高等教育におけるプロジェクト型学習(PBL)が学生の能力獲得および知識の移転に与える影響を調査したスペインの論文をレビューします。
論文はこちら(被引用数:43件 (2024年10月7日時点))
Granado-Alcón, M. D. C., Gómez-Baya, D., Herrera-Gutiérrez, E., Vélez-Toral, M., Alonso-Martín, P., & Martínez-Frutos, M. T. (2020). Project-based learning and the acquisition of competencies and knowledge transfer in higher education. Sustainability, 12(23), 10062.
本論文の目的は、コンピテンシー間の相互関係、知識転移(KT)への寄与、およびプロジェクトに対する学生の評価を記述・分析することで、PBLの方法論に関する知識の体系に貢献すること。
スペインのウエルバ大学とムルシア大学の学部2年の464名を対象に調査が行われました。
学部は、幼児教育と初等教育であることから、女子学生の比率が高くなっています。(男子:約15%、女子:約85%)
具体的には、以下の3つの目的について、調査・分析が進められました。
・目標1:コンピテンシー(汎用的、専門的、横断的)の習得に関する認識とプロジェクト評価の全体的記述
・目的2:コンピテンシー習得に関する学生の満足度と、プロジェクト評価およびKTとの関係を分析する
・目標3:コンピテンシーの習得とKTの観点からの評価の説明
調査
データ分析
結果
分析結果について、3つの目標別にまとめます。
目標1:コンピテンシー(汎用的、専門、横断的)の習得に関する認識とプロジェクト評価の全体的記述

)

・ステップ1:人口統計データが総合評価やプロジェクト評価に有意な影響を与えることはない
・ステップ2:汎用的コンピテンシーが総合評価とプロジェクト評価の両方に有意な正の影響を与える
・ステップ3:KTはプロジェクト評価尺度のみに有意かつ正の影響を及ぼす

ここまで。
色々な考察がされていましたが、本論文での1番の発見は、PBLが知識転移にも効果があり、それは「汎用的コンピテンシー」「専門的コンピテンシー」「横断的コンピテンシー」がそれぞれ影響しているということです。更に言うと、知識転移が高ければ、満足度も上がるということです。
【メモ】
「PBLは、ESDの目標に沿った職業訓練を達成するために、学生が有意義なスキルを習得できる方法論として示されている」(Santoveña-Casal, Fernández Pérez, 2020)
「グループ作業を通して、問題を解決し、分析、統合、情報管理の能力を高めることで、学生が汎用的コンピテンシー(GC)を開発する機会が得られる」(Santoveña-Casal et al., 2010)
「PBLの手法が研究能力、自律的な学習、批判的思考などのスキル伝達の向上を促す」(Wilkerson, Gijselaers, 1996)
「PBLは指導的で能動的かつ責任ある学習を促進すると教師も学生も認識している」特に、
・学生の内発的動機付けに適している(García-Ruiz, González and Contreras, 2014; Torres, 2010; Lam, Cheng and Ma, 2009)
・学習プロセスに対する認識を高める(Rodríguez-Sandoval, Vargas-Solano and Luna-Cortés, 2010)
・知識を他の学習コンテクストに転移させる能力を育成するのに適している(Mitchel et al, 2009)
論文はこちら(被引用数:43件 (2024年10月7日時点))
Granado-Alcón, M. D. C., Gómez-Baya, D., Herrera-Gutiérrez, E., Vélez-Toral, M., Alonso-Martín, P., & Martínez-Frutos, M. T. (2020). Project-based learning and the acquisition of competencies and knowledge transfer in higher education. Sustainability, 12(23), 10062.
本論文の目的は、コンピテンシー間の相互関係、知識転移(KT)への寄与、およびプロジェクトに対する学生の評価を記述・分析することで、PBLの方法論に関する知識の体系に貢献すること。
スペインのウエルバ大学とムルシア大学の学部2年の464名を対象に調査が行われました。
学部は、幼児教育と初等教育であることから、女子学生の比率が高くなっています。(男子:約15%、女子:約85%)
具体的には、以下の3つの目的について、調査・分析が進められました。
・目標1:コンピテンシー(汎用的、専門的、横断的)の習得に関する認識とプロジェクト評価の全体的記述
・目的2:コンピテンシー習得に関する学生の満足度と、プロジェクト評価およびKTとの関係を分析する
・目標3:コンピテンシーの習得とKTの観点からの評価の説明
調査
独自作成された58項目のアンケート(Table1)によってデータが収集されました。
内容は以下の通り。
内容は以下の通り。
・項目1~9:基本的な統計に関する一連の質問
・項目10-27:汎用的コンピテンシー(GC: General Competencies)
・チームワークに焦点を当てたグループの汎用的コンピテンシー(GGC)
・個人の学習に焦点を当てた個人の汎用的コンピテンシー(IGC)
・項目28-35:専門的コンピテンシー(SC: Specific Competencies)(学習の深さを評価)
・項目36-40および50:横断的コンピテンシー(TC: Transversal Competencies)(他のコースに転用可能な知識および/またはスキルの習得に関する回答者の認識を測定)
・項目10-27:汎用的コンピテンシー(GC: General Competencies)
・チームワークに焦点を当てたグループの汎用的コンピテンシー(GGC)
・個人の学習に焦点を当てた個人の汎用的コンピテンシー(IGC)
・項目28-35:専門的コンピテンシー(SC: Specific Competencies)(学習の深さを評価)
・項目36-40および50:横断的コンピテンシー(TC: Transversal Competencies)(他のコースに転用可能な知識および/またはスキルの習得に関する回答者の認識を測定)
・項目41-49、51-53、67:プロジェクトに対する評価
・項目54-66:知識の転移(KT: Knowledge Transfer)
データ分析
データ分析は以下の4つのプロセスで行われました。
①各項目について記述統計(平均および標準偏差)を算出
探索的因子分析を各調査変数で実施することで、因子妥当性についても調査
②3つのコンピテンシー、KT、学生のプロジェクトに対する評価および総合評価の間の二変量ゼロ順位相関係数を算出
①各項目について記述統計(平均および標準偏差)を算出
探索的因子分析を各調査変数で実施することで、因子妥当性についても調査
②3つのコンピテンシー、KT、学生のプロジェクトに対する評価および総合評価の間の二変量ゼロ順位相関係数を算出
③2つの階層的回帰分析を行い、学生のプロジェクトに対する評価と総合評価に対する人口統計、能力、およびKTの効果を分析
④これまでの分析に基づきパス分析を実施
④これまでの分析に基づきパス分析を実施
結果
分析結果について、3つの目標別にまとめます。
目標1:コンピテンシー(汎用的、専門、横断的)の習得に関する認識とプロジェクト評価の全体的記述
全体的な結果についてはTable2を、特定の結果についてはAppendix A(Table A1)にまとめられています。

【汎用的コンピテンシー(GC)】
・PBLは、学生から汎用的コンピテンシー全体およびグループと個人の両方のコンピテンシーにおいて肯定的に評価された
・大多数の学生が、PBLの手法によってさまざまな能力、特に個人の能力を習得できたという考えに同意を示したが、グループの能力に関しては「どちらでもない」という回答が最も多かった

【汎用的コンピテンシー(GC)】
・PBLは、学生から汎用的コンピテンシー全体およびグループと個人の両方のコンピテンシーにおいて肯定的に評価された
・大多数の学生が、PBLの手法によってさまざまな能力、特に個人の能力を習得できたという考えに同意を示したが、グループの能力に関しては「どちらでもない」という回答が最も多かった
・最も高いスコアは、「PBLによって私の分析能力が向上した」と「PBLによって、子どもの多様性に関する分野での調査および/または介入の必要性を理解するようになった」で、いずれもIGCに関連するものであった
【専門的コンピテンシー(SC)】
・SCに関する全体的な結果を見ると、学生たちはPBLがそれらの能力を習得する効果的な方法であることに同意していることが示された
【専門的コンピテンシー(SC)】
・SCに関する全体的な結果を見ると、学生たちはPBLがそれらの能力を習得する効果的な方法であることに同意していることが示された
・最も高いスコアを得た能力は、規範的/非規範的な子どもの発達、学習プロセス、介入戦略に関するものであった
【横断的コンピテンシー(TC)】
・PBLが学生が関与するプロジェクトで横断的コンピテンシー(テクノロジーの利用、他言語での学習、データ収集など)をどの程度活用できるかを理解するのに役立つかを明らかにすることを目的とした
【横断的コンピテンシー(TC)】
・PBLが学生が関与するプロジェクトで横断的コンピテンシー(テクノロジーの利用、他言語での学習、データ収集など)をどの程度活用できるかを理解するのに役立つかを明らかにすることを目的とした
・コースで学んだスキルを一般化する上でのPBL手法の可能性に対する学生の認識に関する全体的な結果は不明瞭で、大きなばらつきが見られ、「どちらでもない」が最も多い回答であった
・最も高い評価を得た能力は、アンケート、インタビュー、観察によるデータ収集方法論の知識の向上であった
【知識の転移(KT)】
・最も高い評価を得た能力は、アンケート、インタビュー、観察によるデータ収集方法論の知識の向上であった
【知識の転移(KT)】
・KTの認識に関しては、ほとんどの学生(80%)が、PBLを通じて得た知識は、教育学部の他のコースにも適用できると認識していた
・半数以上の学生(59.6%)が、そのような内容は日常生活にも適用できると考えていた(Table 3)
・最も高い評価を得た項目は、「PBLは、教育学士課程における他の科目分野の知識との関連付けに役立った」と「PBLは、APA 規範に従った論文の引用方法を示してくれた」であった
・最も低い評価を得た項目は、「『方法論開発プロジェクト』で学んだ方法論の原則(『特別支援教育の心理的基礎』と『子どもの学習と発達の多様性』の科目に適用)は、他の科目でも役立っている」であった
・最も高い評価を得た項目は、「PBLは、教育学士課程における他の科目分野の知識との関連付けに役立った」と「PBLは、APA 規範に従った論文の引用方法を示してくれた」であった
・最も低い評価を得た項目は、「『方法論開発プロジェクト』で学んだ方法論の原則(『特別支援教育の心理的基礎』と『子どもの学習と発達の多様性』の科目に適用)は、他の科目でも役立っている」であった

【プロジェクトに対する学生の評価】
・大多数の学生が、PBLプロジェクト(時間投資、個人的知識、クラスメート、教材、学習機会)に関して「どちらでもない」を選択した
・最も高い評価を得た項目は「PBLが私の学術的訓練に役立った」
・最も低い評価を得た項目は「教職員がコースに割いた時間はごくわずかだった」 だが、教師がプロジェクトを実施する時間が十分に確保されていなかったことを暗に示しているため、否定的な評価とはみなされない
・最も高い評価を得た項目は「PBLが私の学術的訓練に役立った」
・最も低い評価を得た項目は「教職員がコースに割いた時間はごくわずかだった」 だが、教師がプロジェクトを実施する時間が十分に確保されていなかったことを暗に示しているため、否定的な評価とはみなされない
目的2:コンピテンシー習得に関する学生の満足度と、プロジェクト評価およびKTとの関係を分析する
・3つのコンピテンシーにおいて、中〜高い評価が得られた
・最も高い評価は汎用的コンピテンシー、最も低い評価は横断的コンピテンシーであった
・プロジェクトの評価と総合評価の両方で顕著なスコアが記録され、KTも同様のスコアが得られた
・コンピテンシー(汎用、専門、横断)のスコアが高いほど、KTと評価尺度(PBLの総合的な学習能力とプロジェクト自体の両方)のスコアも高いことが分かった
・KTが高いほど、評価も高くなることも分かった
・3種類のコンピテンシーは、相互に正の相関関係にあった
・最も高い評価は汎用的コンピテンシー、最も低い評価は横断的コンピテンシーであった
・プロジェクトの評価と総合評価の両方で顕著なスコアが記録され、KTも同様のスコアが得られた
・コンピテンシー(汎用、専門、横断)のスコアが高いほど、KTと評価尺度(PBLの総合的な学習能力とプロジェクト自体の両方)のスコアも高いことが分かった
・KTが高いほど、評価も高くなることも分かった
・3種類のコンピテンシーは、相互に正の相関関係にあった

目標3:コンピテンシーの習得とKTの観点からの評価の説明
・人口統計データとコンピテンシーおよびKTのスコアに基づき、総合評価とプロジェクト評価のスコアを説明する目的で、2つの階層的回帰分析を個別に実施(Table5,6)

・ステップ1:人口統計データが総合評価やプロジェクト評価に有意な影響を与えることはない
・ステップ2:汎用的コンピテンシーが総合評価とプロジェクト評価の両方に有意な正の影響を与える
・ステップ3:KTはプロジェクト評価尺度のみに有意かつ正の影響を及ぼす

・パス分析:以下のことが判明
(a)汎用的コンピテンシー、専門的コンピテンシー、および横断的コンピテンシーは相互に関連
(b)これらの能力はKTに影響を及ぼす
(c)KTと汎用的コンピテンシーの両方が学生のプロジェクト評価に影響を及ぼす
・3つの能力(汎用、専門、横断的)は正の相互関係にあり、汎用と専門的コンピテンシーとの間にはより強い関連性
・汎用的コンピテンシーはKTに正の効果
(a)汎用的コンピテンシー、専門的コンピテンシー、および横断的コンピテンシーは相互に関連
(b)これらの能力はKTに影響を及ぼす
(c)KTと汎用的コンピテンシーの両方が学生のプロジェクト評価に影響を及ぼす
・3つの能力(汎用、専門、横断的)は正の相互関係にあり、汎用と専門的コンピテンシーとの間にはより強い関連性
・汎用的コンピテンシーはKTに正の効果
・汎用的コンピテンシーとKTの両方がプロジェクト評価に正の効果
ここまで。
色々な考察がされていましたが、本論文での1番の発見は、PBLが知識転移にも効果があり、それは「汎用的コンピテンシー」「専門的コンピテンシー」「横断的コンピテンシー」がそれぞれ影響しているということです。更に言うと、知識転移が高ければ、満足度も上がるということです。
教師と生徒の役割は従来とはまったく異なり、参加者は理論的なコース内容を現実世界での応用に変換することを求められ、その結果、その科目が実際の業務により近づくことになる。という記述にあるように、教室内での学びを現実世界に応用する機会が与えられるのがPBLの特徴的な部分でもあります。だからこそ、転移も起きやすいということなのでしょう。うっすらと想像していたことを証明してくれた良き論文でした。
【メモ】
「PBLは、ESDの目標に沿った職業訓練を達成するために、学生が有意義なスキルを習得できる方法論として示されている」(Santoveña-Casal, Fernández Pérez, 2020)
「グループ作業を通して、問題を解決し、分析、統合、情報管理の能力を高めることで、学生が汎用的コンピテンシー(GC)を開発する機会が得られる」(Santoveña-Casal et al., 2010)
「PBLの手法が研究能力、自律的な学習、批判的思考などのスキル伝達の向上を促す」(Wilkerson, Gijselaers, 1996)
「PBLは指導的で能動的かつ責任ある学習を促進すると教師も学生も認識している」特に、
・学生の内発的動機付けに適している(García-Ruiz, González and Contreras, 2014; Torres, 2010; Lam, Cheng and Ma, 2009)
・学習プロセスに対する認識を高める(Rodríguez-Sandoval, Vargas-Solano and Luna-Cortés, 2010)
・知識を他の学習コンテクストに転移させる能力を育成するのに適している(Mitchel et al, 2009)
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