STEM教育におけるPBL行動尺度を開発した香港の論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:34件 (2024年6月19日時点))
Wan, Z. H., So, W. M. W., & Zhan, Y. (2022). Developing and validating a scale of STEM project-based learning experience. Research in Science Education, 52(2), 599-615.
STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの学問分野の頭文字をとったものである(Breiner et al. 2012)。
STEM分野はプロジェクト学習(PBL)と相性が良く、実際、PBLとSTEM教育の組み合わせは、
「生徒が学習を足場にして、意味のある強力な科学、技術、工学、数学の概念を構築するために必要な、文脈に即した本物の経験」を提供することができると述べられています。(Capraroら, 2013)
そんなSTEMとPBLに関する研究について、筆者は以下の点が課題であり、リサーチギャップだと述べています。
「学習効果と複合的なSTEMプロジェクトのさまざまな構成要素との関係は未知のままであり、複合的なSTEMプロジェクト自体のさまざまな側面に関する学生の経験を調査する有効な手段を用いて調査されるべきである。現在までのところ、既存の文献にはそのようなツールに関する研究が不足している」
「STEM-PBLの内部構造を探る有効な手段がなければ、STEM-PBLに統合されたさまざまな要素が、教師が期待する生徒の認知的・感情的発達とどのように関連しているかを調査することは困難であり、その結果、意図された目標を達成するためにSTEM活動の変更や改善を提案する能力にも限界がある」
この課題意識から、STEM-PBLに関する尺度を開発しています。
メインは、①STEM-PBL経験尺度ですが、その他にも3つの尺度を開発しています。
②STEM学習への関心尺度
③STEM学習への実用的動機尺度
④STEMキャリア願望尺度
他に開発した3つの尺度は以下です。残念ながら論文中に尺度項目の記載はありませんでした。
②STEM学習への関心尺度(STEMを学ぶときに生徒がどの程度喜びを感じるかを指す):9項目
③STEM学習への実用的動機尺度(STEM学習がより広い社会的文脈で重要であると生徒がどの程度考えるかを指す):7項目
・②と③は、学生の科学に対する態度に関するWan and Lee(2017)の研究に基づいて設計
・元の調査は7つの次元から構成され、その中から本研究に関連する2つを選択し、STEM教育の文脈に合わせてさらに修正
・各項目は4段階で評価
・α係数は.905と.857と算出された
尺度開発の統計分析と結果について以下にまとめます。
論文はこちら(被引用数:34件 (2024年6月19日時点))
Wan, Z. H., So, W. M. W., & Zhan, Y. (2022). Developing and validating a scale of STEM project-based learning experience. Research in Science Education, 52(2), 599-615.
STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの学問分野の頭文字をとったものである(Breiner et al. 2012)。
STEM分野はプロジェクト学習(PBL)と相性が良く、実際、PBLとSTEM教育の組み合わせは、
「生徒が学習を足場にして、意味のある強力な科学、技術、工学、数学の概念を構築するために必要な、文脈に即した本物の経験」を提供することができると述べられています。(Capraroら, 2013)
そんなSTEMとPBLに関する研究について、筆者は以下の点が課題であり、リサーチギャップだと述べています。
「学習効果と複合的なSTEMプロジェクトのさまざまな構成要素との関係は未知のままであり、複合的なSTEMプロジェクト自体のさまざまな側面に関する学生の経験を調査する有効な手段を用いて調査されるべきである。現在までのところ、既存の文献にはそのようなツールに関する研究が不足している」
「STEM-PBLの内部構造を探る有効な手段がなければ、STEM-PBLに統合されたさまざまな要素が、教師が期待する生徒の認知的・感情的発達とどのように関連しているかを調査することは困難であり、その結果、意図された目標を達成するためにSTEM活動の変更や改善を提案する能力にも限界がある」
この課題意識から、STEM-PBLに関する尺度を開発しています。
メインは、①STEM-PBL経験尺度ですが、その他にも3つの尺度を開発しています。
②STEM学習への関心尺度
③STEM学習への実用的動機尺度
④STEMキャリア願望尺度
①STEM-PBL経験尺度
・主に2つの先行研究(Kelley and Knowles 2016; So et al. 2018)に基づき作成
・両者ともSTEM学習を4つの次元(科学的探究、技術的応用、工学的設計、数学的処理)で概念化
・KelleyとKnowles(2016)は、文献を総合して4つの次元構造を生み出した
・Soら(2018)は、文献の統合を通じて4つの次元構造を提唱したことに加え、分野ごとの文献分析や学生のSTEMプロジェクトレポートの分析を通じて、各次元の下にある具体的な要素を生成(Table 1)
・そこに筆者らは、STEM-PBLの4つの次元の要素をさらに洗練させるために、STEMプロジェクトを共同で実施した小学生高学年の9チーム(n=49)を対象に、フォーカス・グループ・インタビューを実施(STEMプロジェクトを実施する過程や、その経験について感じたこと、印象に残ったことなどを記述してもらった)
・生徒の回答は、4つの次元(すなわち、科学的探究、技術的応用、工学的設計、数学的処理)の観点からコード化し、内容と照らし合わせながら修正し、最終的に20項目の尺度を作成
・両者ともSTEM学習を4つの次元(科学的探究、技術的応用、工学的設計、数学的処理)で概念化
・KelleyとKnowles(2016)は、文献を総合して4つの次元構造を生み出した
・Soら(2018)は、文献の統合を通じて4つの次元構造を提唱したことに加え、分野ごとの文献分析や学生のSTEMプロジェクトレポートの分析を通じて、各次元の下にある具体的な要素を生成(Table 1)
・そこに筆者らは、STEM-PBLの4つの次元の要素をさらに洗練させるために、STEMプロジェクトを共同で実施した小学生高学年の9チーム(n=49)を対象に、フォーカス・グループ・インタビューを実施(STEMプロジェクトを実施する過程や、その経験について感じたこと、印象に残ったことなどを記述してもらった)
・生徒の回答は、4つの次元(すなわち、科学的探究、技術的応用、工学的設計、数学的処理)の観点からコード化し、内容と照らし合わせながら修正し、最終的に20項目の尺度を作成
【STEM-PBL経験尺度】(各項目4段階で評価)
◆科学的探究(STEM-PBLにおいて生徒が科学的な問いを探究する経験):6項目
・自然現象に関する疑問を立てる
・仮説を立て、それを検証するための実験を行う
・公正なテストおよび/または統制された実験における変数と不変量を特定する
・データ収集・実験の結果を分析する
・科学的現象に関連する結論を導き出す
・さらなる研究のための改善と推奨を提案する
◆技術的応用(STEM-PBLにおける生徒の技術活用経験):5項目
・IT機器を使ってデータを収集する
・コンピュータでデータを分析する
・図表を作成するためのソフトウェアの実行
・問題を解決するために技術的なツールや製品を選択し、使用する
・オンラインツールを使用してアイデアを生み出す
◆エンジニアリング・デザイン(STEM-PBLにおいて、生徒が問題解決のために製品やモデルを設計する経験):4項目
・問題解決のための製品/モデルの設計
・モデルや設計の制約や欠点を特定する
・設計をテストして性能を評価する
・モデルまたは設計を修正する
◆数学的処理(STEM-PBLにおける生徒のデータ収集・分析経験):5項目
・データの収集と記録
・平均値の計算
・パーセンテージの計算
・データを提示するための表や図の作成
・データのパターンやルールを見つける
他に開発した3つの尺度は以下です。残念ながら論文中に尺度項目の記載はありませんでした。
②STEM学習への関心尺度(STEMを学ぶときに生徒がどの程度喜びを感じるかを指す):9項目
③STEM学習への実用的動機尺度(STEM学習がより広い社会的文脈で重要であると生徒がどの程度考えるかを指す):7項目
・②と③は、学生の科学に対する態度に関するWan and Lee(2017)の研究に基づいて設計
・元の調査は7つの次元から構成され、その中から本研究に関連する2つを選択し、STEM教育の文脈に合わせてさらに修正
・各項目は4段階で評価
・α係数は.905と.857と算出された
④STEMキャリア願望尺度(学生が将来STEM関連職を目指す意向の程度を指す)
・科学研究職(例:物理学教授、海洋研究者、生物学者)、技術関連職(例:ネットワーク管理者、プログラマー、ウェブサイトデザイナー)、工学職(例:自動車設計者、電気技術者、建築設計者)、数学関連職(例:会計士、アクチュアリー、データ分析者)
・これらの例はすべて、香港で見られるSTEM関連の仕事から取られている
・このような例を取り入れることで、アンケートを終えた生徒がSTEM関連の仕事について明確なイメージを持つことができる
・α係数は0.708であった
・科学研究職(例:物理学教授、海洋研究者、生物学者)、技術関連職(例:ネットワーク管理者、プログラマー、ウェブサイトデザイナー)、工学職(例:自動車設計者、電気技術者、建築設計者)、数学関連職(例:会計士、アクチュアリー、データ分析者)
・これらの例はすべて、香港で見られるSTEM関連の仕事から取られている
・このような例を取り入れることで、アンケートを終えた生徒がSTEM関連の仕事について明確なイメージを持つことができる
・α係数は0.708であった
尺度開発の統計分析と結果について以下にまとめます。
統計分析
・ネットワーク内妥当性を確認するため、クロンバックのα係数を算出
・尺度の次元構造を検討するためにCFAを実施
・異なるタイプの学生間における尺度の構造の同等性を検証するために(Marsh 1994)、学生の学習に影響を与える2つの重要な要因である性別と学年間における4次元構造の不変性を検証するために、マルチグループCFAを実施(Wan and Lee 2017; Lee et al. 2019)
・尺度の次元構造を検討するためにCFAを実施
・異なるタイプの学生間における尺度の構造の同等性を検証するために(Marsh 1994)、学生の学習に影響を与える2つの重要な要因である性別と学年間における4次元構造の不変性を検証するために、マルチグループCFAを実施(Wan and Lee 2017; Lee et al. 2019)
・ネットワーク間の妥当性を検討するために、①②③④の相関係数を計算
・未補正の相関係数は測定誤差によって弱められる可能性があるため、本研究では、相関する構成要素が完全な信頼性で評価されたと仮定して、非減衰相関係数も算出(Muchinsky 1996)
・未補正の相関係数は測定誤差によって弱められる可能性があるため、本研究では、相関する構成要素が完全な信頼性で評価されたと仮定して、非減衰相関係数も算出(Muchinsky 1996)
結果
・STEM-PBL経験尺度の4つの次元(科学的探究、技術的応用、工学的設計、数学的処理)の記述統計量と信頼性係数をTable 2に示す
・α係数はすべて.70以上であり、推奨基準(Fink 2015)を満たしている
・4つの次元に関わる相関関係も示している
・α係数はすべて.70以上であり、推奨基準(Fink 2015)を満たしている
・4つの次元に関わる相関関係も示している
ネットワーク内構成概念妥当性
・図1に示すように、STEM-PBL経験尺度の4次元構造の妥当性が支持された
・CFIは.90以上、PNFIは.50以上、RMSEAは.08以下であり、CFA結果において尺度の4つの次元が明確かつ明瞭に識別されたことを示した
・CFIは.90以上、PNFIは.50以上、RMSEAは.08以下であり、CFA結果において尺度の4つの次元が明確かつ明瞭に識別されたことを示した
・多群確認因子分析は、男子生徒と女子生徒の間、およびP5とP6の生徒の間で行われた
・STEM-PBL経験の尺度の構造が、性別や異なる学年の生徒の間で一貫していることが示唆された
ネットワーク間の構成概念妥当性
・①STEM-PBL経験尺度の4つの次元と、②生徒のSTEM学習への関心、③STEM学習への実用的動機、④STEMキャリア志向との関係を調査
・4つの次元はすべて3つの構成要素と正の有意な相関を示した
・ピアソン相関係数は.214から.487の範囲、非抑制相関係数は.298から.566の範囲であった
・4つの次元はすべて3つの構成要素と正の有意な相関を示した
・ピアソン相関係数は.214から.487の範囲、非抑制相関係数は.298から.566の範囲であった
今回開発されたSTEM-PBL経験尺度によって、科学的探究、技術的応用、工学的設計、数学的処理の各次元が、小学生のSTEM-PBL経験を捉えることができるようになりました。
またその4次元は、生徒のSTEM学習への関心、STEM学習の実用主義的動機、STEMキャリア志向と系統的に関連していることも示されました。
またその4次元は、生徒のSTEM学習への関心、STEM学習の実用主義的動機、STEMキャリア志向と系統的に関連していることも示されました。
PBLの尺度はほぼほぼ見たことがなかったので、この尺度によって、PBLの要素と学習目標との間の関係性の分析などが進むかもしれません。
今回の尺度は、香港の小学生高学年(4~6年)727人を対象として作成されたものですので、中高大学生対象の尺度も開発されることを願います。
今回の尺度は、香港の小学生高学年(4~6年)727人を対象として作成されたものですので、中高大学生対象の尺度も開発されることを願います。
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