尺度翻訳の手続きのガイドラインについてまとめられた論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:34件 (2024年8月24日時点))
稲田尚子. (2015). 尺度翻訳に関する基本指針 (< 特集>「行動療法研究」 における研究報告に関するガイドライン). 行動療法研究, 41(2), 117-125.
 
「翻訳された尺度から得られるデータの質は、その翻訳の正確さに依存する。」
つまり、尺度翻訳の質を担保し、研究報告の質をたかめるためには、外国語で作成された尺度を正確かつ適切に翻訳する必要があります。
本論文は、そのためのガイドラインとして、以下の報告書に準拠し10の手続きにまとめ、解説してくれています。
参考:ISPOR(lnternationll Society for Pharmaco--economics and OutcomesResearch) タスクフォースによる報告書(Wild etal., 2005)(患者報告式アウトカム尺度の翻訳ガイドライン)

以下、論文の内容を端的にまとめます。

【尺度翻訳の4つの課題】
①翻訳の方法論に一貫性がない場合には、同じ尺度間の比較が困難になる
②同じ手続きが異なる用語で記述されている場合があると、内容の明確さに欠ける
③尺度開発者が翻訳の独自ガイドラインを作成している際には、一貫性を欠き、時代にそぐわない場合がある
④適切な翻訳プロセスを経ていない尺度は、収集されたデータの妥当性を脅かし、国際共同研究を行う際に不適切である

【尺度翻訳の原則・10の手続き】
①事前準備
・原著者に日本語翻訳の許可を求める

②順翻訳
・原版の言語から日本語への翻訳を行う
・原版の言語に精通している翻訳者を2名たてる
・翻訳者が1名であると、その翻訳者の独自のスタイルが多分に反映されてしまうため、2名が独立して翻訳することを推奨

③調整
・2名以上による順翻訳版を比較・統合し、一つの版を作成する

④逆翻訳
・順翻訳版を原版の言語に翻訳する
・順翻訳された尺度の項目表現が原版と等価な概念・意味を持つ尺度であるかを原著者らに確認してもらうため

⑤逆翻訳のレビュー
・逆翻訳されたものを原版と比較し、双方が等価であるかどうかがレビューされる
・逆翻訳およびそのレビューを経ていない翻訳版は、原版との等価性が不明であり、ひいては測定結果に大きな影響を与え、国際比較や国際共同研究も不可能となる

⑥調和
・原著者らは、各国の逆翻訳版を比較し、各項目表現が同等ない身を有しているか、および項目の概念に異なる言語間で乖離が生じていないかを確認する

⑦認知デブリーフィング
・日本語を母国語とする患者または一般母集団で少人数(5~8人)の調査を行う
・対象者に、実際に翻訳された尺度に回答してもらい、その後わかりにくい項目がなかったか、項目の内容や概念の理解は適切かを確認し、吟味する

⑧認知デブリーフィング結果のレビュー
・認知デブリーフィングの結果を総合して、必要に応じて項目表現を修正する

⑨校正
・日本語版を最終的に見直し、誤字脱字、文法的な間違いなどを修正する

⑩最終報告
・尺度翻訳のプロセスについての報告書をまとめる


【尺度翻訳に関する留意事項】
①複数の翻訳版
・複数の翻訳版が存在する尺度がある(原著者に許可を得ているのか不明な尺度)

②異文化間妥当性
・「翻訳した尺度の項目の性能が、原版の尺度の項目の性能を十分に反映している程度」の意味
・二つの国で得られた回答を基に、確認的因子分析や項目反応理論を使用することで検討できる

③信頼性と妥当性の検討
・尺度を翻訳するだけでなく、必ず信頼性・妥当性を検討する必要がある

④尺度の普及と改訂
・尺度の普及のために、論文発表やアウトリーチ活動、研修などを継続的に実施する
・グローバルスタンダードとなった尺度は、研究知見の蓄積や時代の変化にあわせて改訂される場合がほとんど

ここまで。
尺度を翻訳する際にやるべきことや気をつけるべきことなどが分かりやすくまとめられていて大変勉強になりました。
将来、尺度翻訳することがあれば、当論文を参考にしながら、正しいプロセスに沿って進めていきたいです。