大学院生を対象に、プロジェクト型学習におけるメタ認知能力開発の効果について考察した論文をレビューします。

論文はこちら(被引用数:123件 (2024年12月26日時点))
Sart, G. (2014). The effects of the development of metacognition on project-based learning. Procedia-Social and Behavioral Sciences, 152, 131-136.

ざっくり論文のポイントをまとめます。

目的:メタ認知能力が学習者を自立した学習者に変身させるための基礎となる能力であることを示すこと
リサーチクエスチョン:「プロジェクトベースの学習におけるメタ認知能力開発の効果とは何か?」

調査・分析
・対象:アントレプレナーシップとイノベーションのコース(2つのプログラム)を受講する大学院生86名
 ・1つ目のプログラム:プロジェクトベースのカリキュラム
 ・2つ目のプログラム:伝統的な教授法と学習法
・方法:半構造化インタビューによる12の異なる質問を実施
・Atlas-ti 7で分析

結果
・86%が、プロジェクトベースの学習環境は、従来の学習環境よりもはるかに優れている(32%)と同意
・81%が、従来のコースの参加者と比較して、研修により意識が著しく向上した(68%)とコメント

最後に結論として以下のことが述べられています。
「問題解決型の活動は、学生たちを慣れない困難な状況に置くため、学生たちは課題や問題の解決策について考えるだけでなく、その解決策にたどり着くまでのプロセスについても考えなければならない。その結果、学習のプロセスに対する学生たちの意識が高まり、この意識は、後に他の状況や問題にも応用できるスキルとして発展していくと考えられる。」

ここまで。
分析の具体的な記述はあまり詳細まで書かれていませんでしたが、産業界のニーズと大学・大学院の教育との接続の観点で多くの学びをいただきました。
例えば、産業界からは、「従業員が自立した学習者」であってほしい。なので、大学ではそのような教育を実施してほしいという要請があります。
「絶え間なく変化する世界において、学生が変化する高等教育のカリキュラムや構造に対応し、雇用主の期待に応えるために、自立した学習者として成長する必要性は不可欠である」(Cotton, 2001)
そして、Cotton(2001)は、「自立学習(independent learning)は、教育および雇用という両方の観点において優先されるべきである」と述べています。
学習に対する態度を受動的なものから自立的・能動的に変化させていくこと。働き出してから急にこのような態度の変容は起こりづらいので、学生のうちからこのような意識や態度を育む教育を行なっていく必要があると言えそうです。
そして、自立した学習者になるために必要な概念がメタ認知です。
当論文でも「メタ認知は、自立した学習者になるために必要な意識、観察、反省、分析にも関わる」と述べられており、先行研究でも「メタ認知スキルは、学習者が自身の思考や学習を自己管理し評価することを可能にする」(Peters, 2000)と言われています。
そしてそして、そのメタ認知を高める手法のひとつがPBLです。なんとなくPBLはメタ認知を高めるのだろうなというイメージはあったものの、なぜそうなるのかという記述にはなかなか出会えなかったのですが、以下の文章が非常に腑に落ちました。
「PBLのアプローチでは、単に知識を習得するのではなく、学習のプロセスに重点が置かれているため、PBLに取り組む学生は、必ずしも同様の内省的なパフォーマンスを必要としないPBLではないアプローチで学習する学生と比較すると、より有意義なメタ認知能力の向上が期待できるのは理にかなっている。」
つまり、認知能力の向上(答えを暗記)に重きを置いた従来型の授業に比べ、PBLはプロセスを重視するため、メタ認知の向上が期待できるということです。
・従来型教育:暗記重視:認知能力
・PBL:プロセス重視:メタ認知能力

「PBL→メタ認知向上→自立した学習者」という一連のつながりが見えたことは大きな収穫でした。
CEQ(Ramsden, 1991)を使用して、さまざまな国の6つの学校における従来の科目別カリキュラムと問題解決型カリキュラムを比較したSadlo(1997)の論文についてもまた読もう。


【メモ】
【メタ認知スキルの分類】(Gorrellら, 2009)
①評価(Evaluation):情報源の批判的検討、または任務の成功
②メタ記憶(Metamemory):個人の記憶の使用法に関する知識と認識
③メタ理解(Metacomprehension):課題の理解度を認識する能力
④モニタリング(Monitoring):認知課題の進捗状況を評価する能力
⑤プランニング(Planning):課題に適切な構造を割り当てる能力
⑥スキーマ・トレーニング(Schema Training):課題を理解するための認知フレームワークを生成する能力 ⑦転移(Transfer):学習した課題以外の課題に戦略を転用する能力

「PBLのアプローチでは、単に知識を習得するのではなく、学習のプロセスに重点が置かれているため、PBLに取り組む学部生は、必ずしも同様の内省的なパフォーマンスを必要としないPBLではないアプローチで学習する学生と比較すると、より有意義なメタ認知能力の向上が期待できるのは理にかなっている。」
「プロジェクトの中で、社会、経済、文化、環境を含む日常的な課題が解決されるケースでは、認知の最高レベルである「メタレベル」が関与しているため、メタ認知を発達させるためのより良い環境が生まれる。」

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