問題解決型学習(Problem-based learning)がメタ認知向上に与える影響と、チューターモデルによる差異を検証した論文レビューです。

論文はこちら(被引用数:38件 (2024年12月7日時点))
Gassner, L. (2009). Developing metacognitive awareness-a modified model of a PBL-tutorial.

ざっと概要をまとめます。

方法
参加者
・マルメ大学歯学部における歯科衛生士教育プログラムを受講する24名の学生
・2000年以降、問題解決型学習(PBL)で実施している
・2008年のクラスが主な対象で12週間にわたって実施された
・スウェーデンの別の大学の歯科衛生学の学生(プロジェクト不参加)が対照群として用いられた

概要
・教育プロジェクトの目的:学生たちにグループプロセスとチュートリアルセッションにより責任を持つよう促し、各自の作業に自信を持たせること
・Problem-based learningの従来の「マルメモデル」と比較するため、テストモデルを構築
・テストモデル(円:断続的チュータリングと呼ぶ)と従来のモデル(星:従来のチュータリングと呼ぶ)を12週間にわたって交互に実施
・新しいモデルを3週間使用した後、従来のモデルを3週間使用するというサイクルを2回繰り返した
・交互に実施した理由:
 ①事例に関連する理由:同じ被験者の事例にどちらかのモデルが適用されるのを避けるため
 ②グループ・プロセスの振り返りと改善の機会を増やすため

【修正モデル】
・学生は最初のPBLセッション中に、グループに数回(多くても2、3回)短い訪問をするだけで、チューターと個別に作業
・訪問では、学生は主に復習と振り返りを行う機会を作り、またチューターからのフィードバックを得ることを目的として、問題、仮説、目標を提示→これにより、メタ認知の意識が向上したと考えられる
・チューターは2回目のPBLセッション全体に立ち会った
【従来の「マルメモデル」(Rohlin et al, 1998)】
・このモデルは、チューターが両方のPBLセッション全体に参加
figure1

計測
【A Metacognitive Awareness Inventory(MAI)】
・1回目は事前(機会1)、2回目は事後(機会2)の比較として使用
・スウェーデンの別の大学の歯科衛生士学生を対照群とした
・学生は各ステートメントに対する自身の立場を、100mmのVisual Analogue Scale (VASscale) に印をつけることで示した
・印は測定され、0~100 の数値としてコンピュータプログラムに入力された(合計 4784)
・マリメ:23人の学生(女性18人、男性5人)と 21人の学生(女性16人、男性5人)が回答
・第2大学:25人の学生(女性23人、男性2人)と23人の学生(女性21人、男性2人)が回答

【質的インタビュー】
・プロジェクト終了後に、学生の50%(24人中12人)を対象に、半構造化インタビュー
・3つの学習グループそれぞれで、合計8名の中から4名が抽出

結果
A Metacognitive Awareness Inventory(MAI)
・Table1:1回目と2回目の両グループの合計平均スコアである
table1
・マルメの学生は、合計スコアの平均が100点満点中62点から68.5点に上昇
・第2大学の学生の増加幅は小さかった

・Table2は、メタ認知の調整とメタ認知の知識の各サブコンポーネントについて、マルメと第2大学における機会1と機会2の平均差を示す
・結果はスチューデントのt検定で分析
table2
・マルメの学生はモニタリングとプランニングに関するメタ認知の意識において、著しく高い増加
・第2大学の学生はモニタリング、情報管理戦略、プランニングの平均スコアが減少

インタビュー
インタビューでは、5つ質問が尋ねられた
①2つのチュートリアルモデルについて、ポジティブな経験とネガティブな経験はどのようなものだったか?
【断続的チュータリングのポジティブな側面】
・より挑戦的:グループとして機能することが学生たちにより強く求められた
・作業はより自主的なもので、オープンなディスカッションが多く、打ち解けて話しやすかったです。

【断続的チュータリングのネガティブな側面】
・チューターの訪問によってプロセスが中断される
・時には安全性が欠如し、正しい方向に進んでいるのかどうか疑問に思うことも

【従来チュータリングのポジティブな側面】
・チューターが常にそばにいることで、学生はより効率的に学習できると感じていた
・チューターの指導により、脇道にそれてしまうことが少なくなり、目標に簡単に直接アクセスできるようになった
・学生は、チューターがそばにいることで安心感を得ていた
・チューターがいることで、質がチェックされているという安心感も得ていた

【従来のチュータリングのネガティブな側面】
・チューターが常にそばにいることについて、特にマイナス面を指摘する意見は出なかった

②2つのチュートリアルモデルを比較した場合、話し合いのレベル(幅、深さ、限界)をどのように表現するか?
・チューターがいない場合、議論はよりオープンで、楽しく、幅広い内容となり、活気がある
・一部の学生は、時として活気が過剰になる可能性があることを指摘したが、非常にうまく機能していた
・チューターなしでは議論は恐らくそれほど効率的ではないだろう
・複数の学生が、チューターが不在のほうが「くだらないこと」を言いやすかった

③2つのチュートリアルモデルを比較した場合、グループ内のグループ・コンステレーションと役割(例えば、議長(chairman)の役割)をどのように表現するか?
・チューターがいない場合、議長を務めるにはより多くの労力とエネルギーが必要で、議長の役割が発展
・チューターがいない場合、おとなしい学生もよく話す学生も、より多く発言するようになった
・チューターが不在で、議長の学生がその役割に問題を抱えていた場合、他の学生がその役割を引き受け、時にはグループ全体がチューターの役割を担った

④このプロジェクトが自身の学習能力の発達にどのような影響を与えたと感じるか?
・この一見難しい質問に対する直接的な答えはなかった
・学生たちは、チュートリアルモデルに関係なく、いつもと同じ方法で勉強したと口を揃えた
・しかし、プロジェクトが議長の役割を育てるのに役立ったという意見は共通
・より機能的なグループになるのに役立ったという意見もあった

⑤2つのチュートリアルモデルのうちどちらかを選ばなければならないとしたら、どちらを選ぶか?
・共通する学生の意見は、断続的なチュータリングを利用する場合は、学生がPBL環境に慣れ、快適に感じられることが必要であるというものであった
・つまり、PBLの最初の学期に断続的なチュータリングを利用することは、学生には推奨されないということである
・12人中7人の学生は、従来のチュータリングを好むと回答(理由:安心感が欲しい、断続的チュータリングは直接的なフィードバックが得られない、断続的チュータリングは学習の妨げになる) 
・12人中5人の学生は、断続的チュータリングを好むと回答(理由:オープンなディスカッションができる、静かな学生が活発に発言するようになった)

まとめ
【メタ認知への影響】
・PbBLを取り入れたマルメ大学の方だけが8つのうち2つの要素(モニタリングとプランニング)が大幅に上昇
→問題解決型学習は、メタ認知向上に寄与することが示唆された

【チューターモデルの比較】
・従来のチューターモデル(常に側にいる)と修正モデル(期間中チューターの関与は2,3回)を比較
・修正モデルは、おとなしい学生も活発に発言しやすい、オープンなディスカッション(くだらない話含む)がしやすい、司会進行(議長)の能力が高まるなどのメリットがある
・一方、前期に断続的なチュートリアルを使用することは推奨できないかもしれない
→学生がPBL環境に慣れ、快適に感じられる状態になってから導入した方が良い可能性

--ここまで--
問題解決型学習がメタ認知向上に寄与すること。また、それを測る尺度であるMAIについて知れたことも大きな収穫でした。
2つのPBLの違いとして、問題解決型学習の方はチューターがつく場合が多いとされていますが、チューターの関わりについても考察を深めている点も面白かったです。学習者中心の環境を作っていく上でも、まずはチューターが張り付きで始動して、環境が整ったら補助輪を外して離れていくのが良さそうです。



【メタ認知】
・アメリカの心理学者ジョン・フラベルが1970年代に使い始めてから、知られるようになる
・この概念は、ギリシャの哲学者ソクラテスが「賢明であるためには汝自身を知れ」と主張して以来、文学に登場し、教育的な文脈と結びつけられてきた
・17世紀の英国の哲学者ジョン・ロックは、内省の概念に「直観的知識」というものを加えた
・200年あまり経った後、米国の哲学者ジョン・デューイは「内省的な自己認識」について語った
・メタ認知とは「思考について考える」こと。詳細に言うと、習得した知識に対する認識や理解
・能動的、意識的、かつ体系的な姿勢を持ち、自分の学習を振り返ることができることを意味する

【メタ認知の知識の3つのグループ】
・宣言的知識(自己と戦略に関する知識)
・手続き的知識(戦略の使用方法に関する知識)
・条件的知識(戦略を使用するタイミングと理由に関する知識)

【メタ認知の調整の5つの領域】(Schraw, 1998; Kincannon et al, 1999)
・計画(目標設定)
・情報管理(整理)
・モニタリング(学習と戦略の評価)
・デバッグ(エラーを修正するための戦略)
・評価(学習後のパフォーマンスと戦略の有効性の分析)

【自己主導型学習(Self-directed learning)】
・自己主導型学習(SDL)が適切に定義されたのは1970年代になってから
・John Deweyは、「形成されることのできる最も重要な姿勢は、学び続けるという意欲である」と述べた
・1970年代後半には、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が、生涯学習をあらゆるレベルや社会における教育システムの組織化の基礎とすべきであると提言「私たちは絶え間なく変化し続ける社会に生きているため、教育は生涯にわたる継続的なプロセスとして捉えられる必要がある」
・自己主導型学習とは、学習者本人が自らの能力を積極的に管理し、発展させることに重点を置く学習方法である(Pihl, Siöström, 2005)。

「問題解決型学習は、その性質上、学生中心の学習であり、PBLの目標のひとつは、学生が生涯学習者となるよう支援することである。この目標を達成するためには、自己主導型学習スキルが不可欠である。自己主導型学習者となるためには、メタ認知的な思考と知識の活用が不可欠である。例えば、自己主導型学習においては、学習者はまず、直面する問題に関連する自身の知識を評価し、その価値を見出さなければならない。この作業にはメタ認知の知識が不可欠である(Hmelo et al, 1997)」

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