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Veenman, M. V., Van Hout-Wolters, B. H., & Afflerbach, P. (2006). Metacognition and learning: Conceptual and methodological considerations. Metacognition and learning, 1, 3-14.
メタ認知に関する既存の研究を概観し、メタ認知のメリットだけでなく研究上の課題となっている点について網羅的に記載されている論文です。ざっと読んだだけでも自分が気づいていなかったメタ認知研究の課題をいくつも発見することができました。
各項目ごとに印象的な部分をメモしてまとめます。
メタ認知の定義
・メタ認知の重要性は一貫して認められているが、その概念化には一貫性が欠けている
・メタ認知に関する用語の中には、より一般的な知識やスキルを指すものもあれば、特定の年齢層やタスクの種類に特化したものを指すものもある
・認知プロセスとメタ認知プロセスの両方に関連するもの(例:学習戦略や発見的戦略)もあれば、純粋にメタ認知的なものもある
・特定の用語とメタ認知の全体的な概念との関係は、明確に定義されていないものもある
・自己調整をメタ認知の従属的な要素とみなす研究者もいれば(例:Brown & DeLoache, 1978; Kluwe, 1987)、自己調整をメタ認知の上位概念とみなす研究者もいる(例:Winne, 1996; Zimmerman, 1995)
・Nelson (1996)は、このような統一理論に最初の弾みをつけた(2つのレベルを区別した)
・認知活動が行われる「オブジェクトレベル(object-level)」
・それを統制する「メタレベル(meta-level)」
・両レベル間の情報の一般的な流れは2つあると仮定されている
・オブジェクトレベルの状態に関する情報は、モニタリングプロセスを通じてメタレベルに伝達
・メタレベルからの指示は、制御プロセスを通じてオブジェクトレベルに伝達
・Nelsonの理論に基づく研究は、メタ記憶や「知識の感覚」および「学習の判断」の現象に主に限定(Metcalfe & Shimamura, 1994; Dunlosky & Nelson, 1992)
メタ認知の構成要素
・メタ認知的知識:個人、課題、および戦略の特性間の相互作用に関する個人の宣言的知識を指す(Flavell, 1979)
・メタ認知的スキル:個人の問題解決や学習活動を調整するための手続き的知識を指す(Brown & DeLoache, 1978; Veenman, 2005)
・学習プロセスに関するメタ認知的知識は、正しい場合も誤っている場合もあり、この自己認識は変化に抵抗する傾向がある。(例:試験勉強に時間を費やしたが失敗→「先生が難しい問題を作ったから...」)
・メタ認知的スキルにはフィードバックのメカニズムが組み込まれている
・メタ認知の具体的な要素の性質については意見が分かれている
・メタ記憶は、宣言的知識の観点からだけ研究されることが多いが、この知識の生成にはモニタリングプロセスが大きく関わっている(Lockl & Schneider)
・「知識の感覚」や「学習の判断」は、メタ認知的プロセス(メタ認知的経験によって引き起こされる;Efklides & Vauras, 1999)として、あるいはむしろ生成された知識として調査されてきた
・「何をすべきか」に関する条件付き知識は、メタ認知的意識や宣言的知識として考えられることもある(Alexander, Schallert & Hare, 1991; Desoete & Roeyers, 2003; Schraw & Moshman, 1995)
・あるいは、本質的にメタ認知的スキルの一部であるとも考えられる(AndersonのACT-Rモデルの認知的段階に沿ったもの。Veenman, 1998)
・メタ認知的知識とスキルのより正確な分類が必要
・メタ認知的活動の広範な記述は、Pressley and Afflerbach(1995; Pressley, 2000)による文章の学習を対象とした研究でなされている
・Meijer, Veenman, Van Hout-Wolters(in press)は、異なる分野における文章の学習と問題解決のタスクの両方について、メタ認知的活動の階層モデルを開発
・メタ認知の構成要素と下位構成要素の分類に加え、構成要素間の関係についてもさらに明確にする必要
・高度な「心の理論(Theory of Mind)」が後の段階でのメタ記憶力の向上につながる(Lockl and Schneider, this issue)
メタ認知と認知の複雑な関係
・メタ認知の概念化のほとんどの共通点は、「認知に関する高次認知の観点から捉える」という点
・認知とメタ認知を切り離すことができるのか問題
・認知システムを俯瞰し統括する高次エージェントが存在する一方で、同時にその一部でもある
・思考する自分と、思考する自分を観察する自分がいるというように、自分を2つに分割することはできない
・メタ認知は認知に依存しており、ある領域における自分の能力について、適切なメタ認知的知識を持つことは非常に難しい
・その領域に関連する概念や理論、その領域の本質的な難しさ、無関係なことに関する知識など、相当な(認知的)領域固有の知識がなければ、それは不可能(Pressley, this issue)
・メタ認知的スキルという観点では、問題解決の手順を考え、その手順を順序立てていくといった認知的活動を行わずに計画を立てることはできない
・メタ認知が、課題遂行を調整するための一連の(知識の)自己指示として考えられる場合、認知はそれらの自己指示の手段となり、これらの認知活動は、進行中のモニタリングや評価プロセスなど、メタ認知の対象となる
・メタ認知的活動と認知的活動のこの循環的なプロセスは、メタ認知的評価を行う際に、両者を切り離して考えることを困難にしている
・認知プロセスと複雑に絡み合っているにもかかわらず、メタ認知的スキルは知的能力と同一視することはできない(Sternberg, 1990)
・メタ認知的スキルは知能と中程度の相関関係にあるものの、知的能力に加えて学習成果に貢献しているという十分なエビデンスがある
・平均的な知的能力は学習のばらつきの10%を占めるのに対し、メタ認知的スキルは学習のばらつきの17%を占める
・両方の予測因子は、年齢や背景、課題の種類、領域が異なる生徒の学習のばらつきの20%を共有(Veenman, Wilhelm & Beishuizen, 2004; Veenman & Spaans, 2005を)
→適切なレベルのメタ認知が学生の認知的な限界を補う可能性がある
意識的 vs. 自動的メタ認知的プロセス
・メタ認知は定義上、意識的な処理を必要とするのか、あるいはメタ認知的活動はより意識の低いレベルでも起こりうるのか?
・ある研究者は、高次処理を表現するためにはメタ認知は意識的でなければならないと主張(例:Nelson, 1996; Schnotz, 1992)
・他の研究者は、自己に関する考え方がしっかりと確立されている場合や、自己を検証する活動が制御的な良い習慣となっている場合など、より意識の低い処理も本質的にはメタ認知であると主張(例:Baker, 1994; Reder, 1996; Veenman, Prins & Elshout, 2002)
・多くの評価や自己モニタリングのプロセスは、実行中の認知プロセスのバックグラウンドで実行されている
・エラーが検出された後、それが正当であるか否かに関わらず、システムが警告を発する
・この問題をさらに一歩進め、Bandura(1989)は、このような行動は観察や代理学習を通じて、モデル(教師、親、仲間)の有効な行動を模倣したものであると仮定
・スキルと戦略を構成するものは何かという永遠の課題もある
・メタ認知的スキルとメタ認知的戦略の明確かつ一貫した概念化が必要(Afflerbach, Pearson & Paris, in preparation)。
メメタ認知の一般性と特異性
・メタ認知が本質的に一般性を有するものなのか、それとも課題や領域に特異的なものなのか
・一般的なメタ認知は、異なる学習状況において同時に指導することができ、新しい状況にも適用できることが期待できる
・一方、特異的なメタ認知は、各課題や領域ごとに個別に指導する必要がある
・メタ認知に関する研究の多くは、読解や文章の学習(Afflerbach, 1990; Leutner & Leopold, 2000; Nist, Simpson & Olejnik, 1991; Otero, Campanario & Hopkins, 1992; Van Kraayenoord & Schneider, 1999; Veenman & Beishuizen, 2004)、作文(Zhang, 2001)、算数問題解決(Desoete & Roeyers, 2003年; Kramarski & Mevarech, 2003)、理科(Thomas, 2003)、経済学(Masui & De Corte, 1999)など
・これらの研究は、特定のタスクや領域におけるメタ認知的活動の詳細な情報を提供しているが、メタ認知的活動をタスクや領域をまたいで比較する必要がある
・これまでのところ、複数のタスクや領域を対象とした研究では、決定的な結果は得られていない
・Schrawらによる研究(Schraw, Dunkle, Bendixen & Roedel, 1995; Schraw & Nietfeld, 1998)では、モニタリングスキルは本質的に一般的なものであることが明らかになったが、Kelemen, Frost, Weaver(2000)は、そのような一般的なスキルに反するエビデンスを提示している
・Glaser, Schauble, Raghavan, Zeitz(1992)は、異なるタスク間にはメタ認知的活動に多くの違いがあることを観察
・Veenmanら(Veenman, Elshout, Meijer, 1997;Veenman, Verheij, 2003; Veenmanら, 2004)は、メタ認知的スキルの一般性に対する強い支持を得ている。
・こうした相反する結果の理由のひとつは、研究者が用いた分析の粒度にある
・結論:メタ認知的評価における分析の粒度を特定し、統計的分析をそれに沿ったものにする必要
・メタ認知的活動の頻度の差異を調べるテストとは別に、相関分析、主成分分析、Lisrel(リスレ)なども適用すべきである(Veenman他, 1997)
・このような研究に関わるタスクや領域を系統的に変化させる必要がある(例:Elshout-Mohr, Van Hout-Wolters, Broekkampによるタスクタイプの分類、1999)
メタ認知における発達プロセス
・それ以降、メタ記憶およびメタ認知的知識は発達し、生涯を通じてその傾向は続く(Alexander, Carr & Schwanenflugel, 1995)
・メタ認知的スキルは8歳〜10歳で現れ、それ以降拡大していく(Berk, 2003; Veenman & Spaans, 2005; Veenman et al., 2004)
・モニタリングや評価等特定のメタ認知的スキルは、計画能力など他のスキルよりも成熟するのが遅い
・幼い子ども(例えば5歳児)の行動は、その課題が子どもの興味や理解力に適していれば、方向付け、計画、および内省の初歩的な形を示す可能性がある(Whitebread, 1999)
・これは、メタ認知的発達に関する我々のモデルに修正が必要であることを意味する
・おそらく、メタ認知的知識とスキルは、就学前または小学校低学年の時期にすでに非常に基本的なレベルで発達するが、正式な教育においてメタ認知的レパートリーの明示的な利用が求められる場合には、より洗練され、学術的な志向性を持つようになる
・メタ認知の要素がどのように発達し、それが他の要素のその後の発達にどのように寄与するのかについても知る必要がある
・Lockl and Schneiderによる縦断研究では、心の理論のレベルが高いと、混乱要因を統制した場合でも、その後のメタ記憶の向上につながることが明らかになっている
・メタ認知の他の要素における連続的な発達効果に関する同様の研究が必要
・知的能力に関連するメタ認知的スキルの発達についても同様の結果(Veenmanら, 2004)
→知能はメタ認知のスタート地点を学生に与えるだけで、その後の発達過程には影響を与えない
・この発達過程における領域間の転移を担うプロセスを特定する必要がある
・こうしたプロセスには、High road transfer)(Salomon & Perkins, 1989)や、教師による指導やフィードバックを通じてメタ認知をリンクさせること(下記参照)などが含まれる
・正式な教育環境とその他の環境におけるメタ認知的発達との関連性を調査する必要がある
メタ認知の評価
・これらの評価方法には、それぞれ長所と短所がある
・アンケートは大人数を対象に実施しやすい一方で、思考発声プロトコルは個々の評価を必要とする
・評価方法によっては、他の方法よりも介入的になる場合もある
・メタ認知的知識やスキルを構成する要素を、どの方法で正確に評価できるかを判断する必要がある
・メタ認知的活動や戦略の使用はアンケートによって評価できると当然のように考えられていることが多いが、これらのアンケートのスコアは、課題遂行中の実際の行動指標とはほとんど一致しない(Veenman, 2005; Veenman, Prins & Verheij, 2003)。
・オフラインの方法はタスクの実行前後に提示されるが、オンライン評価はタスク実行中に得られる
・オンライン評価は、オフライン評価がタスクの実行後に実施される場合でも、学習成果をより予測しやすい(Veenman, 2005)
・この評価方法の違いを理解するためには、複数の評価方法を組み合わせた研究が必要だが、メタ認知に関する研究では、そのような研究はほとんど見られない
メタ認知的知識の習得と指導の条件
・生徒のメタ認知的知識の適切性にはかなりのばらつきがある
・相当数の生徒は、メタ認知的レパートリーを自然に習得することができない
・メタ認知的指導は、幅広い生徒のメタ認知と学習を向上させると思われるが(Veenman, Elshout & Busato, 1994)、明らかに、それは成績の悪い生徒に特に有効(Pressley, this issue)
・メタ認知的指導を成功させるための3つの基本原則(WWW&Hルール)(What to do, When, Why, and How)(Veenman, 1998)
a) 関連性を確保するために、メタ認知的指導を学習内容に組み込む
b) 学習者にメタ認知活動の有用性を知らせ、最初の努力を促す
c) メタ認知活動を円滑に維持して適用できるように、長期間にわたって訓練する
・いかなる優れた教授プログラム(例えば、Brown & Palincsar, 1987による相互教授法、また、Masui & De Corte, 1999、Kramarski & Mevarech, 2003、Pressley, 本号、Veenman et al., 1994、Volet, 1991)も、この3つの原則に従っている
・メタ認知的指導に関する研究では、単に成果の測定(学習成果への影響)が報告されることが多い
・メタ認知的指導と学習成果の因果関係を立証するためには、事前事後テストの設計でメタ認知的プロセスも評価する必要がある
・可用性の欠陥がある学生は、メタ認知的知識やスキルを十分に活用することができず、メタ認知的指導はゼロから始めなければならない
・生産の欠陥を持つ学生は、ある程度のメタ認知的知識とスキルをすでに持っているものの、課題の難しさ、テストに対する不安、モチベーションの欠如、あるいは特定の状況におけるメタ認知的活動の適切性を理解できないことなどにより、メタ認知的活動を利用できないことがある
・教師がモデルとしての役割、すなわち、学生に模範を示し、フィードバックを与える役割を担うことについては、あまり知られていない
・実際、多くの教師はメタ認知に関する十分な知識を持ち合わせていない
・教師たちにメタ認知についてインタビューした際、彼らの反応は「自主的な学習」という言葉を超えることはなかった
・授業でメタ認知をどのように適用しているかについてさらに質問したところ、空白の回答のみ(Veenman, Kok & Kuilenburg, 2001; Zohar, 1999)
・教師は、メタ認知を授業の不可欠な一部として実施し、生徒にメタ認知活動とその有用性を認識させるためには、道具(tools)が必要
・一般的なメタ認知指導は、個々の教師の問題であるだけでなく、学校組織の問題でもある(Pressley, this issue;Veenman他, 2004)
・多くの教師は、自身の専門分野の枠を越えることに困難を感じている
・数学教師は、地理や歴史の教師と折り合いをつけることが難しいと感じているし、その逆も同様
メタ認知とその他の個人差との関係
・メタ認知的経験、認識論的信念、メタ認知的知識、自己調整と、動機付けプロセス、自己効力感、学習への興味との間の複雑な関係を解明する研究に、多くの研究者が携わっている(Boekaerts, 1997; Efklides & Vauras, 1999; Mason & Scrivani, 2004; Pintrich & De Groot, 1990 、Pintrich & Schunk, 2002、Zimmerman & Martinez-Pons, 1990)。
・メタ認知とテスト不安などの情動変数との関係に興味を示す研究者もいる(Tobias & Everson, 1997; Veenman et al, 2000)
・学習障害や学習障害児におけるメタ認知の役割に焦点を当てている研究者もいる(Borkowski, 1992; Harris, Reed, & Graham, 2004; Swanson, Christie & Rubadeau, 1993)
・個人の違いや文脈的要因がメタ認知やそのさまざまな要素とどのように相互作用するのかについて、私たちはもっと多くを知る必要がある
神経心理学研究
・発達的視点、診断的視点、指導的視点から、計画や内省などメタ認知的機能の他の要素にも拡大されることを期待している
ここまで。
全体的に、メタ認知に関する研究はまだまだ未知な部分や曖昧な部分など議論が定まっていないものが多いように感じました。とは言え、明らかになっている部分も多いので、それらを土台としながら、未開拓の領域に少しずつ光を照らしていくことが今後求められていくのだと感じました。とにかくメタ認知に関する研究領域の課題点を広く認知できたのが大きな収穫でした。
他には、「メタ認知を高めることは、知的能力が高くない学生に対して特に有効であること」や「メタ認知的知識とスキルは、就学前または小学校低学年の時期にすでに非常に基本的なレベルで発達し、その後、有効なフォーマル教育を通して学術的な志向性を持つようになる」なども重要な気づきでした。
また、著者らは、メタ認知に関する研究がそれぞれ各領域でバラバラに行われており、それらの研究(者)間の隔たりを埋めることを目的としているそうで、この点には非常に共感しました。
どのような分野の研究(者)も、自身の領域の枠組みを超え、共に学び合い、共に研究することでより多くのブレイクスルーが起こるのは間違いないと思います。自分自身も、まずは専門領域の旗を立て、その周辺にある研究領域に時には出向き(越境し)、色々な方達と研究や実践を進めていきたいと思いました。
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