前回に引き続き、以下の論文のレビュー第2弾のまとめです。

論文はこちら(被引用数:1,855件 (2024年3月15日時点))
Tynjälä, P. (2008). Perspectives into learning at the workplace. Educational research review, 3(2), 130-154.

今回は第2章セクションIの3,4です。
①職場学習の性質は、学校での学習とは異なる部分もあり、似ている部分もある
②職場学習は、個人からネットワークや地域まで、さまざまなレベルで説明できる
③職場学習は、インフォーマルとフォーマルの両方がある
④職場は、どのように学習をサポートするかで大きく異なる



2.3. 職場学習はインフォーマルとフォーマルの両方がある
ここでは、職場学習のインフォーマル学習とフォーマル学習についてまとめられています。
・インフォーマル学習:日常的な仕事のプロセスや活動の一部として行われ、主に暗黙知を生み出す
・フォーマル学習:組織化された訓練や学習活動の中で行われ、主に形式的知識やスキルを生み出す
日常の業務ではインフォーマル学習(暗黙的・反応的・熟慮的学習の3種類がある)が中心ですが、インフォーマル学習だけでは十分でないと3つの理由で説明されています。(以下、参照)
そして、職場学習においてもフォーマルな研修とインフォーマルな学習を様々な様式で組み合わせるべきであると提案されています。
副次的効果として計画外の学習である「偶発的学習」の概念も面白かったです。確かに、計画してなかったけども気づいたら●●な能力も身についていたということもありますよね。

・1990年代の初めに、職場学習研究の先駆者であるMarsickとWatkins(1990)によって、職場環境が学習のための豊富な機会を提供できることが示され、インフォーマル学習と偶発的学習(incidental learning)を区別した

【インフォーマル学習】
・インフォーマル学習は経験的なものであり、教育機関の外で行われるが、計画的に行われることもある
・インフォーマル学習は、暗黙的、意図的でない、日和見的、非構造的な学習、教師の不在といった属性によって特徴づけられる(Eraut, 2004)

【3タイプのインフォーマル学習(暗黙的学習、反応的学習、熟慮的学習)】(Eraut)
①暗黙的学習
・何が学習されたかを認識することなく、新しい知識や技能を習得する全く無意識のプロセス
・経験からの学習のほとんどは暗黙的な側面を持ち、形式的な学習を意識したからといって、暗黙的な学習も行われていないことにはならないと主張
②反応的学習
・より意識的で意図的な学習努力であるが、考える時間がほとんどない状況で行われる
・過去の経験をほぼ自然に振り返り、事実を記録し、場合によっては質問し、行動の影響を観察する
・将来起こりうる学習の機会を認識することも含まれる
③熟慮的学習
・明確な仕事上の目標があり、その副産物として学習があるような状況を指す
・過去の行動や経験の議論や見直し、意思決定や問題解決への関与が含まれ、こうした活動のほとんどは、仕事の通常の一部であり、重要な学習がしばしば起こるにもかかわらず、学習活動とみなされることはほとんどない

【偶発的学習(incidental learning)】
・偶発的学習とは、他の活動の副次的効果として行われる計画外の学習を表している
・偶発的な学習が主に暗黙知を生み出すという考え方は、Sternberg & Grigorenko(2000)が提唱する知性の三段論法と一致(分析的知性と創造的知性に加えて、実践的知性とそれに関連する暗黙知が人間の知性の重要な側面を形成)し、このタイプの知性は、職業上の成功において重要な役割を果たしている(Sternberg, 2000)

・Billett (2004)は、最近、職場の学習について、非公式、その場限り、具体的、偶発的といった一般的に提示されている説明に異議を唱えている→学習成果は必ずしも具体的なものではなく、職場での活動は継続性に向けられ、高度に構造化され、しばしば本質的に教育的であると主張
・多くの職場では、様々なレベルの活動に参加するために、一定の構造化された経路が存在し、それは仕事への参加と仕事から学習のプロセスを構造化する(例えば、航空業界では、航空機関士から一等航海士を経て機長へと昇進する経路)

・職場学習は、学校での学習と同様に、職場における個人の立場や職場環境に関連する多くの文脈的要因により様々な形態をとることができる
①仕事の副次的効果として行われる偶発的でインフォーマルな学習(Eraut et al., 1998; Eraut, 2004b; Marsick & Watkins, 1990)
②意図的だが、仕事に関連した非形式的な学習活動(指導、特定の技能や道具の使い方の意図的な練習など)
③正式な職場内訓練や職場外訓練

・インフォーマル学習とフォーマル学習は、職場における学習でも同じように重要な要素であると認める一方で、両者が異なるプロセスと異なる結果を伴うと強調(Slotte, Tynja¨la¨, Hyto¨nen, 2004)

【インフォーマル学習だけでは十分でない3つの理由】(Slotteら, 2004)
①インフォーマルな学習は意識的な努力なしに行われることが多く、主に暗黙知が得られるため、望ましくない結果をもたらす可能性がある。暗黙知の成果は必ずしもポジティブなものばかりではなく、必ずしも組織の目標に貢献しない悪い習慣や機能不全に陥ることもある
②今日の社会生活では、新しい知識があまりにも速いスピードで生み出されているため、インフォーマル学習だけでは、組織や人々の知識やスキルがそれに追いつくことができない
③フォーマル教育や計画的な学習状況によって、インフォーマルな学習を効果的に活用し、暗黙知を形式的な知識に変え、概念的な知識と実践的な経験を統合することが可能になり、これが専門知識開発の基礎となる
・このような理由から、Slotteとその仲間たち(2004)は、フォーマルな研修がインフォーマルな学習を活用するように、職場学習の様々な様式を組み合わせるべきであると提案しており、組織開発の促進を目的としたeラーニング・ソリューションにとっても重要である(Slotte & Tynja¨la¨, 2005; Stephenson & Saxton, 2006; Tynja¨la¨ & Ha¨kkinen, 2005)
・学校での学習を成功させるためには、職場での学習や専門知識の開発の特徴を取り入れるべきであり(Hatano & Oura, 2003; Tynja¨la¨ et al., 2003)、これには、意図性、構造化された学習支援とガイダンス、知識の説明、概念化、問題ベースやプロジェクトベースのアプローチの活用などが含まれる(Ja¨ntti, 2003; Poell et al., 1998)
・フォーマル教育が形式的な知識を使用し生産するのに対し、インフォーマルな学習は暗黙的な知識を使用し生産する
・多くの場合、個人や組織の学習にとって、暗黙知を明示知に変換すること、またその逆が重要

【組織における知識創造の4つの方法】(Slotte et al.(2004)と 野中と竹内(1995))
①社会化(徒弟制度などによる暗黙知の共有)
②外部化(ナラティブなどによる、暗黙知を形式的知識に変換するための表現と説明)
③結合(形式的知識をより複雑な形式的知識に変換することを含む、例えば文書を通じて)
④内面化(形式的知識を組織の暗黙知に変換する、例えばLearning by doingを通じて)

※Eraut(2004b, p. 263)は、暗黙知として記述され形式知に変換される知識は、それまで他者と共有されていなかった個人的な知識形式ではあるが、すでに形式知であったと主張し、上記モデルを批判
しかし、筆者はそのような個人的知識が形式的であるか暗黙的であるかは重要ではなく、むしろ重要なのは、個人の所有物でしかなかった知識が、他の人々と共有される知識になるということ主張


2.4. 職場は、どのように学習をサポートするかで大きく異なる
続いては、職場の学習支援の違いに注目した研究の概観です。
職場学習を拡大(促進)する組織と制限する組織という対照的なまとめがTable2で示されており、大変参考になりました。加えて、「拡大的な学習環境構築の3つのタイプ」や「仕事関連の学習に影響を与える3つの要因(組織的・機能的・個人的要因)」などのまとめも紹介されており、この辺りを総合的に考えながら、職場学習を促していきたいですね。
最後に、野中・今野が提唱したSECIモデルも紹介されていました。大学院の授業でも習ったのですが、改めて知識や経験という暗黙知を形式知に変換し、組み合わせ、内面化していくというプロセスはよいモデルだなと感じました。「ba(場)」という言葉がそのまま使われていることも、日本発の知見が世界に広がっていることを感じ嬉しくなりました。

・職場学習に関連する最も重要な文脈的要因は、仕事がどのように組織化されているかである

【伝統的なフォード主義(Fordist)組織 vs 新しい挑戦と学習機会を提供する組織】
・伝統的なフォード主義(Fordist)の組織は、分業の極端な形態を表し、労働者は、狭い職務内容、反復的な仕事、管理された手順、自律的な意思決定の機会をほとんど持たず、このような仕事では、学習や能力開発の機会はほとんどない
・もう一方の連続体の端には、仕事が絶えず新しい挑戦と学習の機会を提供する組織があり、このような職場では、労働者は職務間をローテーションされ、タスクは自主性を重んじた共同管理チームによって遂行され、労働者は専門知識を共有し、仕事を発展させることが奨励される。(Ashton, 2002; Heikkila¨, 2006; Tikkama¨ki, 2006)

・知識は社会的実践とその実践に参加する個人との相互作用を通じて共同構築されるため、職場が学習の場であることを認識することが重要
・職場コミュニティがどのようにメンバー(実習生、研修生、学生を含む)の学習を促進するか、または制約するかを説明する、拡大的-制限的職場コミュニティの連続体をTable.2で提示(Fuller and Unwin, 2004)
table2
【拡大的学習環境の構築の3つのタイプ】(Fuller and Unwin, 2004)
①職場内外の多様な実践コミュニティに参加する機会
②従業員に知識と専門性を共同構築する機会を提供するような職務の組織化
③職務外のコースで理論的知識を扱う機会(知識ベースの資格取得につながる)

・職場学習に関する組織研究は、個人、グループ、職場コミュニティ全体が学習するための好都合な風土やその他の前提条件を作り出すことは、職場組織の責任であることを強調しており(Argyris & Scho¨n, 1996; La¨hteenma¨ki et al., 2001; Nikkanen, 2001; Senge, 1990)、学習と思考のためのスペースが必要

【SECIモデル】(野中・今野, 1998) 
・野中と今野(1998)は、この種の学習空間を、人間関係を構築するための共有空間を意味する日本語の概念「場」と呼んでいる
・チームは個々のメンバーにとっての「場」であり、組織のネットワークはそれを構成する組織にとっての「場」である
・場の利点は、場に参加することで、個人、チーム、組織がそれぞれの視点や境界を超えることができることであり、ヴィゴツキー(1978)の最近接発達領域によく似ている
fig2
・Originating ba:人々が直接会って感情、経験、メンタルモデルを共有できる空間であり、知識創造プロセスが始まる主要な場
・Interacting ba:外在化、つまり暗黙知を形式化するための場。ここで人々は自分のメンタルモデルを共有し、それについて考察し、分析する
・Cyber ba:知識創造の結合段階を表し、形式的知識が他の形式的知識と結合される場(オンライン・ネットワーク、文書、データベースなどで行われる)
・Exercising ba:形式的知識の内面化をサポートし、形式的知識が行動で使用される過程で暗黙知となるようにする場
・場のフレームワークの中で職場を検証してみると、ある職場やネットワークは異なる形態の場を提供し、他の職場はそうでないことが容易にわかる

【仕事関連の学習に影響を与える3つの要因】(Sambrook, 2006)
以下の異なる要因がどのように組織化されるかが、組織における学習の可能性に影響を与える
①組織的要因
・組織文化や組織構造、上級管理職の支援、仕事の組織化、仕事のプレッシャー、タスク、タスクと学習志向の違いなど
・企業文化がその学習プロセスを形成し、最悪の場合、変化への対応に硬直性を生み出す可能性がある(Vera-Cruz, 2006) 
・コラボレーションの文化が知識労働の有効性に影響を与える主要な要因であることを示唆(Sveiby and Simons, 2002)
②機能的要因
・人材育成の役割がどのように定義されているか、また、スタッフの数、専門知識、情報量、ICTの利用など、組織の一般的な特性に関連
・最も重要な機能的要因のひとつは、新しい学習、知識の獲得、知識活用のペースを、タイムリーかつ事業の戦略的目的に関連したものにすること(Dealtry, 2002)
・組織において答えるべき主要な問題の1つは、組織的学習戦略のニーズがどのようにビジネス戦略に組み込まれているかということ
③個人的要因
・マネジャーや従業員の学習に対する責任、学習意欲、時間、ITスキル、自信など

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