PBL: Problem-based learning(問題解決型学習)における新たな評価方法の開発のため、McMaster大学で考案されたトリプルジャンプの改良に取り組んだ論文のレビューです。
論文はこちら(被引用数:9件 (2024年12月22日時点))
小野和宏, 松下佳代, & 斎藤有吾. (2014). PBL における問題解決能力の直接評価--改良トリプルジャンプの試み--. 大学教育学会誌, 36(1), 123-132.
ざっくりと内容をまとめます。
【目的】
・PBLにおける問題解決能力を直接評価する評価方法を開発し、その信頼性(評価者間での評価の一貫性)について検討する
・開発した評価方法の有用性について、学習経験という観点から検討する
【対象者】
新潟大学歯学部
・歯学科(6年制):第5学年にPBLを実施
・口腔生命福祉学科(4年制):第2学年から第4学年にPBLを実施
・本論文では、口腔生命福祉学科第2学年前期を例として説明
【学習評価と課題】
(学習成果の評価)
・学期末の筆記試験により知識・理解を評価
・問題解決能力や対人関係能力は、グループ学習の中でファシリテータによる教員評価
・歯学科(6年制):第5学年にPBLを実施
・口腔生命福祉学科(4年制):第2学年から第4学年にPBLを実施
・本論文では、口腔生命福祉学科第2学年前期を例として説明
【学習評価と課題】
(学習成果の評価)
・学期末の筆記試験により知識・理解を評価
・問題解決能力や対人関係能力は、グループ学習の中でファシリテータによる教員評価
(課題)
・ファシリテータは学習支援とともに7~8名の学生を一人で同時に評価しており、適正な評価がなされているか疑問がある
・グループ学習で発言しない学生を評価することはできない
・能力目標と評価の連動を図るためにも、新たな評価方法を開発することは喫緊の課題であった
・ファシリテータは学習支援とともに7~8名の学生を一人で同時に評価しており、適正な評価がなされているか疑問がある
・グループ学習で発言しない学生を評価することはできない
・能力目標と評価の連動を図るためにも、新たな評価方法を開発することは喫緊の課題であった
【方法】
⑴ 新潟大学歯学部のPBL
・新潟大学歯学部のPBLは、スウェーデンのマルメ(Malmo )大学歯学部の方式(Rohlin et al.,1998)に準拠(小野他、2006)
・テューターのファシリテーションのもと、7~8名のグループ学習を行う
・最初にシナリオと呼ばれる事例から事実を抽出し、その事実から生じる疑問や考えを話し合う
・疑問を解決したり、自分たちの仮説を検証するために不足している知識を確認し、学習課題を設定
・授業外で個々に学習課題について調査
・1週間後、再び教室に集まり、調査した結果をグループで検討し、自分たちの仮説が妥当であったか否か議論して問題を解決
このように、授業でのグループ学習、授業外での個別学習、授業でのグループ学習という3つのステップをたどりながら、学習がめられる(図1参照)・テューターのファシリテーションのもと、7~8名のグループ学習を行う
・最初にシナリオと呼ばれる事例から事実を抽出し、その事実から生じる疑問や考えを話し合う
・疑問を解決したり、自分たちの仮説を検証するために不足している知識を確認し、学習課題を設定
・授業外で個々に学習課題について調査
・1週間後、再び教室に集まり、調査した結果をグループで検討し、自分たちの仮説が妥当であったか否か議論して問題を解決

【トリプルジャンプ】
・トリプルジャンプとは、PBLにおける問題解決能力、自己学習能力を評価するために、1975年にカナダのマクマスター(McMaster)大学医学部で考案された評価方法(Blake et al.,1995)
・学生と教員が一対一で行うPBLで、通常の学習過程と同様に3つのステップからなり、通常はグループ学習を行うステップ1とステップ3を教員とのやりとりに代えて学生を評価
・ステップ1:学生はシナリオを読み、そこに書かれた事実から問題を見つけだし、解決策を立案
・その際、学生は自分が必要と考える追加情報を教員に質問できる
・教員はあらかじめシナリオの追加情報を準備している
・ステップ2:学生は図書館などに出向き、取捨選択しながら信頼できる情報を収集し、自己学習
・ステップ3:学生は教室に戻り、既有の知識にステップ2で得た知識を統合し、最終的な解決策を教員に説明
【トリプルジャンプの良い点】
・学生と教員が一対一で行うPBLで、通常の学習過程と同様に3つのステップからなり、通常はグループ学習を行うステップ1とステップ3を教員とのやりとりに代えて学生を評価
・ステップ1:学生はシナリオを読み、そこに書かれた事実から問題を見つけだし、解決策を立案
・その際、学生は自分が必要と考える追加情報を教員に質問できる
・教員はあらかじめシナリオの追加情報を準備している
・ステップ2:学生は図書館などに出向き、取捨選択しながら信頼できる情報を収集し、自己学習
・ステップ3:学生は教室に戻り、既有の知識にステップ2で得た知識を統合し、最終的な解決策を教員に説明
【トリプルジャンプの良い点】
・通常のPBLと同様な過程で評価が進められることから、評価の妥当性、特に表面的妥当性は高い
・様々な専門家が協力してシナリオを作成、吟味することで、内容的妥当性も担保される
【トリプルジャンプの悪い点】
・評価の信頼性に関しては、一般に低いとみなされている(Mtshali& Middleton, 2011)
(主観的、学生と教員のやりとりを確認する他の評価者がいない、口頭でのやりとりで教員が学生の説明を聞き逃すことがある、評価資料の質、学生の性格、評価者の熟練度の問題等)
・学生が自己学習する時間が必要で、評価に時間がかかり教員の評価負担が大きい(Newman,2005)
・これらのことから、現在ではほとんど顧みられることなく、実施している大学も少ない(しかし、トリプルジャンプに代わる、妥当性があり、かつ信頼性、実行可能性を兼ね備えた評価方法はいまだ見あたらない)
→PBLにおける新たな評価方法の開発を目指して、トリプルジャンプの改良に取り組む
【改良版トリプルジャンプ】
・様々な専門家が協力してシナリオを作成、吟味することで、内容的妥当性も担保される
【トリプルジャンプの悪い点】
・評価の信頼性に関しては、一般に低いとみなされている(Mtshali& Middleton, 2011)
(主観的、学生と教員のやりとりを確認する他の評価者がいない、口頭でのやりとりで教員が学生の説明を聞き逃すことがある、評価資料の質、学生の性格、評価者の熟練度の問題等)
・学生が自己学習する時間が必要で、評価に時間がかかり教員の評価負担が大きい(Newman,2005)
・これらのことから、現在ではほとんど顧みられることなく、実施している大学も少ない(しかし、トリプルジャンプに代わる、妥当性があり、かつ信頼性、実行可能性を兼ね備えた評価方法はいまだ見あたらない)
→PBLにおける新たな評価方法の開発を目指して、トリプルジャンプの改良に取り組む
【改良版トリプルジャンプ】
・ステップ1:シナリオから問題を見つけだし、解決策を立案し、学習課題を設定するが、その過程を60分間でワークシートに記述させる
・ステップ2:学習課題を調査し学習するだけでなく、その結果をもとに解決策を検討し、最終的な解決策を提案するまでを含めて1週間とし、その過程もワークシートに記述させる
・ステップ3:シナリオの状況を再現して、教員を相手にロールプレイさせ、解決策の実行までをルーブリックを用いて評価し、その評価結果をフィードバック(15分間)
(改良版の特徴とメリット)
・これまでのステップ1~3を、ステップ1・2として、口頭に代えて文書で評価し、さらにその評価にあたってはルーブリックを用いることで評価の信頼性を高めることができると期待(大きな特徴)
・ステップ2:学習課題を調査し学習するだけでなく、その結果をもとに解決策を検討し、最終的な解決策を提案するまでを含めて1週間とし、その過程もワークシートに記述させる
・ステップ3:シナリオの状況を再現して、教員を相手にロールプレイさせ、解決策の実行までをルーブリックを用いて評価し、その評価結果をフィードバック(15分間)
(改良版の特徴とメリット)
・これまでのステップ1~3を、ステップ1・2として、口頭に代えて文書で評価し、さらにその評価にあたってはルーブリックを用いることで評価の信頼性を高めることができると期待(大きな特徴)
・ステップ1・2で、ワークシートを導入したことにより、同時に多くの学生が受験でき、教員が評価の場に拘束される時間は著しく短縮された(後にワークシートを評価する時間は必要)

【ルーブリックの開発と評価の実施】
・2013年度口腔生命福祉学科第2学年前期の学生24名を対象として、改良版トリプルジャンプを実施
・授業科目「口腔の科学」の学習内容に関連したシナリオをトリプルジャンプ用として新たに作成
・ステップ1・2で使用するワークシートと、その評価に用いるルーブリック(表1参照)
・PBLの学習過程:「問題発見」「解決策の着想」「学習課題の設定」に相当

・ロールプレイを評価するステップ3のルーブリック(表2参照)
・PBLの学習過程:「学習結果とリソース」「解決策の検討」「最終解決策の提案」に相当
・ステップ1・2で使用するワークシートと、その評価に用いるルーブリック(表1参照)
・PBLの学習過程:「問題発見」「解決策の着想」「学習課題の設定」に相当

・ロールプレイを評価するステップ3のルーブリック(表2参照)
・PBLの学習過程:「学習結果とリソース」「解決策の検討」「最終解決策の提案」に相当

・ステップ3のルーブリックは、ロールプレイでの「解決策の実行」を評価するもので、「追加情報の収集(情報の収集と問題の再把握)」「情報の統合(追加情報の統合と解決策の内容修正)」「共感的態度(相手への共感)」「コミュニケーション(相手にあわせた解決策の表現)」の4つの観点からなり、シナリオの内容に依存する課題特殊的なルーブリック(松下,2012)
(ルーブリックのレベル)
・記述は3段階であるが、「レベル1」に満たないものは「レベル0」とし、実質的に4段階
・「レベル3」は、口腔生命福祉学科の教育課程修了時(第4学年)に到達してほしいレベルに設定された一般的で長期的なルーブリック(松下,2012)
・「レベル3」は、口腔生命福祉学科の教育課程修了時(第4学年)に到達してほしいレベルに設定された一般的で長期的なルーブリック(松下,2012)
【ワークシートならびにロールプレイの評価】
・3名の教員で実施(ロールプレイの相手役は著者の一人が務めた)
・評価に先立ち、ステップ1・2とステップ3のルーブリックに関して共通理解を得るために、ルーブリックの記述語とその意味するところを全員で確認
・評価基準に関する話し合いの後、評価者3名は相互に相談することなく、ステップ3が始まるまでの1週間でワークシート24部を評価
・ロールプレイの評価はその場で行い、評価者3名で相談することなく、学生24名を評価
・ステップ1・2、ステップ3ともに、ルーブリックを用いて評価した後に、ワークシート、ロールプレイ全体を振り返り、総合印象点を10点満点でつけた
・評価に先立ち、ステップ1・2とステップ3のルーブリックに関して共通理解を得るために、ルーブリックの記述語とその意味するところを全員で確認
・評価基準に関する話し合いの後、評価者3名は相互に相談することなく、ステップ3が始まるまでの1週間でワークシート24部を評価
・ロールプレイの評価はその場で行い、評価者3名で相談することなく、学生24名を評価
・ステップ1・2、ステップ3ともに、ルーブリックを用いて評価した後に、ワークシート、ロールプレイ全体を振り返り、総合印象点を10点満点でつけた
【評価者間信頼性の検討】
・3名の評価者のルーブリックの各観点における評価の評価者間信頼性を検討するにあたり,3名の各観点の評価を「レベル3」:3点~「レベル0」:0点と数値化し、これらの数値を用いて、観点別の級内相関係数(Intraclass correlation coefficient:ICC )を算出し評価者間信頼性を分析
【学習効果の検討】
・改良版トリプルジャンプの学習効果を検討するため、ステップ3終了後に学生アンケート調査を実施
・アンケートは,「そう思う」「ある程度そう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」の4段階
(質問8項目)
・「シナリオは好奇心をくすぐるものであった」
・「ワークシートは学習を進めるガイドになった」
・「ルーブリックはステップ1・2の学習とその振り返りに役立った」
・「ステップ3のロールプレイにより学習は深まった」
・「ロールプレイでの教員からのフィードバックにより学習は深まった」
・「トリプルジャンプは意味のある経験であった」
・「トリプルジャンプで自分の問題解決能力を理解できた」
・「今後のPBLでの学習に今回のトリプルジャンプの経験は役立つ」
・最後に自由記述式で意見・感想を求めた
【結果】
・アンケートは,「そう思う」「ある程度そう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」の4段階
(質問8項目)
・「シナリオは好奇心をくすぐるものであった」
・「ワークシートは学習を進めるガイドになった」
・「ルーブリックはステップ1・2の学習とその振り返りに役立った」
・「ステップ3のロールプレイにより学習は深まった」
・「ロールプレイでの教員からのフィードバックにより学習は深まった」
・「トリプルジャンプは意味のある経験であった」
・「トリプルジャンプで自分の問題解決能力を理解できた」
・「今後のPBLでの学習に今回のトリプルジャンプの経験は役立つ」
・最後に自由記述式で意見・感想を求めた
【結果】
⑴ 級内相関係数による評価者間信頼性
・3名の評価者を評価者A、B、Cとし、評価の値の記述統計量とICC(2,3)をみると(表3参照)、「問題発見」を除くルーブリックの各観点のICC(2,3)は、0.7弱~0.9弱の範囲であった
・一般的にICCが0.7以上であれば信頼性は良好であるとされている
・一般的にICCが0.7以上であれば信頼性は良好であるとされている
⑵ 学生アンケート調査からみる学習効果
・全般に肯定的な意見が多く、特に、「ステップ3のロールプレイにより学習は深まった」と「ロールプレイでの教員からのフィードバックにより学習は深まった」との質問に対して、80%以上の学生が「そう思う」と回答し、否定的な意見はみられなかった
・改良版トリプルジャンプに対する自由記述の意見・感想は16名から寄せられ、分析の結果、緊張と達成感、現実場面の想起と学習の深化、PBLの学習方法と現時点での能力の理解、今後のPBLへの積極的な参加の意思、意味のある経験としてのトリプルジャンプの認識、という5つのカテゴリーが抽出された(表4参照)

・学生はトリプルジャンプを「緊張と達成感」をもって行い、そのなかで「現実場面の想起と学習の深化」「PBLの学習方法と現時点での能力の理解」を得て、「今後のPBLへの積極的な参加の意思」を固め、「意味のある経験としてのトリプルジャンプの認識」にいたっていたということができる
・改良版トリプルジャンプに対する自由記述の意見・感想は16名から寄せられ、分析の結果、緊張と達成感、現実場面の想起と学習の深化、PBLの学習方法と現時点での能力の理解、今後のPBLへの積極的な参加の意思、意味のある経験としてのトリプルジャンプの認識、という5つのカテゴリーが抽出された(表4参照)

・学生はトリプルジャンプを「緊張と達成感」をもって行い、そのなかで「現実場面の想起と学習の深化」「PBLの学習方法と現時点での能力の理解」を得て、「今後のPBLへの積極的な参加の意思」を固め、「意味のある経験としてのトリプルジャンプの認識」にいたっていたということができる
【考察】
⑴ 評価方法としての改良版トリプルジャンプ
・ルーブリックを用いた3名の評価者の評価の平均値は,観点別においても合計点においても、おおむね高い評価者間信頼性を有しており、開発した改良版トリプルジャンプは、評価の信頼性というこれまでのトリプルジャンプの課題をおおむね解決したといえる
・「問題発見」のICC は0.44で,0.7を大きく下回っており、他の観点と比較して著しく低かった
・「問題発見」については、評価者間の評価の甘さ/辛さの違いに加えて、ルーブリックには存在しない観点や記述語の解釈の違いが特定の評価者の評価に混入したため、評価者間のズレが大きくなり、低い評価者間信頼性を示したのではないかと考えることができる
・「問題発見」のICC は0.44で,0.7を大きく下回っており、他の観点と比較して著しく低かった
・「問題発見」については、評価者間の評価の甘さ/辛さの違いに加えて、ルーブリックには存在しない観点や記述語の解釈の違いが特定の評価者の評価に混入したため、評価者間のズレが大きくなり、低い評価者間信頼性を示したのではないかと考えることができる
・他の評価者とのズレが大きかったと考えられる評価者Cに,評価者A,B同席のもとでインタビュー調査を実施し、2つの要因が浮かびあがった
・要因①評価課題(シナリオ)の適合性に対する違和感:評価者Cは今回用いたシナリオを歯学科寄りのものだと感じており、「口腔生命福祉学科の学生にここまで解剖学・生理学的な説明を求める必要があるか」という疑問をもっていた
・要因①評価課題(シナリオ)の適合性に対する違和感:評価者Cは今回用いたシナリオを歯学科寄りのものだと感じており、「口腔生命福祉学科の学生にここまで解剖学・生理学的な説明を求める必要があるか」という疑問をもっていた
・要因②ルーブリックの記述語の多義性:「問題発見」のレベル1の記述語には「不十分」という言葉が含まれているが、評価者Cは、『不十分』の幅が広いため、解釈が難しく何度もやり直した
・評価者Cは学生の75%がレベル1に該当すると評価しており、それに対して評価者A、Bは50%以下であった
・評価者Cは学生の75%がレベル1に該当すると評価しており、それに対して評価者A、Bは50%以下であった
・オリジナルのトリプルジャンプでは、評価は口頭での教員と学生のやりとりを通じてなされるのに対し、改良版トリプルジャンプでは、ステップ1・2の評価をワークシート、すなわち文書の形で実施し、ステップ3の評価のみ口頭でのやりとりを通じて行う
・ルーブリック自体も文字情報で記述されていることを考慮に入れれば、改良版トリプルジャンプは、オリジナルに比べて文字情報の比重が高くなっている
・学生に対してより大きなインパクトを与えているのはステップ3でステップ1・2はその準備的な意味合い
・改良版トリプルジャンプは、オリジナルのもつ口頭でのやりとりによる評価のよさを失わずに、教員の評価負担を軽減し、実行可能性を高めたと言える
・ルーブリック自体も文字情報で記述されていることを考慮に入れれば、改良版トリプルジャンプは、オリジナルに比べて文字情報の比重が高くなっている
・学生に対してより大きなインパクトを与えているのはステップ3でステップ1・2はその準備的な意味合い
・改良版トリプルジャンプは、オリジナルのもつ口頭でのやりとりによる評価のよさを失わずに、教員の評価負担を軽減し、実行可能性を高めたと言える
・労力をかけても評価する教育的な価値があれば、教員は負担を過大と感じず、評価の作業に積極的に参加するだろう
⑵ 他分野のPBLの評価方法に対する示唆
⑵ 他分野のPBLの評価方法に対する示唆
最後に,本研究で開発した改良版トリプルジャンプが,他分野のPBLの評価方法にどのような示唆を与えうるかを,①問題解決能力の評価,②問題解決能力と知識の関係,という2つの観点から考察
① 問題解決能力の評価
・改良版トリプルジャンプは、PBLで学んだ学生の学習成果を評価するために開発された方法であり、ワークシートによる筆記課題とロールプレイという実演課題を組み合わせ、2つの異なるタイプのルーブリックを用いたパフォーマンス評価である
・ステップ1・2のルーブリックは、PBLの全プロセス(問題発見~最終解決策の提案)をカバーしており、ステップ3のルーブリックは、PBLにはなかった「解決策の実行」の段階を評価する
・ステップ1・2のルーブリックは、PBLの全プロセス(問題発見~最終解決策の提案)をカバーしており、ステップ3のルーブリックは、PBLにはなかった「解決策の実行」の段階を評価する
・改良版トリプルジャンプが最も適用しやすいのは、PBLが教育方法として使われている分野(医学教育、薬学教育、看護教育など)であるが、PBLが使われていない分野についてはどうだろうか
・アメリカ大学・カレッジ協会(Association of American Colleges and Universities:AAC&U)では、学士課程教育で育成すべき一般的能力を評価するためにVALUE(Valid Assessment of Learning in Undergraduate Education)プロジェクトを実施し(Rhodes, 2010)、これまでに16個のVALUEルーブリックを開発
・そのなかには問題解決のためのルーブリックも含まれている
・「問題解決」VALUEルーブリックは,今回開発したものと同じく長期的なルーブリックであり、その規準(観点)は、「問題の定義」「方略の同定」「解決/仮説の提案」「採りうる解決の評価」「解決の実行」「結果の評価」の6つである
・本研究の2つのルーブリックと比較すると、ステップ1・2のルーブリックは、「問題の定義」から「採りうる解決の評価」まで、ステップ3のルーブリックは、「解決の実行」に対応していることがわかる(表5参照)

・改良版トリプルジャンプでは,「結果の評価」はルーブリックには含まれていないが、教員のフィードバックとそれにもとづく学生の自己評価によって行われているため、問題解決能力全体のプロセスをカバーしている
・アメリカ大学・カレッジ協会(Association of American Colleges and Universities:AAC&U)では、学士課程教育で育成すべき一般的能力を評価するためにVALUE(Valid Assessment of Learning in Undergraduate Education)プロジェクトを実施し(Rhodes, 2010)、これまでに16個のVALUEルーブリックを開発
・そのなかには問題解決のためのルーブリックも含まれている
・「問題解決」VALUEルーブリックは,今回開発したものと同じく長期的なルーブリックであり、その規準(観点)は、「問題の定義」「方略の同定」「解決/仮説の提案」「採りうる解決の評価」「解決の実行」「結果の評価」の6つである
・本研究の2つのルーブリックと比較すると、ステップ1・2のルーブリックは、「問題の定義」から「採りうる解決の評価」まで、ステップ3のルーブリックは、「解決の実行」に対応していることがわかる(表5参照)

・改良版トリプルジャンプでは,「結果の評価」はルーブリックには含まれていないが、教員のフィードバックとそれにもとづく学生の自己評価によって行われているため、問題解決能力全体のプロセスをカバーしている
・改良版トリプルジャンプ独自の特徴
1.「学習課題の設定」と「学習結果とリソース」を観点に追加:授業外での個別学習を重視するPBLの特徴に即したもの
2.「解決策の実行」の観点がより詳細に設定:患者とのやりとりを通じて臨機応変に問題解決を実行することが求められる専門職の特徴を反映した観点
1.「学習課題の設定」と「学習結果とリソース」を観点に追加:授業外での個別学習を重視するPBLの特徴に即したもの
2.「解決策の実行」の観点がより詳細に設定:患者とのやりとりを通じて臨機応変に問題解決を実行することが求められる専門職の特徴を反映した観点
・VALUEルーブリックと今回開発したルーブリックは,<一般的-領域特殊的>という関係にある
・見方を変えれば、一般的ルーブリックを共有しながら、それを当該分野の特徴にあわせて特殊化するための方法を改良版トリプルジャンプは示した
・見方を変えれば、一般的ルーブリックを共有しながら、それを当該分野の特徴にあわせて特殊化するための方法を改良版トリプルジャンプは示した
② 問題解決能力と知識の関係
・問題解決能力の育成と知識獲得をどう両立させるかという課題は、問題解決学習と系統学習の対立をどう調停するかという教育学の古典的課題に根ざすものであり、PBLにおける問題解決能力の直接評価をデザインする際にも避けては通れない課題
・本研究では、知識獲得は、ステップ1・2のワークシート課題において「学習結果とリソース」という観点で評価されるとともに、学期末試験(筆記試験)で評価される
・個別の知識の習得を筆記試験によって、他方、問題解決能力やそのなかでの知識の活用をパフォーマンス課題によって評価することは、一つの有効な方法だといえる
・本研究では、知識獲得は、ステップ1・2のワークシート課題において「学習結果とリソース」という観点で評価されるとともに、学期末試験(筆記試験)で評価される
・個別の知識の習得を筆記試験によって、他方、問題解決能力やそのなかでの知識の活用をパフォーマンス課題によって評価することは、一つの有効な方法だといえる
ここまで。
PBLの評価については色々と工夫の余地があると感じていたところだったので、こちらの論文を見つけたのはラッキーでした。
・PBLの学習過程に沿ったルーブリック
・ルーブリックとワークシートの連動
・教員の評価負担を下げるコツ
などなど、参考になる部分がものすごく多くありました。
PBLには2種類ありますが、医療系で広く使われている問題解決型学習(Problem-based learning)の方が、プロセスや評価についての研究や実践が進んでいる気がします。プロジェクト型学習(Project-based learning)でも、当論文のような研究や実践が多く出てきてほしいなと思います。
【メモ】
「問題基盤型学習では学習プロセスが明確に定義され、活動デザインに反映されているのに対して、プロジェクト型学習ではそれが個別の実践に委ねられているという違いがあるとされている(湯浅他、2011)」
「学習プロセスが個別の実践に委ねられているプロジェクト型学習に比べ、学習プロセスが明確に定義されている問題基盤型学習の方が、得られた知見の一般化が容易と期待される」
「PBLの効果として、統合された深い知識・理解の習得、問題分析・問題解決能力の育成、対人関係能力の育成、継続的な学習意欲の涵養があげられているが(Barrows, 1998)」
「自分で学習せず,グループメンバーの学習に依存して,単位を取得しようとする,いわゆる「フリーライダー」の存在が指摘されており(吉田他,2004),改良版トリプルジャンプは,このような学生の学習指導にもなると考えられた」
「評価しようとしている領域全体を広く対象とすることと、時間をかけて深く評価することとは相反するので、異なるタイプの評価方法を組み合わせる必要がある(Messick, 1994)」
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