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Zhou, M., & Ee, J. (2012). Development and validation of the social emotional competence questionnaire (SECQ). International Journal of Emotional Education, 4(2), 27–42. questionnaire (SECQ).
近年、基礎教育における重要な要素として、教育者や研究者の注目を集めている社会情動的スキル。
筆者のZhouは、それらのスキルを高めるための学習・SEL(Social and Emotional Learning)への関心が高まっているにもかかわらず、この分野の尺度開発は遅れをとっていることに課題を感じ、尺度開発に取り組むことになります。
開発のステップは大きく3つ。
①CASELの枠組みに基づく広範な文献レビューを行い、SECの各次元の主要な特徴を特定
②SECのさまざまな側面を測定する既存の尺度を調査
③この分野の専門家が項目を調査・評価し、5つの要素にそれぞれ5つの下位尺度を含む評価尺度を作成
社会情動的スキルの5つの要素の土台となったのは、CASELのフレームワークです。CASEL(Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning)は、非認知スキル開発の研究と実践のために創立されたアメリカの団体で、SELを「感情を認識し管理するスキル」、「他者への思いやりや関心を育むスキル、「責任ある意思決定を行うスキル」、「良好な人間関係を築くスキル」、「困難な状況を効果的に処理するスキル」の5つのコアコンピテンシーに分類しています。(CASEL, 2003)
今回開発された尺度・CECQ(the Social Emotional Competence Questionnaire)も、CASELのフレームワークに基づき、5つの次元×各5問の合計25項目で作成されました。(1(まったくあてはまらない)から6(非常にあてはまる)までを選択)
対象は、3年生から12年生の児童及び青少年で、初等・中等教育段階の生徒のSECレベルを評価する際に、学校の教師や評価者を支援し、改善が必要と思われる領域を特定することを目的としています。
また、尺度の信頼性と妥当性を実証するエビデンスを得るために、シンガポールの3つの異なる小学校と1つの中等学校で4つの研究が実施されました。
・研究1:4年生を対象とした確認的因子分析し、構成妥当性のエビデンスを得る
・研究2:小学生のサンプルに最も適合するモデルが中学校でも適用できるかを検証
・研究3:信頼性が異なるサンプルでも再現できるかどうかを検証
・研究4:SECの測定値を学業成績のスコアと関連付け、予測妥当性のエビデンスを提示する
研究1:確認的因子分析
・小学生を対象とした5因子構造の妥当性を確認的因子分析を用いて検証
・分析は共分散行列を用いて実施され、最尤推定に基づいて解が生成された
・具体的には、以下の仮説が事前に立てられた
(a)SECQへの回答は、自己認識、社会に対する認識、自己管理、人間関係管理、責任ある意思決定という5つの因子によって説明できる
(b)各項目は、測定対象として設計された各因子に対してはゼロではない負荷を持ち、その他のすべての因子に対してはゼロまたは極めて低い負荷を持つ
(c) 5つの因子は相関している。
(基本的なCFAと内的整合性)
・このグループの仮説モデルの初期テストでは、かろうじて良好な適合が得られた(Table1)
・すべての因子負荷量が指定された因子に負荷しており、ほとんどが許容範囲内であった(Figure1)
・全サブスケールは、許容範囲内の内的整合性を示した。自己認識、社会に対する認識、自己管理、人間関係管理、責任ある意思決定の各クロンバックのα係数は0.62、0.72、0.68、0.62、0.72であった。
(代替モデルとの比較)
・追加のCFAでは代替モデルの適合度を調査し、仮説モデルと代替モデルの適合度を比較
・CFIとIFIのいずれも0.90を超えなかったが、オリジナルモデルのみが、これらの2つの指数において非常に近い値を示し、妥当なモデル適合を示した
・ECVIを単一標本による交差検証の推定値として使用し、3つのモデルが他のサンプルにどの程度一般化できるかを評価(ECVIが最も小さいモデルが、最も適合度が高い)
・以上の理由により、オリジナルモデルが最も適合度の高いモデルであると判断さた(Table1)。
研究2:構成妥当性の再現
・小学校のサンプルに最も適合するモデルを、中学校のサンプルのデータで検証
・CFAの結果、全因子が許容可能な負荷量で各潜在因子に負荷されている(Figure2)だけでなく、ほとんどの適合統計量が許容可能な適合基準をほぼ満たしており、再び仮説モデルを支持する結果となった
・自己認識、社会に対する認識、自己管理、人間関係管理、責任ある意思決定の各下位尺度は、クロンバックαがそれぞれ0.71、0.78、0.76、0.73、0.79と、いずれも高い内的整合性を示した

研究3:内的整合性の再現
・シンガポールの別の高校の生徒344名(男子54.5%、中国系76.1%、マレー系5.9%、インド系14.5%、英国系0.9%、その他2.7%)に、教師の指示に従って英語で尺度に回答してもらった
・内部整合性のクロスチェックを行ったところ、自己認識、社会に対する認識、人間関係管理、自己管理、責任ある意思決定のそれぞれについて、クロンバックのα係数は0.72、0.77、0.73、0.71、0.76であった
研究4:予測妥当性
・Table2は、5つのSEC指標と英語、数学、科学の達成スコアの平均値と標準偏差、およびそれらの相関関係を示している
・SECのほとんどの側面は試験のスコアと有意に正の相関関係(低〜中)にあった(.19
・女子生徒の場合、学校での人間関係をうまく管理できる生徒ほど、学業成績も良い傾向にある

以上の結果から、SECQがCASEL(2008)が概念化したSECの信頼性と妥当性のある測定尺度として有望であることが示唆されました。
一方、注意すべき点として以下の3点が述べられていました。
①CASEL(2008)が提示したもの以外にも、SECの代替的な測定方法があり、同じ名称の概念も、モデルによって異なる概念化がなされる可能性がある
②児童からの限定的な自己報告項目を用いて評価している(客観的な評価ではない)
③シンガポールの小中学生のみで検証されているため、他の文化圏のより多様な生徒サンプルでこの調査結果を再現する必要がある
これらの注意点に留意しつつ、当尺度を活用すれば、学習者の社会性と情動の強みと弱みを計測、特定し、適切なプログラムやカリキュラムを提供することに役立つと思います。
尚、日本の研究でも当尺度を使って中学生の社会情動的スキルがどれだけ変化したかを調査した研究もあるので、この辺りも参考にしつつ、研究と実践を進めていきたいと思います。
【SECQの内容】

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