンバーの学習を促進し、継続的に自らを変革する組織」(Pedler, Boydell, & Burgoyne, 1991)と定義できる
2.2.3. ネットワークや地域も学ぶ?
2節の最後の3項は、職場学習の概念がネットワークや地域にまで拡大して書かれています。
こちらで印象的だったのは、フィンランドの「Skilful Central Finland」と呼ばれる開発プロジェクト。
学習する組織を超えて、学習する地域という形で、学校と職場を繋ぎ地域の発展に貢献する素晴らしい試みです。
・職場学習に関する最近の研究では、個人の学習と組織の発展の両方にとって、ネットワーキングやその他の社会的交流の形態が重要であることが強調されている
・「革新的知識コミュニティ(Innovative knowledge communities)」(Hakkarainen, Palonen, Paavola, & Lehtinen, 2004)や「場」(学習のための空間)(Nonaka & Konno, 1998)といった概念が、学習の共同的性質を説明するために開発されてきた
・学習は、組織に埋め込まれた明示的な知識と暗黙的な知識が互いに出会う社会的相互作用の中で行われる知識創造プロセスとみなされている
・革新的な知識コミュニティにおける重要な特徴のひとつは、人々や組織がソーシャル・ネットワークを形成し、それを活用していることである
・多くの研究が、イノベーションは相互作用的なネットワークの中で生まれることを示唆している(Camagni, 1991; Miles, Miles, & Snow, 2005; Nelson, 1993)
・ネットワークの一般的な目的は、知識の交換、変換、創造のためのフォーラムを提供すること
・ネットワークに参加することで、人々は異なる組織や専門分野の垣根を越えることができる
・Engestro¨mとその同僚たち(Engestro¨m, 2004; Engestro¨m, Engestro¨m, & Ka¨rkka¨inen, 1995)は、このような活動をポリコンテクスト・ワーク(polycontextual work)またはノットワーキング(knotworking)と呼んでいる
・組織と人々の間のネットワーキングは、革新的な学習のためにネットワーキングが提供する可能性から、組織の成功戦略の重要な要素となっている (Engestro¨m, 2004; Hakkarainen et al., 2004; Miles et al., 2005).
・ネットワークの学習者は、個人、個人のグループ、組織、組織間ネットワークという4つのレベルで説明できる(Knight, 2002)
・集団学習の最も広範な文脈は、組織研究や経済地理学の研究から生まれ、都市や地方といった地理的地域のレベルでの知識創造や革新性を説明するために「learning region」という用語が導入された
・Learning regionは、組織や個人、そのネットワークが互いに学び合うことを促す環境を提供する(Gustavsen, Ennals, & Nyhan, 2006; Morgan, 1999など)
・Brownら(2004)は、企業間学習ネットワークを通じて中小企業の革新的活動を促進することを目的としたプロジェクトについて述べている。このネットワークでは、参加者がワークショップに招待され、そこで学んだことを自社で実践し、参加者は、コンピューター会議システムを通じて他の参加者と連絡を取り合い、次第に、個々の企業での学習から、ネットワーク全体での共同学習へと焦点が移っていく
・Hyto¨nen and Tynja¨la¨ (2005)やHolmqvist (2005)は、異なる組織の人々が定期的に集まって知識や経験を共有し、新しい実践を開発する学習ネットワークの同様の事例を紹介している
・ネットワーク会議を通じて、人々は日々の活動から少し解放され、自分たちの仕事の重要な側面について考える時間と空間を得ることができる
・ネットワークが持つイノベーション創出の可能性は、異なる種類の専門知識を持つ人々が、対話的な関係の中で新しいアイデアを得て、それぞれの出発点、枠組み、文脈からさらに発展させていくという事実によって説明することができる
・ネットワーク学習とは、個々の参加者だけでなく、ネットワーク自体がその考え方や行動様式を変革していくプロセスを指す
【学習ネットワークの特徴】
①相互作用
・ネットワークの学習プロセスで最も重要なのは、ネットワーク参加者間の相互作用
②学習ネットワークにおける相互作用は、共有された目標を中心に、またそれを通じて起こるべきである(Billett, Ovens, Clemans, & Seddon, 2007; Billett & Seddon, 2004; Paavola et al., 2004)
・これらは具体的な成果物であることもあれば、あまり具体的でない概念的なツールや行動モデルであることもある
・重要なのは、参加者がネットワーク活動の目的について共通の見解やビジョンを持ち、個人のビジョンとグループや企業、ネットワークのビジョンが一致し、整合していること(Vesalainen & Stro¨mmer, 1999)
③ネットワークのメンバーが、ネットワークに分散している知識や専門性を認識していることが重要(Hakkarainen et al., 2004)
・メタ知識(誰が何を知っていて、どこでその情報を見つけることができるかを知っていること)で、ネットワークのメンバーのさまざまな補完的専門知識を十分に活用することが可能になる
④各メンバーの専門知識を活用するためには、ネットワークの社会的相互作用への参加者の全面的な参加が必要
・したがって、参加者の知識をネットワークで共有しようという動機は、学習プロセスを開始するための重要な決定要因
⑤信頼、協力的な風土が必要(Sveiby & Simons, 2002)
・知識の共有は自動的に起こるわけではなく、信頼、協力的な風土の上で起こる
・学習ネットワークの構築には、Bereiter and Scardamalia (1993)が進歩的問題解決(progressive problem solving)と呼んでいるような個人的・組織的スタンス(ルーティンに落ち着くのではなく、絶えず複雑な問題を設定し、解決していく)が必要なようである
・ネットワークに学習をもたらすためには、学習を計画し、学習プロセスを開始し、進捗状況を評価するためには、十分に開発されたシステムと運用モデルが必要である
【Skilful Central Finland】
・職業教育機関と社会人のネットワーキングに関する研究では、そのようなインフラの1つとして、中央フィンランド地域の3つの大規模職業教育機関とその社会人パートナーが実施した「Skilful Central Finland」と呼ばれる開発プロジェクトが提供された(Tynja¨la¨ & Nikkanen, 2006)
・この事業は、職業教育機関と社会人生活組織との協力をさまざまな方法で促進することを目的とした、いくつかの開発プロジェクト(主にESFの資金提供)から構成されていた
・生徒の実地学習の組織化と支援に関する大量の実地研修が、教員と職場トレーナーの両方に対して実施され、職業教育の質の向上と学校と職場の協力関係を強化するために、さまざまな専門的開発プロジェクトが立ち上げられた
・Skilful Central Finlandプロジェクトの組み合わせの全体的な目的は、中央フィンランドにおける学習する地域の発展に貢献することであった
・調査の中で、職業訓練機関と職場のネットワークにおけるイノベーションのモデルが作成された(図1)
・このモデルは、イノベーションがどのように生まれ、アイデアがどのように実用的なイノベーションへと発展していったかを、ネットワークの中で説明するもの
・学校と職場のネットワークで生み出されたイノベーションは、具体的な製品ではなく、社会的・機能的イノベーションとして描くことができ、新しい行動様式、新しい実践、新しい協力関係を表している
・そのようなイノベーションの例としては、学校と職場の機械への共同投資、起業家教育の新しい組織方法、職場における成人教育の新しい形態、職場における生徒指導の新しい方法などが挙げられる
・金属産業と職業訓練校の共同投資というアイデアは、一方では金属産業が熟練労働者の不足に苦しんでおり、他方では職業訓練校が財政的な制約から生徒に最新の設備を提供できないという状況の中で生まれた
・教育機関と職場が手を組むことで、従業員、学生、教師(教師は知識と技能を更新する機会を得た)の双方に、近代的な機械を備えた学習の場を提供できるようになった
・個人、職場コミュニティ、より大きなプロジェクト組織という3つのレベルのアクターによるイノベーションのプロセスを示している
・プロジェクト組織は、まさに革新的な活動を支援する目的で設立された
・新しいアイデアを生み出すには、先見性と進歩的な問題解決能力を持つ個人が必要
・そのような専門家は、他の人々と距離を置くのではなく、自分の知識やアイデアを同僚と共有し、広範な人的ネットワークを構築するのが典型的である(Hakkarainen et al., 2004; Palonen, 2003)。
・そもそもアイデアを得たり、小さな実験を始めたり、それを個人的な知り合いと共有したりするのは個人であるが、アイデアをさらに発展させ、それを普及させるための好都合な状況を作り出すのは、より大きな職場コミュニティである
・アイデアを共有するためには、職場にオープンなコミュニケーションの雰囲気があり、人々が平等であると感じ、革新的な活動が奨励されていること、更に、職場が組織外から発信されるアイデアに対してオープンであり、仕事を発展させるために外部の力を積極的に活用することが重要
・これらはすべて、効果的なリーダーシップとマネジメントによって促進される(Billett et al., 2007)
・このモデルの職場は、先に述べた革新的な知識コミュニティの前提条件を生み出す(Hakkarainen et al., 2004)
・革新的な個人とワークコミュニティに加え、アイデアを開発し、優れた実践を普及させるためにさらに必要な条件は、職業訓練校で行われる開発作業を体系的に管理し、個々のプロジェクトやベンチャー事業に必要な資金を獲得することに配慮する開発プロジェクト組織であることがわかった
・ワーク・コミュニティは、そのネットワークやプロジェクト組織とともに、ディスカッションやコラボレーションのための多くのフォーラムを企画し、そのような場を通じて、個々の小さな実験が発表され、共有され、それによって新しい実践が、同じ分野の学校や職場の間だけでなく、分野を超えて広まっていった
ここまで。
まだ1/3ですが、ものすごい有益な発見をいくつもいただきました。
PBL×職場学習の方向性が少し見えて来たが気がします。
以下、メモ
【職業・専門教育プログラムが提供する知識の種類】(Eraut, 2004)
①理論的知識
②方法論的知識
③実践的技能と技術
④一般的技能
⑤職業に関する一般的知識
これらの知識のほとんどは移転可能だがが、②④⑤が学生によってどの程度習得されるのか、また①③がその後職場に移転される可能性については、ほとんどエビデンスがない。
【知識創造という学習の新たなメタファー】(Paavola, Lipponen, and Hakkarainen, 2004)
・学習は新しい知識の創造とみなされる
・学習は、社会的プロセスとみなされるが、その目的は、人々を既存の実践に社会化することではなく、新しい実践を開発すること
・学習の認知的側面と社会的側面を統合している
・参加メタファーは、職場における学習の本質を明らかにするために、最近の研究で頻繁に使用される
・学習が再生産的な活動ではなく、むしろ革新的な活動として見なされるようになってきたことを意味する(Jarvis, 1992)
・職場学習は、新しい行動様式、実践、手順、製品を生み出すものとして特徴づけられることが多い
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