アカデミック・リテラシーの育成のために、全体的(holistic)な成長を促進する学習アプローチとしてPBLが機能することを検証した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:24件 (2024年9月11日時点))
Nunn, R., Brandt, C., & Deveci, T. (2016). Project-based learning as a holistic learning framework: Integrating 10 principles of critical reasoning and argumentation. Asian ESP Journal, 12(2), 9-53.

当論文では、批判的思考や論理的な議論のスキルを統合し、プロジェクトを通じて学習者が多面的に学べるようにする枠組みが提示されています。
具体的には、PBL環境の中で、批判的推論と議論の10の原則(Nunn & Hassan, 2015; Nunn et al., 2015)のすべてがうまくサポートされる方法について解説されています。
※筆者らが、「批判的推論と議論の原則」と呼んでいるのは、プロジェクトレポート、プレゼンテーション、ディスカッションなどの全人格的な課題に対するアカデミックリテラシーの育成に関連して、全人格的な議論に焦点を当てていることからこう呼ぶのを好んでいるとのこと。

PBLは、この10の原則すべてを十分にカバーできる総合的な学習のアプローチであり、学生自身がこれらの原理原則を実際に実践する体験が必要であることが強調されています。
10の原則は以下の通り。(教員視点)
※10の原則はそれぞれ独立して考えることもできるが、首尾一貫した「全体」として相互に関連している

C1. 指導は、学習者が論証力を伸ばすための自己調整の機会を提供する必要がある。
C2. 成功する指示された学習は、学習者が相互主観的に推論能力を開発できるように、対話を促進する相互作用の機会を提供する。
C3. 指導は、学習者が自分のプロジェクトに関連して文献から既知の情報を参照することによって、関連性に焦点を当てるようにする必要がある。
C4. 学習者が自分の考えや研究の選択について説明できるような指導が必要である。
C5. 学習者が、エビデンスに関連した適切なレベルの自信を表現するために、言葉の選択に集中するように指導する必要がある。
C6. 問題を扱いやすい要素に分解するなど、問題や課題を分析する能力を養うように指導する必要がある。
C7. グループでの文献レビューやレポートのディスカッションセクションなど、アウトプットを総合する能力を養うよう指導する必要がある。
C8. 議論、研究アプローチ、結論の長所と短所を評価する能力を養う必要がある。
C9. 読書や学習者自身の調査から得られた知見を解釈する能力を養う必要がある。
C10. 首尾一貫したバランスの取れた論証という観点から、学習者が自分の書いた文章を批判的に吟味する機会を提供する必要がある。

なお、上記の原則は、生徒視点のものもAppendixで紹介されていましたのでこちらもメモ。
C1. 自己調整の機会を探し、自分の論証力を伸ばす。
C2. 対話を通して推論力を伸ばすために、仲間(や教師)との交流の機会を探す。
C3. 自分のプロジェクトに関連する文献から既知の情報を参照し、関連性を重視する。
C4. 自分の考えや研究の選択について説明する。
C5. 根拠となる適切なレベルの自信を表現するための言葉の選択に焦点を当てる。
C6. 問題や課題を分析する能力を養う(タスクを管理可能な要素に分解するなど)。
C7. グループでの文献レビューやレポートのディスカッションセクションなど、アウトプットを統合する能力を養う。
C8. 議論、研究アプローチ、結論の長所と短所を評価する(文献など)
C9. 読書や自分自身の調査から得られた知見を解釈し、何が最も重要であるかを選択し説明することができる。
C10. 自分の書いた文章を、言葉遣いだけでなく、首尾一貫したバランスの取れた議論になっているかを批判的に吟味し、校正することができる。


プロジェクト・チームのディスカッションの中で上記の原則が扱われているビデオについて解説が以下のような形で記されています。
・C1:他の人の考えを理解することで、学生は自分の考えを修正することを学ぶ
・C2:チームでプロジェクトに取り組むことで、生徒たちは相互作用の機会を与えられ、推論能力を伸ばすことができる
・C3&C8:関連する背景資料を探し、評価することで、学生は関連性に注目する
・C4:指示ではなく、指導されることで、学生は自分の選択を説明し、正当化しなければならない
・C5:一次データを収集することで、学生はエビデンスに対する評価を述べる機会を得る
・C6:リサーチ・クエスチョンを絞り込み、プロジェクトの課題を特定することで、学生は問題や課題を分析する能力を養う
・C7:研究結果を報告することで、学生はプロジェクトの様々な段階で得た情報を総合することが求めらる
・C10:プロジェクトの主要な段階(文献レビュー、提案書、進捗報告書、最終報告書)において、教員のフィードバック後に草稿を作成し、書き直すことを義務づけることで、学生は、論証の質という観点から、自分自身の文章を批判的に吟味し、修正する機会を多く持つことができる

これまで、PBLの効果性については、学力や非認知・汎用的スキル、仕事で必要な社会人基礎力や21世紀型スキル等の視点で見てきましたが、当論文のおかげでアカデミックスキルという新しいレンズをいただきました。また、ホリスティックなアプローチとしてPBLは優秀であるという点も改めて良い気づきになりました。
そして、今、在籍している博士後期課程のゼミがこれらの原則にかなり沿っている学習環境だなとも感じました。ゼミの進め方には色々ある(基本ほったらかしなど)ようなので、在籍するゼミが相当高い基準でご指導いただける環境で本当に良かったと、当論文を読んで感じました。


【メモ】
PBLの定義:「複雑で本格的な質問と慎重に設計されたプロジェクトや課題を中心に構成された拡大探究プロセスを通じて、学生が知識やスキルを学習する体系的な教授法」(Markham et al., 2003, p.4) 

当論文で言うプロジェクト:「学生が設計、問題解決、意思決定、調査活動に参加し、長期間にわたって比較的自律的に活動する機会を与え、[...] 最終的に現実的な成果物や発表を行う(Jones, Rasmussen, & Moffitt, 1997; Thomas, Mergendoller, & Michaelson, 1999)」。本格的な内容、本格的な評価、教師による指導、明確な教育目標(Moursund, 1999)、協同学習、振り返り、大人のスキルの取り込み(Diehl, Grobe, Lopez, & Cabral, 1999)」などのこと」(Thomas et al., 1999, p.1)。

「工学教育においては、コミュニケーション、倫理、情報リテラシー、生涯学習、プロジェクト管理、チームワークなど、職場で求められるさまざまな専門的スキルや能力の育成に、PBLが特に効果的であることが研究で示されている」(Mills & Treagust, 2003; Bielefeldt, Paterson, & Swan, 2009)

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