インフォーマルな学習環境における香港の小学生の科学プロジェクトを通じて実施されたSTEM(科学、技術、工学、数学)活動の特徴とその教育効果を分析した論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:58件 (2024年6月16日時点))
So, W. W. M., Zhan, Y., Chow, S. C. F., & Leung, C. F. (2018). Analysis of STEM activities in primary students’ science projects in an informal learning environment. International Journal of Science and Mathematics Education, 16, 1003-1023.
2000年以降、教育の重要な概念として謳われ始めたSTEM(科学・技術・工学・数学)教育。
全世界的に重要性の認識は広がっていつつも、課題もいくつか存在します。
特に、本論文で焦点を当てているのが、ほとんどのK-12教師は統合的アプローチでSTEMを教えていないという点(Breinerら, 2012)。
従来のようにSTEMをバラバラに教えるのではなく、4教科すべてを統合すると最も高い学習効果(Becker & Park, 2011)があるとのことで、そんな統合型STEM教育を推進する可能性を探っているのがこちらの論文です。
方法論として、まず評価から語られています。
既存のSTEM教育の評価は、科目内容の知識(content knowledge)に焦点を当てたものが多かったようですが、それだけでは十分とは言えないと筆者は主張しています。つまり、知識だけでなく実践や応用の指標を含む枠組みで評価することが効果的であるとして、そのような評価の枠組みは不足していることから、STEM活動の評価フレームワークの作成に挑んでいます。
科学(Science)
S1: 調査を開始する
S1.1:自然現象(物理学、生物学、化学、地球科学/宇宙科学)に関する疑問の定式化
S1.2: 科学的調査の対象となるよう、疑問点を絞り込む、あるいは明確にする
S1.3: 仮説を立て、それを検証するための実験を行う
S2: 調査を実施する
S2.1: 公正な試験や対照実験における変数と不変量を特定する
S2.2: 調査に使用された手順を説明する
S2.3: データ収集/実験の結果を分析する
S2.4: エラーの原因と収集したデータの限界を特定する
S3: 調査の発表
S3.1: 科学的現象に関連した結論を導き出す
S3.2: 調査における因果関係について論証する
S3.3: さらなる研究のための改善点と推奨事項を提案する
続いてデータ収集です。
こちらは、2015年に香港で開催された「科学と環境研究の革新」イベントに参加した10~12歳の小学生約1000人が参加した137チーム(1チーム4~5人)の科学プロジェクト・レポートから選ばれています。
生徒のプレゼンとレポートが評価され、その中から最終的に、24のプロジェクトが「outstanding」、45のプロジェクトが「merit」、68のプロジェクトが「consolation」に選定。そこからそれぞれ10 件のプロジェクト報告が無作為に選ばれ、合計 30 件のプロジェクトが分析対象となっています。
データ分析
プロジェクト報告書をTable 1のSTEM活動の評価の枠組みに沿って、各項目に当てはまる数をカウント。
そして、一元配置分散分析(プロジェクト報告書の異なる受賞グループで示されたSTEM活動が異なるかどうかを検証)と相関分析(各STEM分野の活動の相関とその程度を調査)、更に、STEM教育クオリティ・フレームワーク(Dayton Regional STEM Center, 2011)を用いて、各要素の各レベルの記述と事例に基づき、30件の科学プロジェクトの学術的内容の完全性と統合の度合いを分析しています。
調査結果
生徒の科学プロジェクトにおけるSTEM活動の種類
30の科学プロジェクトにおける科学、技術、工学、数学の各側面の活動の出現率がTable 3にまとめられています。
論文はこちら(被引用数:58件 (2024年6月16日時点))
So, W. W. M., Zhan, Y., Chow, S. C. F., & Leung, C. F. (2018). Analysis of STEM activities in primary students’ science projects in an informal learning environment. International Journal of Science and Mathematics Education, 16, 1003-1023.
2000年以降、教育の重要な概念として謳われ始めたSTEM(科学・技術・工学・数学)教育。
全世界的に重要性の認識は広がっていつつも、課題もいくつか存在します。
特に、本論文で焦点を当てているのが、ほとんどのK-12教師は統合的アプローチでSTEMを教えていないという点(Breinerら, 2012)。
従来のようにSTEMをバラバラに教えるのではなく、4教科すべてを統合すると最も高い学習効果(Becker & Park, 2011)があるとのことで、そんな統合型STEM教育を推進する可能性を探っているのがこちらの論文です。
方法論として、まず評価から語られています。
既存のSTEM教育の評価は、科目内容の知識(content knowledge)に焦点を当てたものが多かったようですが、それだけでは十分とは言えないと筆者は主張しています。つまり、知識だけでなく実践や応用の指標を含む枠組みで評価することが効果的であるとして、そのような評価の枠組みは不足していることから、STEM活動の評価フレームワークの作成に挑んでいます。
STEM教育の包括的な文献を選択し、小学生の分野別経験・実践に密接に関連する指標を中心に、その分野の象徴的・共通的な実践、関連する技能、関連する問題解決方法が抽出。そして、複数の実践や条件付きの実践がある指標は、実践を分離するか、条件部分を削除して、その実践の主旨に焦点を当てるように修正し、Table 1にSTEM活動の評価の枠組みとしてまとめられています。
科学(Science)
S1: 調査を開始する
S1.1:自然現象(物理学、生物学、化学、地球科学/宇宙科学)に関する疑問の定式化
S1.2: 科学的調査の対象となるよう、疑問点を絞り込む、あるいは明確にする
S1.3: 仮説を立て、それを検証するための実験を行う
S2: 調査を実施する
S2.1: 公正な試験や対照実験における変数と不変量を特定する
S2.2: 調査に使用された手順を説明する
S2.3: データ収集/実験の結果を分析する
S2.4: エラーの原因と収集したデータの限界を特定する
S3: 調査の発表
S3.1: 科学的現象に関連した結論を導き出す
S3.2: 調査における因果関係について論証する
S3.3: さらなる研究のための改善点と推奨事項を提案する
技術(Technology)
T1: テクノロジーを使う
T1.1: 問題解決のために道具/製品/材料を選択し、使用する
T1.2: データ収集のために機器を使用する
T1.3: コンピュータと電卓をさまざまな用途に使用する
T2: イノベーションと安全な使用
T2.1: ニーズとウォンツを満たすために、自然環境を革新/変更/修正する
T2.2: 安全規則に従って工具/材料/機械を使用する
T1: テクノロジーを使う
T1.1: 問題解決のために道具/製品/材料を選択し、使用する
T1.2: データ収集のために機器を使用する
T1.3: コンピュータと電卓をさまざまな用途に使用する
T2: イノベーションと安全な使用
T2.1: ニーズとウォンツを満たすために、自然環境を革新/変更/修正する
T2.2: 安全規則に従って工具/材料/機械を使用する
工学(Engineering)
E1: 解決すべき問題の定義
E1.1: 解決すべき問題を明確にするために質問する
E1: 解決すべき問題の定義
E1.1: 解決すべき問題を明確にするために質問する
E2: ソリューションの作成とテスト
E2.1: 科学的、数学的原理を実用的な目的に適用し、解決策を設計する
E2.2: 設計を視覚化するためのモデルの開発と使用
E2.3: 設計またはモデルの制約または欠点を特定する
E2.4: 設計をテストして性能を評価する
E2.5: 提案された同じオブジェクト、ツール、またはプロセスについて、2つの異なるモデルをテストし、どちらがより成功の基準を満たすかを判断する
E3: 解決策の洗練
E3.1: モデルまたは設計の修正
E3.2: 問題を解決するための最適解の分析と選択
数学(Mathematics)
M1: データの収集
M1.1: 実験設定のための測定
M1.2:科学実験の経過や結果を記録するための測定
M1.3:適切な道具とメートル法を使って測る
M2: データの処理
M2.1: 中心傾向を推定するための平均値の計算
M2.2: コミュニケーションにおけるパーセンテージの計算
M3: データを表現する
M3.1: 中心値を視覚化するための棒グラフ
M3.2: データの傾向を示す折れ線グラフ
M3.3: 相対値を表示する円グラフ
M3.4: 離散データを並べたりグループ化したりするための表
続いてデータ収集です。
こちらは、2015年に香港で開催された「科学と環境研究の革新」イベントに参加した10~12歳の小学生約1000人が参加した137チーム(1チーム4~5人)の科学プロジェクト・レポートから選ばれています。
生徒のプレゼンとレポートが評価され、その中から最終的に、24のプロジェクトが「outstanding」、45のプロジェクトが「merit」、68のプロジェクトが「consolation」に選定。そこからそれぞれ10 件のプロジェクト報告が無作為に選ばれ、合計 30 件のプロジェクトが分析対象となっています。
データ分析
プロジェクト報告書をTable 1のSTEM活動の評価の枠組みに沿って、各項目に当てはまる数をカウント。
そして、一元配置分散分析(プロジェクト報告書の異なる受賞グループで示されたSTEM活動が異なるかどうかを検証)と相関分析(各STEM分野の活動の相関とその程度を調査)、更に、STEM教育クオリティ・フレームワーク(Dayton Regional STEM Center, 2011)を用いて、各要素の各レベルの記述と事例に基づき、30件の科学プロジェクトの学術的内容の完全性と統合の度合いを分析しています。
調査結果
生徒の科学プロジェクトにおけるSTEM活動の種類
30の科学プロジェクトにおける科学、技術、工学、数学の各側面の活動の出現率がTable 3にまとめられています。
様々なSTEM側面における科学プロジェクトのグループ差
科学、技術、工学、数学の各活動の平均値を示したTable4によると、生徒の科学プロジェクトのレポートでは、技術や数学の活動よりも工学や科学の活動が多く確認されています。
また、STEM活動に統計的なグループ差が存在するかどうかを明らかにするために、一元配置分散分析を実施(Table 5)。科学的活動と数学的活動の両方に有意なグループ差があり(p < .001)、Outstandingプロジェクトとmeritプロジェクトでは、consolationプロジェクトよりも科学的活動と数学的活動がはるかに多いことが確認されています。
科学プロジェクトにおけるSTEM活動の統合
「教室内で学んだ異なる教科の知識をひとつの学習体験の中で統合する機会を作る」という視点が、探究学習やPBLでも重要になるのかもしれません。
【メモ】
Chiu, Price, Ovrahim(2015, p.12)は、「構成主義的アプローチ、問題解決型学習、現実世界とのつながりを作ることが、探究型戦略を用いて実施される効果的なSTEM教育の特徴であると述べている」。
Lewis(2006)は、設計と探究は概念的に類似しており、どちらも構造化されていない不確実な問題を対象とする推論プロセスであると論じている。
Hew and Brush (2007)は、K-12学校における技術統合の障壁として、資源、制度、教科文化、態度・信念、知識・技能、評価の6種類を挙げている。また、STEM活動に統計的なグループ差が存在するかどうかを明らかにするために、一元配置分散分析を実施(Table 5)。科学的活動と数学的活動の両方に有意なグループ差があり(p < .001)、Outstandingプロジェクトとmeritプロジェクトでは、consolationプロジェクトよりも科学的活動と数学的活動がはるかに多いことが確認されています。
科学プロジェクトにおけるSTEM活動の統合
30の科学プロジェクトにおける科学、技術、工学、数学の4つの側面に関連する活動の出現率の相関がtable 6で示されています。ここからは、科学的活動は、数学的活動(r = 0.62、p < .01**)および工学的活動(r = 0.38、p < .05*)と有意に関連していることが、また、数学的活動は技術的活動とは相関がなく、技術的活動は他の3つの活動とは相関がないことが明らかになっています。
ディスカッション
科学プロジェクトにおけるアンバランスなSTEM活動
・科学的な側面では、生徒による主導的な活動が少なく、特に仮説の設定が少なかった。このことは、生徒の科学は、他者(おそらくは教師や親)によって、あるいは他者の研究を参考にすることによって、開始される可能性が高いことを示している。
・工学的な側面では、解決策を洗練させる活動の難しさが確認された。設計プロセスは循環的であり、継続的な改善が必要であるという事実を生徒が見落としていた可能性が推測される。
・技術面では、イノベーションと安全な使用に関する活動が限られていた。このことは、生徒が満足できるような技術革新を行う能力が不足している可能性があり、技術使用に関する安全に対する意識が低いように思われる。
・数学的側面については、本研究の学生は、データを処理し表現するために数学の専門知識を用いる傾向が低かった
・工学的な側面では、解決策を洗練させる活動の難しさが確認された。設計プロセスは循環的であり、継続的な改善が必要であるという事実を生徒が見落としていた可能性が推測される。
・技術面では、イノベーションと安全な使用に関する活動が限られていた。このことは、生徒が満足できるような技術革新を行う能力が不足している可能性があり、技術使用に関する安全に対する意識が低いように思われる。
・数学的側面については、本研究の学生は、データを処理し表現するために数学の専門知識を用いる傾向が低かった
・STEM活動にもグループ差が見られた。Outstandingグループは、meritグループやconsolationグループよりも多くのSTEM活動を実施し、科学と数学の活動においても有意なグループ差が存在した
また、優秀賞を受賞したプロジェクトでは、他のプロジェクトよりも多くのSTEM活動、すなわち学祭的なSTEMの各科目を統合した活動が確認されたというのも面白い発見でした。STEM活動と内容知識の関連
・生徒の科学プロジェクトにおいて、科学活動は工学および数学活動と有意に正の関係が確認され、この結果は、科学教育において、科学、工学、数学が結びついた統合的アプローチが確立されていることを示している
・本研究において、科学とテクノロジーとの間に有意な関係が認められなかったことは、小学生の科学学習へのテクノロジーの統合が不十分かつ困難であることを裏付けている
・30のプロジェクト・レポートは、多様で複数の分野のコア・アイデアと横断的概念を示しており、「学問的内容の統合性」と「STEM統合の度合い」も満足のいくものであった
ここまで。
評価のフレームワークの作り方や、それを用いた調査・分析の方法など参考になる部分が多くありました。
評価のフレームワークの作り方や、それを用いた調査・分析の方法など参考になる部分が多くありました。
「教室内で学んだ異なる教科の知識をひとつの学習体験の中で統合する機会を作る」という視点が、探究学習やPBLでも重要になるのかもしれません。
【メモ】
Chiu, Price, Ovrahim(2015, p.12)は、「構成主義的アプローチ、問題解決型学習、現実世界とのつながりを作ることが、探究型戦略を用いて実施される効果的なSTEM教育の特徴であると述べている」。
Lewis(2006)は、設計と探究は概念的に類似しており、どちらも構造化されていない不確実な問題を対象とする推論プロセスであると論じている。
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