大学生の汎用的技能を測る尺度を開発し、その尺度を活用して、正課と正課外、学部別、学生のタイプ別など様々な観点から汎用的技能獲得について検証した論文のレビューです。
論文はこちら(被引用数:56件 (2025年1月14日時点))
山田剛史, & 森朋子. (2010). 学生の視点から捉えた汎用的技能獲得における正課・正課外の役割. 日本教育工学会論文誌, 34(1), 13-21.
ざっとポイントをまとめます。
目的
①これまで提起されている学習成果指標から大学生の汎用的技能に関する項目を吟味・選定し、卒業生調査データを元に、その構造(要因)を抽出すること
②正課・正課外の差異・組み合わせによる汎用的技能の獲得差異に焦点をあてて検証すること
調査対象者
・国立S大学の2008年3月に卒業する学生1144名に配付し、回収された657名(男性343名、女性310名、不明4名)(人文社会系140名、教育系124名、医学系35名、理工系187名、農学系171名)
調査時期
・2008年2月中旬〜3月末日
調査内容
・①卒業後の進路、就職先の職種、②在学時の成績に関する項目等8領域計11項目群の調査
・本研究ではそのうち、以下の2つを使用
③在学中の正課・正課外活動へのコミットメントとその有意味に適する項目(3項目)
⑧汎用的技能に関する項目(40項目)(4件法:かなり身についた〜全く身につかなかった)
・各項目に対して、a.授業全体(予習復習を含む)、b.授業以外での活動(部活やバイト、友人関係) を通じてどの程度身についたかを回答
データ分析
・⑧を因子分析した結果、5項目を除外し、最終的に35項目、8因子となった
・8因子については、表1の通りそれぞれ命名
・信頼性については、信頼性係数 α:.772〜.918で、内的一貫性は高かった

正課・正課外による汎用的技能の差異
・汎用的技能の下位尺度毎に正課と正課外の得点を算出し、対応のあるt検定を実施(表3)

・「F1:批判的思考・問題解決力」と「F7:母国語運用力」を除く6つで有意差が認められた
・正課の方が有意に高い項目は、「F5:情報リテラシー」と「F6:外国語運用力」であった
・正課外の方が高い有意に高い項目は、「F2:社会的関係形成力」「F3:持続的学習・社会参画力」「F4:知識の体系的理解力」「F8:自己表現力」であった
学部系統別×正課・正課外による汎用的技能の差異
・5つの学部系統を独立変数、汎用的技能の下位尺度を従属変数として一要因分散分析を実施(表4)

・教育学系と医学系が正課・正課外ともに総じて高い値を示した
・学修内容と卒業後のキャリアが直結する学部系統は、比較的高い汎用的技能を有している(山田, 2009; 溝上・中間・山田・森, 2009など)
正課・正課外の組み合わせ(学生コミットメントのタイプ)による汎用的技能の差異
・5つの正課(授業、授業外学習)・正課外(サークル活動、アルバイト、友達づきあい)活動への意味づけの得点を用い、非階層型のクラスタ分析(K-means法)を実施
・探索的に検討した結果、最適と思われる4つのクラスタで分析を実施(図1)

・4つのタイプを独立変数、8つの汎用的技能の下位尺度を従属変数とした一要因分散分析を実施
・「F6:外国語運用能力」を除く7つの因子において有意差が見られ、それらについて多重比較(LSD法)を実施(表5)

・クラスタ1が有為差のみられた7つの因子全てにおいて有意に高い値を示した
→一定層のハイパフォーマー学生が正課・正課外活動を効果的に行い、高い技能獲得を果たしている可能性が示唆された
まとめ
・正課内だけでなく正課外活動に時間を費やす学生タイプは、汎用的技能の獲得感が高い
・汎用的技能は正課のみならず正課外活動も含めたトータルな学びの中で得られるものであり、そうした教育デザインを考慮することも必要。大学教育は正課教育(授業)のみならず正課外教育(授業外)も含めて考えられるべき(溝上, 2007)
・方向性の1つとして、正課教育の中に、従来あまり取り込まれてこなかった正課外的要素を包摂していくような要素を、協調学習や体験活動等のアクティブ・ラーニングを通じて取り込んでいくような教育・学習環境デザインの検討も考えられる
ここまで。
まず、大学生の汎用的技能について興味を持つ自分として、当尺度はとてもありがたい発見でした。
また、正課・正課外による汎用的技能の差異では、「F5:情報リテラシー」と「F6:外国語運用力」の2因子のみが正課の方が有意に高い結果となっている点については驚きました。これは裏を返せば、「社会的関係形成力」「持続的学習・社会参画力」「知識の体系的理解力」「自己表現力」は、大学教育よりも課外活動の方が効果的であるとも言えるのではないかと思うからです。もちろん正課外からも多くの学びはあるとは思いますが、大学教育に関わる者としては、授業の効果を高めていかねばと感じました。
他には、学部別の結果も興味深いものでした。「学修内容と卒業後のキャリアが直結する学部系統は、比較的高い汎用的技能を有している」という点にヒントがあるように思います。医学部では、学んだ知識を活用しながら課題解決するProblem-based learningが多く導入されていますし、自分が通った修士課程(経営学研究科)でも、授業で得た知識をフル活用して、実在する顧客の課題解決を行うプロジェクトに取り組んだりしました。こういう経験が、知識定着を促すだけでなく、汎用的技能も伸ばしていくのだと思います。
汎用的技能育成の観点からも、上述のようなアクティブ・ラーニングをどんどん展開していきたいなと思いました。
論文はこちら(被引用数:56件 (2025年1月14日時点))
山田剛史, & 森朋子. (2010). 学生の視点から捉えた汎用的技能獲得における正課・正課外の役割. 日本教育工学会論文誌, 34(1), 13-21.
ざっとポイントをまとめます。
目的
①これまで提起されている学習成果指標から大学生の汎用的技能に関する項目を吟味・選定し、卒業生調査データを元に、その構造(要因)を抽出すること
②正課・正課外の差異・組み合わせによる汎用的技能の獲得差異に焦点をあてて検証すること
調査対象者
・国立S大学の2008年3月に卒業する学生1144名に配付し、回収された657名(男性343名、女性310名、不明4名)(人文社会系140名、教育系124名、医学系35名、理工系187名、農学系171名)
調査時期
・2008年2月中旬〜3月末日
調査内容
・①卒業後の進路、就職先の職種、②在学時の成績に関する項目等8領域計11項目群の調査
・本研究ではそのうち、以下の2つを使用
③在学中の正課・正課外活動へのコミットメントとその有意味に適する項目(3項目)
⑧汎用的技能に関する項目(40項目)(4件法:かなり身についた〜全く身につかなかった)
・各項目に対して、a.授業全体(予習復習を含む)、b.授業以外での活動(部活やバイト、友人関係) を通じてどの程度身についたかを回答
データ分析
・⑧を因子分析した結果、5項目を除外し、最終的に35項目、8因子となった
・8因子については、表1の通りそれぞれ命名
・信頼性については、信頼性係数 α:.772〜.918で、内的一貫性は高かった

正課・正課外による汎用的技能の差異
・汎用的技能の下位尺度毎に正課と正課外の得点を算出し、対応のあるt検定を実施(表3)

・「F1:批判的思考・問題解決力」と「F7:母国語運用力」を除く6つで有意差が認められた
・正課の方が有意に高い項目は、「F5:情報リテラシー」と「F6:外国語運用力」であった
・正課外の方が高い有意に高い項目は、「F2:社会的関係形成力」「F3:持続的学習・社会参画力」「F4:知識の体系的理解力」「F8:自己表現力」であった
学部系統別×正課・正課外による汎用的技能の差異
・5つの学部系統を独立変数、汎用的技能の下位尺度を従属変数として一要因分散分析を実施(表4)

・教育学系と医学系が正課・正課外ともに総じて高い値を示した
・学修内容と卒業後のキャリアが直結する学部系統は、比較的高い汎用的技能を有している(山田, 2009; 溝上・中間・山田・森, 2009など)
正課・正課外の組み合わせ(学生コミットメントのタイプ)による汎用的技能の差異
・5つの正課(授業、授業外学習)・正課外(サークル活動、アルバイト、友達づきあい)活動への意味づけの得点を用い、非階層型のクラスタ分析(K-means法)を実施
・探索的に検討した結果、最適と思われる4つのクラスタで分析を実施(図1)

・4つのタイプを独立変数、8つの汎用的技能の下位尺度を従属変数とした一要因分散分析を実施
・「F6:外国語運用能力」を除く7つの因子において有意差が見られ、それらについて多重比較(LSD法)を実施(表5)

・クラスタ1が有為差のみられた7つの因子全てにおいて有意に高い値を示した
→一定層のハイパフォーマー学生が正課・正課外活動を効果的に行い、高い技能獲得を果たしている可能性が示唆された
まとめ
・正課内だけでなく正課外活動に時間を費やす学生タイプは、汎用的技能の獲得感が高い
・汎用的技能は正課のみならず正課外活動も含めたトータルな学びの中で得られるものであり、そうした教育デザインを考慮することも必要。大学教育は正課教育(授業)のみならず正課外教育(授業外)も含めて考えられるべき(溝上, 2007)
・方向性の1つとして、正課教育の中に、従来あまり取り込まれてこなかった正課外的要素を包摂していくような要素を、協調学習や体験活動等のアクティブ・ラーニングを通じて取り込んでいくような教育・学習環境デザインの検討も考えられる
ここまで。
まず、大学生の汎用的技能について興味を持つ自分として、当尺度はとてもありがたい発見でした。
また、正課・正課外による汎用的技能の差異では、「F5:情報リテラシー」と「F6:外国語運用力」の2因子のみが正課の方が有意に高い結果となっている点については驚きました。これは裏を返せば、「社会的関係形成力」「持続的学習・社会参画力」「知識の体系的理解力」「自己表現力」は、大学教育よりも課外活動の方が効果的であるとも言えるのではないかと思うからです。もちろん正課外からも多くの学びはあるとは思いますが、大学教育に関わる者としては、授業の効果を高めていかねばと感じました。
他には、学部別の結果も興味深いものでした。「学修内容と卒業後のキャリアが直結する学部系統は、比較的高い汎用的技能を有している」という点にヒントがあるように思います。医学部では、学んだ知識を活用しながら課題解決するProblem-based learningが多く導入されていますし、自分が通った修士課程(経営学研究科)でも、授業で得た知識をフル活用して、実在する顧客の課題解決を行うプロジェクトに取り組んだりしました。こういう経験が、知識定着を促すだけでなく、汎用的技能も伸ばしていくのだと思います。
汎用的技能育成の観点からも、上述のようなアクティブ・ラーニングをどんどん展開していきたいなと思いました。
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