2003年〜2023年の間に発表されたPBLに関する論文66本をメタ分析した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:45件 (2024年6月2日時点))
Zhang, L., & Ma, Y. (2023). A study of the impact of project-based learning on student learning effects: A meta-analysis study. Frontiers in psychology, 14, 1202728.


論文の内容は、2003年から2023年の間に発表された、プロジェクト学習が生徒の学習に及ぼす効果に関する66本の論文を体系的にレビューし、定量的に分析したものです。
対象となる論文の地域は世界各国で、学校は、小学校〜大学まで様々でした。

リサーチ・クエスチョンは以下の2点で、Figure1のようにメタ分析の理論枠組みが示されています。
1. プロジェクト学習は、従来の教育方法と比較して、生徒の思考力、学業成績、情緒的態度を有意に向上させるか?
2. 調整変数(コースの種類、学習セクション、グループサイズ、クラスサイズ、科目カテゴリー、実験期間、国地域)の違いは、学生の学習効果にどのように影響するか?
figure1

分析の結果、リサーチ・クエスチョンについては以下のような内容が明らかとなりました。
①PBLは、伝統的な教育モデルと比較して、学生の学習成果を有意に向上させることができる
②PBLの効果は、教科領域、コースタイプ、学期、グループサイズ、クラスサイズ、実験期間など、さまざまな調整変数によって影響を受ける

①についての詳細は以下のような内容です。
・伝統的な教授モデルと比較して、プロジェクト型学習は学生の学業達成度、思考力、情意態度に中程度のプラスの寄与があることが示された。これは先行研究の結果(Wenlan and Jiao, 2019)と一致。
【情動態度】:学習動機、学習態度、学習関心、自己効力感
 ※学習動機と学習態度には中程度のプラスの効果があり、自己効力感には低い効果があった
【思考力】:創造的思考能力、計算力、意思決定能力、批判的思考能力、問題解決力、問題提起能力、協働力、総合的応用力
 ※創造的思考力、計算力が最も有意な効果を示し、次いで問題解決力、協働力、総合的応用力が続いたが、意思決定力、批判的思考力、問題提起力への効果は統計的に有意なレベルには達しなかった
・生徒中心の学習活動であり、生徒が学習への関心や学習態度などの豊かな情緒的態度を示すことで、生徒の学習意欲を積極的に導き、学業成績に影響を与えることができ、生徒の情緒的態度や価値観、思考力の育成にも当然効果的である。
・生徒の思考力と情意態度から、プロジェクト学習が生徒の学習成果に与える影響は、学業成績だけでなく、自己情緒的態度や価値観、創造的思考力、計算的思考力、その他の高次の思考力であることが示された
・プロジェクト学習は、生徒のコアリテラシーを効果的に育成し(Hongxing, 2017)、高次思考の発達を促す授業活動である(Weihong and Yinglong, 2019)

次に、調整変数については、以下の内容が示唆されました。
(1)国土地理学の観点からは、アジア、特に東南アジアにおけるプロジェクト学習の効果は、西欧や北米のそれよりも有意に優れていた。
(2)カリキュラムの観点からは、プロジェクト学習は、工学・技術系科目においてより有意に生徒の学習効果を促進し、理論系科目よりも実験系科目においてよりよく適用される。
(3)教育学的観点からは、プロジェクト学習は少人数のグループ指導に適しており、その場合、グループの人数は4~5人程度が最も良い結果をもたらす。
(4)実験期間を考慮すると、9~18週間がより適切であり、高校レベルでの適用にはより明白な利点がある。

最後に、プロジェクト学習の学習成果への影響はどのように生じるのか?という問いについて、以下のような示唆が得られています。
・プロジェクト学習の具体的な5つのステップ
①プロジェクトの目標と範囲の特定
②プロジェクト計画の立案
③プロジェクトの実施
④プロジェクトの進捗状況のモニタリングと問題解決
⑤プロジェクトを完了し発表し評価する
・これらのステップには、問題志向性、協同学習性、真正性といった学習成果に影響を与える重要な活動が含まれており、これらが一体となって学生の学習成果に影響を与える
・プロジェクト学習は、現実の問題を志向し、生徒が自分の知識や技能を応用して問題を解決することを要求し、その原動力となる問いが生徒の学習への関心を刺激する
・複数の分野の知識や技能を統合し、理論的な知識と実践を融合させ、生徒の創造的な思考能力や総合的な応用能力を育成する
・プロジェクトを実施する過程では、グループメンバーが作業を分担し、協力して問題を特定し、プロジェクトが完成して発表した後、教師が適時にフィードバックと評価を行うことで、プロジェクト学習における生徒の態度に影響を与え、学習効果を向上させる
・結論として、プロジェクト学習の具体的なプロセスと特徴は、生徒の学習効果を高める重要な要因である
・プロジェクトの特性を合理的に設計し、プロジェクト学習におけるさまざまな変数を適用することで、学生の学習効果を効果的に高めることができる。

以上の全体像がこちらにFigure4に示されています。
figure4

・プロジェクト学習の具体的な5つのステップ(PJの目標と範囲の特定、計画立案、PJ実施、進捗状況のモニタリングと問題解決、PJを完了し発表し評価)
 ↓鍵となる要因、教授戦略、フィードバック評価
・特徴(問題ドリブン、学際的統合、現実的状況、協同学習、成果物展示、継続的探究)
 ↓プロモート、育む、強化する
・能力(創造的思考能力、計算力、意思決定能力、批判的思考能力、問題解決力、問題提起能力、協働 力、総合的応用力、学習動機、学習態度、学習への関心、自己効力感)
 ↓科目分野、学習デザイン、実験規模、国・地域
・モデレーター(科目カテゴリー、コースの種類、学習セクション、期間、国・地域)
 ↓モデレーター
・学習成果(思考力、学業達成度、情緒的態度)

ここまで。
PBLのプロセス、調整変数、学習成果をフレームワークとしてまとめてくれていたのは全体像を俯瞰でき、大変参考になりました。
また、PBLは理論系科目よりも実験系科目の方がより効果が高く、また、実験期間は9-18週間、グループサイズは4~5人のときに最もよい効果が出るという点も覚えておきたいです。
1点だけ、東南アジアのPBLの効果が欧米よりも高かったことは意外でした。
というのも、以前読んだPBLのメタ分析論文では、「欧米に比べて東アジアではプロジェクト学習の効果が低く、研究自体も少ないという結果だったためです。
前回読んだものは2017年までのものだったのに対し、今回の論文は2023年までと6年の差があるので、この間にアジアのPBLの実践や研究が進んだということなのでしょうか。不思議です。


【メモ】
・伝統的な「教師が教え、生徒が受け、評価し、フィードバックする」モデルと比べ、プロジェクト学習は「完全な学習プロセス(complete learning process)」に近い(Changming, 2020)
・これからの教育には、生徒の将来のキャリアや生活に必要な21世紀型スキルとコアリテラシーを育成するためのプロジェクト学習が必要である
・プロジェクト学習の真価は、教科知識の核となる概念や原理を習得する方法として、少人数のグループで現実の問題を探求し、現実の状況に基づいたトピックを中心にドライビングクエスチョンを提起し、生徒が調査に深く関わることで、創造的思考力、問題解決力、総合的応用力といった高次思考力を高めることにある

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