パーソナリティとリーダーシップについての関係性をメタ分析した論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:0件 (2024年6月4日時点))
Javalagi, A. A., Newman, D. A., & Li, M. (2024). Personality and leadership: Meta-analytic review of cross-cultural moderation, behavioral mediation, and honesty-humility. Journal of Applied Psychology.
※今年発表されたてなので引用はされていませんが、これから多く引用される気がします。
当論文は、ビッグファイブ性格とリーダーシップに関するJudgeら(2002)の古典的なメタ分析を拡張した内容となっています。ちなみに、Judgeらの論文は、Journal of Applied Psychologyの100年の歴史の中でも、組織行動学の教科書でも最も引用されている論文の1つ(5700件以上!)だそうです。
パーソナリティーの土台となるのはビッグファイブモデル(FFM: Five Factor Model)とHEXACOモデルです。HEXACOモデルとは、FFMを拡大・修正したモデルで、「正直さ-謙虚さ」が第6因子として追加されています。
膨大な数(13,766件(FFM)と784件(HEXACO))の論文から、6つの除外基準を用いて最終的に
204件(FFM)と19件(HEXACO)に絞り込み、メタ分析を行っています。
5つの仮説と結果を以下に簡単にまとめます。
・仮説1a: 集団主義文化圏では、リーダーの外向性とリーダーの有効性の間の正の関係がより強くなるように、集団主義が外向性とリーダーの有効性の関係を調整する。
・仮説1b: 集団主義文化圏では、リーダーの協調性とリーダーの有効性の間の正の関係がより強くなるように、集団主義は協調性とリーダーの有効性の関係を調整する。
⇨abともに⚪︎:対人関係特性(外向性と協調性)は、集団主義文化においてより強いリーダーシップの優位性を示した
・仮説2:リーダーの行動(配慮)は、(a)外向性、(b)協調性、(c)誠実性、(d)情緒性がリーダーの有効性に及ぼす影響を媒介する。
⇨△:H2a(外向性)とH2b(協調性)については支持されたが、H2c(誠実性)とH2d(情緒性)については支持されなかった。
・仮説4:正直さ・謙虚さは、リーダーの有効性と正の相関がある。
⇨◎:正直さ-謙虚さがFFMを大幅に超えてリーダーの有効性を示した
・仮説5:集団主義は「正直さ-謙虚さ」とリーダーの有効性の関係を調整し、リーダーの正直さ-謙虚さとリーダーの有効性の間の正の関係は集団主義文化においてより強くなる。
⇨×:集団主義は「正直さ-謙虚さ」とリーダーの有効性の関係を緩和しなかった
Figure2では、FFMの特性とリーダーの有効性の関連を媒介するモデルが示されています。
社会分析理論(J. Hogan & Holland, 2003; Oh & Berry, 2009)からの洞察を用いて、リーダーのパーソナリティがリーダーの有効性に対するフォロワーの評価に影響を与える2つの中核的な行動メカニズムとして、「配慮(Consideration)」と「体制づくり(Initiating structure)」が機能することを示しています。
このように、従来の3倍の研究数を用いて、リーダー特性アプローチを拡張する3つの新しい示唆を与えてくれています。
第1に、集団主義社会では、リーダーの外向性と協調性はリーダーの有効性のより強い予測因子であり、このような文化では社会的協調性が強化される必要性があることを裏付けている。
第2に、リーダーの有効性に対する特定のリーダーのFFM特性効果は、「配慮」と「体制づくり」によって媒介されるという理論モデルが提唱され、これは「仲良くする」と「出世する」という社会分析的動機と一致する。
第3に、HEXACOモデルによる「正直さ-謙虚さ」は、FFMを超えてリーダーの有効性を実質的に予測する。
非常に面白い研究でした。
日本も集団主義社会だと思いますので、特にリーダーの外向性と協調性が重要となると言えそうです。
また、リーダーのパーソナリティがリーダーの行動「配慮(Consideration)」と「体制づくり(Initiating structure)」を媒介してリーダーの効果性に繋がっていること。
更に「配慮」は外向性と協調性が、「体制づくり」は外向性、誠実性、開放性がそれぞれ媒介していることも面白い発見でした。どちらにしても外向性の高い人が高いリーダーの効果性を生むことは間違いなさそうです。
最後に、ビッグファイブは知っていましたが、HEXACOモデルについては今回初めて知りました。しかも、HEXACOモデルで追加された「正直さ-謙虚さ」がビッグファイブの5項目よりもリーダーの有効性に与える影響が大きいことも面白い発見でした。HEXACOについて、もっと調べてみようと思います。
以下、メモ
リーダー特性アプローチ
論文はこちら(被引用数:0件 (2024年6月4日時点))
Javalagi, A. A., Newman, D. A., & Li, M. (2024). Personality and leadership: Meta-analytic review of cross-cultural moderation, behavioral mediation, and honesty-humility. Journal of Applied Psychology.
※今年発表されたてなので引用はされていませんが、これから多く引用される気がします。
当論文は、ビッグファイブ性格とリーダーシップに関するJudgeら(2002)の古典的なメタ分析を拡張した内容となっています。ちなみに、Judgeらの論文は、Journal of Applied Psychologyの100年の歴史の中でも、組織行動学の教科書でも最も引用されている論文の1つ(5700件以上!)だそうです。
パーソナリティーの土台となるのはビッグファイブモデル(FFM: Five Factor Model)とHEXACOモデルです。HEXACOモデルとは、FFMを拡大・修正したモデルで、「正直さ-謙虚さ」が第6因子として追加されています。
「HEXACOモデル」については以下のような記述がありました。
・今世紀に入り、パーソナリティ研究者たちは、より世界的に代表的なパーソナリティの枠組みであるHEXACOモデルを開発するために、7~12言語にわたる精神神経学的アプローチを実施した(Ashton & Lee, 2007; Ashton et al, 2004; K. Lee & Ashton, 2004)
・HEXACOの次元は、FFMと経験的に類似しているが、「正直さ-謙虚さ」とラベル付けされた第6因子が組み込まれている(H-H; Ashton et al., 2014)。
・H-Hは「報復を受けることなく、他者から搾取する可能性があっても他者に協力するという意味で、他者との取引において公正で真正である傾向を表し」、H-Hの高水準は「協力による利益(相互扶助と非攻撃)」をもたらす(Ashton & Lee, 2007, p.156)
・Ashtonら(2014)は、特性H-Hのスコアが高い個人は「他者を操作することを望まない」あるいは「他の個人や社会全体を利用しようとしない」傾向があると説明している(p.142)
・従って、暗黙のリーダーシップ理論(Lord et al., 1984)に基づき、フォロワーはH-Hリーダーの方がより強力なリーダー・プロトタイプの一致を認識し、その結果、正直で謙虚なリーダーをより効果的であると評価すると推論する
・HEXACOの次元は、FFMと経験的に類似しているが、「正直さ-謙虚さ」とラベル付けされた第6因子が組み込まれている(H-H; Ashton et al., 2014)。
・H-Hは「報復を受けることなく、他者から搾取する可能性があっても他者に協力するという意味で、他者との取引において公正で真正である傾向を表し」、H-Hの高水準は「協力による利益(相互扶助と非攻撃)」をもたらす(Ashton & Lee, 2007, p.156)
・Ashtonら(2014)は、特性H-Hのスコアが高い個人は「他者を操作することを望まない」あるいは「他の個人や社会全体を利用しようとしない」傾向があると説明している(p.142)
・従って、暗黙のリーダーシップ理論(Lord et al., 1984)に基づき、フォロワーはH-Hリーダーの方がより強力なリーダー・プロトタイプの一致を認識し、その結果、正直で謙虚なリーダーをより効果的であると評価すると推論する
膨大な数(13,766件(FFM)と784件(HEXACO))の論文から、6つの除外基準を用いて最終的に
204件(FFM)と19件(HEXACO)に絞り込み、メタ分析を行っています。
5つの仮説と結果を以下に簡単にまとめます。
・仮説1a: 集団主義文化圏では、リーダーの外向性とリーダーの有効性の間の正の関係がより強くなるように、集団主義が外向性とリーダーの有効性の関係を調整する。
・仮説1b: 集団主義文化圏では、リーダーの協調性とリーダーの有効性の間の正の関係がより強くなるように、集団主義は協調性とリーダーの有効性の関係を調整する。
⇨abともに⚪︎:対人関係特性(外向性と協調性)は、集団主義文化においてより強いリーダーシップの優位性を示した
・仮説2:リーダーの行動(配慮)は、(a)外向性、(b)協調性、(c)誠実性、(d)情緒性がリーダーの有効性に及ぼす影響を媒介する。
⇨△:H2a(外向性)とH2b(協調性)については支持されたが、H2c(誠実性)とH2d(情緒性)については支持されなかった。
・仮説3:リーダーの行動(体制づくり(Initiating Structure))は、特性:(a)外向性、(b)誠実性、(c)情緒性、(d)開放性がリーダーの有効性に及ぼす影響を媒介する。
⇨△:H3a(外向性)、H3b(誠実性)、H3d(開放性)については支持されたが、H3c(情緒性)は支持しなかった。
※Figure2に示された仮説の有意なモデル経路が75%(H3a:外向性から体制づくり)から60%(H3d:開放性から体制づくり)の範囲で一般化されることを発見。この結果は、リーダーシップに対するパーソナリティ効果の大きさが普遍的ではないことを示しており、モデレーターの存在を示唆している。
⇨△:H3a(外向性)、H3b(誠実性)、H3d(開放性)については支持されたが、H3c(情緒性)は支持しなかった。
※Figure2に示された仮説の有意なモデル経路が75%(H3a:外向性から体制づくり)から60%(H3d:開放性から体制づくり)の範囲で一般化されることを発見。この結果は、リーダーシップに対するパーソナリティ効果の大きさが普遍的ではないことを示しており、モデレーターの存在を示唆している。
・仮説4:正直さ・謙虚さは、リーダーの有効性と正の相関がある。
⇨◎:正直さ-謙虚さがFFMを大幅に超えてリーダーの有効性を示した
・仮説5:集団主義は「正直さ-謙虚さ」とリーダーの有効性の関係を調整し、リーダーの正直さ-謙虚さとリーダーの有効性の間の正の関係は集団主義文化においてより強くなる。
⇨×:集団主義は「正直さ-謙虚さ」とリーダーの有効性の関係を緩和しなかった
Figure2では、FFMの特性とリーダーの有効性の関連を媒介するモデルが示されています。
社会分析理論(J. Hogan & Holland, 2003; Oh & Berry, 2009)からの洞察を用いて、リーダーのパーソナリティがリーダーの有効性に対するフォロワーの評価に影響を与える2つの中核的な行動メカニズムとして、「配慮(Consideration)」と「体制づくり(Initiating structure)」が機能することを示しています。
このように、従来の3倍の研究数を用いて、リーダー特性アプローチを拡張する3つの新しい示唆を与えてくれています。
第1に、集団主義社会では、リーダーの外向性と協調性はリーダーの有効性のより強い予測因子であり、このような文化では社会的協調性が強化される必要性があることを裏付けている。
第2に、リーダーの有効性に対する特定のリーダーのFFM特性効果は、「配慮」と「体制づくり」によって媒介されるという理論モデルが提唱され、これは「仲良くする」と「出世する」という社会分析的動機と一致する。
第3に、HEXACOモデルによる「正直さ-謙虚さ」は、FFMを超えてリーダーの有効性を実質的に予測する。
非常に面白い研究でした。
日本も集団主義社会だと思いますので、特にリーダーの外向性と協調性が重要となると言えそうです。
また、リーダーのパーソナリティがリーダーの行動「配慮(Consideration)」と「体制づくり(Initiating structure)」を媒介してリーダーの効果性に繋がっていること。
更に「配慮」は外向性と協調性が、「体制づくり」は外向性、誠実性、開放性がそれぞれ媒介していることも面白い発見でした。どちらにしても外向性の高い人が高いリーダーの効果性を生むことは間違いなさそうです。
最後に、ビッグファイブは知っていましたが、HEXACOモデルについては今回初めて知りました。しかも、HEXACOモデルで追加された「正直さ-謙虚さ」がビッグファイブの5項目よりもリーダーの有効性に与える影響が大きいことも面白い発見でした。HEXACOについて、もっと調べてみようと思います。
以下、メモ
リーダー特性アプローチ
・リーダーシップをリーダーの個人的特質に帰することは、かつては一般的であったが(Carlyle, 1907; Galton, 1869; Terman, 1904; Zaccaro, 2007)、20世紀半ばから後半にかけて疑問視されるようになった(Conger & Kanungo, 1998; House & Aditya, 1997)。
・理論的には、FFM特性は人類の祖先が遭遇した長年の社会生態学的圧力に耐えてきたものであり、彼らは協力行動を促進できるリーダーを選んできた(Darwin, 1859; Gurven et al., 2013; Van Vugt et al., 2008; von Rueden et al., 2015; see review by Judge et al., 2009)
・暗黙のリーダーシップ理論(Lord et al., 1984)では、人は認知的なカテゴリー化(Rosch, 1978)を行う
・リーダーシップのプロトタイプには、「リーダーの行動、価値観、態度、性格特性が含まれる」(House et al., 2004, p. 59)
・理論的には、潜在的なリーダーの特性と効果的なリーダーのプロトタイプが一致することが、効果的なリーダーシップの評価の基礎となる(Den Hartog et al., 1999; Foti & Luch, 1992; Offermann et al., 1994)
・この理論化は、リーダーシップとFFMの5つの特性すべてとの関係を支持している
・理論的には、FFM特性は人類の祖先が遭遇した長年の社会生態学的圧力に耐えてきたものであり、彼らは協力行動を促進できるリーダーを選んできた(Darwin, 1859; Gurven et al., 2013; Van Vugt et al., 2008; von Rueden et al., 2015; see review by Judge et al., 2009)
・暗黙のリーダーシップ理論(Lord et al., 1984)では、人は認知的なカテゴリー化(Rosch, 1978)を行う
・リーダーシップのプロトタイプには、「リーダーの行動、価値観、態度、性格特性が含まれる」(House et al., 2004, p. 59)
・理論的には、潜在的なリーダーの特性と効果的なリーダーのプロトタイプが一致することが、効果的なリーダーシップの評価の基礎となる(Den Hartog et al., 1999; Foti & Luch, 1992; Offermann et al., 1994)
・この理論化は、リーダーシップとFFMの5つの特性すべてとの関係を支持している
・外向的な人 (自己主張が強く、エネルギッシュで社交的)は出世欲が強く (Barrick et al., 2002) 、指導的立場に立とうとする意欲がある (e.g., Badura et al., 2020)
・外向的なリーダーは、自己主張が強く、カリスマ性がある(例:Frieder et al., 2018)
・協調性のある人(親切、思いやり、共感、対人感受性;Costa & McCrae, 1992)は、温かく活気ある人間関係を築き(Nahrgang et al., 2009)、向社会的行動や援助行動を示し(Graziano et al., 2007; E. M. Hunter et al., 2013; Ilies et al., 2009)、逸脱行動を回避する(Berry et al., 2007; Pletzer et al., 2019)
・誠実な人(勤勉、自己規律、秩序を重んじる)は、管理的役割(Barrick & Mount, 1991)を含め、様々な文脈の仕事(Connelly et al, 2022; J. Hogan & Holland, 2003; Oh et al., 2011) で優れた業績を上げる傾向がある(Barrick & Mount, 1991)
・誠実なリーダーは達成を求め(Barrick et al., 2013)、業績への期待を設定する(Ilies et al., 2009)
・情緒的に安定した人(不安、罪悪感、悲しみなどのネガティブな感情が少ない-Costa & McCrae, 1992, McCrae & Costa, 2008)は、ストレスの多い状況をうまく切り抜け (Costa & McCrae, 1992; Kammeyer-Mueller et al., 2009)、感情をうまく調整し(Le et al., 2011)、複雑な社会状況や予期せぬ変化に対処できる(Huang et al., 2014; Yukl, 2012)
・オープンな人は好奇心旺盛で、想像力に富み(Costa & McCrae, 1992)、創造性に富み(Mathisen et al., 2012)、革新的で(Connelly et al., 2014)、他人のアイデアを喜んで考慮する(Detert & Burris, 2007)
・オープンリーダーは、組織の乱気流を回避し(Heroldら, 2007)、アジェンダを実行し(Friederら, 2018)、企業業績を向上させることができる(Mathisenら, 2012)
※FFMの各特徴は、誰がリーダーとして頭角を現し、誰がその役割において効果的なパフォーマンスを発揮するかを予測するはずである
・外向的なリーダーは、自己主張が強く、カリスマ性がある(例:Frieder et al., 2018)
・協調性のある人(親切、思いやり、共感、対人感受性;Costa & McCrae, 1992)は、温かく活気ある人間関係を築き(Nahrgang et al., 2009)、向社会的行動や援助行動を示し(Graziano et al., 2007; E. M. Hunter et al., 2013; Ilies et al., 2009)、逸脱行動を回避する(Berry et al., 2007; Pletzer et al., 2019)
・誠実な人(勤勉、自己規律、秩序を重んじる)は、管理的役割(Barrick & Mount, 1991)を含め、様々な文脈の仕事(Connelly et al, 2022; J. Hogan & Holland, 2003; Oh et al., 2011) で優れた業績を上げる傾向がある(Barrick & Mount, 1991)
・誠実なリーダーは達成を求め(Barrick et al., 2013)、業績への期待を設定する(Ilies et al., 2009)
・情緒的に安定した人(不安、罪悪感、悲しみなどのネガティブな感情が少ない-Costa & McCrae, 1992, McCrae & Costa, 2008)は、ストレスの多い状況をうまく切り抜け (Costa & McCrae, 1992; Kammeyer-Mueller et al., 2009)、感情をうまく調整し(Le et al., 2011)、複雑な社会状況や予期せぬ変化に対処できる(Huang et al., 2014; Yukl, 2012)
・オープンな人は好奇心旺盛で、想像力に富み(Costa & McCrae, 1992)、創造性に富み(Mathisen et al., 2012)、革新的で(Connelly et al., 2014)、他人のアイデアを喜んで考慮する(Detert & Burris, 2007)
・オープンリーダーは、組織の乱気流を回避し(Heroldら, 2007)、アジェンダを実行し(Friederら, 2018)、企業業績を向上させることができる(Mathisenら, 2012)
※FFMの各特徴は、誰がリーダーとして頭角を現し、誰がその役割において効果的なパフォーマンスを発揮するかを予測するはずである
これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。
コメント