高等教育におけるエージェンシーを評価するための「AUS(Agency of university Students)尺度」の開発に関する論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:183件 (2024年8月13日時点))
Jääskelä, P., Poikkeus, A. M., Vasalampi, K., Valleala, U. M., & Rasku-Puttonen, H. (2017). Assessing agency of university students: validation of the AUS Scale. Studies in higher education, 42(11), 2061-2079.
『エージェンシー(Agency)』
OECD Learning Compass 2030で初めて知ったこの概念は、「社会人生活における不確実性や変化に対処する方法であり、生涯学習において重要な役割を果たす」(Su 2011)とも考えられている、特に変化の激しい現代社会において重要とされている概念です。
大学教育においては、Trede, Macklin and Bridges (2012)は、「大学は理論的・形式的な知識を教えることに重点を置いているが、学生を仕事の世界に準備させるというプレッシャーの高まりには対処していない」と述べ、更に「専門家としてのアイデンティティの育成には、教育者からの支援とともに、学生の積極的な関与とエージェンシーが必要である」とも主張しています。
このように重要視されてはいるものの、「これまで、定量的なツールを用いて学生のエージェンシーを研究する試みはなされてこなかった」という点に筆者らは課題設定をし、大学生のエージェンシーを計測する尺度「AUS(Agency of university Students)尺度」の開発に取り組んでいます。
開発された尺度の中身を見てみると、自分が計測したかった要素がかなり網羅されていると感じましたし、この尺度を用いることで授業改善にも使えそうだと思いました。
今後、OECDが示しているAgencyとの違いなどについても見てみようと思います。
以下、端的に内容をまとめます。
【目的】
(1)大学生のエージェンシーを評価するための量的研究ツールを開発すること
(2)尺度の次元に関する予備的な信頼性と妥当性の証拠を提供すること
(3)学生のエージェンシー構築を支援するための教育実践を開発するために大学教員を支援するためのこのツールの実現可能性を評価すること
【尺度構成】
【分析】
・集まったデータについて最尤法を用いた探索的因子分析を実施
・確認的因子分析(CFA)では、学生エージェンシーの次元に関する理論的仮定(Table 1)に基づき、9因子または10因子を持つ解を特定することが期待されたが、それらの10因子モデルの適合性が低いことが示された

・4つの項目(どの因子においても負荷量が0.32未満)を削除し、1つの項目をその内容がそれぞれの因子上の他の項目と一致しなかったために削除
・最終的に54項目からなる尺度を用いたCFAでは、以下の10因子が出現(カッコ内は信頼性係数)し、これれらは、「個人エージェンシーの資源」「関係性エージェンシーの資源」「文脈的エージェンシーの資源」に分類された。
(個人エージェンシーの資源)
①関心と動機づけ(7項目、α=.87)
②自己効力感(5項目、α=.87)
③能力信念(7項目、α=.87)
④参加活動(9項目、α=.91)
(関係性エージェンシーの資源)
⑤平等な扱い(3項目、α=. 74)
⑥教師の支援(5項目、α=.80)
⑦仲間の支援(3項目、α=.77)
⑧信頼(7項目、α=.84)
(文脈的エージェンシーの資源)
⑨影響を与える機会(4項目、α=.76)
⑩選択の機会(3項目、α=.78)
・Table 3は、10の因子を表す複合尺度間のピアソン相関を示し、次元は、エージェンシーの源を表す3つの理論的に導き出された領域(個人的資源、関係的資源、文脈的資源)に沿って配置されている

・10因子間の相関は0.01~0.68の範囲であった
・「信頼」因子は、「選択の機会」を除く他のすべての因子と高い相関を示した
・自己効力感は、エージェンシーの個人的資源の領域を表す他の3つの因子と特に高い相関を示した
・ピアサポートは参加活動と高い相関を示し、教師のサポートは信頼と平等な扱いと高い相関を示した
・選択する機会は、他の要因とは弱い相関しかなかった
最後に、AUS尺度の原文の横に日本語訳をつけたものを作成したのでここにメモしておきます。

論文はこちら(被引用数:183件 (2024年8月13日時点))
Jääskelä, P., Poikkeus, A. M., Vasalampi, K., Valleala, U. M., & Rasku-Puttonen, H. (2017). Assessing agency of university students: validation of the AUS Scale. Studies in higher education, 42(11), 2061-2079.
『エージェンシー(Agency)』
OECD Learning Compass 2030で初めて知ったこの概念は、「社会人生活における不確実性や変化に対処する方法であり、生涯学習において重要な役割を果たす」(Su 2011)とも考えられている、特に変化の激しい現代社会において重要とされている概念です。
大学教育においては、Trede, Macklin and Bridges (2012)は、「大学は理論的・形式的な知識を教えることに重点を置いているが、学生を仕事の世界に準備させるというプレッシャーの高まりには対処していない」と述べ、更に「専門家としてのアイデンティティの育成には、教育者からの支援とともに、学生の積極的な関与とエージェンシーが必要である」とも主張しています。
このように重要視されてはいるものの、「これまで、定量的なツールを用いて学生のエージェンシーを研究する試みはなされてこなかった」という点に筆者らは課題設定をし、大学生のエージェンシーを計測する尺度「AUS(Agency of university Students)尺度」の開発に取り組んでいます。
開発された尺度の中身を見てみると、自分が計測したかった要素がかなり網羅されていると感じましたし、この尺度を用いることで授業改善にも使えそうだと思いました。
今後、OECDが示しているAgencyとの違いなどについても見てみようと思います。
以下、端的に内容をまとめます。
【目的】
(1)大学生のエージェンシーを評価するための量的研究ツールを開発すること
(2)尺度の次元に関する予備的な信頼性と妥当性の証拠を提供すること
(3)学生のエージェンシー構築を支援するための教育実践を開発するために大学教員を支援するためのこのツールの実現可能性を評価すること
【参加者】
・様々な学問分野のフィンランドの大学生239名(女性142名、男性96名)
【尺度構成】
・AUSの項目は、著者らが独自に開発
・一度、パイロット的に調査を実施し、その後、質問紙を3箇所修正
①EFAで因子負荷量の低かった4項目、または2因子に負荷された項目を除外
②いくつかの領域に深みを持たせるため、13の項目が尺度に追加(ピアサポート、参加活動、影響を与える機会の領域を含む)
③大学での学習全般に関してのみ質問されていたコース別の評価に8つの項目を追加(例えば、「自分の学科では自分の意見や考え方が考慮されていると感じる」は、「このコースでは自分の意見や考え方が考慮されていると感じる」に変更された)。
・一度、パイロット的に調査を実施し、その後、質問紙を3箇所修正
①EFAで因子負荷量の低かった4項目、または2因子に負荷された項目を除外
②いくつかの領域に深みを持たせるため、13の項目が尺度に追加(ピアサポート、参加活動、影響を与える機会の領域を含む)
③大学での学習全般に関してのみ質問されていたコース別の評価に8つの項目を追加(例えば、「自分の学科では自分の意見や考え方が考慮されていると感じる」は、「このコースでは自分の意見や考え方が考慮されていると感じる」に変更された)。
・各次元は、5段階のリッカート尺度(1=完全に同意しない、2=部分的に同意しない、3=同意も同意もしない、4=部分的に同意する、5=完全に同意する)を用いて評価された
【分析】
・集まったデータについて最尤法を用いた探索的因子分析を実施
・確認的因子分析(CFA)では、学生エージェンシーの次元に関する理論的仮定(Table 1)に基づき、9因子または10因子を持つ解を特定することが期待されたが、それらの10因子モデルの適合性が低いことが示された

・4つの項目(どの因子においても負荷量が0.32未満)を削除し、1つの項目をその内容がそれぞれの因子上の他の項目と一致しなかったために削除
・最終的に54項目からなる尺度を用いたCFAでは、以下の10因子が出現(カッコ内は信頼性係数)し、これれらは、「個人エージェンシーの資源」「関係性エージェンシーの資源」「文脈的エージェンシーの資源」に分類された。
(個人エージェンシーの資源)
①関心と動機づけ(7項目、α=.87)
②自己効力感(5項目、α=.87)
③能力信念(7項目、α=.87)
④参加活動(9項目、α=.91)
(関係性エージェンシーの資源)
⑤平等な扱い(3項目、α=. 74)
⑥教師の支援(5項目、α=.80)
⑦仲間の支援(3項目、α=.77)
⑧信頼(7項目、α=.84)
(文脈的エージェンシーの資源)
⑨影響を与える機会(4項目、α=.76)
⑩選択の機会(3項目、α=.78)
・Table 3は、10の因子を表す複合尺度間のピアソン相関を示し、次元は、エージェンシーの源を表す3つの理論的に導き出された領域(個人的資源、関係的資源、文脈的資源)に沿って配置されている

・10因子間の相関は0.01~0.68の範囲であった
・「信頼」因子は、「選択の機会」を除く他のすべての因子と高い相関を示した
・自己効力感は、エージェンシーの個人的資源の領域を表す他の3つの因子と特に高い相関を示した
・ピアサポートは参加活動と高い相関を示し、教師のサポートは信頼と平等な扱いと高い相関を示した
・選択する機会は、他の要因とは弱い相関しかなかった
最後に、AUS尺度の原文の横に日本語訳をつけたものを作成したのでここにメモしておきます。

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